器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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四宮はずっと気になっていたことがあった。

ーー千秋は、なぜ結衣斗の名前を知っていたのだろう

それだけではない。

『晴、くん、晴くん……捨てないで。僕を選んで』

両親から誘われて千秋とともに行ったパーティーで、夏道を見た時に取り乱した千秋は、そう言って四宮にすがった。

それ以外の場面でも、千秋は取り乱した時や、寝ている時に四宮のことを晴くんと呼ぶことがあった。

四宮のことを晴くんと呼ぶのは、後にも先にも結衣斗だけで、四宮自身はその呼ばれ方に特にこだわりがあったわけではなかったけれど、晴くんと呼ばれればどうしても結衣斗のことを思い出す。

四宮は確かに千秋が好きなのに、時折、千秋が結衣斗のように感じられることがあった。
千秋に出会い、結衣斗の事はふっきれたはずなのに、四宮は千秋に結衣斗を重ねているんじゃないかと自分自身で不安になることがあった。

こんなふうな状態は、千秋に不誠実で、千秋のことを大好きで大切にしたいと思っている四宮にとっては、心が落ち着かない日々を過ごしていた。

ーー千秋、君は一体誰なんだ……?

そんなことを聞きたい衝動に駆られることもあったけれど、千秋が傷つきそうな質問だと自制していた。

ある日、2人でベビーグッズを買いにショッピングモールを訪れている際、四宮の横を歩いていたはずの千秋は、立ち止まりある一点を、目を見開いて見ていた。
四宮が千秋の目線の先を辿るとその人たちは居た。

四宮の知る姿からは幾分かシワも増え、老け込んではいるものの、結衣斗の面影がそれぞれにある、結衣斗のご両親だった。

2人はショッピングモールの中の食料品売り場で、買い物をしていた。

千秋は、懐かしむような、そして嬉しそうな顔で、泣き笑いみたいに微笑んでいた。

「千秋……」

思わず名前を呼ぶと、千秋はハッとしたように四宮を見て、取り繕うように笑った。

それを見て、四宮は確信してしまった。

四宮の心の中にストンと落ちた。

ーーああ、千秋は、結衣斗の生まれ変わりなのか

それは間違っていないのだろうと、根拠のない確信があった。
そして、いつからかは分からないけれど千秋は結衣斗の記憶を持っているのだと。

「ごめん、知り合いにすごく似た人が居たからさ。びっくりしちゃった」

いつもの笑顔でそう言った千秋に、四宮は一緒に笑った。

ーー千秋が言わないなら、別にそれでも構わないか

四宮の中では自分の答えに納得して、それまでのモヤモヤは晴れた。

ーー結局は俺は今の千秋が好きなんだから、それでいい

四宮と千秋はまだ性別も分かっていない我が子のベビーグッズをああでもないこうでもないと探して歩いて、すっかり疲れ切った状態で屋敷に帰った。
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