かつて世界を救った英雄は、いつの間にか女神にされてやさぐれてました ~世間知らずの修道女が、物理で殴る最強魔術師と共に偽りの神話を暴く~

青山茜

文字の大きさ
11 / 21

第十一話 無茶な約束

しおりを挟む
 チャラチャラした男は、テオを見ると露骨に嫌な顔をした。
「……何だよ?」

 するとテオも睨み返した。

「嫌がってるだろ」

 テオはそう言うと、そのままチャラチャラした男の首根っこと私を抱き寄せている腕も掴み、そのまま私から引き剥がして投げ飛ばした。
 チャラチャラした男は床に転がった。

「くっ……てめぇ……!」
 チャラチャラした男は、テオを怒りの形相で睨みつける。
「テオ、邪魔すんじゃねえよ! てめぇはあの魔力無しと乳繰り合ってろ!」

 負け惜しみというか何というか、ここまであからさまな小物臭がする人も居るもんなんだな。
 テオはチャラチャラした男の言葉を意に介す事もなく、憐れな視線を男へ向けている。
  
 そこへ、アルシアが私へと歩み寄ってくる。
 アルシアは床へ転がるチャラチャラした男の横を通り過ぎながら、男へまるで虫けらでも見るような冷たい視線を向けた。
 そして、そのままボソッと言葉を吐く。

「……下衆げす

 そのアルシアの言葉に、チャラチャラした男はキレた。

「てめぇ!」

 そう叫ぶと、一気にアルシアへと飛びかかった。

 だがアルシアはそれをヒラリとかわすと、チャラチャラした男はその勢いのまま近くのテーブルへと突っ込んだ。
 するとそのテーブル席に居た冒険者達がチャラチャラした男にブチギレた。
 そのまま取っ組み合いの喧嘩に発展する。
 
「……馬鹿な奴」

 アルシアは、その喧嘩に発展したのを冷徹に見つめながらそう言った。
 テオも馬鹿だなといった表情で見つめている。
 周りの冒険者達は取っ組み合いの喧嘩を『ヤレヤレ!』とはやし立てている。

 こんなのも愉しんでいるみたいだ。
 本当にロクでもない。
 こんな人達ばっかしなんだな。

 そんな様子を私が立ち尽くして見ていると、テオが言葉をかけてきた。

「おい、大丈夫か?」

 テオの顔からは先ほどまでの厳しい表情が消え、優しさが浮かんでいた。

「あ、はい。ありがとうございます」

 そこへアルシアも歩み寄ってきて、傍に居るテオへジトーっと視線を送る。

「アンタ本当にお節介を焼くわね」
「うるせぇ。ほっとけねぇだろ」
「まぁね……」

 アルシアはそう言うと、私に視線を移す。

「アンタもされるがままにしちゃ駄目よ。冒険者の中には、女ときたらすぐに言い寄ってきたり性欲の捌け口としか考えてないヤツだっているんだから」
「は、はい……」
「男の喰い物にされたくなかったら、軽くあしらえるくらいになりなさい」
「……はい」
 
 アルシアの厳しい言葉。けれどその言葉の中に優しさが詰まっている。
 これからこんな人たちとも付き合わねばならないのだ。
 気を引き締めねば。

 そこでテオが言った。
「とりあえずココじゃアレだ。外へ出よう」


――私達三人はギルドを出て、ギルドから少し離れた裏道へと隠れるように移動した。

 そしてテオが「この辺で良いだろう」と言うと、私へ聞いてきた。 

「……それで、Dランクの認定試験を受けるんだって?」

 そういえば、この二人も私の話を聞いていたんだ。
 私が冒険者になれるかどうか気になるのは当然だろう。

「はい、筆記と実技の試験があるそうで。試験官はガイザック様が」

 そう答えると、テオは溜息をついた。

「おいおいマジかよ……」
 
 何かマズイのだろうか。
 アルシアも眉をひそめている。
 私はその様子を見て不安になる。
 
「何か問題でも?」
「大ありだ。ギルドマスターは元Aランク冒険者の実力者だ。筆記は勉強すれば良いとして、実技の試験では試験官との模擬戦だ。そして、実力を測る相手がギルドマスターという事になる」
「という事は……」
「引退した今でもギルドマスターに勝てる奴は、このギルドにほとんど居ない。そんなやつ相手に『参った、認める』と言わせられるのか?」
「………………」

 無理だ。
 
 それは想像もしていなかった試験内容。
 淡く抱いていた希望を打ち砕かれた気分だ。

 魔物とまともに戦ったことの無い私が、ガイザックに認めると言わせられるとは思えない。
 実績も全く無い。
 それは、この試験が最初から認定する気がない、ただの出来レースに過ぎないことを意味している。

 私は、ガイザックにまんまとしてやられたのだろう。
 テオとアルシアも、その事に気付いている。
 
「どうする?」

 テオの短い言葉に、私を心配している気持ちが溢れている。
 アルシアは、そんな様子のテオを無言でジッと観察するように見ている。
 自分はどうしようかと考えているようにも見える。

 そしてアルシアは、フッと言葉を漏らす。
 
「諦めるんなら今のうちじゃない?」

 その言葉は、私とテオ、どちらに言ったのかは分からない。
 けれど本心ではあるのだろう。
 アルシアの言葉を聞いたテオも言葉を漏らす。

「まぁ、それで良いなら良いけどよ」

 それも手ではあるのだろう。
 無謀と言えるのは分かりきっている。
 しかし――
 
「それは出来ません」

 私は、拒否をする。

「ガイザック様と約束したのです。私がこのギルドを教団から守ると。一度した約束を反故にすることは出来ません」

 私の言葉を聞いた二人は、信じられないかのように固まった。
 私が何を言っているのか理解するのに時間がかかっているよう。

 そして――

「お前……そんな無茶な約束までしたのか」
「アンタ、自分が何を言っているのか分かってるの?」

 二人は私にそう言って詰め寄って来た。
 
 確かにその通り。
 今になって思えば馬鹿みたいな約束だ。
 けれど、あの時は何とか認めさせようと必死になっていた。
 冒険者になりたい――ロードリックを追いたい一心で。

「――確かに無茶な約束ですね」
「そうよ。下手するとアンタ、冒険者になれないどころか教団と敵対するわよ」
「ですが、それでも、やれるだけの事はやってみるつもりです」
「出来るわけ無いでしょ」
「それでも、やります」
「……頑固ね」

 アルシアは、呆れたように口をへの字に結んだ。
 
 私は頑固、その通り。
 一度口にしたことを安易に変えたくない。
 嘘をつきたくないから。
 
 テオも同じように呆れ顔だ。
 けれど「それじゃ、どうするんだ?」と言って心配はしてくる。
 私を放ってはおけないんだろう。

 心配をさせているのは大変申し訳なく思う。
 けれどここまで来たら、とことん付き合ってもらおうかな。
 
 私は、やれるだけの事はすると言った。
 だから――

「二人にお願いがあります」

 二人を巻き込む!

「私を冒険へ連れて行って下さい!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...