黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実

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第4章 罪と罰

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「またこの町に引っ越して来たのも、多分お母さんの事故があってのことだと思うの。気分転換って言うと言葉が軽いけど、でも、私なら少しでも気を紛らわせたいかな。まあ、私がそう思ってることを悟られると逆に気を遣わせちゃうから、一昨日はあえて普通に振る舞ったんだけどね」

「そうだったんだ……」

 そう聞くと、彼女もまた中々の演技派だ。言葉の通り、僕は彼女に対して何の不自然さも感じなかった。話すタイミングとしては絶好だった最後のジェットコースターでもその話題を出さなかったということは、僕には伝えない方が良いとこれまた気を遣ってくれたのだろう。

「だから、結果としては田中くんが凄く良い仕事してくれてると思うの。本人がそのことを全く知らないってのが余計にね」

「……フッ。確かに」

 どうやら、無知が罪だと言い切るには少しばかり早いのかもしれない。無知が『功』になることだってあり得るみたいだから。

「あ、あとはね。折角買った水着が無駄になるところだったから」

 窓辺の白光に照らされた彼女は、まるでその光が背中を押したかのように、明るさを取り戻すような声で冗談を言った。あまりにも話が急に変わるものだから、僕は一体何のことを言っているのか一瞬分からなかった。理解が追いついたところで、朝読書のチャイムが鳴り会話は流れてしまった。

 折角買った水着……それは恐らく、彼氏とデートする時用の水着なのだろう。それがプールを了承してくれた要因になったのなら、或いは彼氏に感謝すべきなのかもしれない。けれど、またしても僕は、言葉で表せない謎のモヤモヤに襲われた。

 あの時タイミング悪く待ち列が動いたことで、僕はある疑問点を訊けずに終わった。『じゃあ、なんで別れないの?』っていう素朴な疑問。彼女の、彼氏に対する想いや口調で『好きではないんだろうな』ということは伝わってきた。とても両想いのカップルとは言い難い。今の彼氏の言動は、好きな子にするものではなくて、表現としては彼女に悪いけど『性欲処理の相手』みたいな雰囲気しか感じない。ボソッと呟いたあの台詞からも、彼女自身そう感じているはずなのに、じゃあ何故別れないのか。何故、そんな彼氏とデートする時用の水着なんて買うのか……。

 肝心の二人はというと、麻美ちゃんは朝礼前に、浩大は昼になってようやく姿を現した。麻美ちゃんは「寝坊しちゃった」と、いつも通りの様子で現れたのでひとまず安心したけれど、浩大はというと、昨日一日腹の調子が悪く、それが朝まで続いていたらしい。「何食べたらそんなことになるんだよ」と言いかけて、一昨日のラーメンを思い出し、一人で納得してしまった。あの四択を間違っていたら、僕も同じ運命だったかもしれないと思うと、我ながらよく正解を選んだなと少しだけ自分を褒めたくなった。

 結局、月曜日は今週末の話が出ることもなく、先週と変わらない一日だった。まあ、浩大が本調子じゃなかったというのもあるし、四人で遊んだことを公にしたがらなかったのもある。最初、僕はそれが不思議でならなかった。コイツの性格なら、むしろ言いふらすのが当然だと思っていたから。でも、その理由は翌朝、本人の口から語られた。

「こういうのはどーせ勝手に広まるんだよ。だったら、こっちから言いふらすより“バレた”方がガチ感出るだろ?しかも、今下手に自慢すりゃ『立石さん誘えば乗ってくれるらしい』みたいな解釈をされかねない。ここはグッと堪えて、『あれ?あの二人、付き合ってるっぽくね?』っていう既成事実を仕込む方がいい。お前は前から“河西さんが好き”って噂、すでに流れてるから、自然と立石さんの相手は俺になる。完璧だろ?」
 僕はそれを聞いて、心底驚いた。自慢したいことは我慢できない、それが『浩大』だと僕は思っていたからだ。それなのに、その浩大がまるで役者のように、普段通りの顔をしてやり過ごしている。

 僕は元々、他人に余計な話はしないタチだし、女子二人もどうやらそうらしい。だから、浩大が言わない限り、話が広まることはまずない。となると、僕らの会話を誰かが盗み聞きして広めるか、女子二人がふと口を滑らせるか。でも、そのどちらかなら“自然に”既成事実化していくから、浩大としてはそれでOKってことなんだろう。……なんでそこまで頭が回るのに、勉強はてんでダメなのか。いよいよわからない。

 その日の放課後、浩大が麻美ちゃんに都合を確認して、日程は土曜日に決まったらしい。その報告は、まるで速報みたいなスピードで僕のスマホに届いた。そのとき僕は、いつものように生徒会室にいて、目の前では翔一が椅子にもたれかかっていた。

「土曜かぁ……」

 僕が呟くと、翔一はすかさず「デートか?」と中々に鋭い質問をぶつけてきた。普通の友達相手なら適当にあしらうところだけど、翔一とはそれなりに信頼関係がある。だから、特に隠す理由もなく、素直に肯定した。まあ、先週四人で遊びに行くことは軽く話していたし、妥当な反応だったのかもしれない。
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