黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実

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第5章 泳ぐ

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 着水エリアから上がり、彼女は笑いながらスマホを確認する。僕は情けなくも笑いながら空を見上げた。あのとき、僕が一瞬彼女を見たように、彼女もまた僕を見ていたらしい。今更ながら、彼女が僕ので助かった。

「田中くんたち、足湯のところに居るらしいよ。近くだし行ってみる?」

「そうだね。……この時間に足湯ってことは、もうそれなりに遊んだのかな」

 案外、麻美ちゃんの腹痛が治まって、何も知らない浩大が連れ回した——そんなところかなと、この時は予想した。

 でも、いざ合流してみると、僕は違和感を覚えた。

「おー!二人とも、ようやく会えたな」

「……そりゃこっちのセリフなんだけどな」

 やけに機嫌の良さそうな浩大に、いつも通りの麻美ちゃん。その二人が、並んで足湯に浸かっている。それだけなら、別になんとも思わない。
 でも、なんというか……最後に別れた時と、何も変わった様子がない。変わったとすれば、彼女が大きめのパーカーを羽織っていることだけ。髪の毛が濡れていたり、日焼けの跡が見えたり、そんなことは一切なくて、つまり——プールに入った形跡がない。

「楽しかったか?」

「いや、そりゃあ、楽しかったけど……」

「麻美ちゃん、お腹は?」

「ありがと。もう大丈夫。でも、私のせいで田中君プール入れなかった」

「なーに言ってんのさあ!全然モウマンタイよ」

 どうやら、僕の違和感は正しかったらしい。

「あれ、でも二人は確か……昼にウォータースライダー行ったんだよね?」

「ああ、それな。行ったには行ったんだが、人多すぎてやめたんだよ。立ちっぱもしんどいし、めちゃめちゃ焼けるだろ?俺はまだしも立石さん肌綺麗だしな」

「ふふ。お気遣いありがと」

 微笑む麻美ちゃんと、ニヤける浩大が、朝よりも親密な雰囲気を漂わせる——。

「まあ、俺は立石さんと喋ってるだけで十分楽しんだからな。それに、もうどこもかしこも人多すぎて入ってらんねえよ。水も濁ってるし。時間的にはまだ早いけど、二人はどうする?」

 僕と栞ちゃんは顔を見合わせた。「どうする?」と彼女は純粋な目で、口だけを動かす。

 本音を言えば、そりゃもっと遊んでいたい。けれど、このたかが数時間で雰囲気の変わったこの二人が、異様に気になる。浩大と比較すれば、僕の方が彼女と過ごした時間は長い。——はずなのに、漂う色違いの親密さが、僕の感情を揺さぶっている。

「あ、かき氷でも食べる?喉乾いたし」

 思い出したように彼女はポンと手を叩く。僕は、ただ黙って頷いた。

 
 彼女がその提案をしたのは、単に喉が渇いたから、というだけではなかった。

「ちょうど更衣室あるし、お金取ってくるよ」

「お金はいいんだって。それよりさ、スマホ持ってきて」

「スマホ?」

「忘れたの?ライン」

 思考が泳いでいたせいで、僕はその重要事項をうっかり忘れていた。慌てたように心臓が跳ね、感情がここに戻ってくる。

 やり取りはあの時と全く同じだった。彼女が見せるQRコードを、僕が読み取る。二度の読み込みの後、『栞』という名前が表示され、遅れて画像が表示された。

「あれ?この写真……」

「あ、気づいた?この前撮ったやつだよ」

 アイコンの画像は彼氏とのツーショットだったりするのだろうか?そんな憶測をしつつ見た写真は、確かにツーショットではあった。でもそこに映っているのは、彼氏ではなく、麻美ちゃん——。麻美ちゃんが手を伸ばし、栞ちゃんが控えめにピースをしている、そんな癒される自撮り写真だ。しかも、場所は先週行った遊園地の、観覧車内。僕と浩大が生々しい作戦会議をしている間に、女子二人はこんな華やかな時間を過ごしていたのか。

「また夜にでも送るね。今日撮ったやつ」

「あ、うん。ありがと」

 それから、僕らは目的のかき氷を食べて、結局早めに切り上げることにした。なんでも、女子二人はこの後銭湯に寄って帰るらしい。中学校のすぐ近くにあって、超格安で入れる町の福祉施設。麻美ちゃんは昔一度使ったことがあるらしく、懐かしさついでに彼女も誘われたんだとか。当然混浴はないので、僕らがついて行ったところでこの間の観覧車みたいな雰囲気になるだけだ。


 帰りの電車は、先週と違って僕と栞ちゃんだけが寝ていたらしい。意識は飛んでいながらも、起こされるまでずっと声が聴こえていたのは僕も記憶にある。

「お前らよっぽど泳ぎ回ったんだな。ワンチャン胸触ったりできたか?」

「あほ言え。色んな意味で疲れたわ」 

 駅に着いて先に女子二人と別れた後、僕はヤツに昼間の出来事を話した。とは言っても、彼女が所謂ナンパをされて、僕がなんとか追い払ったことくらいしかネタはないけれど。それでも、浩大はえらく感心した様子で「よくやった!」と僕の肩を叩く。

「お前も漢になったじゃねえか。そこまで行ったら、もうあとは告るだけだな」

「簡単に言うなよ。それより……お前こそ、どうなんだよ」

「ああ、俺な。俺はもう決まってるぜ。再来週告る」

 聞いた瞬間、心臓が、ギュッと縮んだ。

 再来週……その明確な未来に絞っているということは——。

「もしかして、祭りに誘ったのか?」

「おうよ!今度はな」

 その一言が、余計に追い打ちをかける。“四人”じゃなく、“二人”で……それが事実なら、もはや彼女が“遊び”ではなく“デート”として受け入れたということじゃないか。

「まあ、まだ油断はできねえ。今日のことを申し訳なく思って断れなかった、なんて可能性がなくもないからな」

「……なるほど」

「まあなんだ。だからお前も、どうにかして河西さん誘えよ。お前の場合、次乗ってくれたら多分間違いない。なんなら、そのまま行けるかもしんねえぞ」
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