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5.泣き虫なワイバーン
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ピクトマンサーのユカと手乗り白竜のミカは、この街で紙芝居をして路銭を稼いでいる。昨日はようやく子供たちに少し喜んでもらうことが出来た。
「なあ、ユカよ。本当にその話をするのか?」
「えぇ、ミカさまとの出会いですもの。感動するお話です」
腑に落ちないミカを横目に見て、ユカは語り始める。
◇◆◇
ある森のしげみの中で、一羽のお母さんワイバーンがタマゴを暖めていました。
タマゴはやがて割れていき、中から黒くてかわいい子供ワイバーンたちが生まれてきます。
「あぁ、良かったわ。小さい子供たち。みんな仲良く過ごしましょうね。……あら?」
お母さんワイバーンが不思議そうに巣の中へ目をやると、まだ一つのタマゴだけ、生まれて来ていません。
それから数日が経ち、子供ワイバーンたちがもう空を楽しそうに飛び回るころ、そのタマゴはようやくかえりました。
「ぴえー。ぴえー。」
「あらあら。他の子たちは泣かなかったのに、お前だけは泣くのだね」
お母さんワイバーンは、首を傾げます。それに、黒いはずの肌には白い鱗が混じり、どこかまだらです。身体もどこか短くて、空飛ぶ蛇の姿とは少し違います。
少しずつ、みんなは大きくなっていきました。
泣き虫なワイバーンの子も、空を飛べるようになりました。
他の兄弟たちと、仲よく遊びたい泣き虫なワイバーンの子でしたが、兄弟たちからはいじめられ、巻き付かれたり、突かれたりしてしまいます。
いつしか、泣き虫なワイバーンの子をかばっていたお母さんワイバーンも、
「あんたは本当にワイバーンかい? いつまで経っても身体が長くならないねえ」
と、疑問の目を浮かべています。
そんな周りの様子に気づいてしまった泣き虫なワイバーンの子は、途方にくれて、こっそり巣から逃げ出してしまいます。
あてもなく飛び出しましたが、どこにも行くあてなどないのです。
泣き虫なワイバーンの子は山を越えて川を遡り、どこまでも、どこまでも旅をしました。
季節はいつの間にか、秋が過ぎ、冬が訪れ、春の柔らかい暖かさがやって来ました。
「もう、ぼくには行くところがどこにもないのだなあ。ひとりで寂しく、ここで暮らそう」
深い森の中で泣き虫のワイバーンは、そこに住むことを決めました。誰も来ない森、ここならきっといじめてくる人もいません。お母さんワイバーンや兄弟とはもう、二度と会うこともないでしょう。
そんな森に住み着いたある日、泣き虫なワイバーンの子はこれまで見たこともないような、美しいものを目にしました。
それは、人間の娘でした。
丸くなって眠るその娘はまだ小さく、にぎった手はもみじの葉のようです。
目を覚ましたその娘は、泣き虫なワイバーンに声をかけてきます。
「あら、かわいいドラゴンさんね。あなたはどうしてこんなところにいるの?」
「ぼくはワイバーンの子だよ。でも、仲間外れにされて逃げて来たんだ」
「なら、わたしとおんなじね。わたしも、おばさんが怖くて、逃げて来たの」
「ここは危ないよ。きけんな君は食べられちゃうよ」
小さい娘が一人でこんなところにいて、安全なわけがありません。すぐに狼の鳴く声が、すぐそばまで聞こえてきます。
「だいじょうぶよ、ドラゴンさん」
「ぼくは、ワイバーンだよ」
小さい娘は、首を傾げて「まあ、いいわ」と言うと、何やら絵筆を取り出しました。近くまで来た狼の目が木々の間から光っています。
すると、小さい娘は、その絵筆で何やら絵を描き始めました。何もない宙をキャンパスにするように、輝く線が次々に描かれていきます。
