器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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四宮の両親に誘われたパーティーの当日、千秋は四宮から贈られた高級スーツに身を包んでいた。

「晴臣、こんなに良いスーツありがとう」
「気にしないで。よく似合ってる」

四宮は柔らかく笑って、千秋を見てそう言った。

「本当? 七五三みたいじゃない?」
「ははは、そんなことないよ。かっこいいし可愛いよ」
「そ、そう? ふふ。ありがとう。晴臣もいつにも増してかっこいいね」
「千秋の隣を歩くのに、ダサくはいられないからね」
「もう。晴臣は何着ててもかっこいいよ」

そんなふうに傍から見たら馬鹿なカップルの会話を、2人は存分に楽しみながら準備した。

ーーああ、生きてきた中で間違いなく今が一番幸せだなぁ

千秋はパーティーなど初めてだったが、マナーについては付け焼き刃ながら四宮や熊井に教えてもらい、何も分からない状態よりは緊張は少なかった。

ーーでも、僕がパーティーか~。石崎家にいる時は僕はお留守番だったからなぁ

家を追い出されてから色々なことがあって、死んでしまうかもしれないと思ったこともあった千秋だけれど、なんだかんだ今は四宮のおかげで人生で一番幸せな時間を過ごせていることが感慨深かった。

「千秋は最初から可愛かったけど、ここで健康な生活をしてたからかな? 出会った時よりもっともっと綺麗で可愛いよ」

四宮の容赦ない褒め攻撃には、いまだに慣れることはない千秋はすぐに顔が真っ赤になってしまい、いつも恥ずかしかった。

「ぅぇっと、ありがと」
「赤くなってますます可愛いな……さあ、出発しようか」
「う、うん」

車に揺られ30分ほどで目的のパーティー会場に到着した。
大きなホテルの会場で、中は豪華絢爛だった。
ビュッフェ形式に並べられた食べ物や飲み物は、どれもこれも光り輝いているように見えとても美味しそうで千秋の心をワクワクとさせた。

「2人はどこかな」

四宮が辺りを確認して遠くの方を指した。

「いた。あそこだ」
「え」

四宮に指された場所を確認すると確かに春成と沙織がいた。

けれど。

2人が話していたのは、石崎 夏道なつみち……千秋の実の兄だった。

「なんで……」
「千秋? どうした?」
「なんで」

千秋はパニックになっていた。
昔からオメガとして美しく優秀で、そして千秋からなんでも奪っていく兄。
両親もそれを咎めず、それどころか千秋が兄が欲しがったものをたとえ鉛筆1本だったとしても兄に差し出さなければ、千秋は一晩外に締め出された。

昔のことがいくつもいくつもフラッシュバックした。

ーー嫌だ。取られたくない。晴臣だけは取られたくない

「千秋? 大丈夫? 具合悪いの?」

四宮が千秋の顔を覗き込み心配そうにしている。
千秋は思わず四宮にギュッと抱きついた。

「千秋?」
「晴、くん、晴くん……捨てないで。僕を選んで」
「千秋? もちろん千秋がいいよ。俺には千秋だけが必要だよ。好きだよ、愛してる。千秋だけだよ」

四宮はパニックに陥っている千秋の望む言葉を優しくゆっくり、何度も繰り返してくれた。
ポンポンと背中を優しく叩かれて、千秋はだんだんと落ち着きを取り戻した。

「す、すみませんでした」

四宮から離れようとするとまたギュッと抱き寄せられた。

「何かあった?」
「なんでもないです」

千秋が春成と沙織の居た場所を見ると、もうそこには夏道の姿はなかった。
広い会場で、夏道がどこに行ったかは分からなかった。

「今日はもう帰ろう。ね?」
「大丈夫……僕は大丈夫だよ。ありがとう」

落ち着きをすっかり取り戻した千秋に、四宮はもう帰ろうと何度か提案してくれたけれど、せっかく四宮の両親が誘ってくれたのだからと、2人と合流した。

「あらあらあら、今日も可愛らしいわね。ねえ? あなた」
「……ああ」
「千秋君。今日は来てくれてありがとう」

2人の様子は顔合わせの時と変わっておらず、千秋は安心した。
それに2人の人柄も分かってきていたので緊張することもなかった。

「こちらこそ今日は誘っていただいて本当にありがとうございます。お義父さん、お義母さん」
「いいのよ! さあ、今日はあなたを紹介したい人がたくさんいるの。いいかしら」
「はい、もちろんです」

にこやかに返事をすると、沙織は嬉しそうに会う人会う人に千秋のことを紹介した。
その間に、四宮は取引先の人と会ったらしく、心配そうに千秋の元に留まろうとする四宮を、千秋自ら行ってきてと送り出した。

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