245 / 601
第3章
48.暴れ神の神格
しおりを挟む
『アレク、ウザい。すぐ怒る。だが、遊んでくれるなら許す。――遊ぼ、遊ぼ。皆で遊ぼ』
ニタリと笑った少年の瞳孔が縦に割れ、口がバカッと左右に裂けた。大輪の花が開くように無数の火花が迸り、小さな体を覆い隠す。
全身の毛穴が開くような凄まじい気が迸り、火花を跳ね退けて一柱の神が顕現した。
浅黒い緑の肌。丸い顔に爛々と光る巨大な一つ目。裂けた口内には、ずらりと牙が並んでいる。つるりとした頭に生える、鋭利な一本の角。異様なほど膨らんだ腹。上半身は裸で、腰から下には布を巻いていた。背丈は10歳程度のウェイブと同じくらいか。
(一つ目、緑の肌、一本角……)
アマーリエは目の前の神を見据えた。この外見に該当するのは誰か考えるが、思い当たらない。そもそも、暴れ神は人間が誕生する前に眠りに付いたのだから、文献にも記録は残っていないだろう。
と、こちらの様子に気付いた葬邪神が教えてくれた。
『コイツは疫神。言わずもがな悪神の一種だ。病と不浄を司り、災厄を運ぶと言われる。まぁこの姿もまだ遠慮してる方なんだがな~』
そして、何かを思い出すように彼方を見晴るかす眼差しになった。
『コイツと来たらもう、伝染病やら感染症やらを吹かせまくり、今までにどれだけの星を死滅させて来たか。宇宙を何個かまとめて消滅させたこともあったぞ』
あ~全く、と呟いている様は、うっかり皿を割ってしまった子どもに対するような言い方だ。宇宙が消えれば大事だと思うのだが。
『あった、あった。我、遊んだだけ!』
明るい口調で認めた疫神が、宙でクルンクルンとでんぐり返りを始めた。
『太古の神はマジでスケールが違いますね』
『お前たち若い神は、宇宙や世界が生まれてから顕現した。だから、世界と共に在るのが当然で……壊さないように、無意識のうちに力のほとんどを抑えてるからなぁ。元が人間の聖威師はなおさらだ。だが、宇宙ができる前からいた神は、そんな抑制や気遣いが薄いんだ』
『狼神様にも言われましたよ、それ』
フレイムがげんなりとした口調で言った。そして、ふと表情を改める。
『葬邪神様。……似非聖威師たちの一件から、いや、もしかしたらそれより前から、裏でちょこまか動いて下さってたみたいじゃないですか。今回の、滞留書の無効化にも一役買ってたんでしょう』
山吹色の目に険を宿して問い詰める中、ラミルファもじっと長兄を見ている。
『ああ、アイツが起きるかもしれんと分かったからな。――少しなら話せそうだ』
疫神が虚空を回転することに夢中になっているのを確認し、葬邪神が口を開いた。
『聖威師や滞留書の件に関しては、俺はずっと尊重派だった。ブレイと共にな』
一瞬新しい神が出て来たかと思ったが、ブレイはフレイムの姉、煉神ブレイズのことだという。狼神ハルアフォードや運命神ルファリオンなど、名を短縮した愛称で呼ばれる神々が羨ましかったらしく、自分も愛称が欲しいと言い出したため、一部の太古神の間ではブレイと呼ばれているそうだ。
だが、肝心の夫神ルファリオンは、マイペースなのか元々の呼び方が馴染んでいたのか、彼なりのこだわりでもあるのか、ブレイズの呼称を使っているままだという。
『神々の中で取りまとめ役の兄ちゃん姉ちゃん的な立場にいるあなたと姉上が、そろって尊重派だった。だから、皆何だかんだで大人しくしてたんですよ』
『そうかもなぁ。……だが、今回ばかりは強硬派や穏健派の意を汲むべきと判断した。アイツは危険すぎる。聖威師のままではアイツの遊びに耐えられん。大事な同胞を廃神にはさせられんだろ』
神に戻すという避難措置を取るのが、最も確実な廃神回避の方法なのだという。
『といっても、俺は元々尊重派だ。滞留書を無効化するという形で、いざとなった時の救出手段は用意した。その上で、ギリギリまで聖威師たちの意思に寄り添うとも』
漆黒の瞳でアリステルとフルード、そしてアマーリエとリーリアを見渡し、続きを述べる。
『俺はこれから、アイツの相手をし、気を鎮める。だが、正直難しい。アイツは何も制約なく全力を出せるが、俺は聖威師を守りながら相手をしないとならんからな。聖威師は地上も守ってくれと懇願するだろうから、それも考慮せんといかん』
アマーリエたちが頷くと、整った美貌が苦笑いを帯びた。率直に言えば無理難題だとひとりごちる。
『例えるなら、そうだな……大海のど真ん中で大津波をぶつけ合って戦いながら、その津波の中にたくさん漂う小さな玉子に僅かなヒビも入れんよう、決して一つも壊さんようにせねばならんという条件を付けられたようなものだ。いや、それよりも遥かに難易度が高い。いくら俺でも、そんなハンデを負ってたらアイツは手に負えん』
今回、天威師は出られない。間も無く眠れる神々が覚醒するため、そちらの対応に回らざるを得ないのだ。眠り神の中には至高神も複数いる。天威師はその相手にかかり切りだ。
『むろん可能な限り努力はするが……どうしても無理となった時は、お前たちの安全を最優先にする。本当に申し訳ないが、神に戻り昇天してもらう』
葬邪神の整った唇が、すまんなぁ、という形に動いた。
ニタリと笑った少年の瞳孔が縦に割れ、口がバカッと左右に裂けた。大輪の花が開くように無数の火花が迸り、小さな体を覆い隠す。
全身の毛穴が開くような凄まじい気が迸り、火花を跳ね退けて一柱の神が顕現した。
浅黒い緑の肌。丸い顔に爛々と光る巨大な一つ目。裂けた口内には、ずらりと牙が並んでいる。つるりとした頭に生える、鋭利な一本の角。異様なほど膨らんだ腹。上半身は裸で、腰から下には布を巻いていた。背丈は10歳程度のウェイブと同じくらいか。
