6 / 43
6
しおりを挟む
昨夜の熱は朝になっても下がらず、ちょうど四宮の検診に来ていた泉が千秋のことも診てくれることになった。
「おう、熱だって? なんか頭使うことでもあったのか?」
一応は白衣を身につけている泉が、部屋に入ってくるとフワッと柑橘系の匂いがした。
「知恵熱じゃないです。でも体がなんだか熱くて、ぁ、どうすればいいのか分からないんです」
「そうか、ま、じゃあ診てみるからな」
「お願いします……泉先生は今日は、デートでもあるんですか?」
「あ? デート? なんで?」
「香水、いつもつけてないのに、今日は付けてるから……柑橘系の、でしょ?」
千秋がそう言うと、泉は目を見開いて、それから顎に手を当てながら唸った。
「千秋、お前、そーいえばオメガだったよな?」
「そーです。けど僕はほとんどベータだけど」
「そう卑下すんな。お前の症状はもしかしたらヒートかもな」
泉のその言葉に、今度は千秋が目を見開いた。
「まさか。だって僕はフェロモン異常で」
「ああ。だが、人より成長が遅かったり、フェロモンの流れが止まってたりずっとどっかに詰まってたもんがなんかのきっかけで取れて、溢れ出すなんてことはあるだろ」
「……僕がそうなんですか?」
「そりゃ、調べてみねぇと分かんねぇから今から調べてやる」
そう言いながら泉はベットサイドの机にいそいそと検査道具を並べ始めた。
血液や唾液を取られたり、質疑応答をさせられたり、かなりの時間をかけて検査をされ、結果は後日伝えに来てくれると言い残し、泉は帰っていった。
千秋が、“とりあえず”と泉から渡された抑制剤を飲むと体の火照りは幾分かマシになり、昨夜よりもぐっすりと眠れた。
翌日目を覚ますと、体の火照りはすっかりとなくなっており、千秋は通常通りの仕事に戻れた。
「体調悪かったんだって? 大丈夫ですか?」
窓の掃除をしていた千秋の後ろから四宮が声をかけてきた。
「あ、あの、はい! もうすっかり元気になりました! お気遣いありがとうございます」
「そう? あんまり無理しないでくださいね」
そう言ってふわりと笑った四宮の優しげな顔にドキリと心臓がはねた。
「ありがとうございます」
「そうだ、お菓子を買ってきたんだけど、千秋君はお菓子好きかな?」
「え、はい。多分好きです」
「はは。多分って。じゃあはい、これは千秋君にあげます」
「わあ。いいんですか? ありがとうございます」
渡された袋の中には、飴や、クッキーなど数種類のお菓子が入っていた。
四宮からは、例のあの部屋に充満していたいい匂いがしていて、千秋の心を落ち着かなくさせる。
「四宮様はご体調はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、この間はいつもよりも症状がひどくてね。ご心配をおかけしてすみません。ですがもう全然平気ですよ」
「そうなんですか! よかったです。あ、そろそろ泉先生の来られる時間だ。僕、昨日の診察の結果を聞かないといけないので失礼します!」
四宮を前にするとなんだか落ち着かず、千秋は逃げるようにその場を後にした。
「おう、熱だって? なんか頭使うことでもあったのか?」
一応は白衣を身につけている泉が、部屋に入ってくるとフワッと柑橘系の匂いがした。
「知恵熱じゃないです。でも体がなんだか熱くて、ぁ、どうすればいいのか分からないんです」
「そうか、ま、じゃあ診てみるからな」
「お願いします……泉先生は今日は、デートでもあるんですか?」
「あ? デート? なんで?」
「香水、いつもつけてないのに、今日は付けてるから……柑橘系の、でしょ?」
千秋がそう言うと、泉は目を見開いて、それから顎に手を当てながら唸った。
「千秋、お前、そーいえばオメガだったよな?」
「そーです。けど僕はほとんどベータだけど」
「そう卑下すんな。お前の症状はもしかしたらヒートかもな」
泉のその言葉に、今度は千秋が目を見開いた。
「まさか。だって僕はフェロモン異常で」
「ああ。だが、人より成長が遅かったり、フェロモンの流れが止まってたりずっとどっかに詰まってたもんがなんかのきっかけで取れて、溢れ出すなんてことはあるだろ」
「……僕がそうなんですか?」
「そりゃ、調べてみねぇと分かんねぇから今から調べてやる」
そう言いながら泉はベットサイドの机にいそいそと検査道具を並べ始めた。
血液や唾液を取られたり、質疑応答をさせられたり、かなりの時間をかけて検査をされ、結果は後日伝えに来てくれると言い残し、泉は帰っていった。
千秋が、“とりあえず”と泉から渡された抑制剤を飲むと体の火照りは幾分かマシになり、昨夜よりもぐっすりと眠れた。
翌日目を覚ますと、体の火照りはすっかりとなくなっており、千秋は通常通りの仕事に戻れた。
「体調悪かったんだって? 大丈夫ですか?」
窓の掃除をしていた千秋の後ろから四宮が声をかけてきた。
「あ、あの、はい! もうすっかり元気になりました! お気遣いありがとうございます」
「そう? あんまり無理しないでくださいね」
そう言ってふわりと笑った四宮の優しげな顔にドキリと心臓がはねた。
「ありがとうございます」
「そうだ、お菓子を買ってきたんだけど、千秋君はお菓子好きかな?」
「え、はい。多分好きです」
「はは。多分って。じゃあはい、これは千秋君にあげます」
「わあ。いいんですか? ありがとうございます」
渡された袋の中には、飴や、クッキーなど数種類のお菓子が入っていた。
四宮からは、例のあの部屋に充満していたいい匂いがしていて、千秋の心を落ち着かなくさせる。
「四宮様はご体調はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、この間はいつもよりも症状がひどくてね。ご心配をおかけしてすみません。ですがもう全然平気ですよ」
「そうなんですか! よかったです。あ、そろそろ泉先生の来られる時間だ。僕、昨日の診察の結果を聞かないといけないので失礼します!」
四宮を前にするとなんだか落ち着かず、千秋は逃げるようにその場を後にした。
70
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
運命はいつもその手の中に
みこと
BL
子どもの頃運命だと思っていたオメガと離れ離れになったアルファの亮平。周りのアルファやオメガを見るうちに運命なんて迷信だと思うようになる。自分の前から居なくなったオメガを恨みながら過ごしてきたが、数年後にそのオメガと再会する。
本当に運命はあるのだろうか?あるならばそれを手に入れるには…。
オメガバースものです。オメガバースの説明はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる