君のスーツを脱がせたい

文字の大きさ
2 / 5

2 君の体温

しおりを挟む
2

   大きな目がずっとコンプレックスだった。小さい頃はそれが原因でからかわれた。丸くて大きな目は自分にとって邪魔で中学高校では前髪で隠していた。
 でも、モデルの仕事でこの目は武器になった。自分の目を綺麗だと言ってくれる人がいる。
 初めて自分が載った雑誌を見た時驚いた。前髪を上げ、大きな目をさらしたカメラ目線の自分。
 自分の目を、自分のことを初めて好きになれた気がした。

 そして今、自分だけを見つめてくれる人に出会えた。


 「僕、蘭くんの目好きだな」


 「な、なんですか急に」


 キッチンカウンターを挟んで向かいにいる加瀬に蘭は言った。
 今日は一日一緒にいられることになった。だけどいざ、二人になると行きたい場所が思いつかず、蘭は思いっきって「加瀬さんのお家に行きたいです」と言った。

 「じゃあ、今日の夕飯は僕が作ろうかな」
と加瀬は蘭よりも内心はしゃぎ、スーパーに寄り、現在加瀬の家である。


 「もともと蘭くんの顔は好きなんだけどね。だって初めて会った時、顔ちっさ、肌白、って衝撃だったもん。でも一番、目が綺麗だなって思って」


 蘭の顔はみるみる赤く染まる。加瀬の顔が見れない。
 加瀬のすごいところはこういうところだ。好きだと思うことを恥ずかしげもなくまっすぐ伝える。こちらの方が恥ずかしくて、でも嬉しくてたまらない。
 自分だって加瀬をどれだけ好きかちゃんと伝えたい。

 「か、加瀬さんだって、お顔が美しいです。鼻筋も通ってて、目も綺麗で。身長が高くて、スーツが誰よりも似合って、あと、それから…」

 「それから?」

 加瀬は普段見ない意地悪な表情を浮かべている。
 蘭は言っている最中から恥ずかしすぎて運動なんてしていないのに軽く息が上がっていた。

 「えっと、それから…、と、とにかく加瀬さんがすごくかっこよくて、好きだってことです」

 半ば無理やりにまとめてしまったが加瀬は満足そうに、そして嬉しそうに笑みをこぼす。
 加瀬はカウンターの向こうから手を伸ばしてくしゃっと蘭の頭を撫でた。

 「僕も好きだよ」

 
 ーー 優勝。加瀬さんの笑顔と頭撫で、本当に優勝だ。ああ、好きすぎてしんどい。

 「じゃあ、そろそろ作ろうかな。蘭くんはリビングでゆっくりしてて。テレビも勝手にみていいよ」


 「え?手伝いますよ、俺」


 「ダメだよ。今日は蘭くんの誕生日だから、今日は存分に甘やかされて、ね?」


 もう十分過ぎるほど甘やかされているが、加瀬は一度言うとよほどのことがない限り曲げない。それに自分のために張り切ってくれている。任せよう。

 「ありがとうございます、じゃあ、待ってます」


 「うん、楽しみにしてて」




 想像の10倍はすごかった。加瀬は料理までできるらしい。逆に何ができないんだろうと疑問に思った。
 蘭が好きなハンバーグをはじめ、パエリアやアクアパッツァが並んだときは驚いた。店でしか食べたことなかった。
 そして一つ一つがすごくおいしい。

 
 「どれもめちゃくちゃおいしいです」


 「それはよかった。いっぱい食べて」


 おいしいものをたくさん食べて、好きな人が隣にいる誕生日。これまでの誕生日で一番幸せかもしれない。


 

 「加瀬さん、本当にありがとうございます」

 時間は夜の9時。ソファに二人で並びながら改めて加瀬に礼を言った。


 「ここまでしてもらえるなんて、本当に本当に感謝しかないです。今日すごく楽しくて幸せで」


 「僕も楽しかったよ。蘭くんの誕生日を祝えて嬉しかった」

 加瀬の手が触れる。温かい、蘭をいつでも優しく撫でる手。自然に指が絡まって恋人繋ぎになる。

 「スーツもすごく嬉しかったです。それに加瀬さんが作るスーツって本当に人を幸せにするんだなって思いました」

 加瀬はすごい。テーラーとしての力はもちろん、スーツにかける愛情と熱がスーツを着る人間を幸せにする。加瀬の仕事に対する誠実さは尊敬する。


 「そう言ってもらえて嬉しいよ。この仕事が好きだから。テーラーとして好きな人のスーツを作れるなんて本当に幸せな時間だったよ」


 加瀬と繋がっている指先が熱い。
 加瀬とずっと触れ合っていたい。二人の間に沈黙が生まれる。お互いが示し合わせたかのように顔を寄せ合う。
 唇が触れ合う。1回目は触れ合うだけのキス。2回目は少し口を開けて舌先だけを絡め合った。蘭の耳に加瀬が手を添える。
 慣れていくと加瀬が舌を大胆に蘭の舌と絡めて音が立つキスをした。部屋は静かでその音がやけに響く。
 加瀬と触れ合うたび、キスをするたびに加瀬を好きになる。今でも十分好きなのにもっと好きになっていく。
 唇が離れる。蘭の息は少し上がっている。苦しい。でもこれは甘い苦しみだ。だからもっと触ってほしい。キスだけじゃなくてもっと深くまで。
 蘭から顔を寄せると加瀬は蘭を抱き込むようにした。蘭の肩に顔を埋める。

