羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

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2章:平穏でない日々と告白

2-2

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「今日、羽柴先生がくるって!」
 朝から羽柴ファンの女性の元気な声が耳に届く。ちなみにファンのうちの一人、宮坂さんは私と同じチームだ。
 驚いてそちらを見ると、少し不審そうにこちらを見られた。ぱ、と慌てて顔を戻す。ただ、心臓はこれまでにないほど大きく、速く脈打っていた。

(今日、来る……)

 最近すっかり安心しきっていただけに、頭が混乱する。その時、部長がこちらにやってきた。

「柊さん。まだ入社してから羽柴弁護士にご挨拶してないよね。今日の夜の予定ある?」
「……いえ、とくにはありません」
「打ち合わせのあと、歓迎会もかねて食事でも行きましょうって羽柴弁護士が提案してくれて」
 部長は小さな声で、先輩後輩だから少し心配なんだろ、と付け足した。部長は私が羽柴先輩とつながりがあることを、今のところ伏せてくれている。それが私にとっては非常にありがたいことだった。さすが大手の人事部の部長だ、空気が非常に読めている。

「みなさんはどうなさるんですか?」
「もちろん同行するよ。宮坂さんがお店予約してくれるって」
 宮坂さんを見ると、宮坂さんは嬉しそうに笑ってこちらにやってきた。

「柊さんが最初だけでも来ないと歓迎会って言う体が成り立たないのよね。もちろん来てくれるわよね? 少し顔出すだけでいいから」
 少しだけでいい、は心からの言葉のようだ。私は苦笑し、小さく頷くと、
「参加させていただきます」
と言った。

 断るのも変だ。ビジネスライクなお付き合い。そう、これはただの仕事の飲み会。断る理由もない。
 私はドキドキする胸を抑え、できるだけ冷静に自分のデスクに座った。

 ただ、その日一日中、まったく仕事中も落ち着かず、ミスを連発するのだけど……。


 その日、夕方になるころには私は疲れ切っていた。

(なんで羽柴先輩のことで私がこんなにドキドキしなきゃいけないのよ……)

 心の中で悪態をついて、 お手洗いに行くために廊下を歩いていると、
「みゆ」
という、明らかに聞き覚えてのある声が聞こえて、思わず振り返る。

 そこにいたのは羽柴先輩。羽柴先輩は目を細めてこちらを見ている。私の胸は突然の出来事に極限まで大きく鳴りだした。

「せんぱ……羽柴先生」
「なに、それ。すごく他人行儀な呼び方だね」
「他人ですけど!」

 っていうか、もともと先輩としか呼んだことはない。どちらが他人行儀かなんて比べてもわからない。思わず叫んで、周りを見渡すと、素早く近くにあった給湯室に先輩を押し込んだ。


「私と先輩が知り合いだって、みんなには言わないでください。部長も配慮してくれてて」
「なんで?」

 羽柴先輩は心底不思議そうに首を傾げた。

「先輩が相変わらずおモテになるからですよっ」
「関係ないでしょ」
「私には関係あるんです!」

 私は小声で精いっぱい叫んで続ける。「とにかくあのことはもう償いました。だから私と先輩は、もうただの先輩後輩の関係です。それをわざわざ他人にまでひけらかす理由もないですよね」

「ふうん、そういうこと言うんだ。キスまでした仲なのに」
「だからそれはあの時のこと償え、って先輩が言ったからしたんですよね! 仕方なく!」
「全然良くなかった? あれから思い出しもしなかったんだ?」

 そう言われて一瞬言葉に詰まる。
 素直に、何度も思い出していました、とは言えない。


「いいとか悪いとか判断できるはずないでしょう。私、あんなことしたの、先輩がはじめてだったのに」

 怒って言うと、先輩は少し驚いた顔をした後、嬉しそうに顔を綻ばせる。

(何、笑ってんのよ!)

 私が先輩を睨むと、先輩は私の髪を突然優しく撫でる。

「分かったよ。今すごく嬉しいから、みゆが俺とのこと知られたくないなら、そうしてあげる」
「先輩わかってくれたんで……」

 言いかけた時、先輩はぴしゃりと続けた。

「でもそれは貸し、一つ。覚えておいて」

「貸しって……」
「なんの得もなく、そんな意味のない事、俺がする理由がある?」
「先輩だって、私と変な噂が立つのは……別に得することもないでしょう!」

 私は思わず先輩を睨んだ。すると先輩は驚いた表情で私を見る。

「何言ってるの?」
 そして、続けた。「俺は、みゆにしか興味がない。会社中……日本中全員に公言したいくらいだよ。みゆにしか、『そういう気』が湧かないって」

「……な……!」

 この人は何を言いだしたんだ! 日本中に公言って……まさかしないだろうけど、ほんとにやめてください!
 私が固まっていると、先輩は私の唇を撫でる。そのしぐさに身体が跳ねた。

「あの時のキスで、もう一度確信した。やっぱり俺は、みゆしかダメみたい。みゆ、ありがとう」

 意味が……意味が分からない……。
 私が泣きそうな顔で先輩を見ると、先輩は楽しそうに笑っていた。

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