羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

文字の大きさ
41 / 57
14章:同棲スタート?

14-2

しおりを挟む


 先輩が車で家まで送ってくれると、家には電気がついていた。

「お父さんに挨拶してくよ」
と先輩は車を停めて、一緒に玄関まで歩いてくる。

「ただいまー」
 私が言うと、父が慌てた様子で、玄関先まで走ってきた。


「みゆ! ちょうどよかった!」

 見てみると、なんだかいつもの父と違った。
 いつも緩い雰囲気で優しい父の様子と……。私の胸は不安で陰る。

「ごめん、困ったことになっちゃって」
「困ったことって?」
「……みゆ、落ち着いて聞いてくれる?」
「あ、うん……」

 先輩は、外しましょうか? と父に聞く。
 私が思わず先輩の服を握ると、父は微笑み、羽柴先生も一緒に、と言った。


 それから父は話し出す。

「今ね、ある事件の捜査をしてて」
「生活安全課の? 特殊詐欺とか?」

 私が言うと、父は慌てた様子で、
「えっと、そう、かな?」
と言った。

 私はその様子に眉を寄せる。

「それで? どうされたんですか?」
 促すように先輩が言うと、父は続けた。

「それでね、ちょこーっと事情があってね。今、うちにみゆを一人で置いとくのが怖いんだ」

 できるだけ軽い様子で父は言ったが、どうにも軽い話とは思えなかった。


「……お父さんは?」
「僕は大丈夫だよ。これでも一応刑事だし。……でもみゆは違うでしょ」

 なんとも全貌が見えないだけに、腑に落ちない話だ。
 すると、羽柴先輩は、

「それなら、落ち着くまで、みゆさん、うちに住むのはどうですか」
と父に言った。

「えぇ……!」

(確かにもう少し離れたくないとは思ってたけど……)

 戸惑う私に、
「落ち着くまででいいから、そうしてもらえると僕も安心なんだけど」
と言う。



 私は子どもじゃないから、戸締りだってちゃんとするし、最悪防犯ブザーもスマホもあるし……。事情がよくわからないだけに余計にそんなことを思う。

「えっと、私、一人で大丈夫だよ?」

「「だめ!」」
「って二人、声、かぶりすぎ……」

「だめだよ、みゆ」
「そうだよ、うちはこの通りセキュリティもないし」

 父と先輩はいつの間にか同意見だ。
 二人、そんなに仲良かった?


「でも、私もう大人だし」
「だから心配なの」
「いざとなれば私だって逮捕の役に立てるかも」

 私が言うと、

「絶対にだめ!」
と父は厳しい口調で言った。そして私の肩を掴むと真剣な目をして続けた。

「世の中みゆみたいな人間ばっかりじゃないんだ。みんな事情を抱えて、それを乗り越える人もいれば、ぶつけどころがなくて逆恨みのような行動に走ってしまうこともある。相手も自分と同じ行動をとると思わないほうがいい」

 こんな風に真剣なまなざしで言う父が初めてで……
 私は言葉に詰まる。

 そしてその言葉の本当の意味は全部理解できなかったけど、私はその様子に、わかった、と頷くしかできなかった。


 そんな私の横で二人は話を続ける。

「すまないね、羽柴先生」
「むしろ俺としてはラッキーと言うか」
「はは」
「柊刑事は大丈夫ですか」
「それはさすがにね」

 私は自分の手を握って、父の顔を見た。

「お父さん、教えて」
「え?」
「お父さん、本当に生活安全課なの? なんで私は一人でいないほうがいいの」
「……」

 私の言葉に、父が困惑したのがよくわかった。

 それもそのはずだ。
 私は父の仕事のことも、自分から聞いていったりしたことないから。

 もし父の仕事が危険なもので、それに巻き込まれて父までいなくなったらと思うと怖くて、私は聞くこともできなかったんだ。

 でも……。

「私、大丈夫だから。教えて」
「そんなこと初めて言ったね」

 父は目を細める。そして頷いた。


「事件の詳細は話せないんだけど、報道に出てる範囲で」
「もしかして町田の連続婦女暴行殺傷事件ですか?」
先輩が聞いて、父は頷いた。

「実はパパ、捜査一課とか……ほら、ドラマとかであるでしょ? そういうとこの部長、えっと警視正ってやつでね」
「殺人事件とか捜査する?」
「うん」

 刑事の役割がよくわからないのは、父はあまり刑事ものや警察密着もの、そしてニュースを見たりしなかったし、仕事の話もしないから、私も自然にそうなったという理由がある。
 大人になってみると、余計に父が仕事のことは言いたくないのかな、くらいの雰囲気は自分でも感じていた。


 羽柴先輩は、
「みゆのお父さん、もうすぐ警視長っていわれてるんだよ」
と言う。

「よくわかんない」
「……まぁ、現場を指揮するほうの人ってことだよ。娘にも知られてないって、むしろそっちがすごいですけどね」
 先輩が言うと、父は苦笑した。


 でもなんだかやけに緊張してきた。掌に汗がにじむのが自分でわかる。

 喧嘩した時に先輩が言ったことも思い出した。殺人犯を逮捕とかって……。
 むしろ今まで知らなくてよかったかも。そんなの聞いてたら、いくら心臓があっても足りないだろう。


「詳細は言えないけど、パパ、容疑者にちょっぴり逆恨みされてて」
「逆恨みって……」
 私は眉を寄せる。そんなの、私のことより自分のことを心配してほしい。

「パパは大丈夫。だけど、とにかく相手は僕の顔も知ってるし、いつ家が割れてもおかしくないかなぁって」
 そして続ける。「しかも、さっき羽柴先生が言ったみたいに、『連続婦女暴行殺傷事件』の容疑者だしね」

 緊張してごくりと息をのんだ。
 そんな私に父はいつもと違う真剣な面持ちで、

「わかった? もし、みゆに何かあったら、パパは、ママにも顔向けできないんだよ」

 そうはっきりと告げた。


「お父さんは、本当に大丈夫なの」
「慣れてるから大丈夫」

(慣れてるって……)
 私は眉を寄せる。

「っていつから生活安全課じゃなかったの!」
「非常に言いにくいんだけど、みゆが生まれた時にはもう捜査一課の刑事だった」

「えぇ!」

 驚愕だ。その事実にも、私がそれを全く知らなかったことにも……。
 私は父のこと、生活安全課のヒラ刑事だと思ってた。実際、父に聞いたときは、いつも生活安全課にいると言われていた。

 だから私は、父には自分から積極的に聞かないながらも、頼りない父のことだから、窓際の方にいるのかなぁと勝手に思っていたのだ……。


「なんで隠してたの?」
 私は思わず聞いていた。

「ママに隠してほしいって言われてたんだ。それがママとの約束だったから、必死で隠してたんだよ」
「えぇ……」

(ママ、なんてこと頼んでるのよ……!)

 そんなことを思った私を知ってか知らずか、父は苦笑して続ける。


「実は昔ね、小さい時、みゆが誘拐されかけたことがあって……」
「誘拐……?」
「うん。それで、事件とかそういう言葉に、すごく不安がった時期があったんだ。だから、みゆができるだけ忘れられるようにって隠すことにした。ただ、刑事っていうのはさすがに隠せないから、生活安全課ってことにして……」


「それいつの話? 私完全に忘れてるんだけど……」
「5歳。幼稚園の時だよ」
「……そう」

 しかも誘拐されかけただけで、何かされたわけでもないようだ。それが5歳のことなら忘れていても不思議ではない。実際今はきれいさっぱり忘れている。父と母の愛情のおかげもあるのかもしれない……。




 でももう一つ不思議なことがある。

「じゃ、なんで今言ったの?」

 これだ。
 なんで今、教えてくれたんだろう。

「ん? その話にはもう一つ続きあってね。『みゆがずっと一緒にいたいと思えるような、大事な人をみつけるまでは』って決めてたんだ」
「大事な人?」
「うん」

 父は頷くと、羽柴先輩の方を見る。
 私はそれを見て、

「ま、まさか羽柴先輩のこと⁉」
「え、ちがうの?」


 父はきょとんと私の方を見る。
 でも、それは、確信を持った目で……。


「……ちが……わなくないけど」

 私はつぶやく。
 父にまでこんなこと知られて恥ずかしいやら、複雑な気持ちだった。

 でも……それを否定するだけのものは私にはない。だって実際にそうなってる。
すると、先輩はするりと私の手を握った。

「みゆさんのことは、お任せください」
「お願いするよ」

 それがまるで、結婚式に花嫁をお願いする父のようだと、そんなことが頭によぎった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

処理中です...