僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう

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旅行

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「菜月くんは旅行どこか行きたいところはあるか?」

旅行雑誌を見ながら迅英さんが聞いてきた。
今日は迅英さんが休みでまったりしている。

「う~ん、よく分からないです。迅英さんはどこか行きたいところあるんですか?」
「俺も特にはないな。菜月くんと2人ならどこでも楽しい」
「それって一番困るやつじゃないですか」
「じゃあ、温泉旅行はどうだ? 少しじじくさいか?」
「いえ! 温泉好きです! 行きたいです!」
「よし、じゃあ温泉にするか」
「はい!」
「どこの温泉に行こうか」
「あ、こことか良さそう……ここも……あ、こっちも。う~ん、決めるの迷いますね」
「じゃあ、俺が決めていいか? それで当日のお楽しみにするのはどうだ?」
「楽しそう!」
「じゃあ決まりだな」

迅英さんは楽しそうに笑った。
旅行までの間は下着とか買ったり、どこに行くのか予想したり、存分に楽しめた。

そして当日、2人で新しい服を着て迅英さんの車に荷物を詰め込み乗り込んだ。
車はゆっくりと発信して楽しい旅行が始まった。

迅英さんは途中途中で景色が綺麗なところとか観光名所などで止まってくれて写真を撮ったり名物を食べたりしながら目的地へ進んだ。

「ついたぞ」

いつの間にか寝てしまっていて迅英さんに起こされた。

「す、すみません! 運転も任せっきりなのに僕、寝ちゃって」
「いや。俺の横で安心して寝てくれて嬉しい。それに、寝顔も可愛かったし俺得だ、ほら、降りて」

迅英さんに促され車を降りると立派な旅館の目の前だった。

「ここの離れに部屋を取った」
「すごい……こんな立派な旅館ドラマでしか見たことないです。すごい、こんなところに泊まる日が来るなんて……」
「ふっ、そうか。喜んでくれたなら俺も嬉しい。部屋に露天風呂も付いてるしゆっくりしような」
「はい! 迅英さん、ありがとうございます」
「ああ」


本館の方で受付をしておかみさんに案内されるままついていくと、渡り廊下を渡ったところでここから先、全てが僕たちの貸切だと説明された。

部屋に着くともう「すごい」の言葉しか出てこないくらいいい部屋だった。

まず部屋は和室で縁側がついていて庭のようになっているところは日本庭園みたいに綺麗に手入れされていた。
貸し切りがあると言っていたのでお風呂を探すと、人が10人は入れるんじゃないかってくらいの内湯があって、外に3種類も露天風呂があった。サウナまでついてた。

「すごい……すごすぎます。迅英さん、あの……本当にありがとうございます」
「ああ」

迅英さんは少し硬い顔をしてそう答えた。
僕、はしゃぎすぎちゃったかな。
途端に僕は不安に駆られたけど、あの教訓を思い出してブンブンと頭を振った。
言葉にしなきゃ何も伝わらない。

「迅英さん、どうされたんですか?」
「あ……いや」

迅英さんは慌てたようにそう言ったきり黙ってしまった。

「迅英さん……?」

少しだけ咎めるように迅英さんの顔を覗き込むと、迅英さんはごめんと謝った。



「ごめん、不安にさせたよな? 違う。えっと、俺は……、ちょっとこっちに来てくれないか」

迅英さんに促されるまま僕たちは縁側に並んで座った。

「菜月くん……、えっと俺たちには色々なことがあったけど、それでも俺と一緒にいることを選んでくれてありがとう」
「えっと、こ、こちらこそ」

何を言われるのか分からず不安なままそう返した。

「俺はまともなプロポーズもしないまま菜月くんと結婚したが、ちゃんとしたいと思った……だから」

迅英さんはポケットから掌サイズの箱を取り出してパカっと開いた。
中には2つシンプルな指輪が入っていた。

「俺とじいさんになってもずっと一緒に居てくれないか」

その言葉を聞いて僕は胸が詰まった。
全く予想してなかったから本当にびっくりしたけど。

嬉しい。
幸せだ。
父さん、母さん、僕今世界一幸せな人間かもしれない。

「……ぅ、ぁはい……迅英さんと、ずっと一緒に、います」

僕が涙を流しながら必死でそう言うと迅英さんは親指の腹で僕の涙を拭って、それから箱の中の指輪を一つ取って僕の左手の薬指にはめてくれた。
いつ測ったのか分からないけどぴったりのサイズだった。

「俺にもはめてくれ」

迅英さんは箱の中の1周り大きい指輪を取り出して僕に渡した。
僕は迅英さんの左手の薬指にそれをはめた。

「菜月くん……、俺と結婚してくれてありがとう。一緒にいてくれてありがとう」

僕は嬉しくて幸せで涙が止まらなかった。
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