神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第6章

47.事故ではなかった?

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『……え?』

 マイカが泣き腫らした顔をヨルンに向ける。

『この前、先輩精霊たちが話してるのを聞いたんだよ。天馬が神苑で暴れて、危うく燁神様を神罰牢に落としかけた件。原因になった石柱の剣の落下を調査したら、剣を結んでいた紐が切れてたそうだ。老朽化で磨耗したんじゃなく、意図的にスッパリ切断されてたみたいだって……』

 ボソボソと告げられた言葉に、神域の空気がひび割れた。信じられない言に、アマーリエは声を震わせて言葉を絞り出す。

「で、では偶然の事故ではなかったの?」
(人為的なものだった……!?)

 正確には、人為的という単語は不適切だが。天界で起こったことなので、首謀者は人間ではないだろうから。だが、神にせよ精霊など神以外の存在にせよ、誰かが故意に起こした事象だとしたら――

『ち、違……』
『外部の作為があったということか? 高位神を神罰牢に落とそうとするなどあってはならない』

 目を剥いたマイカの言に被せる形で、声音を豹変させたラミルファが告げた。灰緑の眼が、見る者を地獄の深淵に叩き落とすがごとき怒気を宿している。

『ヨルン、それは今ここで言うことではない!』

 別の精霊がヨルンを叱責した。フレイム付きではなく、臨時で増員された一体だ。

『紐が切れた原因も含め、まだ精霊側で調査中だ。結果がまとまり次第、神々にご報告を上げると聞いている』

 神の力で過去視をすれば、真相は一瞬で分かる。にも関わらず、あえて精霊たちにやらせるのは、彼らに名誉を挽回させる機会を与えているからだ。

『も、申し訳ありません。でも、マイカが燁神様を憎んでいたなら、邪魔者を消したくてわざと紐を切ったのかもしれないと思って』
『それはお前の憶測だろう。今この場で言う必要はない。そもそも、邪魔者を消したいと言っても、天馬が神罰牢の穴がある方向に走り出したのは偶然のはずだ』

 厳しい顔でヨルンを遮った精霊は、フレイムたちに深く頭を下げた。

『個々の主観が混じった不確定事項を断片的に申し上げてしまい、申し開きもございません。剣の紐が切れた原因も含め、現在調べを重ねております。改めて奏上させていただきますので、どうか今少し猶予をいただけませんでしょうか』

 ラミルファが眉を寄せた。いつもの軽薄な笑みは消えている。

『……あの件の最たる被害者はアマーリエだ。セインも危機一髪だったが、アマーリエを助けようとして巻き添えになっただけからね。だから、彼女の主神であるお前が決めろ、フレイム』
『――可能な限り急げ。だが杜撰ずさんな調査はするな。手間取っても正確さを欠いても、神の心証は悪くなる。迅速かつ正確に調べて報告しろ』

 数瞬の後、フレイムは淡々と答えた。本心ではどういうことかと問い詰めたいが、精霊側の苦労が理解できるだけに自制しているのだろう。

『天馬の暴走では、俺の妻と弟が取り返しの付かないことになりかけた。特にユフィーだ。神格を抑えた状態で神罰牢に落ちれば、廃神になっていた恐れがある。ユフィーは大公家や一位貴族、セインにアリステルみたいな特殊修練を積んでるわけじゃねえからな。……あれが故意に起こされた事件であれば許さん』
『わ、私じゃない! 私は何もやってない!』

 喘ぐように叫んだマイカが、激しく首を振って否定する。動きに合わせて飛び散った涙が虚空に反射した。だが、周囲の精霊たちは一様に疑念の目を向けている。

『何もやっていないって……けど実際、委任状はマイカが盗ったんだろう』
『火神様の神器まで悪用するなんて、最高神への冒涜よ』
『そこまでするなら、紐を切るくらいやるんじゃないか』
『燁神様をちょっと驚かせるだけのつもりで、まさかあの穴がある奥に駆け込むとは思っていなかったとか』

 ヒソヒソと囁き合う声は、ほぼマイカを怪しむものばかり。違う、違うとマイカが必死で言い募るが、現行犯で処断された直後なので説得力に欠ける。
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