紙芝居と小芝居で巡るファンタジーライフ

吉川緑

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9.次の街へ

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 『アーテルダム』の街で仕入れた『飴玉ポーション』はお客さんに届け終わった。
 追加で仕入れるか、他の街へ行くか、ユカとミカは話し合った。
 結果は――。


◇◆◇


 道具屋の扉を開こうとするユカは、つい手を止めてしまった。ミカが怪訝そうな顔をする。


「どうしたのだ? 飴玉は無事にすべて売り切れたであろう」

「いやあ、アーテムさんのお店を見るのもこれが最後だと思うと、どうも緊張してしまって……」


 この街に来てからの思い出がユカの脳裏に蘇ってくる。アーテムへ飴玉ポーションを作って欲しいと頼みに来たこと、それから、何度も紙芝居をした公園の片隅。見てくれた人が喜んで帽子にお代を入れてくれたこと……。たくさんあった。

他の街へ行こう、とユカは悩みぬいて決めた。それでも。


(お別れを言うのは、いつも辛い)


 ユカは短いため息の後、意を決して扉を開く。からんからん、といつもの音がして、いかつい顔の優しい道具屋店主、アーテムが目に入る。


「おう、来たなユカちゃん。聞いたぞ。飴玉ポーション、全部売って来てくれたんだってな」

「えぇ、何とか……。ミカさまと一緒に作ったお話に、皆さんから好評をいただきまして」


 そりゃあ、よかったな、とアーテムに勧められるまま、カウンター前の椅子へ腰掛ける。椅子がきい、と音を立てた。


(うつむいていたら、変に心配をかけてしまうよね……)


 どうにか顔をあげると、ユカはアーテムへ向き直る。ミカがユカの肩に乗ってきた。大丈夫、ちゃんと話せますから、とユカはミカへ短く視線を送る。


「それで、アーテムさん……。私たち、そろそろ次の街へ行こうと思うんです」

「え、そうなのか? 飴玉ポーションが冒険者組合ご用達になるってんで、またユカちゃんたちに広告してもらおうと思ってたのにな」


 アーテムはどこか残念そうにユカを見てくる。いたたまれなくなり、ユカは目を伏せる。


「まあ、アーテム殿、我たちも二度とこの地に戻らないと言う訳ではないぞ。ゆえに、また会う機会もあろう。それまでお互い壮健でいられれば良い。我はそう思うぞ」

「それもそうだな。ほれ、ユカちゃん。うつむいてないで、手紙でも送ってくれよな!」

「……ありがとうございます」


 旅立つときのあいさつは、いつまでも慣れないな、とユカはゆっくり顔をあげる。今生の別れではないと理解しているが、風の吹くままに流れる生活だ。「また会おう!」そう交わしてして以来、再開していない人たちは、もう両手で収まらない。


「……それから、これを受け取ってもらおうと思いまして」


 ユカはかばんから二枚の絵を取り出す。ユカ、ミカ、アーテムが道具屋の前に立った肖像画と、猫を描いた絵だ。


「良かったら、猫の絵はお店に飾ってあげてください。旅人に聞いた、『招き猫』というおまじないです。お客さんが増えるらしいですよ」

「そりゃ、ありがたい話だな。それじゃあ、俺からも選別だ。『飴玉ポーション』広めてくれよな、期待してるぜ」

「……はい。お世話になりました」


 『飴玉ポーション』が入った袋をアーテムから受け取って、ユカは丁寧に礼をした。道具屋を出ると、今度はお店へ頭を下げる。


(これで、この街ともお別れ……か)


 ユカとミカは店をあとにすると、街の外れから街道へ向かう。湿っぽい気分で、あまり足が進まない。ユカは足へ『進め』と命令したが、なかなか言うことを聞いてもらえない。


「ほれ、しゃんとせんか。次の街へもいずれ着くし、どんな魔物が出てくるか分からんぞ」

「……そうですね。まあ、私とミカさまがいれば、そんじょそこらの魔物なんて敵じゃありませんけど」

「ふん。まだ小娘のくせに何を言うのか。いつかのように、ぴーぴー泣いて絵が描けなくなるのではないのか?」

「もう、そんな昔の話を持ち出さないでくださいよ!」


 ミカさまと出会ったときはまだ幼かったし、とユカは唇を尖らせる。軽口を叩いていると少し元気が出てきたようで、ユカは足が軽くなるのを感じた。


「次の街でも、アーテムさんみたいな優しい人がいるといいですね」

「あぁ。街角で紙芝居をやっていれば、新しい出会いもあるだろうよ」

「私の話がぴったり趣味に合う人がいるといいですねえ」

「いや、もう少し万人受け、というものをユカは考えた方がよいぞ」

「え、私はいつも、みんなに受けると思って話しているんですよ!」


◇◆◇


 ユカとミカは紙芝居をしながら旅をしている。

 『ピクトマンサー』大層な肩書きのそれは、絵を描くことで、不思議な力を呼び起こす。
 ドラゴンやオーガを描いて召喚し、雷雲を描けば、雷さえも操れる。

 それでも、この力でユカがしたいのは、人に物語を届けることだ。

 『動く不思議な紙芝居』きっとまた、どこかの街角で彼らの姿を見るだろう。
 ユカが描いて、ミカがぼやく。


 『お代に飴玉ポーションを買ってくださいな』


 次にそんな言葉を聞くのは、遠くないことだろう。
 しかしそれは、旅着く先の、また別のお話なのである。

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みんなの感想(2件)

スパークノークス

お気に入りに登録しました~

2021.08.16 吉川緑

ありがとうございます!これからも更新がんばります!

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花雨
2021.08.13 花雨

作品お気に入り登録しときますね(^^)

2021.08.13 吉川緑

ありがとうございます!とてもうれしいです!

解除

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