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第2章
57.これくらいは日常茶飯事
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「なっ……神官府が、燃えて……!?」
(ちょっと待って、あの漆黒の炎は確か――)
慌てて本棟周辺の範囲を遠視で俯瞰する。
「……フレイム、何だか変に景色が割れているところがあるわ」
(蜃気楼、ではないわね。大気に穴が開いているの?)
穴の付近を遠視した瞬間、悲痛な絶叫が炸裂した。
『わああああああああああああああああああああ!!』
ギョッとして焦点を絞ると、顔面蒼白になった屈強な美丈夫が、穴の向こうにある空間に崩れ落ちている。
(人!?)
一瞬、神官か一般人が巻き込まれたかと焦るアマーリエだが、フレイムがのんびりと呟いた。
「おっ、葬邪神様だ」
言われて改めて視れば、確かに神威を感じた。人間ではなかったことに安堵していると、慟哭が弾ける。
『うあああああっっ! 丹精込めて作った俺のタペストリーが! 綺麗さっぱり灰になってしまった! 数千年振りに出来た会心の作がぁぁ~!』
「…………」
髪を振り乱し、地面に爪を立てる勢いで号泣している様を眺め、アマーリエは虚ろな眼差しになった。あれが一の邪神らしいが――何だろう、既視感がすごい。もしかしなくても、末の弟が似たようなことをやっていた。
「どこかで見たような光景なのだけれど……もしかしてアレって邪神のお家芸なの?」
登場時に一回はこれをやらないといけないノルマがあるとか。
「い、いや……そんなことはないはずだが……」
そっと否定するフレイムが鼻白んでいる。
「とにかく、神官府が爆発するなんて一大事よ。フルード様には繋がるかしら?」
《フルード様、聞こえますか!?》
《はい、聞こえています》
念話してみると、すぐに応答があった。
《緊急連絡です。神官府が燃え上がっているのですが、何かご存知でしょうか? ラミルファ様がお使いの炎の色と同じなので……》
《すみません、驚かせてしまって。今から聖威師たちに念話しようと思っていたところです。察しの通り、邪神様が少しお力を使われました。棟の中にいた者たちは、爆破の直前に強制転移で避難させたので、死傷者はありません》
(良かった)
ひとまず死者や怪我人はいないようだ。アマーリエはホッと肩の力を抜いた。
《私の聖威で、燃えている本棟の周囲に結界を張りました。これで新たに被害者は出ませんし、炎が広がることもありません》
《炎が広がらない……邪神様の神威を聖威で食い止められるのでしょうか?》
《結界が破られれば、反動が私に返って来るよう設定してあります。ですので、邪神様の炎は私の聖威を押し切って延焼はしません。邪神様は私を傷付けませんから》
さらりとフルードは言い切った。念話を聴いていたらしいフレイムが額を抑えた。
「だから、自分を盾にするそのやり方は誰に教わったんだよ一体……」
《今、主任神官と副主任神官にも念話しました。被害の心配はないことを伝え、属国も含めた一般神官や帝城関係者の統制を重点的に取るよう伝えています。他の聖威師たちにも、全体の様子を見て適宜動いて欲しいと念話しています》
あっさりと言うフルードは、アマーリエとも話しているので、同時に幾つもの念話網を展開する多重念話を行なっているらしい。並行して、複数箇所の多重遠視も行っているかもしれない。
(様子を見て適当に動いてくれって、随分と大雑把な内容だわ。聖威師たちを信頼しているのでしょうけれど……)
困惑を読んだように、大神官は続けた。
《アマーリエは長く属国にいたので実感が薄いかもしれませんが、中央本府ではこのようなことはよく起こります》
《よ、よく起こるのですか?》
