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14章:同棲スタート?
14-2
しおりを挟む先輩が車で家まで送ってくれると、家には電気がついていた。
「お父さんに挨拶してくよ」
と先輩は車を停めて、一緒に玄関まで歩いてくる。
「ただいまー」
私が言うと、父が慌てた様子で、玄関先まで走ってきた。
「みゆ! ちょうどよかった!」
見てみると、なんだかいつもの父と違った。
いつも緩い雰囲気で優しい父の様子と……。私の胸は不安で陰る。
「ごめん、困ったことになっちゃって」
「困ったことって?」
「……みゆ、落ち着いて聞いてくれる?」
「あ、うん……」
先輩は、外しましょうか? と父に聞く。
私が思わず先輩の服を握ると、父は微笑み、羽柴先生も一緒に、と言った。
それから父は話し出す。
「今ね、ある事件の捜査をしてて」
「生活安全課の? 特殊詐欺とか?」
私が言うと、父は慌てた様子で、
「えっと、そう、かな?」
と言った。
私はその様子に眉を寄せる。
「それで? どうされたんですか?」
促すように先輩が言うと、父は続けた。
「それでね、ちょこーっと事情があってね。今、うちにみゆを一人で置いとくのが怖いんだ」
できるだけ軽い様子で父は言ったが、どうにも軽い話とは思えなかった。
「……お父さんは?」
「僕は大丈夫だよ。これでも一応刑事だし。……でもみゆは違うでしょ」
なんとも全貌が見えないだけに、腑に落ちない話だ。
すると、羽柴先輩は、
「それなら、落ち着くまで、みゆさん、うちに住むのはどうですか」
と父に言った。
「えぇ……!」
(確かにもう少し離れたくないとは思ってたけど……)
戸惑う私に、
「落ち着くまででいいから、そうしてもらえると僕も安心なんだけど」
と言う。
私は子どもじゃないから、戸締りだってちゃんとするし、最悪防犯ブザーもスマホもあるし……。事情がよくわからないだけに余計にそんなことを思う。
「えっと、私、一人で大丈夫だよ?」
「「だめ!」」
「って二人、声、かぶりすぎ……」
「だめだよ、みゆ」
「そうだよ、うちはこの通りセキュリティもないし」
父と先輩はいつの間にか同意見だ。
二人、そんなに仲良かった?
「でも、私もう大人だし」
「だから心配なの」
「いざとなれば私だって逮捕の役に立てるかも」
私が言うと、
「絶対にだめ!」
と父は厳しい口調で言った。そして私の肩を掴むと真剣な目をして続けた。
「世の中みゆみたいな人間ばっかりじゃないんだ。みんな事情を抱えて、それを乗り越える人もいれば、ぶつけどころがなくて逆恨みのような行動に走ってしまうこともある。相手も自分と同じ行動をとると思わないほうがいい」
こんな風に真剣なまなざしで言う父が初めてで……
私は言葉に詰まる。
そしてその言葉の本当の意味は全部理解できなかったけど、私はその様子に、わかった、と頷くしかできなかった。
そんな私の横で二人は話を続ける。
「すまないね、羽柴先生」
「むしろ俺としてはラッキーと言うか」
「はは」
「柊刑事は大丈夫ですか」
「それはさすがにね」
私は自分の手を握って、父の顔を見た。
「お父さん、教えて」
「え?」
「お父さん、本当に生活安全課なの? なんで私は一人でいないほうがいいの」
「……」
私の言葉に、父が困惑したのがよくわかった。
それもそのはずだ。
私は父の仕事のことも、自分から聞いていったりしたことないから。
もし父の仕事が危険なもので、それに巻き込まれて父までいなくなったらと思うと怖くて、私は聞くこともできなかったんだ。
でも……。
「私、大丈夫だから。教えて」
「そんなこと初めて言ったね」
父は目を細める。そして頷いた。
「事件の詳細は話せないんだけど、報道に出てる範囲で」
「もしかして町田の連続婦女暴行殺傷事件ですか?」
先輩が聞いて、父は頷いた。
「実はパパ、捜査一課とか……ほら、ドラマとかであるでしょ? そういうとこの部長、えっと警視正ってやつでね」
「殺人事件とか捜査する?」
「うん」