(一つ目、緑の肌、一本角……)
アマーリエは目の前の神を見据えた。この外見に該当するのは誰か考えるが、思い当たらない。そもそも、暴れ神は人間が誕生する前に眠りに付いたのだから、文献にも記録は残っていないだろう。
と、こちらの様子に気付いた葬邪神が教えてくれた。
『コイツは疫神。言わずもがな悪神の一種だ。病と不浄を司り、災厄を運ぶと言われる。まぁこの姿もまだ遠慮してる方なんだがな~』
そして、何かを思い出すように彼方を見晴るかす眼差しになった。
『コイツと来たらもう、伝染病やら感染症やらを吹かせまくり、今までにどれだけの星を死滅させて来たか。宇宙を何個かまとめて消滅させたこともあったぞ』
あ~全く、と呟いている様は、うっかり皿を割ってしまった子どもに対するような言い方だ。宇宙が消えれば大事だと思うのだが。
『あった、あった。我、遊んだだけ!』
明るい口調で認めた疫神が、宙でクルンクルンとでんぐり返りを始めた。
『太古の神はマジでスケールが違いますね』
『お前たち若い神は、宇宙や世界が生まれてから顕現した。だから、世界と共に在るのが当然で……壊さないように、無意識のうちに力のほとんどを抑えてるからなぁ。元が人間の聖威師はなおさらだ。だが、宇宙ができる前からいた神は、そんな抑制や気遣いが薄いんだ』
『狼神様にも言われましたよ、それ』
フレイムがげんなりとした口調で言った。そして、ふと表情を改める。
『葬邪神様。……似非聖威師たちの一件から、いや、もしかしたらそれより前から、裏でちょこまか動いて下さってたみたいじゃないですか。今回の、滞留書の無効化にも一役買ってたんでしょう』
山吹色の目に険を宿して問い詰める中、ラミルファもじっと長兄を見ている。
『ああ、アイツが起きるかもしれんと分かったからな。――少しなら話せそうだ』
疫神が虚空を回転することに夢中になっているのを確認し、葬邪神が口を開いた。
『聖威師や滞留書の件に関しては、俺はずっと尊重派だった。ブレイと共にな』
一瞬新しい神が出て来たかと思ったが、ブレイはフレイムの姉、煉神ブレイズのことだという。狼神ハルアフォードや運命神ルファリオンなど、名を短縮した愛称で呼ばれる神々が羨ましかったらしく、自分も愛称が欲しいと言い出したため、一部の太古神の間ではブレイと呼ばれているそうだ。
だが、肝心の夫神ルファリオンは、マイペースなのか元々の呼び方が馴染んでいたのか、彼なりのこだわりでもあるのか、ブレイズの呼称を使っているままだという。
『神々の中で取りまとめ役の兄ちゃん姉ちゃん的な立場にいるあなたと姉上が、そろって尊重派だった。だから、皆何だかんだで大人しくしてたんですよ』
『そうかもなぁ。……だが、今回ばかりは強硬派や穏健派の意を汲むべきと判断した。アイツは危険すぎる。聖威師のままではアイツの遊びに耐えられん。大事な同胞を廃神にはさせられんだろ』
神に戻すという避難措置を取るのが、最も確実な廃神回避の方法なのだという。
『といっても、俺は元々尊重派だ。滞留書を無効化するという形で、いざとなった時の救出手段は用意した。その上で、ギリギリまで聖威師たちの意思に寄り添うとも』
漆黒の瞳でアリステルとフルード、そしてアマーリエとリーリアを見渡し、続きを述べる。
『俺はこれから、アイツの相手をし、気を鎮める。だが、正直難しい。アイツは何も制約なく全力を出せるが、俺は聖威師を守りながら相手をしないとならんからな。聖威師は地上も守ってくれと懇願するだろうから、それも考慮せんといかん』
アマーリエたちが頷くと、整った美貌が苦笑いを帯びた。率直に言えば無理難題だとひとりごちる。
『例えるなら、そうだな……大海のど真ん中で大津波をぶつけ合って戦いながら、その津波の中にたくさん漂う小さな玉子に僅かなヒビも入れんよう、決して一つも壊さんようにせねばならんという条件を付けられたようなものだ。いや、それよりも遥かに難易度が高い。いくら俺でも、そんなハンデを負ってたらアイツは手に負えん』
今回、天威師は出られない。間も無く眠れる神々が覚醒するため、そちらの対応に回らざるを得ないのだ。眠り神の中には至高神も複数いる。天威師はその相手にかかり切りだ。
『むろん可能な限り努力はするが……どうしても無理となった時は、お前たちの安全を最優先にする。本当に申し訳ないが、神に戻り昇天してもらう』
葬邪神の整った唇が、すまんなぁ、という形に動いた。
6
あなたにおすすめの小説
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。
侯爵令嬢ソフィアの結婚
今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない
そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる
美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ
その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた
結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて…
表紙はかなさんです✨
ありがとうございます😊
2024.07.05
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる