かつて世界を救った英雄は、いつの間にか女神にされてやさぐれてました ~世間知らずの修道女が、物理で殴る最強魔術師と共に偽りの神話を暴く~

青山茜

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第十五話 消えた神話

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 私とアルシアは、ダンガルの案内で教会の書斎へとやってきた。

 書斎はそれほど広くなく六畳程の広さ。
 だが、壁一面に本がぎっしりと敷き詰められており、部屋の真ん中には小さなテーブルと向かい合って椅子が二つ。
 本読みにはじっくりと読書を堪能できる天国のような場所だ。
 
 ダンガルは私達を書斎へと案内すると、胸に手を当てて一礼した。
 
 「それでは私は礼拝堂に居ますので、何かありましたらいつでもお呼び下さい」
 
 ダンガルはそう言うと、書斎から立ち去っていった。


――アルシアはダンガルが居なくなったのを確認すると、早速本棚を物色しだした。
 神話や教団に関する本を手当たり次第引っ張り出してはパラパラと本をめくる。そしてすぐに戻して次の本へ――と、それを繰り返していた。
 何か調べ物でもあるのだろうか。

「アルシアさん、何か調べ物ですか?」
「……そうよ」

 アルシアは本をパラパラめくりながら答える。
 手に取っている本は、古い神話や英雄の冒険譚、そしてルクナ教の聖典や教義に関する本ばかりだ。

「何を調べているのですか? 必要ならば手伝いますが……」
「……後で教える」

 どうやら今は教える気が無いらしい。
 アルシアは、ずっとパラパラめくり続けている。
 本当に読んでいるのか疑問に思うほど読むのが速い。
 速読というやつかもしれない。

 これ以上聞いてアルシアの邪魔をするわけにもいかないので、私も本を読もうと思う。
 何を読もうかと本棚を見渡していると、本棚のある一角に何か物を入れる戸棚のようなものがあるのに気づく。

 これはなんだろう?

 勝手に開けるのも気が引けるが、本棚の一角にぽつんとあるのがとても好奇心をそそられる。
 何か貴重なものが入っているかもしれない。
 私は好奇心に負け、思い切って戸棚の戸を開けてみる。

――すると中には天秤が入っていた。

 その姿は、ルクナ神が天秤の棒の真ん中を片手で持った形で、ルクナ神の足元には台座があり、そこに水色の魔石が埋め込まれている。
 
 《誓盟せいめいの真理》という魔道具だ。

 これは教団において主に裁判で使われるもので、尋問官が誓盟の真理に魔力を込めることで相手の発言が嘘か否かを判別できる魔道具。
 判別方法は簡単で、右へ傾けば真実、左に傾けば嘘だ。

 これは……使えるかも!

――そこへアルシアの声が聞こえた。
「やっぱり……これもそうだ……」
 
 気になってアルシアの方を見てみると、アルシアの周りに無数の本が浮かんでいた。魔力を殆ど感じないが、魔法で浮かせているようだ。
 見ているだけで、アルシアが恐ろしいほどの魔法技術の持ち主だとわかる。彼女は意識しないと気付かないくらいの微細な魔力で本を浮かせている。

 私なら、これの十倍は魔力を消費する。
 これほど効率良く魔法を使えるものなのかと、ただただ感嘆するしかない。

 すると、アルシアは読んでいる本をパタンと閉じて、本棚へと全て戻し始めた。
 そして戻しながらこちらへ視線を流してくる。
 
「……ねぇ、神々の聖戦を知ってるのよね」

 アルシアが聞いてきた。
「もちろん知っています」
 当然私はそう答える。
 何度もロードリックへ聞かせてとせがんだ神話の一つだ。
 忘れる訳がない。
 
「アンタの知ってる内容は?」
「かつて二千年前、破壊神ソルスが人類を滅ぼそうと――」
「違う」
 
 アルシアがいきなり遮ってきた。
 違うって何?
 どういう事?