「ほら、ドラゴンっていうのは、こういう風な姿をしているのよ。あなたそっくりでしょう?」
小さな娘の描いた絵は、立派なドラゴンでした。長くしなやかな首をのばし、大きな白いつばさをはばたいています。
泣き虫なワイバーンの子が大きくなったとしたら、描かれたドラゴンのような姿になるのでしょうか。そのドラゴンの絵は、まるで本物のように火を吹きました。
ワイバーンの子はあっけにとられて、狼たちが逃げ出していくのを眺めました。大きなドラゴンは小さい娘が手をぱちんと鳴らすと、消えてしまいます。
「きみの名前は、なんて言うの?」
「わたしの名前は……。良かったら、一緒に旅をしませんか?」
「ありがとう。いつか僕があの画みたいに大きなドラゴンになれたら、ずっと君を守るよ」
そうしてそれぞれの家から逃げ出してきた二人は、一緒に旅をするのでした。
◇◆◇
「めでたし、めでたし」
ユカは紙芝居を終えると子供たちへ一礼する。頭にちょこんと被った帽子を差し出して、周囲の観客へこう告げるのだった。
「皆さんも、小さい頃の姿形で惑わされないでくださいね」
「そうだな。我のように、成長してからすごく強くなる者もいるからのう。そうじゃ、あと、飴玉ポーションを買って行ってくれるとありがたいぞ」
公園を後にするユカとミカ、やや不満げな顔を浮かべるミカはユカへ話しかける。
「さすがに、おぬしの活躍を誇張しすぎではなかったか?」
「そうでしたか? 私は小さかったので、あまり覚えていないのですが」
「ふん。勝手に我をワイバーン扱いしおって」
「まあ、子供たちが喜んでくれたので良かったじゃないですか」
あの時、本当に起こったこと。それはユカだけの秘密だ。おばさんから逃げ出した暗い森で狼に囲まれてしまい、未熟な魔法では泣き虫なワイバーンくらいしか描くことが出来なかった。
そこで、精霊の白竜、ミカに出会った。泣きつくユカをミカは優しく撫でると、狼を追い払ったのである。
(あれは、かっこう良かったなあ)
「ふふふ」
「なんだ? 急に笑い出しおって」
「何でもありません」
そうして、二人は宿へと帰るのであった。
「なあ、ユカよ。本当にその話をするのか?」
「えぇ、ミカさまとの出会いですもの。感動するお話です」
腑に落ちないミカを横目に見て、ユカは語り始める。
◇◆◇
ある森のしげみの中で、一羽のお母さんワイバーンがタマゴを暖めていました。
タマゴはやがて割れていき、中から黒くてかわいい子供ワイバーンたちが生まれてきます。
「あぁ、良かったわ。小さい子供たち。みんな仲良く過ごしましょうね。……あら?」
お母さんワイバーンが不思議そうに巣の中へ目をやると、まだ一つのタマゴだけ、生まれて来ていません。
それから数日が経ち、子供ワイバーンたちがもう空を楽しそうに飛び回るころ、そのタマゴはようやくかえりました。
「ぴえー。ぴえー。」
「あらあら。他の子たちは泣かなかったのに、お前だけは泣くのだね」
お母さんワイバーンは、首を傾げます。それに、黒いはずの肌には白い鱗が混じり、どこかまだらです。身体もどこか短くて、空飛ぶ蛇の姿とは少し違います。
少しずつ、みんなは大きくなっていきました。
泣き虫なワイバーンの子も、空を飛べるようになりました。
他の兄弟たちと、仲よく遊びたい泣き虫なワイバーンの子でしたが、兄弟たちからはいじめられ、巻き付かれたり、突かれたりしてしまいます。
いつしか、泣き虫なワイバーンの子をかばっていたお母さんワイバーンも、
「あんたは本当にワイバーンかい? いつまで経っても身体が長くならないねえ」
と、疑問の目を浮かべています。
そんな周りの様子に気づいてしまった泣き虫なワイバーンの子は、途方にくれて、こっそり巣から逃げ出してしまいます。
