黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実

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第1章 秘密とヒミツ

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 ——もしかすると僕は、この瞬間のために今まで男連中とニケツしてきたのかもしれない。

 何度も滑っては転けてを繰り返した経験が、今の僕の手を自然と動かした。両足を地面につけた時は、我ながらスマートな急停止だと思った。

「やるねえ。これなら明希君の後ろは安心できそう」

「……もし次があるなら、その時はもう少し早く言ってね」

「ふふっ。じゃあ私ここからは歩いて帰るから。ありがと」

 荷台から降りた彼女は、そう言って胸元のあたりまでそっと右手を上げた。動く様子がないその仕草は、「ここで見送るよ」という意思表示に思えた。僕は小さく頷いて、再びペダルを踏み出す。振り返ればまた目が合ってしまいそうで、僕はそのまま前だけを見て進んだ。きっと彼女は、僕の姿が見えなくなるまで、ずっとそこに立っていたのだろう。——そんな気がした。


 家に帰ってからは、またしても僕は今日のことを回想してはため息を漏らした。昨日から、ため息ばかり吐いている気がする。とはいえ、それはストレスが原因というわけじゃない。

 ——結局、彼女はなんで僕を放課後呼び出したのだろう。

 家が近いから送ってもらおう、本当にただそれだけか?昨日の写真を人質にして要求するには、内容が軽すぎる。そもそも、そんなもの人質にされなくても、僕ならその程度のお願いくらい、引き受けるのに。……いや、それは当人の僕にしか分からないことか。

 でも、彼女がわざわざアドバイスをくれたのは、やっぱり気になってしまう。僕が思っていた『代償』の意味からは、むしろ遠ざかっている。まるで、僕と河西栞との仲を後押ししてくれているみたいで。それが嬉しいのか、ありがたいのか、あるいは少し寂しいのか……うまく言葉にできない気持ちが胸の内に渦を巻いていた。

 夜の九時を過ぎて、ようやく僕は机に向かった。明日からいよいよ本格的に授業が始まる。その前に、英語の予習くらいはしておかなければならない。英語は、僕が一番苦手な科目だ。一学期は、僕らより先行していた二組の(つまり翔一の)ノートをよく写させてもらっていた。でも今回は、さすがに自力で何とかするしかない。……浩大がやってる可能性? そんなものは当然ゼロだ。

 スマホで英単語を調べていると、ちょうど画面の上にラインの通知が表示された。タイミング的に、ヤツがノートの催促でもしてきたのかと思った。けれど、そこにあった名前は——浩大ではなかった。

 その通知は、僕の集中力を削ぐには十分すぎる内容だった。


【麻美:明日の放課後、今度は路地で待ってるね】

【麻美:麻美がスタンプを送信しました】
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