かつて世界を救った英雄は、いつの間にか女神にされてやさぐれてました ~世間知らずの修道女が、物理で殴る最強魔術師と共に偽りの神話を暴く~

青山茜

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第十話 試練

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 ガイザックは、私の言葉を信じると言ってくれた。
 これで、冒険者登録も認めてもらえるはず。
 そう思っていると、ガイザックは笑顔を見せて言った。
 
「では、貴女にはDランクの冒険者になって頂くので、認定試験を行いましょう」
「え……?」

 いきなりDランク?
 正気ですか?

 冒険者のランクはF~Sまである。
 通常、冒険者登録をしたばかりの者はFランクからと規定で決まっている。昇格するには認定試験を合格する必要があり、受けるにはある程度の実績が必要。
 そして、Dランク以上の昇格試験には筆記と実技がある。

 ガイザックは認定試験と言った。
 という事は――

「――もしかして、試験を受ける必要があるのですか?」
「当然です。Dランクになるには試験が必要ですので、筆記と実技の試験があります」

 ガイザックは、自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。
 冒険者になってすらいない私がDランクの試験を合格出来るとは思えない。
 冒険者登録を認めるとは言ったが登録には試験が必要――これでは登録をさせないと言っていると同義だ。
 
「ちょ、ちょっと待ってください。登録したばかりの人は最初Fランクからで試験も無いですよね?」
「確かにそうです。ですが、教団の方を冒険者登録するのに最初からFランクというのも外聞が悪いですし、教団から要らぬチャチャを入れられるやもしれません」
「そのような事は――」
「ではミア殿、もしも教団が聖騎士団を連れて来た時、当ギルドを守れるのですかな?」
「………………」

 私は、出来ると言えなかった。

 聖騎士団は、神に仇なす者と認定したものへ神に代わって罰を与える組織。そして、教団へ害をもたらすものも同じく罰を与える。
 私は、聖騎士団がギルドへ来るなんて事は無いと信じている、が、絶対ではない。
 そんな時に対抗できるほど私は実力も権力も持っていない。

 ガイザックは、私がギルドを本当に守れるのか試そうとしている。だからこそ厳しい目で見ている。
 これを私は拒否する事は出来ない。拒否をすれば、私の今までの発言は全て虚言、ただの戯言になってしまう。
 ならばこの試験――いや試練と言っていいだろう。甘んじて受けるほかない。

「……分かりました。認定試験をお受けさせて頂きます」
「ご理解いただけたようで何よりです」

 ガイザックは再び笑みを浮かべる。
 その笑顔は安堵か喜びのものか、はたまた思ってのものか。
 それは分からない。
 だが、本気であるのは間違いないだろう。

「……それで、試験はいつ?」
「色々と準備もあるでしょうから、いきなり試験というのも難しいでしょう。一週間後に行いましょう。試験はまず筆記から、そして実技はワシが試験官を務めさせて頂きますので」
「わかりました」

 試験は一週間後。
 それまでに勉強と魔法の修行をしなければ!


   ◇    ◇


 私は話を終えてギルドマスターの部屋を出ると、大広間のある一階へと降りた。
 大広間では冒険者達が談笑している。

 冒険者達は私の姿を見ると、揃ってこちらを見てきた。
 ニヤニヤとニヤけ顔を晒す者、横目にクスクスと嘲笑う者、ヒソヒソと話す者……。
 残念だったなぁと野次も聞こえてくる。

 この反応は予想していた。
 さっきも同じような反応をしてたのだから当然だ。
 きっと清々しているんだろう。

 この不埒ふらちな人達には色々と言いたい所ではあるが、今は放っておこう。
 私は一週間後に備えて対策を考えなければならないのだ。
 どうしようかと私はその場で立ち尽くすように色々と思案する。
 
 すると、突然肩にドスッと重みを感じた。
 驚いて首を横に向けると、知らない男が私の肩に腕を回していた。
 男はカラフルなローブを身に纏い、耳から派手なピアスをぶら下げて、ニヤニヤしながら私の顔を覗き込んでいる。
 この人も冒険者なんだろうが、何だかチャラチャラした男だ。

「……何でしょうか?」
「ギルドマスターと良い話はできたかい?」
 
 チャラチャラした男は、どうせ門前払いだったんだろうとばかしのニヤケ顔を晒している。
 何だか癪なので堂々と言ってやろう。

「ガイザック様は、私をDランク冒険者として認定されるおつもりのようです」
「っ!」

 チャラチャラした男は明らかに驚いた顔をした。
 そして周りの冒険者達も私の言葉が聞こえたのか、ざわつき始めた。

 私はその反応を見て、少しスッとした。
 これから皆の私を見る目を変えてみせようと思う。
 チャラチャラした男の顔も、驚きから少し動揺しているような表情に変わっている。

「へ、へぇ、凄いじゃん。じゃあ今日から君も冒険者なんだ」
 私はまだ『そうです』と言えないのがもどかしい。
「いえ、まだ認定試験が終わっていませんので、現時点では冒険者ではありません」
「……ふぅ~ん」

 チャラチャラした男の顔に、余裕が戻ってきたのが見える。
 現金な人だ。
 何だか視線も嫌な感じがするし、今度は身体もベタベタ触ってきだした。
 早いこと離れよう。
 
「もういいで――」
「じゃあさ――」
 そこでチャラチャラした男は私の言葉を遮り、突然私を抱き寄せてきた。
「ち、ちょっ!」
 突然のことに私は困惑していると、チャラチャラした男は顔を私の顔に思いっきり近づけてきた。
 
「俺が試験を手伝ってあげようか」

 その言葉が、ただの親切心ではないのは私でも分かった。

 完全によこしまな気持ちで私を狙っている。
 この男は色々な意味で危険だ。
 早く離れなければ!

「い、いえ――」
「大丈夫、俺が手取り足取り色々と教えてあげるから」
「結構です!」

 私は早くこの男から逃れようと、抱き寄せられている腕を振りほどこうとした。
 だが、想像以上にチャラチャラした男の力が強い。
 いくらやってもその腕を振りほどけない。

 そんな私の抵抗にチャラチャラした男は何やら確信したのか、そのまま玄関に向かって私を抱き寄せたまま歩き出した。
 
「警戒しなくても大丈夫だって。俺は優しいからね。君が心配なんだよ」

 絶対嘘だ!
 完全に私をお持ち帰りする気だ!
 このままでは――ヤバい!
 
 私は誰か助けてくれないかと周りを見渡し、助けの視線を送る。
 だが――周りの冒険者たちは、こちらを見てニヤニヤと笑っている。
 しかも、ヒューヒュー、お熱いね~と野次を飛ばされる始末。
 
 
 
 ……終わった。
 完全に終わった。
 私はこのチャラチャラした男に、想像もできないような事をされてしまう。
 何も抵抗できずに……。

 自分の顔から、表情が消えていくのが手に取るように分かる。
 絶望を通り越して、何の感情も浮かんでこない。
 
 これから私は、この男に只々ただただされるがまま、受け入れたくない出来事が終わるのを待つのみなんだ……。
 
 テオの言っていた通りだった。
 冒険者ってのは本当にロクでも無い奴ばかりだ。
 私って馬鹿だな……変な夢ばかり見て……。


「おい!!!」
 
 
 突然男性の大声が鳴り響く。
 そしてチャラチャラした男の動きが止まった。

 いや、正確には止められた――チャラチャラした男の首根っこを掴む手によって。
 
 私はその感情の無い目で、手の持ち主を視線で追う。
 そこには――眉間にシワを寄せてチャラチャラした男を睨みつける……テオの姿があった。
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