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第3章
77.守護神選びは慎重に
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(鴨……?)
またもや意味の分からないことを言い出す邪神に、アマーリエは内心で首を傾げる。
「ちなみに、神罰の件で至高神や最高神を頼ることはできないよ。簡単に動く神々ではない。自分たちが動くしか方法がないのであれば、同族のために腰を上げるだろうが、神に戻るという解決方法があるのならそちらを実行すれば良いと思い、手出しはしないだろう」
アマーリエは知らないが、これは葬邪神が言っていたことと同じ論法だ。
なお、天威師たちにも、フルードとアリステルの神罰については過去に情報共有をしている。だが、彼らとて神格を抑えている身であり、言動の制限も聖威師より遥かに多い。具体的に何かをすることは難しかった。
それでも何とか助けようと強引に動こうとし、天の至高神から幾度も警告を喰らっていたため、今回のアマーリエの件は報せていなかったのだ。知ればまた無理を押して動き、本当に強制昇天になってしまうかもしれない。アマーリエの守護神が決まり、もう安心となってから伝えるつもりだったが、そんな事情など知らない疫神がバラしたわけだ。
「泡神様と、それからアシュトンたちには話した。だが、他の聖威師たちも神性を抑え込んでる状態だ。何とかしたいと思ったところで、何もできねえからな。とにかくユフィーに守護が付くまでは共鳴を起こさねえことを最優先にして、表情や態度には何も出さないようにしてもらってたんだ」
最悪の場合、共鳴が起こってもフレイムとラミルファが特別降臨している期間中であれば守れる。だがそれでも、できるなら起こさず済ませられた方が良い。
なお、聖威師になって間もないリーリアは、まずは今の立場と状況に慣れることが先だとして、神罰の件は話していなかったらしい。
「それで……葬邪神様が私の守護に付いて下さったのですか」
「これでユフィーは安泰だ。完全に神罰を消しきれなくても、セインと同程度で済む」
「良かったですね、アマーリエ。精々、おまじないで毎朝ドクロが出るくらいで済みますよ」
フルードが微笑んでくれるが、それも地味に悲しい。
(そういえばあのおまじない、最近やっていなかったわ)
照覧祭でそれどころではなくなり、すっかりご無沙汰になっていた。今あの筒を振ればドクロしか出なくない状態になっているのだろうか。
「……そういえば、両親や妹が私に冷たかったのは、神罰の影響でしょうか?」
フルードとアリステルが、神罰に選ばれたがために虐待……を超えた拷問を受けていたなら、自分も似たようなものだったのだろうか。だが、フレイムはきっぱりと否定した。
「ユフィーのバカ家族が神罰に操られてたとか、虐待を強要されてたわけじゃねえ。バカ家族も、ガルーンも、アリステルの育ての親も、自分の性格と意思でそれぞれの行為をやってた。素でそういうことをする奴らの近くに生まれて、引きずり込まれちまうってのも、神罰が運んで来る不幸の一つなんだ」
アリステルの育ての親がひたすら拷問のための霊具ばかり作り、暮らしに役立つ霊具を作らなかったのも、神罰に操作されていたわけではない。単純にそのようなトンだ精神性と思考回路の持ち主だったというだけだ。
「だから、アイツらも操られてた被害者なんじゃねえかって思うのは違うんだぜ」
「そうなの……。じゃあもう一つ。アリステル様の説明でお聞きしたけれど、守護神には逆らえなくなるの?」
「守護して下さる神様だからなぁ。人間の感覚で言えば、姫に傅く守護騎士だとかマスターに仕える守護獣だとか、むしろ守護対象に従属するイメージが強いかもしれねえが、神の場合は逆だ。お守りいただく代わりに、自分の支配権を差し出すことになる」
「神が上位というのは不動の決まりだ。だからこそ守護神選びは慎重にしなくてはならないのだよ。守護対象の意思を重んじてくれる神を引き当てなくては、後悔することになる」
ラミルファが口を挟んだ。
「例えば、君たちをマゾヒストだと勘違いしていた時点の二の兄上など論外だ。僕は――フレイムもだが――、荒神の勘を持っている。直感が当たるのだよ。どの道を選べばどのような結末に行き着くか、ピンと未来が閃く」
トントンと自身のこめかみを軽く突き、邪神は常とは異なる硬質な表情を浮かべた。
「思い違いをしたままの二の兄上が守護に付いていれば、君は地獄の環境に堕ちていた。君が苦痛を与えられて喜ぶと信じている二の兄上が、良かれと思って善意と好意でとんでもないことを連発し、守護神には逆らえないためそれを拒絶することもできず……まさしく不幸と絶望の深淵に真っ逆さまだ」
守護神が守護していない。守るどころか傷付けまくっている。アマーリエは反射的にフレイムの腕を掴んだ。あの時、決死の勢いで疫神を阻止しようと動いたフレイムとラミルファ。文字通りこちらを死守してくれていたのだ。
「君にはフレイムという絶対の盾がある。選ばれし神を主神に持つ君には、どんな神でも下手な真似はできない。だが、フレイムと同格の二の兄上が相手ではまた事情が違って来る」
神は年功序列ではない。顕現してからの年数ではなく、神格で順位が決まる。数千兆年以上を在る疫神も、神となってから僅か222年ほどしか経っていないフレイムも、神位が同列ならば互角にして対等だ。
ゆえに、フレイムは決して疫神に負けはしない――が、勝てるわけでもない。
またもや意味の分からないことを言い出す邪神に、アマーリエは内心で首を傾げる。
「ちなみに、神罰の件で至高神や最高神を頼ることはできないよ。簡単に動く神々ではない。自分たちが動くしか方法がないのであれば、同族のために腰を上げるだろうが、神に戻るという解決方法があるのならそちらを実行すれば良いと思い、手出しはしないだろう」
アマーリエは知らないが、これは葬邪神が言っていたことと同じ論法だ。
なお、天威師たちにも、フルードとアリステルの神罰については過去に情報共有をしている。だが、彼らとて神格を抑えている身であり、言動の制限も聖威師より遥かに多い。具体的に何かをすることは難しかった。
それでも何とか助けようと強引に動こうとし、天の至高神から幾度も警告を喰らっていたため、今回のアマーリエの件は報せていなかったのだ。知ればまた無理を押して動き、本当に強制昇天になってしまうかもしれない。アマーリエの守護神が決まり、もう安心となってから伝えるつもりだったが、そんな事情など知らない疫神がバラしたわけだ。
「泡神様と、それからアシュトンたちには話した。だが、他の聖威師たちも神性を抑え込んでる状態だ。何とかしたいと思ったところで、何もできねえからな。とにかくユフィーに守護が付くまでは共鳴を起こさねえことを最優先にして、表情や態度には何も出さないようにしてもらってたんだ」
最悪の場合、共鳴が起こってもフレイムとラミルファが特別降臨している期間中であれば守れる。だがそれでも、できるなら起こさず済ませられた方が良い。
なお、聖威師になって間もないリーリアは、まずは今の立場と状況に慣れることが先だとして、神罰の件は話していなかったらしい。
「それで……葬邪神様が私の守護に付いて下さったのですか」
「これでユフィーは安泰だ。完全に神罰を消しきれなくても、セインと同程度で済む」
「良かったですね、アマーリエ。精々、おまじないで毎朝ドクロが出るくらいで済みますよ」
フルードが微笑んでくれるが、それも地味に悲しい。
(そういえばあのおまじない、最近やっていなかったわ)
照覧祭でそれどころではなくなり、すっかりご無沙汰になっていた。今あの筒を振ればドクロしか出なくない状態になっているのだろうか。
「……そういえば、両親や妹が私に冷たかったのは、神罰の影響でしょうか?」
フルードとアリステルが、神罰に選ばれたがために虐待……を超えた拷問を受けていたなら、自分も似たようなものだったのだろうか。だが、フレイムはきっぱりと否定した。
「ユフィーのバカ家族が神罰に操られてたとか、虐待を強要されてたわけじゃねえ。バカ家族も、ガルーンも、アリステルの育ての親も、自分の性格と意思でそれぞれの行為をやってた。素でそういうことをする奴らの近くに生まれて、引きずり込まれちまうってのも、神罰が運んで来る不幸の一つなんだ」
アリステルの育ての親がひたすら拷問のための霊具ばかり作り、暮らしに役立つ霊具を作らなかったのも、神罰に操作されていたわけではない。単純にそのようなトンだ精神性と思考回路の持ち主だったというだけだ。
「だから、アイツらも操られてた被害者なんじゃねえかって思うのは違うんだぜ」
「そうなの……。じゃあもう一つ。アリステル様の説明でお聞きしたけれど、守護神には逆らえなくなるの?」
「守護して下さる神様だからなぁ。人間の感覚で言えば、姫に傅く守護騎士だとかマスターに仕える守護獣だとか、むしろ守護対象に従属するイメージが強いかもしれねえが、神の場合は逆だ。お守りいただく代わりに、自分の支配権を差し出すことになる」
「神が上位というのは不動の決まりだ。だからこそ守護神選びは慎重にしなくてはならないのだよ。守護対象の意思を重んじてくれる神を引き当てなくては、後悔することになる」
ラミルファが口を挟んだ。
「例えば、君たちをマゾヒストだと勘違いしていた時点の二の兄上など論外だ。僕は――フレイムもだが――、荒神の勘を持っている。直感が当たるのだよ。どの道を選べばどのような結末に行き着くか、ピンと未来が閃く」
トントンと自身のこめかみを軽く突き、邪神は常とは異なる硬質な表情を浮かべた。
「思い違いをしたままの二の兄上が守護に付いていれば、君は地獄の環境に堕ちていた。君が苦痛を与えられて喜ぶと信じている二の兄上が、良かれと思って善意と好意でとんでもないことを連発し、守護神には逆らえないためそれを拒絶することもできず……まさしく不幸と絶望の深淵に真っ逆さまだ」
守護神が守護していない。守るどころか傷付けまくっている。アマーリエは反射的にフレイムの腕を掴んだ。あの時、決死の勢いで疫神を阻止しようと動いたフレイムとラミルファ。文字通りこちらを死守してくれていたのだ。
「君にはフレイムという絶対の盾がある。選ばれし神を主神に持つ君には、どんな神でも下手な真似はできない。だが、フレイムと同格の二の兄上が相手ではまた事情が違って来る」
神は年功序列ではない。顕現してからの年数ではなく、神格で順位が決まる。数千兆年以上を在る疫神も、神となってから僅か222年ほどしか経っていないフレイムも、神位が同列ならば互角にして対等だ。
ゆえに、フレイムは決して疫神に負けはしない――が、勝てるわけでもない。
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