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熊井からの連絡を受け、四宮は慌てて会議を切り上げ自宅に向かった。
熊井からの電話はひどく慌てふためいていていたが、車を追わせるなどのやらなければならない事は全て、熊井によって手配済みだった。
石崎の家を潰す。
それは、昨日のパーティーでの石崎を見て決めたことだが、まさかここまで早く千秋に接触しようとするとは思っておらず、四宮は自分の考えの甘さに頭を抱えた。
千秋がさらわれて時間にして1時間。
四宮は警察と共に、石崎家の屋敷についていた。
石崎家へ突入すると石崎の当主は慌てふためいた。
警察によって詐欺、顧客リストの横流し、脅迫、社内のオメガに対する不当な扱いなどに加え、千秋に対する虐待など様々な犯罪を長々と読み上げられ石崎の当主は膝から崩れ落ち、放心状態になっていた。
四宮はそれを横目に奥の部屋へ走る。
奥に行くにつれ、ゴロツキのような男たちが居て、それを辿ることによって千秋がどこにいるのかを把握できた。
四宮は、威圧を惜しむ事なくゴロツキにぶつけ、ゴロツキ達は蚊の鳴くような声で悪態を吐きつつ膝をついていく。
「入れて!! ぁあ!! いれて!!!」
千秋の必死の懇願の声が聞こえた扉を走ってきた勢いのまま蹴破ると、縛られた千秋の周りに興奮した男が3人群がっていた。
部屋の中には、甘ったるい香の匂いと混じり、千秋の桃のような香りが充満していた。
怒り。
ただ、その感情だけが四宮の中を占めた。
千秋は四宮を見た瞬間気を失ったようで、男の腕の中でくったりとしている。
「千秋から手を離せ」
「えー。でも今、千秋ちゃんから入れてってお願いされたし。聞こえてたでしょ?」
男の一人が四宮を見下すようにそう言った。
「……死にたいのか?」
「は?」
こんなやつら殺しても構わないよなと、男を1人持ち上げてアルファのフェロモンを強め威圧した。
けれど外には警察がいるんだったかと、どこか冷静な自分がいることに気がつき、四宮は笑った。
ーー俺がこいつらを殺して、犯罪者になってしまったら千秋を1人にしてしまうな
「ぅ、ゃめ……あ゛」
目の前では男が苦しんでいた。
持ち上げている男以外も、床に転がって苦しんでいる。
ーーいや、千秋を1人にしてしまうのが怖いんじゃなくて、俺が千秋から離れるのが嫌なのか
冷静に、冷静に。
「あ゛あ゛っ!!」
持ち上げていた男を床に落とすと、醜い音を発した。
気がつけば3人とも泡をふいて気を失っていた。
そこでやっと3人うちの誰一人、衣服を脱いでいないことを確認して、四宮は安心した。
「千秋……。ごめん。怖い思いをさせて、ごめん」
気を失っている千秋を、四宮の上着で包み込みそっと抱きあげた。
千秋は抱き抱えた人間が四宮だと分かっているように、四宮の胸に顔を擦り付け“んん”と甘えるような声で唸った。
「君の実家を潰す事、千秋はなんと言うだろうか。反対する?」
答えない相手に質問して、四宮は出口に向かって歩き出した。
ーーまぁ、反対されてももう潰してしまったけど。
紳士に、冷静に。
四宮はそう育てられてきた。
そう育てようとした四宮の父親が、果たして紳士で冷静な人間であるのかはさておき、四宮自身は結衣斗を失ったショックから、ただ言われるがままそうなれるよう無気力に従っていた。
けれど、千秋のことになると途端に、いとも簡単にその皮は剥がれてしまう。
「千秋には内緒にしておいた方がいいかもな。俺は……千秋に嫌われたくないから」
四宮は、千秋にだけは見せたくない仄暗い笑みを浮かべた。
熊井からの電話はひどく慌てふためいていていたが、車を追わせるなどのやらなければならない事は全て、熊井によって手配済みだった。
石崎の家を潰す。
それは、昨日のパーティーでの石崎を見て決めたことだが、まさかここまで早く千秋に接触しようとするとは思っておらず、四宮は自分の考えの甘さに頭を抱えた。
千秋がさらわれて時間にして1時間。
四宮は警察と共に、石崎家の屋敷についていた。
石崎家へ突入すると石崎の当主は慌てふためいた。
警察によって詐欺、顧客リストの横流し、脅迫、社内のオメガに対する不当な扱いなどに加え、千秋に対する虐待など様々な犯罪を長々と読み上げられ石崎の当主は膝から崩れ落ち、放心状態になっていた。
四宮はそれを横目に奥の部屋へ走る。
奥に行くにつれ、ゴロツキのような男たちが居て、それを辿ることによって千秋がどこにいるのかを把握できた。
四宮は、威圧を惜しむ事なくゴロツキにぶつけ、ゴロツキ達は蚊の鳴くような声で悪態を吐きつつ膝をついていく。
「入れて!! ぁあ!! いれて!!!」
千秋の必死の懇願の声が聞こえた扉を走ってきた勢いのまま蹴破ると、縛られた千秋の周りに興奮した男が3人群がっていた。
部屋の中には、甘ったるい香の匂いと混じり、千秋の桃のような香りが充満していた。
怒り。
ただ、その感情だけが四宮の中を占めた。
千秋は四宮を見た瞬間気を失ったようで、男の腕の中でくったりとしている。
「千秋から手を離せ」
「えー。でも今、千秋ちゃんから入れてってお願いされたし。聞こえてたでしょ?」
男の一人が四宮を見下すようにそう言った。
「……死にたいのか?」
「は?」
こんなやつら殺しても構わないよなと、男を1人持ち上げてアルファのフェロモンを強め威圧した。
けれど外には警察がいるんだったかと、どこか冷静な自分がいることに気がつき、四宮は笑った。
ーー俺がこいつらを殺して、犯罪者になってしまったら千秋を1人にしてしまうな
「ぅ、ゃめ……あ゛」
目の前では男が苦しんでいた。
持ち上げている男以外も、床に転がって苦しんでいる。
ーーいや、千秋を1人にしてしまうのが怖いんじゃなくて、俺が千秋から離れるのが嫌なのか
冷静に、冷静に。
「あ゛あ゛っ!!」
持ち上げていた男を床に落とすと、醜い音を発した。
気がつけば3人とも泡をふいて気を失っていた。
そこでやっと3人うちの誰一人、衣服を脱いでいないことを確認して、四宮は安心した。
「千秋……。ごめん。怖い思いをさせて、ごめん」
気を失っている千秋を、四宮の上着で包み込みそっと抱きあげた。
千秋は抱き抱えた人間が四宮だと分かっているように、四宮の胸に顔を擦り付け“んん”と甘えるような声で唸った。
「君の実家を潰す事、千秋はなんと言うだろうか。反対する?」
答えない相手に質問して、四宮は出口に向かって歩き出した。
ーーまぁ、反対されてももう潰してしまったけど。
紳士に、冷静に。
四宮はそう育てられてきた。
そう育てようとした四宮の父親が、果たして紳士で冷静な人間であるのかはさておき、四宮自身は結衣斗を失ったショックから、ただ言われるがままそうなれるよう無気力に従っていた。
けれど、千秋のことになると途端に、いとも簡単にその皮は剥がれてしまう。
「千秋には内緒にしておいた方がいいかもな。俺は……千秋に嫌われたくないから」
四宮は、千秋にだけは見せたくない仄暗い笑みを浮かべた。
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