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第6章
2.一時昇天への誘い
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神は原則地上に関わらないが、お気に召した者に褒賞を、気に食わない者に天罰を下すことはある。それを踏まえた上で、フルードはアマーリエが成果を立てた際、褒賞としてほんの少しだけ天恵を下賜した。『これはアマーリエの思うように、自由に使いなさい』という裁可付きで。アマーリエはその許諾を盾にし、エイリーにその恩寵をこっそり授けた。
何しろ、フルードは縁の神。ご縁結びや良縁結びはお手の物である。しかも高位神とくれば、ごく僅少な神恩でも効果は絶大だ。これまでエイリーが被って来た不遇をあっさり覆すほどの、莫大な幸運の種を彼女にもたらすことなど造作もない。
ただし、何もかもをお膳立てしたわけではない。不幸の中で苦しむ者は世の中に数多いるのに、関わって情が湧いたからといってエイリーだけを贔屓はできない。幸せになるチャンスは与えるが、それをモノにできるかどうかは本人次第、というのが基本方針だ。
ゆえに、フルードが授けた天恩はあくまで幸福のきっかけに過ぎず、現在の順調満帆な状況はエイリー本人の努力と工夫、才覚で掴み取ったものだ。
エイールとエイリーには、妊娠した場合はすぐに神官府に報せるよう念押しし、専用の通信霊具も支給していた。これで、将来二人が身篭ったとしても、胎児からレシスの神罰の因子を除去できる。
また、ミレニアム帝国と神千皇国も国王の代替わりが行われ、新たな御代を紡ぎ初めてもう数年になる。新王と大臣たちの働きにより、国は滞りなく回っていた。
と言っても、帝国の前国王は神官シュレッドを重用した落ち度で実質的に退位させられ、皇国の前国王に至っては暗殺されたので、最後まで王責を全うした上での交代ではなかった。なお、先の皇国王が死亡した際は天地を巻き込む大動乱が発生し、天威師と聖威師、全神々が総出動して昇天者を出しまくるとんでもない事態になったが、それももう終わった話だ。
《アマーリエ様、もう終業されたのにごめんなさい。今度の神会議に関して、一点相談事項がありますの》
申し訳なさそうなリーリアの言葉に、アマーリエは意識を勤務モードに引き戻した。神官府の長を引き継いでなお、互いを様付けで呼び合うアマーリエとリーリアに、生前のアシュトンはフルードの影響だと渋面を作っていたが、結局は好きにさせてくれた。
《良いのよ、大事なことだもの。神会議が何か?》
神会議。文字通り、天界で開かれる神々の話し合いだ。その中でも上位となる、高次会議での議決権を持つのは色持ちの神のみ。
今までは延期され続けて来た会議が開かれることになったのは、この5年の間に、議決権を持つ眠り神たちの大半が目覚めたためだ。一部はまだ眠っているものの、そろそろ開催の頃合いだと判断された。
《聖威師の滞留継続の可否についても、議題の一つとして挙がっております。わたくしたちも特例で一時昇天し、参加することになりましたわよね》
聖威師は一度昇天してしまえば地上へは戻れない。だが、神に喚ばれた場合は別だ。神の招請に応じるのは当然のことなので、正当な理由とみなされ、用事が済めば再び聖威師として地上へ降りることが認められる。
アマーリエとリーリアは神格を得た身。神会議での議決権を有するため、最高神の名でお召しがかかっていた。天堂での騒動から5年ほどが経ち、強硬派もそれなりに落ち着きを取り戻しているため、聖威師たちが天へ昇ることで悪い方に刺激する可能性は低いという。
《ええ。聖威師が全員抜けては神官府の業務が回らなくなるから、交代で誰かが残っていることにはなるけれど。最も重要となる滞留継続についての会議は、総出で出席した方が良いかもしれないわ》
その間に神器暴走が起こった場合、すぐに緊急念話をするよう主任か副主任に言伝でおけば良いだろう。
《そうですわね。何としても滞留の継続を可決していただかなくては、万事休すですわ。……それで、相談というのは、昇天時の荷物なのです。何をどこまで持っていくべきだと思いますか?》
《ああ、その件ね……私も悩んでいるわ。何しろ前例がないことだから。過去に神からお召しを受けて短期で天に行った者たちは、建物一棟にも入りきらない莫大な荷を持って行ったという記録があるわ》
何をそんなに持って行ったのか聞きたいところだが、神々への献上品も一定の割合を占めていたのかもしれない。
《私もフレイムと交信して聞いたのよ。歯ブラシとかは要るかしら、って。爆笑されてしまったわ》
――何も不自由させねえから、ポシェット一つで来て良いんだぜ。何なら身一つで来いよ
そう言ってくれたが、さすがにそういうわけにもいかないだろう。ペン一つ取っても最高の品を持って行かなくてはならない。それでも、この世界には霊威や聖威という汎用性の効く力があるおかげで、準備に何ヶ月も要することがないのが救いだ。
《献上の品は別扱いとして、着替えと日用品と……旅行へ行く時の支度で良いのではないかしら》
《他の聖威師たちとも足並みを揃えなくてはなりませんわ。各自で持参物の目録を作成して共有しませんこと?》
《それが良いわね》
一人だけ豪華だったり、逆に貧相であれば浮いてしまうだろう。ランドルフたちとも打ち合わせ、皆である程度合わせた方が良い。
《会議が始まる前には宴も開かれるのでしょう。何だか気が張るわ》
《焔神様にくっ付いていれば何とかなりますわよ。天界の珍味を食せる好機だと思いましょう》
リーリアが励ましてくれた。それもそうだと、アマーリエは気持ちを立て直す。
《一時昇天までに、体調も気持ちも整えておかなくてはね》
穏健派や強硬派の神々を宥めすかし、どうにか滞留継続を掴み取るために。
何しろ、フルードは縁の神。ご縁結びや良縁結びはお手の物である。しかも高位神とくれば、ごく僅少な神恩でも効果は絶大だ。これまでエイリーが被って来た不遇をあっさり覆すほどの、莫大な幸運の種を彼女にもたらすことなど造作もない。
ただし、何もかもをお膳立てしたわけではない。不幸の中で苦しむ者は世の中に数多いるのに、関わって情が湧いたからといってエイリーだけを贔屓はできない。幸せになるチャンスは与えるが、それをモノにできるかどうかは本人次第、というのが基本方針だ。
ゆえに、フルードが授けた天恩はあくまで幸福のきっかけに過ぎず、現在の順調満帆な状況はエイリー本人の努力と工夫、才覚で掴み取ったものだ。
エイールとエイリーには、妊娠した場合はすぐに神官府に報せるよう念押しし、専用の通信霊具も支給していた。これで、将来二人が身篭ったとしても、胎児からレシスの神罰の因子を除去できる。
また、ミレニアム帝国と神千皇国も国王の代替わりが行われ、新たな御代を紡ぎ初めてもう数年になる。新王と大臣たちの働きにより、国は滞りなく回っていた。
と言っても、帝国の前国王は神官シュレッドを重用した落ち度で実質的に退位させられ、皇国の前国王に至っては暗殺されたので、最後まで王責を全うした上での交代ではなかった。なお、先の皇国王が死亡した際は天地を巻き込む大動乱が発生し、天威師と聖威師、全神々が総出動して昇天者を出しまくるとんでもない事態になったが、それももう終わった話だ。
《アマーリエ様、もう終業されたのにごめんなさい。今度の神会議に関して、一点相談事項がありますの》
申し訳なさそうなリーリアの言葉に、アマーリエは意識を勤務モードに引き戻した。神官府の長を引き継いでなお、互いを様付けで呼び合うアマーリエとリーリアに、生前のアシュトンはフルードの影響だと渋面を作っていたが、結局は好きにさせてくれた。
《良いのよ、大事なことだもの。神会議が何か?》
神会議。文字通り、天界で開かれる神々の話し合いだ。その中でも上位となる、高次会議での議決権を持つのは色持ちの神のみ。
今までは延期され続けて来た会議が開かれることになったのは、この5年の間に、議決権を持つ眠り神たちの大半が目覚めたためだ。一部はまだ眠っているものの、そろそろ開催の頃合いだと判断された。
《聖威師の滞留継続の可否についても、議題の一つとして挙がっております。わたくしたちも特例で一時昇天し、参加することになりましたわよね》
聖威師は一度昇天してしまえば地上へは戻れない。だが、神に喚ばれた場合は別だ。神の招請に応じるのは当然のことなので、正当な理由とみなされ、用事が済めば再び聖威師として地上へ降りることが認められる。
アマーリエとリーリアは神格を得た身。神会議での議決権を有するため、最高神の名でお召しがかかっていた。天堂での騒動から5年ほどが経ち、強硬派もそれなりに落ち着きを取り戻しているため、聖威師たちが天へ昇ることで悪い方に刺激する可能性は低いという。
《ええ。聖威師が全員抜けては神官府の業務が回らなくなるから、交代で誰かが残っていることにはなるけれど。最も重要となる滞留継続についての会議は、総出で出席した方が良いかもしれないわ》
その間に神器暴走が起こった場合、すぐに緊急念話をするよう主任か副主任に言伝でおけば良いだろう。
《そうですわね。何としても滞留の継続を可決していただかなくては、万事休すですわ。……それで、相談というのは、昇天時の荷物なのです。何をどこまで持っていくべきだと思いますか?》
《ああ、その件ね……私も悩んでいるわ。何しろ前例がないことだから。過去に神からお召しを受けて短期で天に行った者たちは、建物一棟にも入りきらない莫大な荷を持って行ったという記録があるわ》
何をそんなに持って行ったのか聞きたいところだが、神々への献上品も一定の割合を占めていたのかもしれない。
《私もフレイムと交信して聞いたのよ。歯ブラシとかは要るかしら、って。爆笑されてしまったわ》
――何も不自由させねえから、ポシェット一つで来て良いんだぜ。何なら身一つで来いよ
そう言ってくれたが、さすがにそういうわけにもいかないだろう。ペン一つ取っても最高の品を持って行かなくてはならない。それでも、この世界には霊威や聖威という汎用性の効く力があるおかげで、準備に何ヶ月も要することがないのが救いだ。
《献上の品は別扱いとして、着替えと日用品と……旅行へ行く時の支度で良いのではないかしら》
《他の聖威師たちとも足並みを揃えなくてはなりませんわ。各自で持参物の目録を作成して共有しませんこと?》
《それが良いわね》
一人だけ豪華だったり、逆に貧相であれば浮いてしまうだろう。ランドルフたちとも打ち合わせ、皆である程度合わせた方が良い。
《会議が始まる前には宴も開かれるのでしょう。何だか気が張るわ》
《焔神様にくっ付いていれば何とかなりますわよ。天界の珍味を食せる好機だと思いましょう》
リーリアが励ましてくれた。それもそうだと、アマーリエは気持ちを立て直す。
《一時昇天までに、体調も気持ちも整えておかなくてはね》
穏健派や強硬派の神々を宥めすかし、どうにか滞留継続を掴み取るために。
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