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第6章
40.雷針が指し示すのは
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『そうでしょうね』
頷いたラミルファが、ペコリと頭を下げる。
『二の兄上、申し訳ありません。おそらく違うだろうと思いつつ、ほんの少しだけ疑っておりました。退屈が過ぎて悪戯をなさったのではないかと』
『残念ながら我ではないなぁ。我はコソコソ動くより堂々と暴れる方が好みなのだ。委任状をどうこうしようという発想がない。何なら今ここで神性に誓おうか?』
『いえ、結構です。あらぬ嫌疑をかけてしまい、申し訳ございませんでした』
頭を下げて答えたのはフレイムだ。
『顔を上げよ、焔神様。我は気にしておらん』
気を悪くした様子も見せずに手を一振りし、暴れ神がのそりと身を起こした。末弟にまさぐられたせいで、寝乱れたように着崩れていた衣を適当に整えている。そして、長椅子に片膝を立てて腰掛け、悠然とした眼差しでアマーリエたちを見回した。
ただダラリと座しているだけで、全てを制圧する御稜威が滲み出る。だが、ラミルファは全く臆した様子を見せない。
『一の兄上にはまだ内緒にして下さい』
『お前にねだられたなら仕方あるまい。それで、我に何をして欲しいのだ?』
唇に人差し指を立ててお願いする末弟に即答し、揶揄うような視線を向けて問いかける。
『委任状が失くなったことを、わざわざ我に教えた目的は何だ』
『聞かれずとも予想は付いておられるでしょう。探すのを手伝っていただきたいのです。委任状の作成には二の兄上も関わっているのですから、気配を探知できるはず』
『そうなのか?』
声を上げたのはフレイムだ。彼も知らなかったらしい。末っ子の邪神は親切に説明してくれた。
『今回の神会議では、聖威師の滞留が議題の目玉の一つ。だが、委任状を作成する一の兄上と煉神様は、どちらも尊重派で通っている立場だ。ゆえに公平性の観点から、帰還賛成派となっている二の兄上にも共同作成を依頼していたのだよ』
『そうだったのか。よく知ってるな、お前』
『一の兄上が送った依頼をガン無視しまくる二の兄上を説得しに、僕がお使いを頼まれたからね』
『ラミが手を合わせて願うから引き受けてやったが、誠につまらん作業だった』
愉快そうに口元を緩めた疫神が応じる。フルードが光明を見た顔になった。
『作成者ご自身ならば、委任状に込めた己の神威を辿る形で在り処を探ることができますね』
『手を貸して欲しいか?』
スラリとした指で長い黒髪を一房いじっている疫神が、声色に温みを宿した。もったいぶるような意地悪さはない。若き神たちを支えようとする、太古の神の優しさだけがあった。
『はい、兄上』
『俺からもお願いします、疫神様』
『何卒お願い申し上げます。アマーリエをお救い下さい』
『ど、どうかお願いいたします!』
皆の応えを受け、ふむと呟いた疫神が、小気味良い音を立てて指を鳴らす。神威が閃き、虚空に複雑怪奇な構造の図形が展開された。
『天界の見取り図だ』
簡潔に告げ、無造作に右手を掲げると、暗緑色の稲妻がその腕に絡み付く。神衣の袖がはためき、激甚たる威圧を帯びた御稜威が神殿に逆巻いた。それは間を置かずに収束し、一条の細い雷撃と化して見取り図の一点を貫いた。
『我が神雷が落ちた場所に委任状がある』
神威の雷は、消えることなく図上に刺さったままだ。アマーリエたちは一斉に該当の場所を注視し、目を瞬かせた。
『……ここは俺の領域ですが』
フレイムが怪訝な顔で言う。疫神がククッと含み笑いを漏らした。
『ならば、そもそも持ち出されていなかったということだ。委任状を保管した場所を覚え間違えていたと言うオチではあるまいな』
「そ、そんなはずは……確かにあの箱にしまいました。大事なものですから、しまうところをフレイムと従神たちと、精霊たちにも見ていてもらったので、間違いないはずです」
『ふむ。図を拡大できれば、領域のどこにあるかまで仔細に分かる。だが、いかに我であろうと、同格の神の神域内部まで把握することはできん。焔神様、神威を注ぐのだ。見取り図にある己の領域の場所にな』
指示に従い、フレイムが見取り図に指を当てる。ちょうど雷が刺さっている場所――自身の神域部分に。大気に刻まれた図が脈動し、深緑と紅蓮の神威が絡み合った。
『そら、広げるぞ』
図面の一部がグンと広がり、フレイムの神域内の間取りがくっきりと表示される。
(稲妻が刺さっているのはどこ?)
アマーリエが目を凝らす横で、ラミルファとフルードも神雷が突き立った場所を注視する。
『……ここは――!』
山吹色の双眸が見開かれた。
頷いたラミルファが、ペコリと頭を下げる。
『二の兄上、申し訳ありません。おそらく違うだろうと思いつつ、ほんの少しだけ疑っておりました。退屈が過ぎて悪戯をなさったのではないかと』
『残念ながら我ではないなぁ。我はコソコソ動くより堂々と暴れる方が好みなのだ。委任状をどうこうしようという発想がない。何なら今ここで神性に誓おうか?』
『いえ、結構です。あらぬ嫌疑をかけてしまい、申し訳ございませんでした』
頭を下げて答えたのはフレイムだ。
『顔を上げよ、焔神様。我は気にしておらん』
気を悪くした様子も見せずに手を一振りし、暴れ神がのそりと身を起こした。末弟にまさぐられたせいで、寝乱れたように着崩れていた衣を適当に整えている。そして、長椅子に片膝を立てて腰掛け、悠然とした眼差しでアマーリエたちを見回した。
ただダラリと座しているだけで、全てを制圧する御稜威が滲み出る。だが、ラミルファは全く臆した様子を見せない。
『一の兄上にはまだ内緒にして下さい』
『お前にねだられたなら仕方あるまい。それで、我に何をして欲しいのだ?』
唇に人差し指を立ててお願いする末弟に即答し、揶揄うような視線を向けて問いかける。
『委任状が失くなったことを、わざわざ我に教えた目的は何だ』
『聞かれずとも予想は付いておられるでしょう。探すのを手伝っていただきたいのです。委任状の作成には二の兄上も関わっているのですから、気配を探知できるはず』
『そうなのか?』
声を上げたのはフレイムだ。彼も知らなかったらしい。末っ子の邪神は親切に説明してくれた。
『今回の神会議では、聖威師の滞留が議題の目玉の一つ。だが、委任状を作成する一の兄上と煉神様は、どちらも尊重派で通っている立場だ。ゆえに公平性の観点から、帰還賛成派となっている二の兄上にも共同作成を依頼していたのだよ』
『そうだったのか。よく知ってるな、お前』
『一の兄上が送った依頼をガン無視しまくる二の兄上を説得しに、僕がお使いを頼まれたからね』
『ラミが手を合わせて願うから引き受けてやったが、誠につまらん作業だった』
愉快そうに口元を緩めた疫神が応じる。フルードが光明を見た顔になった。
『作成者ご自身ならば、委任状に込めた己の神威を辿る形で在り処を探ることができますね』
『手を貸して欲しいか?』
スラリとした指で長い黒髪を一房いじっている疫神が、声色に温みを宿した。もったいぶるような意地悪さはない。若き神たちを支えようとする、太古の神の優しさだけがあった。
『はい、兄上』
『俺からもお願いします、疫神様』
『何卒お願い申し上げます。アマーリエをお救い下さい』
『ど、どうかお願いいたします!』
皆の応えを受け、ふむと呟いた疫神が、小気味良い音を立てて指を鳴らす。神威が閃き、虚空に複雑怪奇な構造の図形が展開された。
『天界の見取り図だ』
簡潔に告げ、無造作に右手を掲げると、暗緑色の稲妻がその腕に絡み付く。神衣の袖がはためき、激甚たる威圧を帯びた御稜威が神殿に逆巻いた。それは間を置かずに収束し、一条の細い雷撃と化して見取り図の一点を貫いた。
『我が神雷が落ちた場所に委任状がある』
神威の雷は、消えることなく図上に刺さったままだ。アマーリエたちは一斉に該当の場所を注視し、目を瞬かせた。
『……ここは俺の領域ですが』
フレイムが怪訝な顔で言う。疫神がククッと含み笑いを漏らした。
『ならば、そもそも持ち出されていなかったということだ。委任状を保管した場所を覚え間違えていたと言うオチではあるまいな』
「そ、そんなはずは……確かにあの箱にしまいました。大事なものですから、しまうところをフレイムと従神たちと、精霊たちにも見ていてもらったので、間違いないはずです」
『ふむ。図を拡大できれば、領域のどこにあるかまで仔細に分かる。だが、いかに我であろうと、同格の神の神域内部まで把握することはできん。焔神様、神威を注ぐのだ。見取り図にある己の領域の場所にな』
指示に従い、フレイムが見取り図に指を当てる。ちょうど雷が刺さっている場所――自身の神域部分に。大気に刻まれた図が脈動し、深緑と紅蓮の神威が絡み合った。
『そら、広げるぞ』
図面の一部がグンと広がり、フレイムの神域内の間取りがくっきりと表示される。
(稲妻が刺さっているのはどこ?)
アマーリエが目を凝らす横で、ラミルファとフルードも神雷が突き立った場所を注視する。
『……ここは――!』
山吹色の双眸が見開かれた。
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