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迅英サイド⑤
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俺は一度自分の部屋に戻ったが最近は菜月くんと一緒に寝ていたベットに1人で居るのが虚しくなった。しばらくそうしていたけれどやっぱり虚しさは消えない。菜月くんの部屋に行って謝ろう。春樹を帰したことを伝えて……それからちゃんと自分の気持ちを伝えよう。
だが部屋を訪ねても部屋から出て来てくれなかった。
それどころか中からなんの気配もしない。
まさか……出て行った?
俺に嫌気がさして?
ああ。ついに俺は捨てられたのか?
とりあえず俺はフラフラと庭やら空き部屋やらを探して歩いた。
こんなところに居るはずないと分かっているのに体が勝手に探していた。
最後の最後になって地下室のドアを開けると、菜月くんがいた。
「菜月くん……」
いた。菜月くんがいた。
まだいてくれた。
きっとこれからもいてくれる。
きっとこれからも一緒にいられる。
「迅英さん、どうされたんですか? 春樹くんは……」
「菜月くんが泊まっていけばいいと言っていたけど、帰ってもらった。勝手にすまない」
「あ、えっと、いえ」
菜月くんは今まで寝ていたのかホワンとした顔をしていた。
「菜月くんはなぜここにいる?」
「あ、えっと、ゆっくり考えてたくて、寝ちゃったから何も考えてないですけど」
考えたい。それはきっと俺にとっては良いことじゃないだろうな。
「何を考えようとしているか聞いてもいいか」
「それは……」
菜月くんは言い淀んだ。
やっぱり……。
「言えない、か。俺はどうしたら良いんだろうな。菜月くんには最低なことを言った。あの時の俺は春樹と一緒になりたいと思ってた」
まさかこんなことになるなんて。
「別れることを前提に君と結婚して、番にならないでおこうなんて、俺は自分のことを誠実な男だと酔っていたのかもしれない」
いや、酔っていたんだろう。
冷静に考えれば俺の行動など、菜月くんはおろか春樹に対してすら誠実のかけらもない。
「だけどただ俺は君に対して最低な男だった」
謝らなければ。
菜月くんに。
「春樹のことを探偵を使って調べているときに、春樹を救って亡くなったのが菜月くんのご両親だったと知ったよ。俺はその時やっと、君に最低なことを言ったと気がついたんだ」
本当に俺は何も知らない。
俺はどれだけ菜月くんを傷つけたのか。
「本当に最低な男ですまない」
精一杯頭を下げた。
「最初は俺にとって嫌な匂いを発していた菜月くんが、最近はなぜだか俺にとって何者にも変えがたいくらいの匂いに変化して来て、どうしても菜月くんのことが気になった」
いや、匂いなどは関係ない。
俺は菜月くんの優しさを好きになったんだ。
あんなにひどいことをした俺に温かいご飯を作ってくれた。
そうだ、いつもいつも手の込んだ優しい料理だった。
菜月くんの両親の死を利用するような春樹に対しても、自分の身を挺して守ってしまう。
その優しさに惚れたんだ。
「そしてあの日、ラットを起こして菜月くんを襲ってしまった。そしてどうしようもなく菜月くんのことが好きなんだって気がついた。俺は罪滅ぼしのように見せかけて菜月くんのそばにいた。どこまでも最低な男だ」
「好き……? 僕のことが?」
菜月くんは茫然と呟いた。
「ああ」
俺がうなずくと菜月はかすかに笑みを浮かべた。
「違いますよ。迅英さんは僕のことが好きなわけじゃない」
「え」
「迅英さんは僕が運命の番だって気がついたから、それに惑わされているだけです。きっと僕が目の前からいなくなればすぐに他の大切な人を見つける」
菜月は自信があるようにきっぱりとそう言った。
「そんなこと」
「いえ、きっとそうです。だって僕は運命とか関係なく迅英さんのことが好きになった」
好き。運命とか関係なく俺のことが好き。
俺の心は菜月のその言葉に歓喜が上がった。
「じゃあ、これからも一緒にいてくれるか?」
俺のその淡い期待を打ち砕くように菜月は静かに告げた。
「いいえ」
静かな静かな声だった。
「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていたけど、それでもあなたに恋してた。あなたに捨てられるその日まで一緒にいさせてもらえるなら良いかなって思ってた。だけど、今は」
聞きたくない。
その続きは聞きたくない。
だけど。
「……なんだ」
「……あなたは僕を好きになったと言った。だけど僕は……今の僕はきっとあなたのことが好きじゃない。僕は運命に惑わされたくない」
好きじゃない……。
俺と一緒にはいられないと言う事なのか……?
思考が追いつかない。
脳が考えることを拒否しているように何も考えられない。
「菜月くん……?」
辛うじて名前だけ呼ぶことができた。
だが、それで何が変わるわけでもないのだろう。
「僕は、あなたが僕のうなじを噛むことがなくて本当に良かったって思ってます。僕はあなたに捨てられるんじゃない。僕があなたを捨てるんだ」
菜月くんが決意を持ったような顔でそう告げた。
俺は、捨てられる。
俺は、菜月くんに捨てられる。
いや、捨てられた、のか。
うなじを噛まれなくて良かったか。
そりゃそうだ。
俺は菜月くんが俺のことを好きじゃなくなってる可能性を考えていた。
だが、そんな可能性を心の奥底で否定し続けていたんだろう。
だからこんなにもショックを受けているのか。
菜月くんに愛されていないなら愛される努力をするだけだと、春樹に言ったけれど結局のところ俺は何もできていない。
だから菜月くんを失った。
大事な、俺の大事な菜月くんを。
俺は自分のせいで失ってしまった。
胸にポッカリと開いた穴はこれから先きっと埋まることはない。
気がついたら菜月くんは家から出て行って、家には俺一人になっていた。
これから先、俺はどう生きればいい。なぁ、菜月くん。
だが部屋を訪ねても部屋から出て来てくれなかった。
それどころか中からなんの気配もしない。
まさか……出て行った?