あてもなく飛び出しましたが、どこにも行くあてなどないのです。
泣き虫なワイバーンの子は山を越えて川を遡り、どこまでも、どこまでも旅をしました。
季節はいつの間にか、秋が過ぎ、冬が訪れ、春の柔らかい暖かさがやって来ました。
「もう、ぼくには行くところがどこにもないのだなあ。ひとりで寂しく、ここで暮らそう」
深い森の中で泣き虫のワイバーンは、そこに住むことを決めました。誰も来ない森、ここならきっといじめてくる人もいません。お母さんワイバーンや兄弟とはもう、二度と会うこともないでしょう。
そんな森に住み着いたある日、泣き虫なワイバーンの子はこれまで見たこともないような、美しいものを目にしました。
それは、人間の娘でした。
丸くなって眠るその娘はまだ小さく、にぎった手はもみじの葉のようです。
目を覚ましたその娘は、泣き虫なワイバーンに声をかけてきます。
「あら、かわいいドラゴンさんね。あなたはどうしてこんなところにいるの?」
「ぼくはワイバーンの子だよ。でも、仲間外れにされて逃げて来たんだ」
「なら、わたしとおんなじね。わたしも、おばさんが怖くて、逃げて来たの」
「ここは危ないよ。きけんな君は食べられちゃうよ」
小さい娘が一人でこんなところにいて、安全なわけがありません。すぐに狼の鳴く声が、すぐそばまで聞こえてきます。
「だいじょうぶよ、ドラゴンさん」
「ぼくは、ワイバーンだよ」
小さい娘は、首を傾げて「まあ、いいわ」と言うと、何やら絵筆を取り出しました。近くまで来た狼の目が木々の間から光っています。
すると、小さい娘は、その絵筆で何やら絵を描き始めました。何もない宙をキャンパスにするように、輝く線が次々に描かれていきます。
「ほら、ドラゴンっていうのは、こういう風な姿をしているのよ。あなたそっくりでしょう?」
小さな娘の描いた絵は、立派なドラゴンでした。長くしなやかな首をのばし、大きな白いつばさをはばたいています。
泣き虫なワイバーンの子が大きくなったとしたら、描かれたドラゴンのような姿になるのでしょうか。そのドラゴンの絵は、まるで本物のように火を吹きました。
ワイバーンの子はあっけにとられて、狼たちが逃げ出していくのを眺めました。大きなドラゴンは小さい娘が手をぱちんと鳴らすと、消えてしまいます。
「きみの名前は、なんて言うの?」
「わたしの名前は……。良かったら、一緒に旅をしませんか?」
「ありがとう。いつか僕があの画みたいに大きなドラゴンになれたら、ずっと君を守るよ」
そうしてそれぞれの家から逃げ出してきた二人は、一緒に旅をするのでした。
◇◆◇
「めでたし、めでたし」
ユカは紙芝居を終えると子供たちへ一礼する。頭にちょこんと被った帽子を差し出して、周囲の観客へこう告げるのだった。
「皆さんも、小さい頃の姿形で惑わされないでくださいね」
「そうだな。我のように、成長してからすごく強くなる者もいるからのう。そうじゃ、あと、飴玉ポーションを買って行ってくれるとありがたいぞ」
公園を後にするユカとミカ、やや不満げな顔を浮かべるミカはユカへ話しかける。
「さすがに、おぬしの活躍を誇張しすぎではなかったか?」
「そうでしたか? 私は小さかったので、あまり覚えていないのですが」
「ふん。勝手に我をワイバーン扱いしおって」
「まあ、子供たちが喜んでくれたので良かったじゃないですか」
あの時、本当に起こったこと。それはユカだけの秘密だ。おばさんから逃げ出した暗い森で狼に囲まれてしまい、未熟な魔法では泣き虫なワイバーンくらいしか描くことが出来なかった。
そこで、精霊の白竜、ミカに出会った。泣きつくユカをミカは優しく撫でると、狼を追い払ったのである。
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