器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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四宮はそれから千秋によく話しかけてくれるようになった。
千秋は毎回、嬉しいような悲しいような気持ちで話をした。
四宮と居れば居るほど、話せば話すほど、どんどん好きになる。
好きにならないようにしようと意識してもまるで意味はなく、むしろ逆効果のようで、千秋は四六時中四宮のことばかりを考えていることもあった。

ーーもしかしたら四宮様は僕のこと少しくらい好きだったりして。なんなら、好きな人ってのも僕だったりして

なんて妄想まで楽しんだ。

そんなある日、千秋がいつものように草むしりを終え、部屋に戻ると部屋の中は空き巣の被害にあったように荒れ果てていた。箪笥は全て開けられて中のものが床に散乱しているし、ベットのマットも全て剥がされてめちゃくちゃにされているし、とにかく荒らされていないところはないような惨状だった。

「何これ……」

驚き固まっていると突然後ろから口に布を当てられ、羽交い締めにされた。

「んっーー!! んーーー!!」

口元を抑えられ息もしづらい中、もがいても千秋を拘束する腕の力は全然弱まらず、ついに千秋は意識を手放した。

けれどすぐに目を覚ましたのだろう。乱暴な手つきで運ばれているのが分かった。
空気が触れる感覚から自分が服を1つも身につけていない真っ裸であることに気がついて千秋は青ざめた。
目隠しはされているものの、四宮の匂いが微かにするから自分がいるのが屋敷の中だというのが分かる。けれどその匂いがだんだんと強くなっていることで、自分が一体どこに運ばれているのか想像がついて身を固くした。

「起きたのか?」

自分を担ぎ上げている男が、千秋が起きたことに気がつきそう声をかけた。
どこか聞き覚えのあるその声は、以前プールで一緒に遊んだ中の1人だった。

「んっ、んー!」

布を噛まされていて発言が出来ず千秋は精一杯声を上げた。

「あ、こら。うるさくするな! くそ」
「ん゛っ」

ブス

何か針のようなものを首筋に刺され、すぐに千秋の体から力が抜けた。
全くもって自分で動くことのできない千秋は、声を出すことも出来ず、叫び声をあげようとしても蚊の鳴くような小さな音しか発せられなかった。
千秋はこれから起こることが想像すらできず、恐怖でいっぱいだった。
男が足を進めるたびどんどんと四宮の匂いは強くなる。

「俺ね、聞いてたんだ。泉と君が話しているの」

運ばれる千秋の横からしたその声は、五十嵐だった。

「オメガと番えば、晴臣は3ヶ月に1度、あそこに籠もらなくてよくなるんでしょ? それで、それによって困るのはオメガだけだって。ならさ、晴臣もさっさと適当なオメガを番にしちゃえばいいのに、優しいってのは本当損だよねぇ。だから俺が、晴臣を開放してあげようと思ってさ。晴臣のためなんだ。だから君も喜んで協力するでしょ?」

「ゃ……め……ぉ」
「ははっ。何言ってんのかぜーんぜん、分かんないよ」

五十嵐は楽しそうに笑っていた。

「君は恩知らずにも晴臣のラット期間中にこの屋敷を何も言わずに出ていくことになったんだ。だからね、晴臣にはバレない。医者から、何か革新的な薬が出来たと言ってビタミン剤でも渡させて晴臣に飲ませれば、晴臣は君という犠牲のもとに治ったことを一生知ることはない。ね? いい考えでしょ?」
「ぅ……ぁ、め」
「君が最近晴臣に媚を売っているのを見るたびにムカムカしてたんだ。ドライブまで連れていってもらったらしいじゃないか。でもこの計画のことを考えている間はとっても楽しかったよ。これで邪魔な君も排除できて晴臣の体まで治せるんだから」

この間から、やたらとニヤニヤした顔で千秋を見ていたのはこれを計画していたからだったのか、と、千秋は今になって気がついた。
体はぴくりとも動かず、四宮の匂いはもうすぐそこまで迫っていた。

カチャカチャと鍵を開ける音。
中から四宮の呻き声。
どうやら鍵は開いたらしく、ぶわりと薔薇の匂いが強くなった。

「この計画にどれだけ時間を使ったことか。でもこれで晴臣を助けてあげられるよ」

見えずとも五十嵐が笑っているのが分かった。
首元からカーラーがとりさらわれた。
鍵は部屋の机の引き出しの奥にしまってあったはずだった。
ああ、だから部屋が荒らされていたのか。とどこか冷静な気持ちで納得した。
千秋は扉のすぐ脇に下されて、すぐ後ろでガチャリと鍵をかけられたのが分かった。

目隠しなど必要があるのだろうか。
だって、千秋には四宮がこちらに気が付き、近づいてきているのが手にとるように分かるのに。

靴もスリッパも履いていないのか足音も何もしない。
ただ、四宮の低い呻き声と薔薇のむせ返るような濃い匂いが、近づいてくる。

千秋は恐怖でいっぱいだったけれど、その感情に反して四宮のラットに当てられた千秋の体はフェロモンが四宮を誘うようにはねあがった。後孔からはアルファを受け入れようとドロドロと蜜が溢れ出していた。
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