黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実

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第11章 熟す

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「僕が女子に苦手意識を持つようになったのは、中一の夏頃かな。実は、仲良くなった女子が二人いてね。
 一人は同じクラスで、昼休みもずっと話すくらい親しくなったんだ。
 もう一人は違うクラスなんだけど、その子と話すためによく来てて……結果的に、三人で話すことが増えた。そんな関係が一ヶ月くらい続いたんだけど……ある日の放課後、僕、その違うクラスの子に告白したんだ」

「……え!?明希くんが!?」

 彼女はその言葉の通り、純粋に驚いていた。まあ、その反応は無理もない。半年見てくれていたのならなおさら——僕が女子に告白してる姿なんて、想像できないだろうから。

「うん」

「……それで?」

「その時はOKもらえたんだけど、その日の夜『やっぱりごめん』って……ラインでフラれた。OKもらった時よりも、フラれた瞬間の方が実感湧かなかったな」

「え……?じゃあなんで、その子OKしたの?」

「さ、さあ。でも、そこは問題じゃなくて……問題はその次の日。僕がいつも通り、その仲良い子に挨拶したら、無視されたんだ。しかも、そこで気づいたんだけど……一部の女子から向けられる視線も、明らかに冷たかった」


 あの冷たい視線は——今でも時折思い出す。


 僕は冷静になろうと、一度大きく深呼吸した。

「つまり、たった一晩の間に、僕は数人の女子から嫌われてたんだ。……意味が分からなかったよ。何よりもショックだったのは、一番仲良かった女子に、嫌われたこと。一日前は、いつも通り話してたのにさ。これまで積み重ねてきた関係は、なんだったんだろうって。“女子”のことが、まるで分からなくなった。
 そこから、僕は無意識に女子を避けるようになった。話しかけられたらもちろん返すけど、自分から仲良くなるために話そうなんて、考えなくなった。その方が、よっぽど気が楽だからね」

「……ちなみに、その子たちとは、今もそのままなの……?」

「あ、いや。二週間くらい続いたけど、浩大が変に茶化してくれてさ。『明希が何やらかしたんだよ?んん?』とか、その女子らに訊いたりして。そしたら段々、なんかうやむやになって、運良くそこで夏休みも挟んだから、露骨に嫌われてる感じはしなくなった。当然元通りにはなってないけど」

「そっか。さすが田中くんだ。でも、聞いた感じそれ……その女の子が——」

 彼女が言い切る前に、僕は手を振ってその言葉を制した。

「いいんだ、昔のことはもう。それに僕の方も、本気で“好き”とかそういうんじゃなかったから、流れでそうなった感じというか……それが良くなかったんだと思う。バチが当たったんだよ」

「……ふふ。なんか明希くん、バチが当たってばっかりだね」

 俯いた僕を、彼女が下から覗き込んでくる。

 僕は曖昧な笑みを返した。冗談半分に言ったのだろうけど、実際——その通りだから。

「まっ、私も人のこと言えないけど」

 無邪気にそう言うと、彼女はクルッと後ろを向いて、そのままトボトボと歩き始めた。

「あっ、そうだ!明日ってひま?私、イオン行きたいんだー」

「え、イオン?僕は全然、いいけど」

「じゃあ、私の秋服一緒に選んでね。ついでに、今日の話の続きしよ」

「つ、続き?」

「麻美ちゃんとどんなやり取りしたのか……とか?ちょっと気になるなーって。今日はもう帰らなきゃ」

「あ、あぁ……ほんとに、大したやり取りはしてないよ」

「でも、たぶん二人で会ったり、してるよね?」

「えッ……いや、まあ……」

「ふふ。別に咎めようとかじゃないから。それに今は……麻美ちゃんに訊きたいことの方が、多いかな」

 彼女は、明るく言い放った。その声は確かに本心のようで、僕のことを追及するつもりは、なさそうだった。でも、だからこそ、明るさの中に滲む静けさと陰りが、僕は気になった。


 グラウンドの外周はアスファルトで舗装されていて、南東の端に出入り口となる階段がある。その階段の近くまで来ると、彼女は歩みをゆるめ、やがてためらうように立ち止まった。

「……綺麗だよね。ここからの景色」

 グラウンドの出口は、フェンスも何もない開けた場所だ。ここの階段を降りて坂を下っていけば、栞ちゃんの家に繋がる。

「……そうだね」

「明希くん。一応、言っておくけど——」

 階段の淵に立って、彼女はもう一度僕の方に振り返った。


「私は明希くんを信じるから。もし仮に、また女の子に嫌われるようなことがあっても」


 触れてないのに、それはまるで、僕を包み込むような——あたたかい声だった。

「……うん。ありがとう」

 僕が微笑むと、彼女は後ろの景色にも負けないくらい、眩しい笑顔を見せてくれた。

「じゃあ、帰ろっか!あれ……そういえば、明希くん自転車は?」

「今日は上に停めてるんだ。遊具広場の近く」

「そっか。……それじゃ、また明日。あとでラインするね」

「うん」

 それから互いに手を振って、彼女はゆっくりと坂を下っていった。街灯の光に溶けていく姿を、僕はただ黙って見送った。
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