「あの……違うというのは……?」

 すると――信じられない返事が返ってきた。
 
「ここにある本には『魔王が人類を滅ぼそうとした』と書いてある」
「…………え?」

 あり得ない。
 ロードリックから聞いた話も、修道院にあった本にも、破壊神ソルスが人類を滅ぼそうとしたと書いていた。

「そんなはずは……」
「他の本も同じ。破壊神ソルスの記載が消えて、代わりに全てが魔王と入れ替わってる。更に転生者リンの存在も消されてる」
「………………」

 どういう事なのだろうか。
 わけがわからない。

 アルシアは更に続ける。
「ルクナの姿も変わってる」
「女神様も?」
「私が知ってるルクナは、白髪で腰まであるほどの長い髪、そして瞳は白銀で、背も高かった」

 どういう事?
 それは、知らない。
 私の知っている女神様の姿は、この教会にある女神像の姿のままだ。

「アルシアさんの……生まれた地域では、そのお姿だったのですか?」
「違う。昔はさっき言った姿で伝わっていた。それなのに……変わってる」
「それは、どれくらい昔ですか?」
「……分からない。しばらく女神像の姿を見てなかったから」

 そう言ったアルシアは斜め下へと視線を落とし、どこか物淋しい面持ちを浮かべていた。
 何か大切なものが消えてしまったみたいな、そんな憂いのような顔。

 信じていたもの、大切に思っていたものが消えている。
 その悲しさは、私にもわかる。
 ロードリックが目の前から消えたように、アルシアも喪失感を感じているのだろう。

 けれど同時に不思議に思う。
 どうしてアルシアは、私の知らない女神様の姿を知っているのか。
 昔と言ったけれど、それはどれくらい昔なのだろう?

 ロードリックは女神様の姿が変わってるなんてことは言ってなかった。
 彼は、いま三十六歳になるはず。となると、少なくともロードリックが生まれた三十六年前までは今の姿だったということになる。
 それより昔となると、ある疑問も生まれてくる。

 アルシアは、いま何歳なのか。
 そして、なぜ今の女神様はアルシアにとても似た姿となっているのか。

 ……分からないことが多すぎる。
 とにかく色々と謎が多い。
 けれど恐らく、愚直に聞いても素直に教えてはくれないだろう。
 きっとはぐらかされる。
 だったらどうするべきか……。

 とりあえず、後で教えると言っていた事を聞いてみることにしよう。
 
「アルシアさんは、何を調べていたのですか?」

 するとアルシアは、私へ鋭い視線を向けた。
 
「……神話よ」

 神話を?
 何故、彼女が調べているの?
 
「あの……何故調べているんですか?」
「そりゃ調べたくもなるでしょ。あの女神像を見て何とも思わない? あれはまるで――」
「アルシアさんみたい」

 私が遮るようにそう言うと、アルシアは口ごもった。
 言われたくない、核心を突かれたような、そんな反応。

「……そうよ。おかしいでしょ……こんなの」
「それほど、アルシアさんは女神様みたいに見られるのが嫌なのですか?」
「………………」

 アルシアは、黙った。
 
 そうならそう、違うなら違うと言えば良いのに、何も言わない。
 アルシアはハッキリと物を言う人だと、私は思っている。
 それなのに黙りこくって何も言わないというのは、何かを隠している……ということ?

「……何故、黙るのですか?」
「言いたくないだけ」
「何故?」
「まだ……、アンタが知るには早いから」

 やはり……隠している。
 しかも私にはまだ知るのが早いと言った。
 それは教団のことか、はたまた神話の真実か、それともアルシア自身の
事か……。

 知るのが早い、というのが一体どういう意味なのか。
 それは分からない。
 だが、いずれ知るのならば今知ったところで変わりはないだろう。

 ならば――聞き出すしかない。

 私はついさっき、そのために使える素晴らしい物を見つけたところだ!
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