515 / 601
第7章
26.あなたたちは敵
しおりを挟む
『うわぁ~、綺麗だなぁ』
『どこがだよ。気色悪いじゃねえか』
『悪神のご感覚では美しいのですよ、お兄様』
パチパチ手を叩くラミルファと、やや引いているフレイム。
極彩色の毒々しい大花が隙間なく密集し、壁と化してびっしりと虚空を覆う様は、中々に気持ち悪い光景である。開花した花々は全てアマーリエの方を向いている。中心にある花芯が昆虫の触覚のようにピクピクと動き、照準を合わせるようにこちらを示した。
『アマーリエ、気を付け――』
警告しようとするフルードが言い終わる前に、花芯から盛大に毒の鱗粉が噴射された。アマーリエは即座に結界を張る。自分もだが、狼神の神域を守るためだ。
(さっきより毒の濃度が濃くなっているわ)
はた迷惑な毒の花粉が噴射された紅葉色の結界が瞬く間に削られていくので、常に聖威を補充して維持する。
「エアニーヌ、慧音! 聞こえている!? 今すぐ神器を止めなさい!」
目の前の空間をぎっちりと覆う花壁、その向こうにあるはずの穴に向かって呼びかけるも、反応はない。神器の毒粉も止まらないどころか、ますます激しくなった。
『おやおや、可哀想なアマーリエ。スルーされてしまった。良い子の僕が代わりに元気なお返事をしてあげようか』
『お前が返事したって意味ねえだろ……。にしてもバカな神官たちだぜ。大人しく投降しときゃ酌量の余地も生まれるってのに』
『そのような気などさらさら無いでしょう。投降どころかさらに強硬な態度に出ていますよ』
見守る三神が好き勝手に会話しているのを流し聞き、アマーリエは軽く首を振った。
(やっぱり手応え無しだわ。ここで素直に従うなら攻撃なんかしないわよね)
駄目元で呼びかけただけなので、落胆はない。一つ息を吐くと同時、認識と意識を切り替える。相手は自分が守るべき神官ではなく、神に牙剥く敵であると。
アマーリエの纏う気迫が豹変した。紅葉色の輝きが暁光のごとく燃え上がり、鋭い聖威と甚大な闘気が場を席巻する。
『ほぅ、これはこれは。少しは成長したようじゃないか。徹底的に修練した甲斐があったというものだ』
『ええ。高難度の任務が減った分、フェルたちとみっちり稽古して研鑽に励んでいるようですから』
『ユフィーもリーリアも頑張ってるからな。もちろんランドルフたちもだ』
両手を頭の後ろで組んだラミルファがピュウと口笛を吹く。瞬きして目を伏せたフルードが喜ばしくも切なげに微笑む。フレイムは誇らしさと切なさが入り混じった顔をしていた。大神官時代のフルードを見ていた表情と同じだ。
それらを視界の端に捉えながら、アマーリエは静かに宣言した。
「無反応を拒絶と受け取るわ。制止の言を聞かないならば――あなたたちは私の、引いては神々の敵よ」
冷徹に切り捨てると、防御用に張っていた結界を攻守兼用に切り替える。結界の表層から紅炎の如き炎が迸り、噴き付ける毒粉を焼き払いながら花壁へと迫った。だが、ぎっちりと密着した毒花は、堅牢な要塞と化して聖火を阻む。
(あちらも攻防一体なのね。まずはこの壁を崩さなくては。……この神威、濃淡にムラがあるわ。神器を使いこなせていないのね)
アマーリエはパチンと指を鳴らし、紅葉色の火花を散らす聖威のプラズマ弾を撃ち込んだ。連打や掃射はしない。狼神の神域をあまり荒らすわけにはいかないし、狙い定めた一発を正確に放てば十分だからだ。
火の粉を上げながら飛び出した炎弾が、吸い込まれるように花壁を穿つ。ほんの僅かに神威が薄くなっていた部分だ。脆い箇所を違いなく攻められ、花弁の一枚が弾け消えた。
びっしりと花弁に覆われた大気に生じる空隙の虚。アマーリエは聖威を細く絞り上げ、螺旋を描いて捻るように掌中に凝縮させた。腕を引き、上体をやや屈めて足を踏み込むと、細剣状に顕現させた力を瞬足で突き出す。
僅かに花幕が途切れた一点を的確に刺し貫いた刺突は、そこを基点にして波状に力を拡散させる。放射状の亀裂が入り、大きく揺らいだ花の壁がバラバラと崩壊した。
『どこがだよ。気色悪いじゃねえか』
『悪神のご感覚では美しいのですよ、お兄様』
パチパチ手を叩くラミルファと、やや引いているフレイム。
極彩色の毒々しい大花が隙間なく密集し、壁と化してびっしりと虚空を覆う様は、中々に気持ち悪い光景である。開花した花々は全てアマーリエの方を向いている。中心にある花芯が昆虫の触覚のようにピクピクと動き、照準を合わせるようにこちらを示した。
