19 / 102
第2章 接触
5
しおりを挟む
「う、奪うって……?」
「そう。本気でその人を好きならね」
その笑みは罪悪感もためらいもなく、まるで応援するかのように爽やかだった。
「まあ、恋人がいようがどうせ大半は別れるんだから、それまで待つのも一つの手だけど。私はさ、不確かな未来を当てにして、何もしないまま毎日を消費する方が、よっぽど勿体ないと思うよ」
「そりゃあ、その通りだけど……」
正直、それは麻美ちゃんみたいに選べる側の人間だからこそ言える理屈だ。ましてや、相手は年上で、頭も良くて、部活のつながりまである。何より栞ちゃんは、きっと同級生の恋愛とは違う、もっと“大人の恋愛”をしているんじゃないか——そう、どこかで僕は思ってしまっている。
けれど、そんな僕の迷いすら見透かしたように、彼女は微笑んだ。
「明希君は、堂々としてれば大丈夫だよ。昔みたいに」
その日の夜、僕は懸命に英語の予習を進めていた。この予習は別に明日必要なものではない。だけど、今日の情けない姿を帳消しにしたい気持ちと、ただ時間を持て余していたから——そんな理由で机に向かっていた。
でも、やっぱり中々集中はできない。原因は間違いなく視界の端にあるスマホ。僕は、心のどこかでまた彼女から連絡が来るのを待っている。突如来るであろう、一方通行のラインを。
そんな半端な集中のせいでダラダラと時間だけが過ぎ、気がつけば二十三時前。さすがに寝ようかと考え始めた頃——ついにスマホが鳴った。でも、それはメッセージの通知音ではなく、ラインの着信音。
「で、電話……?」
緊張しながら画面を覗くと、表示されていた名前は『浩大』。麻美ちゃんじゃないと分かった瞬間、力が抜けた。なんだろう、この落差。期待してた分だけ、落ち込みも大きい。
「もしもし」
『おお、起きてたか』
その第一声は、まるで夜型の人間が朝型の人間にマウントを取るときの口ぶり。だけど、実際はいかにも寝起き丸出しのガラガラ声で、思わず吹き出してしまった。
『なに笑ってんだ?』
「あーいや、なんでもない。で、こんな夜中にどうしたんだよ」
コイツがこんな時間に電話してくるなんて珍しい。寝落ち後にわざわざかけてきたってことは、きっと何かある。
『実はよ、上手くいったんだわ』
「ん?何が?」
『何がってお前、もう忘れたのか?立石さんをデートに誘うって話したろ?』
そこまで言われて、ようやく朝の会話を思い出した。眠気で半分聞き流していたけど、「週末デート」って言葉だけは微かに記憶に残っている。
と、そこでようやく理解が追いついた。遅れて、心臓が大きく鼓動する。上手くいったってことは、つまり——。
「誘えたのか……?」
『おうよ。まあ条件付きでな。条件というか、いきなり二人はハードル高えから俺が固め打ちした感じなんだが』
「というと?」
『わざわざ連絡入れてる時点で察しがつくかもしれんが、複数人で遊ぶってことになった。で、そのうちの一人がお前な』
「ああ、まあ……僕は別にいいけど」
——別にいいけど、か。
『でよ、それなら四人の方がキリいいだろ?だからお前、河西さん誘ってみてくれよ』
「なっ、僕が!?なんでだよ」
あまりにも理屈が無茶苦茶だ。そりゃ、四人で遊ぶなら僕としても栞ちゃんが一番嬉しい。でも流石に無理がある。週末って言っても、明日は木曜だぞ?来週末ならまだしも、そんな直前に誘うなんて非常識だろ。
そんな僕の困惑を悟ったかのように、浩大は付け足した。
『別に無理なら無理で仕方ねえさ。でも誘うだけならタダだろ?ダメならまた今度で済む話だ。な?物は試しってやつよ。じゃ、頼んだぜ』
「頼んだぜって、おい!」
僕の叫びも虚しく、スマホは既にロック画面に切り替わっていた。
はあ、と脱力して椅子にもたれかかり、念のためラインを開く。麻美ちゃんからの連絡は……やっぱり無い。
「ったく、簡単に言ってくれる……」
今日、数年ぶりに名前を呼んだばかりなのに、その翌日に「僕らと遊ばない?」だって?そりゃ誘う分にはタダかもしれないけど、断られた後の空気は、タダじゃ済まないんだぞ?