《はい。力の強い神官が多く、高位の神を相手にした交信や勧請が定期的に実行される分、トラブルも多発します。そういった場合、神威自体は天威師や聖威師が受け止めますが、余波による建物の爆発や全損、倒壊くらい珍しいことではありません》
《……そ、そうなのですか》
それで良いのか神官府。アマーリエは内心で突っ込んだ。だが、だからこそ指示が適当なのかもしれない。皆もう慣れっこで、対応方法や避難の要領が分かっているから。
思い返してみれば、以前、作成中の火炎霊具が暴走したことがあったが、あの時も神官たちの動きは冷静だった。ずっと属国にいて、そのようなアクシデントに慣れていないミリエーナとシュードンが勝手に血気流行っただけで。
《私にもできることはありますか? もし急ぎの指示がなければ、リーリア様を助けたいです。お話を伺うに、彼女に関してはもらい事故のような感じですし》
《私も同じことを考えています。リーリアは巻き込まれただけですから救助対象です。今はアマーリエの近くにいますね。お側に泡神様もいらっしゃるようです。まず私がそちらに合流しますから、一緒にリーリアの所に行きましょう》
そこまで告げ、聞こえる声が若干申し訳なさそうなトーンを帯びた。
《――ただ、私は少し所用がありまして。なるべく早く行くつもりですが、しばし待っていただけますか》
《分かりました》
頷くと、礼の言葉と共に念話が切れる。
「フレイム、聴いていたでしょう。フルード様が来て下さるって。フロース様はリーリア様とも一緒にいるみたいだし、ちょうど良いわ」
そう告げ、ラモスとディモスに目を向けた。
「ラモス、ディモス。主任神官たちをフォローしに行ってくれる?」
この二頭がフレイムに見出されたことは、中央本府の神官たちには公表している。属国の神官たちも、二頭が纏う聖威を感じれば神族だと分かるので、敵ではないと察してくれるだろう。
「一緒に避難誘導を手伝ってあげて欲しいの」
『承知した』
『お任せ下さい』
息を合わせて快諾した聖獣たちは、神々に一礼してから転移でかき消えた。
それを見送った直後、ドタバタと騒々しい足音を立て、オーブリーが暗がりの中を全力疾走して来た。
(ちょっと待って、あの漆黒の炎は確か――)
慌てて本棟周辺の範囲を遠視で俯瞰する。
「……フレイム、何だか変に景色が割れているところがあるわ」
(蜃気楼、ではないわね。大気に穴が開いているの?)
穴の付近を遠視した瞬間、悲痛な絶叫が炸裂した。
『わああああああああああああああああああああ!!』
ギョッとして焦点を絞ると、顔面蒼白になった屈強な美丈夫が、穴の向こうにある空間に崩れ落ちている。
(人!?)
一瞬、神官か一般人が巻き込まれたかと焦るアマーリエだが、フレイムがのんびりと呟いた。
「おっ、葬邪神様だ」
言われて改めて視れば、確かに神威を感じた。人間ではなかったことに安堵していると、慟哭が弾ける。
『うあああああっっ! 丹精込めて作った俺のタペストリーが! 綺麗さっぱり灰になってしまった! 数千年振りに出来た会心の作がぁぁ~!』
「…………」
髪を振り乱し、地面に爪を立てる勢いで号泣している様を眺め、アマーリエは虚ろな眼差しになった。あれが一の邪神らしいが――何だろう、既視感がすごい。もしかしなくても、末の弟が似たようなことをやっていた。
「どこかで見たような光景なのだけれど……もしかしてアレって邪神のお家芸なの?」
登場時に一回はこれをやらないといけないノルマがあるとか。
「い、いや……そんなことはないはずだが……」
そっと否定するフレイムが鼻白んでいる。
「とにかく、神官府が爆発するなんて一大事よ。フルード様には繋がるかしら?」
《フルード様、聞こえますか!?》
《はい、聞こえています》
念話してみると、すぐに応答があった。
《緊急連絡です。神官府が燃え上がっているのですが、何かご存知でしょうか? ラミルファ様がお使いの炎の色と同じなので……》
《すみません、驚かせてしまって。今から聖威師たちに念話しようと思っていたところです。察しの通り、邪神様が少しお力を使われました。棟の中にいた者たちは、爆破の直前に強制転移で避難させたので、死傷者はありません》
(良かった)
ひとまず死者や怪我人はいないようだ。アマーリエはホッと肩の力を抜いた。
《私の聖威で、燃えている本棟の周囲に結界を張りました。これで新たに被害者は出ませんし、炎が広がることもありません》
《炎が広がらない……邪神様の神威を聖威で食い止められるのでしょうか?》
《結界が破られれば、反動が私に返って来るよう設定してあります。ですので、邪神様の炎は私の聖威を押し切って延焼はしません。邪神様は私を傷付けませんから》
さらりとフルードは言い切った。念話を聴いていたらしいフレイムが額を抑えた。
「だから、自分を盾にするそのやり方は誰に教わったんだよ一体……」
《今、主任神官と副主任神官にも念話しました。被害の心配はないことを伝え、属国も含めた一般神官や帝城関係者の統制を重点的に取るよう伝えています。他の聖威師たちにも、全体の様子を見て適宜動いて欲しいと念話しています》
あっさりと言うフルードは、アマーリエとも話しているので、同時に幾つもの念話網を展開する多重念話を行なっているらしい。並行して、複数箇所の多重遠視も行っているかもしれない。
(様子を見て適当に動いてくれって、随分と大雑把な内容だわ。聖威師たちを信頼しているのでしょうけれど……)
困惑を読んだように、大神官は続けた。
《アマーリエは長く属国にいたので実感が薄いかもしれませんが、中央本府ではこのようなことはよく起こります》
《よ、よく起こるのですか?》
《はい。力の強い神官が多く、高位の神を相手にした交信や勧請が定期的に実行される分、トラブルも多発します。そういった場合、神威自体は天威師や聖威師が受け止めますが、余波による建物の爆発や全損、倒壊くらい珍しいことではありません》
《……そ、そうなのですか》
それで良いのか神官府。アマーリエは内心で突っ込んだ。だが、だからこそ指示が適当なのかもしれない。皆もう慣れっこで、対応方法や避難の要領が分かっているから。
思い返してみれば、以前、作成中の火炎霊具が暴走したことがあったが、あの時も神官たちの動きは冷静だった。ずっと属国にいて、そのようなアクシデントに慣れていないミリエーナとシュードンが勝手に血気流行っただけで。
《私にもできることはありますか? もし急ぎの指示がなければ、リーリア様を助けたいです。お話を伺うに、彼女に関してはもらい事故のような感じですし》
《私も同じことを考えています。リーリアは巻き込まれただけですから救助対象です。今はアマーリエの近くにいますね。お側に泡神様もいらっしゃるようです。まず私がそちらに合流しますから、一緒にリーリアの所に行きましょう》
そこまで告げ、聞こえる声が若干申し訳なさそうなトーンを帯びた。
《――ただ、私は少し所用がありまして。なるべく早く行くつもりですが、しばし待っていただけますか》
《分かりました》
頷くと、礼の言葉と共に念話が切れる。
「フレイム、聴いていたでしょう。フルード様が来て下さるって。フロース様はリーリア様とも一緒にいるみたいだし、ちょうど良いわ」
そう告げ、ラモスとディモスに目を向けた。
「ラモス、ディモス。主任神官たちをフォローしに行ってくれる?」
この二頭がフレイムに見出されたことは、中央本府の神官たちには公表している。属国の神官たちも、二頭が纏う聖威を感じれば神族だと分かるので、敵ではないと察してくれるだろう。
「一緒に避難誘導を手伝ってあげて欲しいの」
『承知した』
『お任せ下さい』
息を合わせて快諾した聖獣たちは、神々に一礼してから転移でかき消えた。
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