器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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「可愛らしいですね、お名前なんて言うんですか?」
「え……、あ、ああ。ありがとうございます。昭仁です」

夫婦に話しかけられて、突然のことで驚き過ぎて返答がワンテンポ遅れてしまった千秋は、ドキドキと心臓を鳴らしていた。

公園に散歩に来ていた千秋とベビーカーに乗った昭仁に声をかけたのは、結衣斗の両親だった。

「昭仁くん……、あなたにとっても似てらっしゃるわ」
「……そうですか、嬉しいです。でも、目元とかはこの子のお父さんに似ているんですよ」
「そうなのねぇ。とても可愛らしい子だから、お父様もきっと素敵な方でしょうね。ね? あなた」
「ああ、そうだなぁ」

明るく話す母親に対して、父親が穏やかに返答した。
千秋に護衛として同行していた私服姿の熊井は、流石に2人に対して警戒していないのか静かにただずんでいる。

「そうだ、少しお話ししません? 私、そこの自販機で飲み物を買ったのよ。どれにする?」

4本ある飲み物の中に、結衣斗の頃、大好きだったカルピス飲料があった。
千秋はなんだか心が暖かくなって、そのカルピス飲料を手にとった。

「じゃあ、これで。すみません……もらっていいんですか?」

手にとってから聞くのもどうかと思うが、千秋的には母親に渡されたような気持ちで反射で受け取ってしまった後だったので取り繕うように笑った。

「もちろんよ。隣に座っていいかしら?」
「あ、はい。もちろん」

そう答えると、結衣斗の両親は千秋を挟んで両隣に座った。

「え?」

千秋が戸惑っても2人はお構いないしで、ニコニコと笑っている。

「ああ、あなたもどうぞ」

などと、父親が熊井に先ほどの残った飲み物を渡していた。

千秋は昭仁の乗ったベビーカーをあやすように動かしながら、2人と久々の会話を楽しんだ。
不思議と本当に結衣斗だった頃のように、終始親子の距離感のような感じで話すことができて、千秋は懐かしく、嬉しかった。
とくに実のある話をした訳ではなかったけれど、2人と話している時間はあっという間で、気がつけば1時間は経過していた。

「あ、そろそろ帰らないとっ」
「そうだね。じゃあ、またここで会ったら僕らの話し相手になってくれるかい?」
「もちろんです」

思わぬ申し出に、千秋は嬉しくなってすぐさまうなずいた。
そしてそれは社交辞令でもなんでもなかった。
千秋が公園に行く日は不定期なのにも関わらず、2人と会うのはしょっちゅうで、千秋はその度にその幸運に感謝しながら交流を続けた。


そんな日々を続けて、千秋はついに前世のことを四宮に話す決心をした。

「晴臣、聞いて欲しい話があるんだけど」
「ん? なんだろう」

夕食を終え、昭仁も寝て、四宮が寝室のソファで千秋を抱えて寛いでいる時に、千秋は話し始めた。

「僕の、前世について」
「……わかった」

四宮は、静かにうなずいた。

それから千秋は、結衣斗だった時のことを事細かに説明した。
四宮はそれを一度も遮る事なく最後まで聴いてくれた。

「正直言うとね、そうなんじゃないかと思っていたんだ」

話し終えた時、四宮がそう言った。

「え?」
「千秋は、結衣斗の名前を知っていたし、感情が昂ると、俺のことを晴くんと呼ぶ事もあった。それに、決定的にそうだと思ったのは、まだ昭仁が千秋のお腹の中に居る時に、千秋がショッピングモールで結衣斗の両親を見つけた時の表情だったよ」

四宮が気がついていたことに、千秋は驚きはしたものの、どこかでやっぱりかと思う気持ちもあった。

「俺が知ってたこと、驚かないんだね」

四宮がそう言ってからグラスの中の麦茶で口を湿らせた。

「正直言うと、そうかもなって思ってたのかも」

先ほどの四宮の言葉を借りて千秋がそう言うと、四宮は目を丸くした。

「だって、僕は隠し事が上手いタイプじゃないから、どこかで不審に思われるようなことをしてたかもって。晴臣の話を聞く限り実際そうだったみたいだし。結衣斗のお墓に行きたいって言っても何も聞かないでいてくれたし。でも、僕が晴臣を好きなのは、結衣斗の頃の記憶がない頃からだよ」
「ふふ。俺だってそうだよ」

四宮が、千秋を後ろから抱きしめているため、千秋の背中はポカポカと暖かくて安心した。

一大決心のように話した四宮への隠し事は、終始穏やかな会話で終わった。

千秋は、隠し事をしないのが家族なのだとは思わなかったけれど、胸に秘めていたことを話して、そしてそれを受け入れてくれる相手は、家族に他ならないのだと思った。

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