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警察の介入で、千秋の実家は屋敷を含めほとんどのものが差し押さえられて、千秋の父親は四宮から見て一気に老け込んだようだった。
千秋の今までを思えば、そのくらいでは生温いと思うけれども、もはや奪えるものは何も残っていないのだから、四宮は落ち着かなかった。
千秋の兄である夏道の方も、調べれば調べるほど節操のない暮らしをしているらしく、夏道が媚を売っていた資産家などには四宮が全て証拠を送りつけた。
夏道は父親の悪行には手を貸していなかったものの、資産家たちの家から様々なものを盗み出したり、売り払ったりしていたようで資産家の一部に相当な恨みを買い多くの借金を背負ったらしい。
けれど、捨てる神あれば拾う神ありというように、そんな夏道をしつけるのも一興だと、夏道の借金を全て肩代わりした人物がいた。
80歳を超えた爺さんだが、金はたんまり持っているし、夜の方は20代も顔負けと聞いているから、夏道のようなものにはぴったりだろう。まぁ、相当なイカれた趣味もあるらしいが、それについては四宮は詳しくは知らない。
千秋がぐっすり眠っていたので、その辺りの事後処理をして部屋に戻ると、千秋は荷物をまとめている最中だった。
ここを出て行こうとしているらしい千秋の様子に、四宮の中にはドロドロした感情が浮かび上がった。
ーー一生この屋敷から出られなくなりたいのか
そんな黒い感情が一気に湧き上がったがそんな事を千秋に対して言えるわけはなく、千秋を監禁してしまいたい気持ちを必死の理性で押さえ込み、優しく優しく諭し事なきを得たが、それでも千秋がここを出ていくなんて結論に至った場合は四宮自身、自分がどんな行動を起こすか分からなかったので、千秋が屋敷を出ていかないという事で頷いてくれて本当によかったと安心した。
千秋と一緒に、布団に入り込み四宮が眠っている間に万が一にでも千秋が出て行かないようにガッチリと抱きこんで眠りについた。
四宮があまりにもガッチリと抱き込みすぎて、千秋の方は寝苦しいだろうかと思ったけれど、そんな事はないようで、千秋は安心したように、スヨスヨと寝息を立て始めた。
翌日、四宮は千秋と自身の体を調べてもらうべく朝から泉を屋敷に呼びつけた。
「人使いが荒いよなぁ。俺ぁ朝から行動すんのは嫌いだってのによ」
泉は来て早々、大きなあくびをしながら文句を言った。
「悪いな。だが、俺もお前には言いたい事が山ほどあるんだ」
泉は“おや?”というような顔で戯けて見せ、千秋に笑いかけた。
「久しぶりだな、千秋。元気にしてたか?」
「……はい。その、研究の件、ずっと協力できなくてすみません」
千秋が申し訳なさそうにすると、泉は気にするなと爽やかな顔で笑っていたが、四宮は聞き捨てならない言葉が聞こえたことに反応した。
「研究だって? なんの話だ?」
「まぁまぁ、そんなことより、今日は何か調べて欲しいことがあってこんな朝早くから呼びつけたんだろう? 用件を話してくれよ」
「あ、あの、僕に赤ちゃんができないことで……調べて欲しいんです」
研究のことについて詳しく聞きたかった四宮を他所に、千秋が話を進めてしまった。
「ああ。そりゃあ、調べてみるけど……何せ遅確性オメガ症候群だからな。千秋の場合はそんなすぐには出来ねぇだろう。四宮に会ってから少しずつ大人のオメガに体が変化してる最中だから」
「え……。僕、不妊じゃないかもしれないんですか?」
「まぁ調べてみねぇと断定は出来ないけどな」
「そう、ですか」
千秋はまだ安心はできないものの、少しだけホッとした表情を見せた。
四宮が千秋を抱き寄せると、猫のように擦り寄ってきて四宮は千秋の可愛さで胸がいっぱいになった。
それから泉は千秋と四宮の検査をして、結果は後日また報告に来ると言って去っていった。
泉は泉で忙しかったようで、急に呼びつけた事を四宮は僅かばかり申し訳なく思った。
千秋の今までを思えば、そのくらいでは生温いと思うけれども、もはや奪えるものは何も残っていないのだから、四宮は落ち着かなかった。
千秋の兄である夏道の方も、調べれば調べるほど節操のない暮らしをしているらしく、夏道が媚を売っていた資産家などには四宮が全て証拠を送りつけた。
夏道は父親の悪行には手を貸していなかったものの、資産家たちの家から様々なものを盗み出したり、売り払ったりしていたようで資産家の一部に相当な恨みを買い多くの借金を背負ったらしい。
けれど、捨てる神あれば拾う神ありというように、そんな夏道をしつけるのも一興だと、夏道の借金を全て肩代わりした人物がいた。
80歳を超えた爺さんだが、金はたんまり持っているし、夜の方は20代も顔負けと聞いているから、夏道のようなものにはぴったりだろう。まぁ、相当なイカれた趣味もあるらしいが、それについては四宮は詳しくは知らない。
千秋がぐっすり眠っていたので、その辺りの事後処理をして部屋に戻ると、千秋は荷物をまとめている最中だった。
ここを出て行こうとしているらしい千秋の様子に、四宮の中にはドロドロした感情が浮かび上がった。
ーー一生この屋敷から出られなくなりたいのか
そんな黒い感情が一気に湧き上がったがそんな事を千秋に対して言えるわけはなく、千秋を監禁してしまいたい気持ちを必死の理性で押さえ込み、優しく優しく諭し事なきを得たが、それでも千秋がここを出ていくなんて結論に至った場合は四宮自身、自分がどんな行動を起こすか分からなかったので、千秋が屋敷を出ていかないという事で頷いてくれて本当によかったと安心した。
千秋と一緒に、布団に入り込み四宮が眠っている間に万が一にでも千秋が出て行かないようにガッチリと抱きこんで眠りについた。
四宮があまりにもガッチリと抱き込みすぎて、千秋の方は寝苦しいだろうかと思ったけれど、そんな事はないようで、千秋は安心したように、スヨスヨと寝息を立て始めた。
翌日、四宮は千秋と自身の体を調べてもらうべく朝から泉を屋敷に呼びつけた。
「人使いが荒いよなぁ。俺ぁ朝から行動すんのは嫌いだってのによ」
泉は来て早々、大きなあくびをしながら文句を言った。
「悪いな。だが、俺もお前には言いたい事が山ほどあるんだ」
泉は“おや?”というような顔で戯けて見せ、千秋に笑いかけた。
「久しぶりだな、千秋。元気にしてたか?」
「……はい。その、研究の件、ずっと協力できなくてすみません」
千秋が申し訳なさそうにすると、泉は気にするなと爽やかな顔で笑っていたが、四宮は聞き捨てならない言葉が聞こえたことに反応した。
「研究だって? なんの話だ?」
「まぁまぁ、そんなことより、今日は何か調べて欲しいことがあってこんな朝早くから呼びつけたんだろう? 用件を話してくれよ」
「あ、あの、僕に赤ちゃんができないことで……調べて欲しいんです」
研究のことについて詳しく聞きたかった四宮を他所に、千秋が話を進めてしまった。
「ああ。そりゃあ、調べてみるけど……何せ遅確性オメガ症候群だからな。千秋の場合はそんなすぐには出来ねぇだろう。四宮に会ってから少しずつ大人のオメガに体が変化してる最中だから」
「え……。僕、不妊じゃないかもしれないんですか?」
「まぁ調べてみねぇと断定は出来ないけどな」
「そう、ですか」
千秋はまだ安心はできないものの、少しだけホッとした表情を見せた。
四宮が千秋を抱き寄せると、猫のように擦り寄ってきて四宮は千秋の可愛さで胸がいっぱいになった。
それから泉は千秋と四宮の検査をして、結果は後日また報告に来ると言って去っていった。
泉は泉で忙しかったようで、急に呼びつけた事を四宮は僅かばかり申し訳なく思った。
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