 
 「今日はここまでにしよう。君が思ってるほど僕は大人じゃないんだよ。余裕なんてなくて、なさ過ぎて情けない」


 苦しくて何も言えなかった。もっと触ってほしい。けど、まだ加瀬はそこまで踏み込んでこない。加瀬は自分のことが好きだとわかる。でも、最後の一線は越えない。大切にされているのもわかる。でも、加瀬とキスのその先もしたい。それはわがままだろうか。

 蘭は次の日、朝から撮影があるので帰ることにした。帰り道、駅までの道を加瀬と歩いた。
 一人で帰るといっても心配だからとこうして送ってくれている。
 加瀬は優しい。そして、優しすぎる。
 帰りはあまり話さなかった。帰り際もお互い、また連絡する、うん、じゃあ、と口数少なめに別れた。
 加瀬に抱きしめられた時の体温がまだ残っている。その体温が消えてしまいそうで、消えてしまったら他のものまでなくしそうな気がして、自分の腕を抱きしめた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

500円の願い事

すもも
BL
気づくと扉の前に立っていた、何の変哲のない扉なのに何故かとても惹かれて中に入ると、そこにはあったのは不思議なカフェ。 「願い事をひとつ、書いてください」 そう言われて書いた願い事は ―素敵な恋人が出来ますように― 目を覚ましたその日から、少しずつ変わっていく日常。 不思議な出来事と、恋のはじまりを描く、現代ファンタジーBL。 この作品は別のサイトにも収録しています。

俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。

黒茶
BL
超鈍感すぎる真面目男子×謎多き親友の異世界ファンタジーBL。 ※このお話だけでも読める内容ですが、 同じくアルファポリスさんで公開しております 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 と合わせて読んでいただけると、 10倍くらい楽しんでいただけると思います。 同じ世界のお話で、登場人物も一部再登場したりします。 魔法と剣で戦う世界のお話。 幼い頃から王太子殿下の専属護衛騎士になるのが夢のラルフだが、 魔法の名門の家系でありながら魔法の才能がイマイチで、 家族にはバカにされるのがイヤで夢のことを言いだせずにいた。 魔法騎士になるために魔法騎士学院に入学して出会ったエルに、 「魔法より剣のほうが才能あるんじゃない?」と言われ、 二人で剣の特訓を始めたが、 その頃から自分の身体(主に心臓あたり)に異変が現れ始め・・・ これは病気か!? 持病があっても騎士団に入団できるのか!? と不安になるラルフ。 ラルフは無事に専属護衛騎士になれるのか!? ツッコミどころの多い攻めと、 謎が多いながらもそんなラルフと一緒にいてくれる頼りになる受けの 異世界ラブコメBLです。 健全な全年齢です。笑 マンガに換算したら全一巻くらいの短めのお話なのでさくっと読めると思います。 よろしくお願いします!

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

【短編】【完結】王子様の婚約者は狼

天田れおぽん
BL
 サティ王子はクルクルした天然パーマな茶髪が可愛い18歳。婚約者のレアンは狼獣人で、子供の頃は子犬のように愛くるしかったのに、18歳となった今はマッチョでかっこよくなっちゃった。 「レアンのこと大好きだから守りたい。キミは信じてくれないかもしれないけれど……」  レアン(すでにオレは、貴方しか見ていませんが?)  ちょっと小柄なカワイイ系王子サティと、美しく無口なゴツイ系婚約者レアンの恋物語。 o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。 ノベルバにも掲載中☆ボイスノベルがあります。

仲良くなったと思った相手は、どうやら友達なんて作りたくないらしい

たけむら
BL
仲良くなった相手は、どうやら友達なんて要らないっぽい 石見陽葵には、大学に入ってから知り合った友人・壬生奏明がいる。少し冷たそうな第一印象から周りの学生に遠巻きにされている奏明に、とある提案をしてみると、衝撃的な一言が返ってきて…?

ランドセルの王子様(仮)

万里
BL
大学生の森下優太(20)は、ある日の夕暮れ、ひったくり犯に襲われ絶体絶命のピンチに陥る。そんな彼を救ったのは、鮮やかなシュートで犯人を撃退した小学生の少年、日向蒼だった。 ランドセルを背負いながらも、大人顔負けの冷徹さと圧倒的なカリスマ性を持つ蒼。その姿に、優太はあろうことか「一目惚れ」をしてしまう。「相手は小学生、これはただの尊敬だ」と自分に言い聞かせる優太だったが、蒼のクールな瞳と救われた手の温もりが頭から離れない。 親友には「自首しろ」と呆れられながらも、理性と本能(ときめき)の狭間で葛藤する。禁断(?)のドキドキが止まらない、20歳男子による「かっこよすぎるヒーロー(小学生)」への片思い(自認はリスペクト)。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

処理中です...