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1章:最悪な再会とあの日の続き
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しおりを挟む次の週から早速鳳凰グループの人事面談が始まった。もともとわが社の会社規模は100名。20名ごとに5日に分けて一気に面談するらしい。私と成美は4日目の最後の方。
東京中心部にある鳳凰グループ本社ビル32階の会議室で面談は行われる予定だ。
その日、私と成美はそのバカ高いビルを見上げて、ほぅ、とため息を漏らす。
面談は私の前に成美だった。成美は早々に彼氏との結婚が決まり、依願退職をすることとなっていた。そして笹井部長については、うわさで鳳凰グループの別会社に行くことを耳にした。
でもだからといって、これから自分だけ転職活動するつもりもなかった。他の社員も半数はホウオウに行くと聞いていたので、私もとりあえずこの流れに身を任してみよう、と決断したところだったのだ。
成美は依願退職希望ということもあるのか、10分もかからず面談を終え、部屋から出てきた。そして、興奮気味に
「すっごいイケメン副社長と弁護士がいたよ!」
と言い出したのだ。
「弁護士? 弁護士まで同席してるの?」
弁護士、と聞いて、私はなんだか落ち着かない。それは、警察が近くを通ると悪いことをしていないのになんとなく気まずいアノ空気に似ているからだろう。
「何かあった時のためでしょう。こういう面談って揉めるだろうし」
「……そう」
「あんなカッコイイ人が副社長と顧問弁護士でいるなら、会社辞める判断誤ったかなぁ」
「じゃあ、今からでも撤回してよ」
「イケメンだけじゃ無理無理」
成美はあっさりそんなことを言う。
くそう、役にたたないイケメンたちだな。成美を引き留めるくらいの顔面してなさいよ……と心の中でこっそり悪態をついて、私は会議室のドアを開けた。
「失礼いたします。総務部、柊みゆと申します」
ぺこりと頭を下げて部屋に入ると、3名の男性が目の前の机に並んで座っていた。
一人は笹井部長とあまり変わらないくらいの年齢のホウオウ総務部長、そして、きっと、もう一人の若そうな男性が先ほど成美がイケメンだと言っていた鳳凰グループ副社長で、もう一人弁護士バッチをつけてる人が……。
「羽柴……先輩?」
私はその弁護士を見て、思わずつぶやいていた。
黒髪に銀縁眼鏡の下の切れ長の目元。身長は高校の時からすでに180はあったけど、今はさらに少しだけ大きく見える。
(まさか……。人違い、だよね?)
そう思ったとき、
「みゆ……」
と座っていた男性弁護士がこちらを見て言う。
(やっぱり羽柴先輩じゃないかーーー!)
私が思わず青ざめると、羽柴先輩の横にいた若い副社長が、え、二人知り合い? と楽しそうに笑った。羽柴先輩は、あぁ、と低い声で頷く。
その声に、ひゅっ、と小さく息を吸い込む。それはまさしく羽柴先輩の声だったから。
突然のイレギュラーに私の頭は混乱に混乱を極めた。
(落ち着け……! 落ち着け、私!)
私は叫びだしそうになりながら、ニコリと平和な笑顔を装う。もうシャツの下は汗だくだし、なんなら掌も汗だくだ。今すぐ走って帰って、シャワー浴びて、すべて忘れたい……!
「どうぞ、座って」
部長らしき人が言う。「僕はホウオウ総務部長の木村と言います。君はたしか継続雇用希望だったね。これまでの仕事内容も見たよ。着実に仕事している姿勢が今の上司からも評価されていると聞いてる。僕としてもそう言う部下が欲しいんだ。多分総務部にきてもらうことになる。よろしくね」
と優しい声で言った。優しそうな人でほっと一安心するはず……だったのだが、残念ながら先ほどから私の頭は完全にフリーズしている。
「あ、あの……」
「健人の知り合いなら間違いないね。よろしく、柊みゆさん」
そう言って副社長まで笑う。健人って、羽柴先輩の下の名前……。
完全に固まる私をよそに、私の雇用継続はどうやら無事に決定したらしい。
(辞めるって言うなら……さっきだった……)
私は部屋を出た瞬間、その場に崩れ落ちた。
いざと言うときの自分の機転のきかなさに泣けてくる。あとでいろいろ反省しても、いざその場に立つとすぐにその判断がうまくできないのだ。
しかし、どれもこれも、羽柴先輩が悪い。
なんでこんなとこにいるのよ……。
って、羽柴先輩が顧問弁護士ってことだよね。でも顧問弁護士なんて、普通はあまり社員と関係ないよね……?
一縷の望みをそんなことに託しながら私はとぼとぼとエレベータまで向かった。
それに辞めるって言うこと自体は、いつでもできるはずだ。
そんなことを思いながら、やってきたエレベータに乗りこみ、1階のボタンを押す。次の瞬間、スーツの男性がエレベータに強引に乗り込んできた。
それが羽柴先輩だと気づくと、私の息は止まり、身体は固まった。そして寒くもないのに、身体はがたがたと震えた。
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