器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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「今日は暑いですね」

庭の草むしりをしている最中に話しかけてきたのは、執事長の熊井だ。

「はい、もうそろそろ夏本番って感じですね」

首にかけたタオルで汗を拭いながら返事をすると、熊井は悪巧みをするような顔で笑った。

「このあと、ビニールプールで水でも浴びませんか」
「え?」
「四宮様が幼い頃に使ってらっしゃったビニールプールがあるんですよ。子供が使うと言っても結構大きめのやつで、大人が使っても問題ないサイズです。もう水を入れて何人か遊んでいますよ。よかったら千秋くんもどうでしょう」
「ぜ、ぜひ!」

その楽しそうなお誘いに千秋は速攻乗って、草むしりを切りのいいところで中断させると、熊井と共にビニールプールまで向かった。

「すごい……」

大きめのビニールプールと聞いていたそれは、実際は千秋の想像を遥かに超える大きさのプールだった。ビニールでできていることは間違いないけれど、滑り台までついて豪華だった。

誘ってくれた熊井は、もう流石に自分はそのような年じゃないからと仕事に戻り、千秋は比較的若めの従業員とともに遊び始めた。と言っても、新しく入った千秋は遠巻きにされるだけで、話しかけてみても気まずそうな返答しか来なかったので、千秋はただ浸かるだけで楽しんでいた。

「楽しそうですね」
「し、四宮様!? あ、こ、これは」

一緒に遊んでいた従業員3人ほどが慌てて、しょげかえり始めるのを見ると、四宮は着ていた服を徐に脱ぎ始めた。

「僕も一緒にいいですか? こう暑いと水に入らないとやっていられないんです」
「あ、ぜ、ぜひどうぞ!!」

従業員が慌てて答えると、四宮はにっこりと笑って水に入ってきた。
四宮だって熊井と同じくらいの年齢だ。
実際は特に水で遊びたいとは思っていなかったかもしれないが、それでも若い従業員がしょげかえってしまうのを見て、一緒に水遊びに興じる姿は、千秋から見たらキラキラと輝いて見えた。

千秋の生まれ育った家の従業員の目はいつも死んでいて、こんなふうに雇い主と楽しく笑い合ったりはしていなかった。

上半身だけ裸になった四宮に、千秋は目のやり場に困って、プールの端に顔をのせうつ伏せで水に浸っていると、頭に突然水をかけられた。

「ひゃっ、し、四宮様!」
「ほら、ただ水に浸かってるだけじゃ面白くないでしょう? 一緒に遊びましょうよ」
「わぷっ」

一緒に遊ぼうと誘ってきながらバシャバシャと水をかけ続けられて、千秋も躍起になって四宮に水をかけ返した。

「あははっ」
「わぁっ、あっはは」

四宮のおかげで千秋は他のみんなとの気まずさもなくなり、みんなではしゃいで笑い合い、水をかけて遊び終わる頃にはくたくたになっていて、四宮の体を見ることも平気になっていた。

夜になり、部屋に戻ってからシャワーを浴びている最中に、一緒に遊ぼうと誘ってくれた四宮の顔を思い出し、千秋は妙に既視感を感じていた。
昔、四宮に、いや四宮によく似た男の子にそう言われたことがある気がした。

けれど、千秋はそんなことがある訳ないとすぐに首を振った。
千秋は生まれてからほとんどの時間を家の中で過ごしていたからだ。
外に出る時も車だったし、近くには両親や使用人が必ずいた。
誰かと一緒に遊んだ記憶などまるでなかった。
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