羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

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10章:変化

10-2

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 先輩に連絡してみようと思っていたけど、それから急に仕事が忙しくなり、連絡できないまま木曜日を迎えた。先輩は先輩で忙しかったらしく、鯉の世話係は突然、知らない人が来たりして驚いた。(餌くらい私に言ってくれればやるのに……)

 そして、この日の午後、先輩と新田先生がうちに打ち合わせにやってくる予定が入っていたのだ。

 なんだかんだ、付き合いだしてはじめて社内で顔を合わせる気がする。いつも以上に気を付けないと、周りに気づかれてしまっては絶対だめだ、と思って気を引き締めた。
 ただ、そんな中でも、宮坂さんという強力な味方がいることは、私にとって安心できるポイントではあったのだけど。



 先輩と新田先生が時間10分前にやってきて、少しドキドキとしながら、お疲れ様です、と頭を下げる。

「うん、お疲れ様」
 優しい先輩の声が耳の奥に心地よく響く。たった数日会ってなかっただけなのに、その声にニヤけそうになったところで、私は慌てた。
 このやりとりは、普通だよね……?
周りを気にしながらも、そのまま二人を会議室に案内する。

 その時、新田先生は普通に宮坂さんに手を振っていて、宮坂さんはにこりと笑っている。
 このカップル、大人の余裕あるよね。なんだかカッコイイ。真似はできないけど……。



 会議室に入る直前、秘書課の春野さんが、羽柴先生、と言い羽柴先輩の足を止めた。

「今日お時間ありませんか? 少しご相談したいことがあるのですが」

 そんな声が聞こえる。春野さんと言えば、確か春野物産の社長令嬢。かわいくて社内でも人気で、確かファンクラブまであると聞く。声も見た目も子リスのようで、私も男なら彼女に告白などされれば間違いなくOKを出してしまうだろうと思う。

 先輩は
「この打ち合わせのあとならお時間取れますよ。これが4時までなので」
と言った。それが予想外に優しい声で、私は無意識に眉を寄せて先輩を見てしまった。そして、慌てて顔を下に向けた。

「ありがとうございます。ではまたお迎えに参りますね」
 嬉しそうに、跳ねるように、春野さんは帰っていった。その姿にもまた眉を寄せそうになった。




 私は唇を噛むと、
「部長呼んできます。先に入っていてください」
と言うと、踵を返す。


 なんだかもやもやとする。さっき、二人の並ぶ様子を見て、心底、『お似合いな二人』というのはこういう事を言うのだろう、となんとなく思ってしまっていたのだ。見た目も、大人の余裕も、家柄もすべて似合っている。

 そんなことを思っていると、ちょうどこちらにやってきていたらしい宮坂さんが、それを見ていたのか、
「さっきの秘書課の春野でしょ。狙ってんの見え見えだっての」
と吐き捨てるように言った。

(ね、狙ってるって……)

 泣きそうになると、宮坂さんは、あきれたように息を吐く。
「大丈夫だから。自信持ちなさい」
 そう言われても、私に自信なんてあるはずもなかった。




 なんでこんなに自信が持てないのだろう。自分でも不思議だ。

 ただ、あの告白を聞いてからなのか、私は先輩と自分の距離が遠すぎて、はっきりと言い表せない形の不安を抱えている気がする。
 私は先輩のこときっと好きだし、先輩も私のことが好きだってわかる。でも、だからと結婚までするかというと、少し違う気がするのだ。


 その日は、私も打ち合わせに一緒に入っていた。先輩が発言するところを見ていると、先輩ってきちんとした弁護士だったんだなぁと見直すとともに、また自分との違いを実感してしまっていたのだ。
 もういろいろな自信を喪失して、この上、春野さんと一緒にいるところを見たら、完全に凹むこと間違いなしだ。


 みんなが会議室を出た後、最後の片づけをしていたら、「ちょっとだけいい?」
と先輩に手を掴まれた。

 振り返ると同時に、軽く唇にキスを落とされる。慌てて周りを見回すと、誰もいなくてほっとした。

「な、な……! ちょ、ここ会社! こういうのやめてください!」

 慌てる私に、
「油断してるからだよ」
と先輩は笑う。その声にむぅと、頬を膨らませた。

 そして先輩は私の持っていたファイルをひょいと手に取ると、
「いつでも入ってていいから」
と言ってファイルをまた私の手の中に戻す。
「どういう意味……」

 聞きかけたその時、ちょうど春野さんが来て、私は慌てて会議室を後にした。


「さっきのどういうことだろ……ってまた~~~~~!」

 ファイルの中には、返したはずの先輩の家のカードキーが一枚。
 私は廊下に座り込みそうになった。

 そしてその鍵を見て、呟く。

「もう彼女なんだもんね……」

―――これはきっと春野さんとは違う。

 そんなことを思って、

「……うぅ。私、性格わるぅ!」

と思わず一人で叫んでしまった。


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