すっかり集中力を削がれた僕は、その後も予習は手につかず、麻美ちゃんからの連絡もないまま、ただ睡眠時間だけを削って翌朝を迎えた。
カーテンを開け、スマホで天気予報を確認して、ようやく腑に落ちた。今日は午後から小雨らしい。だから、連絡が来なかったのかもしれない。そう思うと少しだけ安心する。でも、裏を返せば「ニケツできないなら、一緒に帰る意味はない」と思われてる可能性もあるわけで、それは連絡が来ないことよりもある意味ショックだ。
——こんなことで落ち込むこと自体、厚かましいってのに。
教室に入ると、すぐに栞ちゃんの姿が目に飛び込んできた。まだ時間はあるのに、彼女はもう本に目を落としている。窓際の席で、朝の涼しげな日差しを浴びながら静かにページをめくる姿はどこか優美で、不意に風が吹き抜けて髪を揺らすと、彼女はそれをそっと耳にかけた。その仕草に、目が奪われないわけがない。
「そう。本気でその人を好きならね」
その笑みは罪悪感もためらいもなく、まるで応援するかのように爽やかだった。
「まあ、恋人がいようがどうせ大半は別れるんだから、それまで待つのも一つの手だけど。私はさ、不確かな未来を当てにして、何もしないまま毎日を消費する方が、よっぽど勿体ないと思うよ」
「そりゃあ、その通りだけど……」
正直、それは麻美ちゃんみたいに選べる側の人間だからこそ言える理屈だ。ましてや、相手は年上で、頭も良くて、部活のつながりまである。何より栞ちゃんは、きっと同級生の恋愛とは違う、もっと“大人の恋愛”をしているんじゃないか——そう、どこかで僕は思ってしまっている。
けれど、そんな僕の迷いすら見透かしたように、彼女は微笑んだ。
「明希君は、堂々としてれば大丈夫だよ。昔みたいに」
その日の夜、僕は懸命に英語の予習を進めていた。この予習は別に明日必要なものではない。だけど、今日の情けない姿を帳消しにしたい気持ちと、ただ時間を持て余していたから——そんな理由で机に向かっていた。
でも、やっぱり中々集中はできない。原因は間違いなく視界の端にあるスマホ。僕は、心のどこかでまた彼女から連絡が来るのを待っている。突如来るであろう、一方通行のラインを。
そんな半端な集中のせいでダラダラと時間だけが過ぎ、気がつけば二十三時前。さすがに寝ようかと考え始めた頃——ついにスマホが鳴った。でも、それはメッセージの通知音ではなく、ラインの着信音。
「で、電話……?」
緊張しながら画面を覗くと、表示されていた名前は『浩大』。麻美ちゃんじゃないと分かった瞬間、力が抜けた。なんだろう、この落差。期待してた分だけ、落ち込みも大きい。
「もしもし」
『おお、起きてたか』
その第一声は、まるで夜型の人間が朝型の人間にマウントを取るときの口ぶり。だけど、実際はいかにも寝起き丸出しのガラガラ声で、思わず吹き出してしまった。
『なに笑ってんだ?』
「あーいや、なんでもない。で、こんな夜中にどうしたんだよ」
コイツがこんな時間に電話してくるなんて珍しい。寝落ち後にわざわざかけてきたってことは、きっと何かある。
『実はよ、上手くいったんだわ』
「ん?何が?」
『何がってお前、もう忘れたのか?立石さんをデートに誘うって話したろ?』
そこまで言われて、ようやく朝の会話を思い出した。眠気で半分聞き流していたけど、「週末デート」って言葉だけは微かに記憶に残っている。
と、そこでようやく理解が追いついた。遅れて、心臓が大きく鼓動する。上手くいったってことは、つまり——。
「誘えたのか……?」
『おうよ。まあ条件付きでな。条件というか、いきなり二人はハードル高えから俺が固め打ちした感じなんだが』
「というと?」
『わざわざ連絡入れてる時点で察しがつくかもしれんが、複数人で遊ぶってことになった。で、そのうちの一人がお前な』
「ああ、まあ……僕は別にいいけど」
——別にいいけど、か。
『でよ、それなら四人の方がキリいいだろ?だからお前、河西さん誘ってみてくれよ』
「なっ、僕が!?なんでだよ」
あまりにも理屈が無茶苦茶だ。そりゃ、四人で遊ぶなら僕としても栞ちゃんが一番嬉しい。でも流石に無理がある。週末って言っても、明日は木曜だぞ?来週末ならまだしも、そんな直前に誘うなんて非常識だろ。
そんな僕の困惑を悟ったかのように、浩大は付け足した。
『別に無理なら無理で仕方ねえさ。でも誘うだけならタダだろ?ダメならまた今度で済む話だ。な?物は試しってやつよ。じゃ、頼んだぜ』
「頼んだぜって、おい!」
僕の叫びも虚しく、スマホは既にロック画面に切り替わっていた。
はあ、と脱力して椅子にもたれかかり、念のためラインを開く。麻美ちゃんからの連絡は……やっぱり無い。
「ったく、簡単に言ってくれる……」
今日、数年ぶりに名前を呼んだばかりなのに、その翌日に「僕らと遊ばない?」だって?そりゃ誘う分にはタダかもしれないけど、断られた後の空気は、タダじゃ済まないんだぞ?
すっかり集中力を削がれた僕は、その後も予習は手につかず、麻美ちゃんからの連絡もないまま、ただ睡眠時間だけを削って翌朝を迎えた。
カーテンを開け、スマホで天気予報を確認して、ようやく腑に落ちた。今日は午後から小雨らしい。だから、連絡が来なかったのかもしれない。そう思うと少しだけ安心する。でも、裏を返せば「ニケツできないなら、一緒に帰る意味はない」と思われてる可能性もあるわけで、それは連絡が来ないことよりもある意味ショックだ。
——こんなことで落ち込むこと自体、厚かましいってのに。
教室に入ると、すぐに栞ちゃんの姿が目に飛び込んできた。まだ時間はあるのに、彼女はもう本に目を落としている。窓際の席で、朝の涼しげな日差しを浴びながら静かにページをめくる姿はどこか優美で、不意に風が吹き抜けて髪を揺らすと、彼女はそれをそっと耳にかけた。その仕草に、目が奪われないわけがない。
1
あなたにおすすめの小説
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる