器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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ーーーー多分いつも同じ夢を見る。
どんな内容なのかは起きると覚えていないけれど、とにかく悲しいような幸せなような、そんな感覚だけを覚えているんだーーーー

「お前のような出来ぞこないをこれ以上ここに置いておくわけにはいかない」
「父さん、そんな」
「今後一切石崎の名を汚すな、うちに関わるな」
「で、でも」
「お前ももう二十歳だろう。自分の食い扶持くらい自分で稼いで、私たちと関わらないところで生きていけ」

20年住んでいた家を無情にも叩き出された。
寒くて、寒くて、凍えそうだった。
両手を合わせて息を吹きかけても、ほんの一瞬の暖かさを感じるだけで、あとはむしろ掌が冷たく感じる。
石崎千秋は今し方追い出された自分の生まれ育った家を振り返り、その閉ざされた門を一瞥し首を振った。
多くの美しいオメガを生み出す石崎家の中で、特に美しい容姿もしておらず、その上、フェロモン異常で発情の兆しもなく、そのフェロモンはアルファを引きつけることのない体質らしい千秋は落ちこぼれだった。もはやベータだと言ったほうが妥当な体だったけれど、血液検査ではオメガだと診断された。
石崎家のオメガと縁談を望む名門のアルファ家系は多い。けれど、その中の誰も当然の事のように千秋を選ぶことはなく、20歳になった今日、ついに千秋は追い出されてしまったのだ。

寒さを堪えながらトボトボと歩き出し、どこか暖かいところを探した。
豪勢な屋敷が立ち並ぶこの辺りの住人は、コンビニなどは俗世のものという認識が強いため、どれだけ歩いても屋敷屋敷屋敷だ。
馬鹿だ間抜けだと言われてきた千秋もそれくらいのことは知っていた。
けれどそんな住宅街でもどこかに終わりはあるはずで、その終わりを目指して寒さで震える自分の体を抱きしめるようにしながら歩き続けた。

「寒そうですね。どうかされたんですか?」

声のした方を見ると優しげで紳士然とした身なりの良い男性だった。見ただけでアルファだと分かるほどの恵まれた体格と容姿をしているその男性の顔はなぜだか見たことがある気がする。男性は大きな屋敷の門から顔をのぞかせていた。

「いえ、この住宅街を抜けようと歩いていただけです」

千秋がそう答えると男性は目を丸くした。

「ここからだと、まだかなり歩くでしょう? そうだ。ちょうど僕も帰るところだったんですよ。車なので良かったら乗って行ってください」
「……いえ、そんなわけには」
「ちょっと待ってて。大丈夫。僕だけじゃなくて運転手もいるから安心ですよ」

にこりと笑った男性は、千秋のチョーカーを確認したからか安心させるように穏やかな表情を浮かべている。
むろん、千秋は自分の身の危険などかけらも気にしてはいなかった。
なぜなら、千秋がこんなところを寒い中歩く羽目になったのは、どんなアルファだとしても千秋にはぴくりとも反応しないからだ。

男性は宣言通りすぐに車の後部座席に乗って現れて、千秋を横に乗せてくれた。

「あ、ありがとうございます」
「気にしないでください。困ったときはお互い様ですから」

穏やかに微笑む男性に千秋は生まれて初めてドキドキした。
暖かい車内の空気は、千秋の冷え切った体に染み渡り安心感を与える。

男性は四宮晴臣と名乗った。

「四宮さん、あの、本当にありがとうございました」
「いえいえ」

四宮は住宅街を抜けたあたりで千秋を降ろしてくれ、その上四宮の羽織っていたコートを渡してくれた。
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