『アマーリエ、気を付け――』
警告しようとするフルードが言い終わる前に、花芯から盛大に毒の鱗粉が噴射された。アマーリエは即座に結界を張る。自分もだが、狼神の神域を守るためだ。
(さっきより毒の濃度が濃くなっているわ)
はた迷惑な毒の花粉が噴射された紅葉色の結界が瞬く間に削られていくので、常に聖威を補充して維持する。
「エアニーヌ、慧音! 聞こえている!? 今すぐ神器を止めなさい!」
目の前の空間をぎっちりと覆う花壁、その向こうにあるはずの穴に向かって呼びかけるも、反応はない。神器の毒粉も止まらないどころか、ますます激しくなった。
『おやおや、可哀想なアマーリエ。スルーされてしまった。良い子の僕が代わりに元気なお返事をしてあげようか』
『お前が返事したって意味ねえだろ……。にしてもバカな神官たちだぜ。大人しく投降しときゃ酌量の余地も生まれるってのに』
『そのような気などさらさら無いでしょう。投降どころかさらに強硬な態度に出ていますよ』
見守る三神が好き勝手に会話しているのを流し聞き、アマーリエは軽く首を振った。
(やっぱり手応え無しだわ。ここで素直に従うなら攻撃なんかしないわよね)
駄目元で呼びかけただけなので、落胆はない。一つ息を吐くと同時、認識と意識を切り替える。相手は自分が守るべき神官ではなく、神に牙剥く敵であると。
アマーリエの纏う気迫が豹変した。紅葉色の輝きが暁光のごとく燃え上がり、鋭い聖威と甚大な闘気が場を席巻する。
『ほぅ、これはこれは。少しは成長したようじゃないか。徹底的に修練した甲斐があったというものだ』
『ええ。高難度の任務が減った分、フェルたちとみっちり稽古して研鑽に励んでいるようですから』
『ユフィーもリーリアも頑張ってるからな。もちろんランドルフたちもだ』
両手を頭の後ろで組んだラミルファがピュウと口笛を吹く。瞬きして目を伏せたフルードが喜ばしくも切なげに微笑む。フレイムは誇らしさと切なさが入り混じった顔をしていた。大神官時代のフルードを見ていた表情と同じだ。
それらを視界の端に捉えながら、アマーリエは静かに宣言した。
「無反応を拒絶と受け取るわ。制止の言を聞かないならば――あなたたちは私の、引いては神々の敵よ」
冷徹に切り捨てると、防御用に張っていた結界を攻守兼用に切り替える。結界の表層から紅炎の如き炎が迸り、噴き付ける毒粉を焼き払いながら花壁へと迫った。だが、ぎっちりと密着した毒花は、堅牢な要塞と化して聖火を阻む。
(あちらも攻防一体なのね。まずはこの壁を崩さなくては。……この神威、濃淡にムラがあるわ。神器を使いこなせていないのね)
アマーリエはパチンと指を鳴らし、紅葉色の火花を散らす聖威のプラズマ弾を撃ち込んだ。連打や掃射はしない。狼神の神域をあまり荒らすわけにはいかないし、狙い定めた一発を正確に放てば十分だからだ。
火の粉を上げながら飛び出した炎弾が、吸い込まれるように花壁を穿つ。ほんの僅かに神威が薄くなっていた部分だ。脆い箇所を違いなく攻められ、花弁の一枚が弾け消えた。
びっしりと花弁に覆われた大気に生じる空隙の虚。アマーリエは聖威を細く絞り上げ、螺旋を描いて捻るように掌中に凝縮させた。腕を引き、上体をやや屈めて足を踏み込むと、細剣状に顕現させた力を瞬足で突き出す。
僅かに花幕が途切れた一点を的確に刺し貫いた刺突は、そこを基点にして波状に力を拡散させる。放射状の亀裂が入り、大きく揺らいだ花の壁がバラバラと崩壊した。
10
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢の異世界薬膳料理~転生先はみんな食事に興味が無い世界だったので、美味しいご飯で人の身も心も癒します~
向原 行人
ファンタジー
異世界へ転生して数日。十七歳の侯爵令嬢、アリスとして目覚めた私は、早くも限界を迎えていた。
というのも、この世界……みんな食事に興味が無くて、毎食パンとハムだけとか、ハムがチーズに変わるとか、せいぜいその程度だ。
料理というより、食材を並べているだけって感じがする。
元日本人の私としては温かいご飯がたべたいので、自分で食事を作るというと、「貴族が料理など下賤なことをするのは恥だ!」と、意味不明な怒られ方をした。