刑事の役割がよくわからないのは、父はあまり刑事ものや警察密着もの、そしてニュースを見たりしなかったし、仕事の話もしないから、私も自然にそうなったという理由がある。
大人になってみると、余計に父が仕事のことは言いたくないのかな、くらいの雰囲気は自分でも感じていた。
羽柴先輩は、
「みゆのお父さん、もうすぐ警視長っていわれてるんだよ」
と言う。
「よくわかんない」
「……まぁ、現場を指揮するほうの人ってことだよ。娘にも知られてないって、むしろそっちがすごいですけどね」
先輩が言うと、父は苦笑した。
でもなんだかやけに緊張してきた。掌に汗がにじむのが自分でわかる。
喧嘩した時に先輩が言ったことも思い出した。殺人犯を逮捕とかって……。
むしろ今まで知らなくてよかったかも。そんなの聞いてたら、いくら心臓があっても足りないだろう。
「詳細は言えないけど、パパ、容疑者にちょっぴり逆恨みされてて」
「逆恨みって……」
私は眉を寄せる。そんなの、私のことより自分のことを心配してほしい。
「パパは大丈夫。だけど、とにかく相手は僕の顔も知ってるし、いつ家が割れてもおかしくないかなぁって」
そして続ける。「しかも、さっき羽柴先生が言ったみたいに、『連続婦女暴行殺傷事件』の容疑者だしね」
緊張してごくりと息をのんだ。
そんな私に父はいつもと違う真剣な面持ちで、
「わかった? もし、みゆに何かあったら、パパは、ママにも顔向けできないんだよ」
そうはっきりと告げた。
「お父さんは、本当に大丈夫なの」
「慣れてるから大丈夫」
(慣れてるって……)
私は眉を寄せる。
「っていつから生活安全課じゃなかったの!」
「非常に言いにくいんだけど、みゆが生まれた時にはもう捜査一課の刑事だった」
「えぇ!」
驚愕だ。その事実にも、私がそれを全く知らなかったことにも……。
私は父のこと、生活安全課のヒラ刑事だと思ってた。実際、父に聞いたときは、いつも生活安全課にいると言われていた。
だから私は、父には自分から積極的に聞かないながらも、頼りない父のことだから、窓際の方にいるのかなぁと勝手に思っていたのだ……。
「なんで隠してたの?」
私は思わず聞いていた。
「ママに隠してほしいって言われてたんだ。それがママとの約束だったから、必死で隠してたんだよ」
「えぇ……」
(ママ、なんてこと頼んでるのよ……!)
そんなことを思った私を知ってか知らずか、父は苦笑して続ける。
「実は昔ね、小さい時、みゆが誘拐されかけたことがあって……」
「誘拐……?」
「うん。それで、事件とかそういう言葉に、すごく不安がった時期があったんだ。だから、みゆができるだけ忘れられるようにって隠すことにした。ただ、刑事っていうのはさすがに隠せないから、生活安全課ってことにして……」
「それいつの話? 私完全に忘れてるんだけど……」
「5歳。幼稚園の時だよ」
「……そう」
しかも誘拐されかけただけで、何かされたわけでもないようだ。それが5歳のことなら忘れていても不思議ではない。実際今はきれいさっぱり忘れている。父と母の愛情のおかげもあるのかもしれない……。
でももう一つ不思議なことがある。
「じゃ、なんで今言ったの?」
これだ。
なんで今、教えてくれたんだろう。
「ん? その話にはもう一つ続きあってね。『みゆがずっと一緒にいたいと思えるような、大事な人をみつけるまでは』って決めてたんだ」
「大事な人?」
「うん」
父は頷くと、羽柴先輩の方を見る。
私はそれを見て、
「ま、まさか羽柴先輩のこと⁉」
「え、ちがうの?」
父はきょとんと私の方を見る。
でも、それは、確信を持った目で……。
「……ちが……わなくないけど」
私はつぶやく。
父にまでこんなこと知られて恥ずかしいやら、複雑な気持ちだった。
でも……それを否定するだけのものは私にはない。だって実際にそうなってる。
すると、先輩はするりと私の手を握った。
「みゆさんのことは、お任せください」
「お願いするよ」
それがまるで、結婚式に花嫁をお願いする父のようだと、そんなことが頭によぎった。
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