41 / 43
39
しおりを挟む
千秋は、お腹を撫でながら不安な気持ちを抱えていた。
あんなに欲しかった子供で、生まれてくるのを楽しみにしているし、ベビーグッズも四宮と共に買い漁った。
けれども、どうしてだか不安は尽きない。
もしもお腹の中にいる子が、千秋と同じでオメガだったら……ちゃんと晴臣は愛してくれるだろうか。いや、晴臣はちゃんと愛してくれるはずだ。そう思う。けれども、千秋自身はちゃんと子供を愛することができるだろうか。千秋は愛されないで育った。だから子をちゃんと愛して育てることができるのかが不安だった。
千秋が不安を隠すように明るく振る舞っても、なぜだか四宮はそれに気がついて、いつも寄り添ってくれる。それでもどうしても不安な気持ちは拭えなかった。
けれど、ある日、懐かしい顔を見た。
千秋が知っているよりも歳をとり、結衣斗が居なくなってからの時間を感じさせる見た目になった、その人たちは結衣斗の両親だ。
2人がいるのに気がついて、千秋は四宮との買い物中であることを忘れ、立ち止まり、ただただ2人を凝視した。
結衣斗だった頃、体が弱くて自宅よりも病院にいることの多かった結衣斗だけれど、2人は結衣斗を愛してくれた。誕生日には一緒にお祝いをしてくれたし、一緒にケーキを食べてくれた。暖かくて優しい家庭だった。
きっと結衣斗が死んだ時、2人はとても悲しんでくれたはず。
だけど今は、ちゃんと前をむいて2人で生活しているんだろうと思ったら、千秋は暖かいものが心に満たされるように、不思議と心が軽くなった。
それから心配そうに千秋に声をかけた四宮の声で、千秋は我に返って四宮に笑いかけた。
屋敷に帰ってから、千秋は結衣斗の両親に向けて出す予定のない手紙を書いた。
先立ってしまったことを謝り、それでも2人の息子に生まれてとても幸せだったことを書いて、結衣斗だった時は照れて素直に言えなかったような2人の好きなところも、体調の良い時に連れて行ってもらった思い出の場所も、全部書き連ねて、そして分厚い手紙の束を封筒に入れて封をした。
「晴臣、僕行きたいところがあるんだけど」
「んー? どこに行きたいの?」
四宮が優しく微笑んで、聞いてくれる。
「結衣斗の、お墓」
「……そっか。じゃあ行こうか」
何か聞かれるかもと思って身構えていた千秋は、四宮の言葉に呆気にとられた。
「なんでか聞かないの?」
「聞かないよ。もちろん、千秋が話したくなったらいつだってなんだって聞くけどね」
さっぱりとした返答をされて、千秋はホッと息をついた。
四宮に、今更話したくないわけじゃない。前ならともかく、今は四宮に信じてもらえないと思っているわけでもない。
けれども、何から話せばいいのか、千秋の頭ではまだまとまっていなかったから。
「じゃあ、次の休みの日にでも行こうか」
「うん。ありがとう」
そうして、次の四宮の休みの日、千秋と四宮は結衣斗の墓に訪れた。
千秋も、結衣斗だった頃、ここに墓参りに来たことがある。
綺麗に掃除されていて、備えてある花は造花ではなく綺麗な生花だ。
定期的にお墓参りに来ていることが一目でわかった。
四宮が先に線香をあげて手を合わせて、それから千秋が線香をあげた。
四宮は何かを察して気を使ってくれたのか、先に車に戻っておくと言って去って行った。
千秋は静かに墓を開け、骨壺が並ぶスペースの奥に隠すように手紙を入れた。
そうして何かを成し遂げたような気持ちになって、千秋は四宮の待つ車に戻った。
その半年後、千秋は無事に元気な男の子を出産した。
出産は、流石に屋敷では出来なかったので、泉から紹介された産婦人科で出産した。
顔の大体の雰囲気は千秋で、目元は四宮に似ている子だ。
第二性はまだ検査していない。
でもきっとこの子がどの性別でも千秋の愛も、四宮の愛も変わらないのだろうと、千秋は確信している。
だって可愛くて可愛くてしかたないのだから。
「千秋、頑張ったね。ありがとう」
「……うん」
四宮は、変わらず優しく微笑みかけてくれる。
「昭仁……ほら、ご飯だぞ」
四宮がつけた赤子の名前は、漢字は違ったが千秋にちなんでいた。
千秋はそれがなんだか照れ臭い。
四宮はそんな事は気にせずに、昭仁を抱いて哺乳瓶でミルクを飲ませ始めた。
昭仁も嫌がったりせず素直に飲み始めて可愛らしい。
千秋が、昭仁の紅葉のような手に指を置くとギュッと握ってくれた。
「ふふ、僕、赤ちゃんにこれ、やってみたかったんだ」
「ああ、分かる。信頼されてるみたいな気になるよな」
「うん。それに、ちゃんと生きてるなって実感する」
「そうか」
千秋の指を力強く握りながらも、昭仁は、ミルクを飲むのに必死で、それもまた可愛かった。
あんなに欲しかった子供で、生まれてくるのを楽しみにしているし、ベビーグッズも四宮と共に買い漁った。
けれども、どうしてだか不安は尽きない。
もしもお腹の中にいる子が、千秋と同じでオメガだったら……ちゃんと晴臣は愛してくれるだろうか。いや、晴臣はちゃんと愛してくれるはずだ。そう思う。けれども、千秋自身はちゃんと子供を愛することができるだろうか。千秋は愛されないで育った。だから子をちゃんと愛して育てることができるのかが不安だった。
千秋が不安を隠すように明るく振る舞っても、なぜだか四宮はそれに気がついて、いつも寄り添ってくれる。それでもどうしても不安な気持ちは拭えなかった。
けれど、ある日、懐かしい顔を見た。
千秋が知っているよりも歳をとり、結衣斗が居なくなってからの時間を感じさせる見た目になった、その人たちは結衣斗の両親だ。
2人がいるのに気がついて、千秋は四宮との買い物中であることを忘れ、立ち止まり、ただただ2人を凝視した。
結衣斗だった頃、体が弱くて自宅よりも病院にいることの多かった結衣斗だけれど、2人は結衣斗を愛してくれた。誕生日には一緒にお祝いをしてくれたし、一緒にケーキを食べてくれた。暖かくて優しい家庭だった。
きっと結衣斗が死んだ時、2人はとても悲しんでくれたはず。
だけど今は、ちゃんと前をむいて2人で生活しているんだろうと思ったら、千秋は暖かいものが心に満たされるように、不思議と心が軽くなった。
それから心配そうに千秋に声をかけた四宮の声で、千秋は我に返って四宮に笑いかけた。
屋敷に帰ってから、千秋は結衣斗の両親に向けて出す予定のない手紙を書いた。
先立ってしまったことを謝り、それでも2人の息子に生まれてとても幸せだったことを書いて、結衣斗だった時は照れて素直に言えなかったような2人の好きなところも、体調の良い時に連れて行ってもらった思い出の場所も、全部書き連ねて、そして分厚い手紙の束を封筒に入れて封をした。
「晴臣、僕行きたいところがあるんだけど」
「んー? どこに行きたいの?」
四宮が優しく微笑んで、聞いてくれる。
「結衣斗の、お墓」
「……そっか。じゃあ行こうか」
何か聞かれるかもと思って身構えていた千秋は、四宮の言葉に呆気にとられた。
「なんでか聞かないの?」
「聞かないよ。もちろん、千秋が話したくなったらいつだってなんだって聞くけどね」
さっぱりとした返答をされて、千秋はホッと息をついた。
四宮に、今更話したくないわけじゃない。前ならともかく、今は四宮に信じてもらえないと思っているわけでもない。
けれども、何から話せばいいのか、千秋の頭ではまだまとまっていなかったから。
「じゃあ、次の休みの日にでも行こうか」
「うん。ありがとう」
そうして、次の四宮の休みの日、千秋と四宮は結衣斗の墓に訪れた。
千秋も、結衣斗だった頃、ここに墓参りに来たことがある。
綺麗に掃除されていて、備えてある花は造花ではなく綺麗な生花だ。
定期的にお墓参りに来ていることが一目でわかった。
四宮が先に線香をあげて手を合わせて、それから千秋が線香をあげた。
四宮は何かを察して気を使ってくれたのか、先に車に戻っておくと言って去って行った。
千秋は静かに墓を開け、骨壺が並ぶスペースの奥に隠すように手紙を入れた。
そうして何かを成し遂げたような気持ちになって、千秋は四宮の待つ車に戻った。
その半年後、千秋は無事に元気な男の子を出産した。
出産は、流石に屋敷では出来なかったので、泉から紹介された産婦人科で出産した。
顔の大体の雰囲気は千秋で、目元は四宮に似ている子だ。
第二性はまだ検査していない。
でもきっとこの子がどの性別でも千秋の愛も、四宮の愛も変わらないのだろうと、千秋は確信している。
だって可愛くて可愛くてしかたないのだから。
「千秋、頑張ったね。ありがとう」
「……うん」
四宮は、変わらず優しく微笑みかけてくれる。
「昭仁……ほら、ご飯だぞ」
四宮がつけた赤子の名前は、漢字は違ったが千秋にちなんでいた。
千秋はそれがなんだか照れ臭い。
四宮はそんな事は気にせずに、昭仁を抱いて哺乳瓶でミルクを飲ませ始めた。
昭仁も嫌がったりせず素直に飲み始めて可愛らしい。
千秋が、昭仁の紅葉のような手に指を置くとギュッと握ってくれた。
「ふふ、僕、赤ちゃんにこれ、やってみたかったんだ」
「ああ、分かる。信頼されてるみたいな気になるよな」
「うん。それに、ちゃんと生きてるなって実感する」
「そうか」
千秋の指を力強く握りながらも、昭仁は、ミルクを飲むのに必死で、それもまた可愛かった。
66
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる