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第3章 接近
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約束の土曜日はあっという間にやってきた。あれから二日しか経っていないわけだから当然っちゃ当然だけど、昨日もちょくちょく栞ちゃんと今日のことで話をしたせいか一日がとても早く感じた。逆に少し気掛かりなのは、麻美ちゃんからの連絡は変わらず無かったこと。一応生徒会室で駄弁って時間を潰したりもしたけれど、彼女は姿を見せなかった。まあ、放課後なんて女子仲間で何処か行ったりもするだろうし、深く考えるだけ無駄だろう。というか——そう言い聞かせないと、心のモヤが晴れなかった。
「明希、準備できたの?そろそろ出んと間に合わんよ?」
「ああごめん。もう大丈夫」
待ち合わせ場所は県内有数の繁華街で、電車であれば最低でも三つの路線を乗り継がないと行けない。それで逆算して「明日は朝ごはん要らない」と母さんに伝えた結果、最終的に送ってもらえることになった。くそ田舎なのに車だと三十分かからないってのが不思議なところだ。
「にしても遊園地なんて久しぶりじゃない?県内は両方とも閉園しちゃったからめっきり行く機会も無かったでしょうに」
「まあ、そうだね」
「それより、四人って言ってたけどもしかして二人は女の子だったりするの?」
母さんは、突如ニヤついた声で訊いてきた。昨日せっかく「浩大ら三人と」って濁したのに、ピンポイントで突いてくるあたりデリカシーがない。僕は「まあ、性別は女子だけど」とあくまでデートではない旨を仄めかせた。けれどそこもまた「Wデートか!」と意に反する発言で返してくる。僕はあからさまにため息を一つ入れて弁解した。
「そんなんじゃないって。浩大がクラスの子とデートする為に巻き込まれただけだから」
「ふーん?でも、じゃあその巻き込まれた女の子と実質デートね」
「いやだから——」
否定しようとして、でも冷静に考え直した。第三者の母さんがそう感じたということは、実は栞ちゃんも案外そういう構図を想定して了承してくれたのだろうか、と。いや、でも一番重要なことを忘れている。彼女には“彼氏”がいるんだ。それに、誘ったのは実質麻美ちゃんだということも忘れてはいけない。
「とにかく、こういう時はご飯くらい奢ってあげなさいよ?財布に五千円入れといたから」
「えっ!?いつの間に……」
勝手に部屋には入らないでくれと常々言ってはいるものの、母さんはたまにこういうことをする。でも、さすがにここで文句を言うわけにもいかず、黙ってありがたく頂戴することにした。
目的地である駅前で降ろしてもらい、一応母さんの車を見送る。大魚の群れの中に小魚が入っていくような様を見て、よくもあの軽四でここまで送ってくれたものだと少し申し訳なく感じた。「帰る時間分かったら連絡しな」と降りる直前に言われたものの、この光景を見ると次回からは電車にしたほうが良さそうだ。
そこから歩くこと数十秒足らずで、待ち合わせ場所の大型ビジョンが姿を現した。実際に見るとそこまで大きくもないんだけど、『大画面』イコールこの場所というのが県民の共通認識になっているから不思議だ。土曜日ということもあってか、その周囲は若い(と言っても高校生以上だと思うけど)人たちで賑わっている。しかしながら、一番乗りはどうやら僕らしい。
「おーはよっ」
そう思っていた直後、後ろから肩を叩かれ振り返る間もなくその声が耳元に響く。その声質と、視界に入った毛先の赤い髪からも、それが誰なのかはすぐに分かった。
「あ、おはよ——」
言い切る前に、彼女は僕の眼前に顔を出した。その距離があまりにも近くて、僕は思わず一歩二歩と後ろに下がってしまう。下がって初めて捉えたその姿は、ラフながらも洗練されていて、何よりも私服姿が新鮮で、初めて出会ったような錯覚に陥った。肩がすっきりと見えるチャコールグレーのノースリーブTシャツをゆるっと着こなし、ライトブルーのワイドデニムパンツ、そして厚めのサンダルを合わせた夏コーデ。制服とは、雰囲気が全く違う。
「あれ、明希君だけ?田中君と一緒じゃないの?」
「あー、うん。母さんに送ってもらったから。麻美ちゃんも一人?」
「いやいや?私も送ってもらったから。しーちゃんママに」
ニヤッとする彼女の視線を追うと、僕の真後ろにはもう一人、両手を肩の高さまで上げた栞ちゃんが立っていた。どうやら、僕が後ろにさがったせいで危うくぶつかるところだったらしい。
「おはよっ」
「お、おはよう」
彼女にもまた、麻美ちゃん同様の錯覚を覚えた。彼女が纏うのは、ふんわりとした袖が印象的なブラックのワンピース。ハイウエストの切り替えはシルエットを引き締め、膝上丈のスカートが軽やかに揺れる。足元はレースアップのブラックブーツと、全身をシックな雰囲気でまとめていながらも、斜めがけの小さなショルダーバッグがシンプルな白色で良いアクセントになっている。小六で止まっていた私服姿のイメージからは、とても同じ人だとは思えなかった。こうなると、今更ながら黒Tシャツに紺色ジーンズっていう自分の服装が恥ずかしくなってくる。
「明希、準備できたの?そろそろ出んと間に合わんよ?」
「ああごめん。もう大丈夫」
待ち合わせ場所は県内有数の繁華街で、電車であれば最低でも三つの路線を乗り継がないと行けない。それで逆算して「明日は朝ごはん要らない」と母さんに伝えた結果、最終的に送ってもらえることになった。くそ田舎なのに車だと三十分かからないってのが不思議なところだ。
「にしても遊園地なんて久しぶりじゃない?県内は両方とも閉園しちゃったからめっきり行く機会も無かったでしょうに」
「まあ、そうだね」
「それより、四人って言ってたけどもしかして二人は女の子だったりするの?」
母さんは、突如ニヤついた声で訊いてきた。昨日せっかく「浩大ら三人と」って濁したのに、ピンポイントで突いてくるあたりデリカシーがない。僕は「まあ、性別は女子だけど」とあくまでデートではない旨を仄めかせた。けれどそこもまた「Wデートか!」と意に反する発言で返してくる。僕はあからさまにため息を一つ入れて弁解した。
「そんなんじゃないって。浩大がクラスの子とデートする為に巻き込まれただけだから」
「ふーん?でも、じゃあその巻き込まれた女の子と実質デートね」
「いやだから——」
否定しようとして、でも冷静に考え直した。第三者の母さんがそう感じたということは、実は栞ちゃんも案外そういう構図を想定して了承してくれたのだろうか、と。いや、でも一番重要なことを忘れている。彼女には“彼氏”がいるんだ。それに、誘ったのは実質麻美ちゃんだということも忘れてはいけない。
「とにかく、こういう時はご飯くらい奢ってあげなさいよ?財布に五千円入れといたから」
「えっ!?いつの間に……」
勝手に部屋には入らないでくれと常々言ってはいるものの、母さんはたまにこういうことをする。でも、さすがにここで文句を言うわけにもいかず、黙ってありがたく頂戴することにした。
目的地である駅前で降ろしてもらい、一応母さんの車を見送る。大魚の群れの中に小魚が入っていくような様を見て、よくもあの軽四でここまで送ってくれたものだと少し申し訳なく感じた。「帰る時間分かったら連絡しな」と降りる直前に言われたものの、この光景を見ると次回からは電車にしたほうが良さそうだ。
そこから歩くこと数十秒足らずで、待ち合わせ場所の大型ビジョンが姿を現した。実際に見るとそこまで大きくもないんだけど、『大画面』イコールこの場所というのが県民の共通認識になっているから不思議だ。土曜日ということもあってか、その周囲は若い(と言っても高校生以上だと思うけど)人たちで賑わっている。しかしながら、一番乗りはどうやら僕らしい。
「おーはよっ」
そう思っていた直後、後ろから肩を叩かれ振り返る間もなくその声が耳元に響く。その声質と、視界に入った毛先の赤い髪からも、それが誰なのかはすぐに分かった。
「あ、おはよ——」
言い切る前に、彼女は僕の眼前に顔を出した。その距離があまりにも近くて、僕は思わず一歩二歩と後ろに下がってしまう。下がって初めて捉えたその姿は、ラフながらも洗練されていて、何よりも私服姿が新鮮で、初めて出会ったような錯覚に陥った。肩がすっきりと見えるチャコールグレーのノースリーブTシャツをゆるっと着こなし、ライトブルーのワイドデニムパンツ、そして厚めのサンダルを合わせた夏コーデ。制服とは、雰囲気が全く違う。
「あれ、明希君だけ?田中君と一緒じゃないの?」
「あー、うん。母さんに送ってもらったから。麻美ちゃんも一人?」
「いやいや?私も送ってもらったから。しーちゃんママに」
ニヤッとする彼女の視線を追うと、僕の真後ろにはもう一人、両手を肩の高さまで上げた栞ちゃんが立っていた。どうやら、僕が後ろにさがったせいで危うくぶつかるところだったらしい。
「おはよっ」
「お、おはよう」
彼女にもまた、麻美ちゃん同様の錯覚を覚えた。彼女が纏うのは、ふんわりとした袖が印象的なブラックのワンピース。ハイウエストの切り替えはシルエットを引き締め、膝上丈のスカートが軽やかに揺れる。足元はレースアップのブラックブーツと、全身をシックな雰囲気でまとめていながらも、斜めがけの小さなショルダーバッグがシンプルな白色で良いアクセントになっている。小六で止まっていた私服姿のイメージからは、とても同じ人だとは思えなかった。こうなると、今更ながら黒Tシャツに紺色ジーンズっていう自分の服装が恥ずかしくなってくる。
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