わかった……だったら、私は貴族を辞める!
家には兄が二人もいるし、姉だっているから問題無いでしょ。
宛てもなく屋敷を飛び出した私は、小さな村で更に酷い食事事情を目の当たりにする。
育ち盛りの子供たちや、身体を使う冒険者たちが、それだけしか食べないなんて……よし、美味しいご飯でみんなも私も幸せになろう!
医食同源! 大食いモフモフ聖獣に、胃袋を掴んでしまった騎士隊長と一緒に、異世界で美味しくて身体に良い食材探しだ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる
鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳――
それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。
公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。
だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、
王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。
政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。
紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが――
魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、
まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。
「……私が女王? 冗談じゃないわ」
回避策として動いたはずが、
誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。
しかも彼は、
幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた――
年を取らぬ姿のままで。
永遠に老いない少女と、
彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。
王妃になどなる気はない。
けれど、逃げ続けることももうできない。
これは、
歴史の影に生きてきた少女が、
はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。
ざまぁも陰謀も押し付けない。
それでも――
この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。
婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました
ふわふわ
恋愛
王国随一の名門、アルファルド公爵家の令嬢シャウラは、
ある日、第一王子アセルスから一方的に婚約を破棄される。
理由はただ一つ――
「平民出身の聖女と婚約するため」。
だが、その“婚約破棄したその場”で、ざまぁはすでに始まっていた。
シャウラは泣かず、怒らず、抗議もしない。
ただ静かに席を立っただけ。
それだけで――
王国最大派閥アルファルド派は王子への支持を撤回し、
王国最大の商会は資金提供を打ち切り、
王太子候補だったアセルスは、政治と経済の両方を失っていく。
一方シャウラは、何もしていない。
復讐もしない。断罪もしない。
平穏な日常を送りながら、無自覚のまま派閥の結束を保ち続ける。
そして王国は、
“王太子を立てない”という前代未聞の選択をし、
聡明な第一王女マリーが女王として即位する――。
誰かを裁くことなく、
誰かを蹴落とすことなく、
ただ「席を立った」者だけが、最後まで穏やかでいられた。
これは、
婚約破棄から始まる――
静かで、上品で、取り返しのつかないざまぁの物語。
「私は何もしていませんわ」
それが、最強の勝利だった。
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる