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第11章 熟す
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僕がそう訊くと、彼女は口を小さく開けて固まった。
これ以上を聞いたところで、現状が変わることはない。麻美ちゃんと浩大は付き合っているし、僕は栞ちゃんと付き合っている。それは変わらないし、今さら変えられない。
けれど——僕は、彼女の本心を訊きたかった。勘違いならそれでいい。でも、ずっと何かを隠しているような、その心の中を知らないまま、僕は彼女と離れたくなかった。
「お父さんに聞いたんだね。それ」
少しの間をおいて、彼女はまた優しく微笑んだ。
「じゃあ、やっぱり——」
「でも違うよ。別にそんなの、関係ない」
「……えっ」
僕の動揺をよそに、彼女が体を預けてくる。腕と腕が密着し、肩と頭が触れ合う。
「前も言ったけど、私は本能で動いてるの。私は誰が誰と付き合うとか、そんなのどうだっていい。私ら子供にとって、恋愛にゴールなんてないんだから。私らはこうして——」
そっと僕の手を取り、ゆっくり指を絡めてくる。
「異性に触れるのが、恋愛の目的。でもそんなの、建前だってわかってるでしょ?明希君がわかってるなら、それでいいの。明希君が本能で動いてくれたら、私はそれでいい」
……まるで、魔法だ。
僕のことをどう思っているかなんて、何一つ言ってくれてない。それなのに、僕は途端に追及できなくなった。その声のトーンと、仕草が、僕にそれ以上の追及を許さなかった。
「あ、あとついでに言っとくけど、私のことは私が決めるから安心して。来年引っ越すとか、そんなの考えてないから」
「……え、そうなの?でも——」
「これ以上、私は親の都合に振り回されたくないから」
その声には、今度ははっきりとした意志があった。それこそ、間違いなく本心だろう。
でも……彼女の気持ち一つで、その未来を変えられるのか?それは、難しい気がする。もしそうなれば、これ以上ないほど嬉しい。でも——彼女が反抗してどうにかなるとは思えない。
「そんな心配そうな顔しないでくれる?大丈夫だからさ」
繋いだ手が、ポンポンと彼女の太ももに触れる。
「それよりさ。私はしーちゃんが納得した理由、いまいちわからないんだけど。変な作り話とかしてないよね?」
訝しげに笑う彼女を見て、僕もふと思い出した。本来最初に訊きたかったのは、そこなんだ。
「いや、それだけどさ……麻美ちゃん、僕に話してないこと、あるよね?」
「話してないこと?」
「栞ちゃん、一人で納得してたんだよ。『なんとなく繋がった』とか言ってたし、水着も渡されたのはプールの帰りって勘付いてたし、スマホのことも……いや、あれは僕が挙動不審だったせいか。でもあの感じからして、二人だけで話してることとか、あるでしょ?」
僕は、核心を突くような質問をした……つもりだった。けれど、彼女はしばらく目を瞑って「んー」と首を捻ってみせた。まるで、大したことない何かを思い出すように。
「明希君が知らないことを強いて挙げるなら……」
「はい……?」
「『遊園地とプールは、二人で行ったことにしよう』って話したことかな?」
「……へっ?どうして?」
「どうしてってそりゃー、転校早々Wデートみたいなことしてたら、親がびっくりするでしょ?あの日はしーちゃんのお母さんが送ってくれたから、一応口裏は合わせてもらったんだ。プールはしーちゃんも恥ずかしいって言ってたから、明希君らと行ったのはお母さんも知らないままだと思うけど」
「な、なるほど……」
言われてみれば……ごもっともだ。彼女はずっと女子中だったわけで、それが急に男と遊ぶなんてことになれば、どんな親でも心配になるだろう。ましてや、あの厳しそうなお父さんならなおさら。
「あ、でも。遊園地に行ったときだけ、私スマホ持っててさ。栞ちゃんに気づかれたから、その時『お父さんに持たされた』って言って誤魔化したの。その話だと、誤魔化せてなかったのかな~」
「……そうなの!?」
拍子抜けした。というより、合点がいったと言う方が正確だろうか。いや、冷静に考えたら、そうだよな……ベッドのスマホを見た時、僕はそこまでヘタを打ったつもりはなかった。あれは、たまたま麻美ちゃんと同じ文言で誤魔化したからバレたんだ。
「水着を渡したタイミングも、たぶんあれだね。私が髪より水着を優先して乾かしてたからだ。それに、お風呂のあとすぐさよならしたし」
「なるほど……」
そうか——僕が水着を受け取った時、すでに洗って乾かしてくれていた。でも、普通の子ならそんなこと、わざわざしない。だからこそ、彼女は気づいたのかもしれない。
あれ……でも、どのみちおかしくないか?受け取ったタイミングがわかったところで、納得する要素はないはず。僕が水着を受け取る、正当な理由がないんだから。
「栞ちゃんは、僕が水着を受け取った理由まで、気づいてそうだったけど……」
「え?それはしーちゃんの勘違いだよ。だって、私が水着をあげたのは、代償だからね。それよりほら、降りるよ!」
「だい……えッ、もう!?」
彼女に促されて、僕らは慌ててバスを降りた。まだ……かれこれ十分くらいしか経ってない。降りた場所は、すぐにはピンと来なかった。けれど、見慣れないだけで隣町には違いなかった。
