黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実

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第5章 泳ぐ

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「それ、麻美ちゃんに言われたくないんだけどー」

 そして、ある意味問題なのは麻美ちゃんだ。栞ちゃんの一歩後ろにいる彼女だけれど、全然控えきれていない鮮烈な黒のビキニ姿。フリルに包まれた胸が、想像の一回りも二回りも大きくて——本当に、目が勝手にそっちへ行ってしまう。ただ胸が大きいだけじゃない。すらっと引き締まったお腹には、うっすら縦に筋が入っている。目立ちすぎない絶妙なライン。腰からお尻にかけて滑らかなカーブを描き、栞ちゃんのそれとは違い頼りないリボンが左右に結ばれている。肌の柔らかさと、骨のラインの際立ち方、そしてどことなく無防備なリボン。それらが混ざり合って、そこに立っているだけで僕らを魅了する。

「と、とりあえず、あっちに場所取ってるから行こうぜ!浮き輪膨らまさねえとな」

 浩大はそう言って何故か僕の肩に腕を回し、連行するように歩き出す。

「おい明希!やべえなマジで!立石さんスタイル良すぎだろ」

 どうやら、その抑えきれない興奮を僕にぶつけたかったらしい。でも、これは無理もない。普段体目当てで女子と絡んでいるコイツが珍しく恋愛に目覚めて、その相手が実は反則級に良い体をしているんだから。

「というか河西さんも普通にヤバくね?あんなに胸あったかなあ。彼氏とヤりすぎて大きくなったとか?」

「……知らないよ」

 余計なその一言で、僕は不意に遊園地での話を思い出してしまった。『都合の良い』が頭を駆け、あの先輩と彼女が抱き合っている場面を思い浮かべてしまう。身勝手な先輩に抱かれた結果、今後ろにいる彼女のあの魅惑的な体が出来上がっているとしたら……それはそれで複雑だ。

「でも逆によ、そうなると立石さんおかしくね?女子中で彼氏も無しってこたあ、普通に考えりゃ処女だろ?それでなんでああなるんだよ」

「やっぱ……良いもの食べてるんじゃない?」

 遺伝かもな、とはさすがに言えなかった。というか……今のところ翔一の推測がほぼ当たっていることに、驚きを隠せない。

 浩大が早いタイミングで浮き輪を膨らまそうとしていた理由は、本格的にヤツがそれを始めて理解した。広げてみれば、直径は百センチを超えるジャンボサイズ。ハイビスカス柄で白と青のコントラストが映える、奇跡的に栞ちゃんの水着とマッチした浮き輪。その点だけ見れば素晴らしいの一言だが、何故大人用を選んでしまうのか。まあ、朝の話を踏まえると、麻美ちゃんをから守るためだろう。

「もう無理!死ねるわ」

 二十分くらいかけ遂に膨らまし終えた浩大は、早くも力尽きたようでそのままシートに寝転んだ。端に座っていた麻美ちゃんが重し代わりに置いていたお茶のペットボトルを浩大に差し出す。

「はいどうぞ」

「おお、ありがと…………っぷはー!生き返るー!」

 とここで、彼女が僕らに視線を移す。ほんのりと笑顔で、でも少し苦味があった。

「私ちょっとお腹痛いから、ここで休んでてもいいかな」

 水を得た魚のように立ち上がった浩大が、それを聞いてまたすぐさま腰を下ろす。

「あ、じゃあ俺も休憩しよ。酸欠で倒れたら困るしな。二人で行ってこいよ!」

 そう言われて、今度は栞ちゃんに視線を移すと、彼女もまた僕を見ていた。

「……じゃあ、行く?」

 はにかんだ表情で呟く彼女に、僕は黙って頷いた。

「あ、ちょい待ち。明希今スマホ持ってないから、河西さんライン交換しとこうぜ!はぐれたら面倒だしな」

「うん、いいよ」

 水着姿のインパクトが強くて意識していなかったけれど、よく見ると栞ちゃんもスマホを首から下げていた。防水ケース越しに、二人がQRコードを交わす。……その姿に、自分でもよくわからない感情が湧き上がった。

 ごくわずかな間に、日の当たるアスファルトは明らかに熱くなっていた。前を歩く彼女も「あっつ」と可愛らしいリアクションを見せる。今の僕らは、誰がどう見てもカップルにしか見えないだろう。こんなに可愛い子と、今、事実上のデートをしている。それが夢ではないことをこのアスファルトは教えてくれるのに、やっぱり実感がない。

「どうしよっか。とりあえず……流れとく?」

 彼女は目の前の流れるプールを指さし、僕はまた無言で頷いた。教室で話す時とは違って、何故かうまく言葉が出てこない。もしかして……僕は今まさに、三角さんの言う『経験』の重要性を思い知らされているのだろうか。

「あっ、意外とヌルい」

 先にプールへ入った彼女に、僕はプールサイドから巨大浮き輪をすっぽりとかぶせた。なるほど確かに、これなら人混みの中だろうが女の子を守ることはできそうだ。浮き輪に着せられているようなアンバランスさがちょっと可愛いというか、笑ってしまうところだけど。

「これ私が使うの?変じゃない?」

「んー、へんじゃないよ」

「なんか、顔が笑ってるように見えるんだけどなあ」

 プールの水は、彼女が言った通り程よくヌルかった。ジリジリと焼かれていた肌が一気に潤され、中々気持ちが良い。人もまだそこまで多いわけではないから、他人とぶつかる心配はないし水が濁っていることもない。まあ、これは午後になれば一変するだろう。
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