器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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昨夜の熱は朝になっても下がらず、ちょうど四宮の検診に来ていた泉が千秋のことも診てくれることになった。

「おう、熱だって? なんか頭使うことでもあったのか?」

一応は白衣を身につけている泉が、部屋に入ってくるとフワッと柑橘系の匂いがした。

「知恵熱じゃないです。でも体がなんだか熱くて、ぁ、どうすればいいのか分からないんです」
「そうか、ま、じゃあ診てみるからな」
「お願いします……泉先生は今日は、デートでもあるんですか?」
「あ? デート? なんで?」
「香水、いつもつけてないのに、今日は付けてるから……柑橘系の、でしょ?」

千秋がそう言うと、泉は目を見開いて、それから顎に手を当てながら唸った。

「千秋、お前、そーいえばオメガだったよな?」
「そーです。けど僕はほとんどベータだけど」
「そう卑下すんな。お前の症状はもしかしたらヒートかもな」

泉のその言葉に、今度は千秋が目を見開いた。

「まさか。だって僕はフェロモン異常で」
「ああ。だが、人より成長が遅かったり、フェロモンの流れが止まってたりずっとどっかに詰まってたもんがなんかのきっかけで取れて、溢れ出すなんてことはあるだろ」
「……僕がそうなんですか?」
「そりゃ、調べてみねぇと分かんねぇから今から調べてやる」

そう言いながら泉はベットサイドの机にいそいそと検査道具を並べ始めた。

血液や唾液を取られたり、質疑応答をさせられたり、かなりの時間をかけて検査をされ、結果は後日伝えに来てくれると言い残し、泉は帰っていった。
千秋が、“とりあえず”と泉から渡された抑制剤を飲むと体の火照りは幾分かマシになり、昨夜よりもぐっすりと眠れた。

翌日目を覚ますと、体の火照りはすっかりとなくなっており、千秋は通常通りの仕事に戻れた。

「体調悪かったんだって? 大丈夫ですか?」

窓の掃除をしていた千秋の後ろから四宮が声をかけてきた。

「あ、あの、はい! もうすっかり元気になりました! お気遣いありがとうございます」
「そう? あんまり無理しないでくださいね」

そう言ってふわりと笑った四宮の優しげな顔にドキリと心臓がはねた。

「ありがとうございます」
「そうだ、お菓子を買ってきたんだけど、千秋君はお菓子好きかな?」
「え、はい。多分好きです」
「はは。多分って。じゃあはい、これは千秋君にあげます」
「わあ。いいんですか? ありがとうございます」

渡された袋の中には、飴や、クッキーなど数種類のお菓子が入っていた。
四宮からは、例のあの部屋に充満していたいい匂いがしていて、千秋の心を落ち着かなくさせる。

「四宮様はご体調はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、この間はいつもよりも症状がひどくてね。ご心配をおかけしてすみません。ですがもう全然平気ですよ」
「そうなんですか! よかったです。あ、そろそろ泉先生の来られる時間だ。僕、昨日の診察の結果を聞かないといけないので失礼します!」

四宮を前にするとなんだか落ち着かず、千秋は逃げるようにその場を後にした。
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