ただ、この場所……何か、引っかかる。
これ以上を聞いたところで、現状が変わることはない。麻美ちゃんと浩大は付き合っているし、僕は栞ちゃんと付き合っている。それは変わらないし、今さら変えられない。
けれど——僕は、彼女の本心を訊きたかった。勘違いならそれでいい。でも、ずっと何かを隠しているような、その心の中を知らないまま、僕は彼女と離れたくなかった。
「お父さんに聞いたんだね。それ」
少しの間をおいて、彼女はまた優しく微笑んだ。
「じゃあ、やっぱり——」
「でも違うよ。別にそんなの、関係ない」
「……えっ」
僕の動揺をよそに、彼女が体を預けてくる。腕と腕が密着し、肩と頭が触れ合う。
「前も言ったけど、私は本能で動いてるの。私は誰が誰と付き合うとか、そんなのどうだっていい。私ら子供にとって、恋愛にゴールなんてないんだから。私らはこうして——」
そっと僕の手を取り、ゆっくり指を絡めてくる。
「異性に触れるのが、恋愛の目的。でもそんなの、建前だってわかってるでしょ?明希君がわかってるなら、それでいいの。明希君が本能で動いてくれたら、私はそれでいい」
……まるで、魔法だ。
僕のことをどう思っているかなんて、何一つ言ってくれてない。それなのに、僕は途端に追及できなくなった。その声のトーンと、仕草が、僕にそれ以上の追及を許さなかった。
「あ、あとついでに言っとくけど、私のことは私が決めるから安心して。来年引っ越すとか、そんなの考えてないから」
「……え、そうなの?でも——」
「これ以上、私は親の都合に振り回されたくないから」
その声には、今度ははっきりとした意志があった。それこそ、間違いなく本心だろう。
でも……彼女の気持ち一つで、その未来を変えられるのか?それは、難しい気がする。もしそうなれば、これ以上ないほど嬉しい。でも——彼女が反抗してどうにかなるとは思えない。
「そんな心配そうな顔しないでくれる?大丈夫だからさ」
繋いだ手が、ポンポンと彼女の太ももに触れる。
「それよりさ。私はしーちゃんが納得した理由、いまいちわからないんだけど。変な作り話とかしてないよね?」
訝しげに笑う彼女を見て、僕もふと思い出した。本来最初に訊きたかったのは、そこなんだ。
「いや、それだけどさ……麻美ちゃん、僕に話してないこと、あるよね?」
「話してないこと?」
「栞ちゃん、一人で納得してたんだよ。『なんとなく繋がった』とか言ってたし、水着も渡されたのはプールの帰りって勘付いてたし、スマホのことも……いや、あれは僕が挙動不審だったせいか。でもあの感じからして、二人だけで話してることとか、あるでしょ?」
僕は、核心を突くような質問をした……つもりだった。けれど、彼女はしばらく目を瞑って「んー」と首を捻ってみせた。まるで、大したことない何かを思い出すように。
「明希君が知らないことを強いて挙げるなら……」
「はい……?」
「『遊園地とプールは、二人で行ったことにしよう』って話したことかな?」
「……へっ?どうして?」
「どうしてってそりゃー、転校早々Wデートみたいなことしてたら、親がびっくりするでしょ?あの日はしーちゃんのお母さんが送ってくれたから、一応口裏は合わせてもらったんだ。プールはしーちゃんも恥ずかしいって言ってたから、明希君らと行ったのはお母さんも知らないままだと思うけど」
「な、なるほど……」
言われてみれば……ごもっともだ。彼女はずっと女子中だったわけで、それが急に男と遊ぶなんてことになれば、どんな親でも心配になるだろう。ましてや、あの厳しそうなお父さんならなおさら。
「あ、でも。遊園地に行ったときだけ、私スマホ持っててさ。栞ちゃんに気づかれたから、その時『お父さんに持たされた』って言って誤魔化したの。その話だと、誤魔化せてなかったのかな~」
「……そうなの!?」
拍子抜けした。というより、合点がいったと言う方が正確だろうか。いや、冷静に考えたら、そうだよな……ベッドのスマホを見た時、僕はそこまでヘタを打ったつもりはなかった。あれは、たまたま麻美ちゃんと同じ文言で誤魔化したからバレたんだ。
「水着を渡したタイミングも、たぶんあれだね。私が髪より水着を優先して乾かしてたからだ。それに、お風呂のあとすぐさよならしたし」
「なるほど……」
そうか——僕が水着を受け取った時、すでに洗って乾かしてくれていた。でも、普通の子ならそんなこと、わざわざしない。だからこそ、彼女は気づいたのかもしれない。
あれ……でも、どのみちおかしくないか?受け取ったタイミングがわかったところで、納得する要素はないはず。僕が水着を受け取る、正当な理由がないんだから。
「栞ちゃんは、僕が水着を受け取った理由まで、気づいてそうだったけど……」
「え?それはしーちゃんの勘違いだよ。だって、私が水着をあげたのは、代償だからね。それよりほら、降りるよ!」
「だい……えッ、もう!?」
彼女に促されて、僕らは慌ててバスを降りた。まだ……かれこれ十分くらいしか経ってない。降りた場所は、すぐにはピンと来なかった。けれど、見慣れないだけで隣町には違いなかった。
ただ、この場所……何か、引っかかる。
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