器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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泉の言っていた例の部屋というのは、四宮家で働く全従業員が近づくことを許されていない部屋で、噂ではそこに近づくとその部屋に取り付いた悪霊に呪い殺されるらしい。
心霊などの現象は一切合切全て信じ切っている千秋は、その噂を聞いた時、何があっても近づくまいと心に誓っていた。

窓の掃除、床のモップがけ、皿洗いに洗濯、庭を掃き、時には草むしりもする。
四宮家での生活は毎日が大忙しで充実していた。

泉が屋敷に訪れた日から1週間が経とうとした日。その日千秋は長い廊下のモップがけをしていた。ちょうど角を曲がれば例の部屋の前の廊下に繋がるあたりで、千秋はその廊下には入らないように、そしてそちらの方を視界にも入れないように、急ぎ気味にモップがけをしていた。
その廊下にも昼間の明るい日差しが窓から差し込んではいるけれど、そういう噂を聞いていると、何故だか不気味に感じてしまう。

けれど見ないようにしていた後ろの廊下からカタリと物音がした。
千秋は反射的にギュッと目を瞑った。

ーー見ちゃダメだ。見ちゃダメだ。見たらきっと、例の部屋から悪霊がこちらを覗いているんだ

頭の中でそう繰り返した。けれど千秋の首はグギギとそちらを振り返っていく。
それは霊現象でもなんでもなく、ただの千秋の好奇心だった。

「し、四宮様!?」

恐る恐る振り向いてうっすらと目を開けて音の正体を確認した千秋は叫んだ。
四宮が例の部屋の扉の前で倒れていたのだ。
千秋は先ほどまでの恐怖の感情は忘れ、一目散に四宮の元まで駆けつけた。

「四宮様! 四宮様! 大丈夫ですか!?」

四宮からはブワッと少し濃い目のバラの匂いがした。

「……ち、あきくん? なんでここに」
「あ、あっちの廊下を掃除していて。だ、誰か呼んできます!」
「……待って、そこの部屋の内線で呼べるから。お願いできますか?」
「は、はい!」

四宮に頼まれ、千秋は例の部屋に足を踏み入れた。
やはり部屋中とてもいい匂いがして、クラリとして、その後心臓がドキドキする。
荒れ果てたベットの横の、机の上に電話があるのを確認し、千秋は内線をかけた。

執事長の熊井さんがすぐに駆けつけてくれて、てきぱきと対処を始め千秋がホッと安心していると、熊井さんからは今日の仕事はもう大丈夫だと言われ、千秋は四宮の体調が気になりつつも大人しく部屋に戻った。
部屋についた千秋は、なんだか少し体が火照っているような感覚がしてベットに横になった。
熱くてだるくて寝苦しくて、モヤモヤとしながら布団の上でモジモジしたけれど、自分の状況がまるで分からず千秋はただこの状況に狼狽えるしかなかった。
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