俺に嫌気がさして?
ああ。ついに俺は捨てられたのか?
とりあえず俺はフラフラと庭やら空き部屋やらを探して歩いた。
こんなところに居るはずないと分かっているのに体が勝手に探していた。
最後の最後になって地下室のドアを開けると、菜月くんがいた。
「菜月くん……」
いた。菜月くんがいた。
まだいてくれた。
きっとこれからもいてくれる。
きっとこれからも一緒にいられる。
「迅英さん、どうされたんですか? 春樹くんは……」
「菜月くんが泊まっていけばいいと言っていたけど、帰ってもらった。勝手にすまない」
「あ、えっと、いえ」
菜月くんは今まで寝ていたのかホワンとした顔をしていた。
「菜月くんはなぜここにいる?」
「あ、えっと、ゆっくり考えてたくて、寝ちゃったから何も考えてないですけど」
考えたい。それはきっと俺にとっては良いことじゃないだろうな。
「何を考えようとしているか聞いてもいいか」
「それは……」
菜月くんは言い淀んだ。
やっぱり……。
「言えない、か。俺はどうしたら良いんだろうな。菜月くんには最低なことを言った。あの時の俺は春樹と一緒になりたいと思ってた」
まさかこんなことになるなんて。
「別れることを前提に君と結婚して、番にならないでおこうなんて、俺は自分のことを誠実な男だと酔っていたのかもしれない」
いや、酔っていたんだろう。
冷静に考えれば俺の行動など、菜月くんはおろか春樹に対してすら誠実のかけらもない。
「だけどただ俺は君に対して最低な男だった」
謝らなければ。
菜月くんに。
「春樹のことを探偵を使って調べているときに、春樹を救って亡くなったのが菜月くんのご両親だったと知ったよ。俺はその時やっと、君に最低なことを言ったと気がついたんだ」
本当に俺は何も知らない。
俺はどれだけ菜月くんを傷つけたのか。
「本当に最低な男ですまない」
精一杯頭を下げた。
「最初は俺にとって嫌な匂いを発していた菜月くんが、最近はなぜだか俺にとって何者にも変えがたいくらいの匂いに変化して来て、どうしても菜月くんのことが気になった」
いや、匂いなどは関係ない。
俺は菜月くんの優しさを好きになったんだ。
あんなにひどいことをした俺に温かいご飯を作ってくれた。
そうだ、いつもいつも手の込んだ優しい料理だった。
菜月くんの両親の死を利用するような春樹に対しても、自分の身を挺して守ってしまう。
その優しさに惚れたんだ。
「そしてあの日、ラットを起こして菜月くんを襲ってしまった。そしてどうしようもなく菜月くんのことが好きなんだって気がついた。俺は罪滅ぼしのように見せかけて菜月くんのそばにいた。どこまでも最低な男だ」
「好き……? 僕のことが?」
菜月くんは茫然と呟いた。
「ああ」
俺がうなずくと菜月はかすかに笑みを浮かべた。
「違いますよ。迅英さんは僕のことが好きなわけじゃない」
「え」
「迅英さんは僕が運命の番だって気がついたから、それに惑わされているだけです。きっと僕が目の前からいなくなればすぐに他の大切な人を見つける」
菜月は自信があるようにきっぱりとそう言った。
「そんなこと」
「いえ、きっとそうです。だって僕は運命とか関係なく迅英さんのことが好きになった」
好き。運命とか関係なく俺のことが好き。
俺の心は菜月のその言葉に歓喜が上がった。
「じゃあ、これからも一緒にいてくれるか?」
俺のその淡い期待を打ち砕くように菜月は静かに告げた。
「いいえ」
静かな静かな声だった。
「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていたけど、それでもあなたに恋してた。あなたに捨てられるその日まで一緒にいさせてもらえるなら良いかなって思ってた。だけど、今は」
聞きたくない。
その続きは聞きたくない。
だけど。
「……なんだ」
「……あなたは僕を好きになったと言った。だけど僕は……今の僕はきっとあなたのことが好きじゃない。僕は運命に惑わされたくない」
好きじゃない……。
俺と一緒にはいられないと言う事なのか……?
思考が追いつかない。
脳が考えることを拒否しているように何も考えられない。
「菜月くん……?」
辛うじて名前だけ呼ぶことができた。
だが、それで何が変わるわけでもないのだろう。
「僕は、あなたが僕のうなじを噛むことがなくて本当に良かったって思ってます。僕はあなたに捨てられるんじゃない。僕があなたを捨てるんだ」
菜月くんが決意を持ったような顔でそう告げた。
俺は、捨てられる。
俺は、菜月くんに捨てられる。
いや、捨てられた、のか。
うなじを噛まれなくて良かったか。
そりゃそうだ。
俺は菜月くんが俺のことを好きじゃなくなってる可能性を考えていた。
だが、そんな可能性を心の奥底で否定し続けていたんだろう。
だからこんなにもショックを受けているのか。
菜月くんに愛されていないなら愛される努力をするだけだと、春樹に言ったけれど結局のところ俺は何もできていない。
だから菜月くんを失った。
大事な、俺の大事な菜月くんを。
俺は自分のせいで失ってしまった。
胸にポッカリと開いた穴はこれから先きっと埋まることはない。
気がついたら菜月くんは家から出て行って、家には俺一人になっていた。
これから先、俺はどう生きればいい。なぁ、菜月くん。
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