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「泣いてばっかで…ごめんね」
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「……何か……悪いよぉ……」
今日、何回この言葉を聞いたか。
今日は慶もバイト休みって言ってたから、買い物に連れ出した。
……と、言うのも……全く服を持って無いからだ。
いつも履いてるジーパン1本と、2種類の七分袖のTシャツ。
それだけだ。
そして、多分だけど、下着とか靴下とかもきっと、持ってて2つ止まりだろうと予想。
靴だって1つ、だいぶ傷んでるスニーカー。
とにかく、何も持ってない。
ただ……思った通り、今日の買い物の分も後で払うと言って来たけど、慶からそんな金貰おうとは俺も思ってない。
で、誕生日を聞いたら12月だって言うから、誕生日プレゼントって事で無理矢理納得させた。
まぁ、俺に押し切られた感じ。
「寒くなって来たし、そんな薄いTシャツでどうすんだよ」
「…そん時は買おうと思ってたし…」
ぼそぼそ言ってる。
絶対、買わねぇだろ、それ。
~~~~~~~~
「「はぁ、疲れた」」
車の後部座席をショップの買い物袋が占領してる。
運転席と助手席にそれぞれ乗り込み、同時に同じ事を言った。
「あはは、一緒」
慶が可笑しそうに笑う。
それを見て、俺もフッと笑った。
全部買った。
慶は、幾ら使ったかやたら聞いて来たけど、俺だって一応店の看板背負ってるスタッフの1人だからそこそこ手取りあるし、こんなだけど案外貯金だって普通にしてる。
そりゃ、慶にしてみたら金額は気になるとは思うけど、それは俺が好きでやった事だし。
「………ほんとに、ごめんね…」
急にしおらしくなった。
「何が?」
「……俺、いっぱいお金使わせちゃってさ……携帯だって買って貰ったのに…」
絵に描いたようにしょんぼりしてる。
「あのさぁ、俺が勝手にやってんの。お前はそれに付き合ってるだけだよ」
「でも……」
「あーもう、でも、とかそういうネガティブ発言禁止な」
「えー、」
困惑顔でしばらく俯いてた慶が、
「あっ、じゃあさっ!」
急に大声で言うから、だいぶビビる。
「何だよ、急にデカい声だすなよ」
「あ、ごめん」
へへッと笑いながら言う。
「で、何だよ」
続きを聞いてやる。
何か思いついたっぽかったし。
「あの、今日は晩ご飯どっか食べに行こう?俺がおごるっ」
すごい得意気じゃん。
「え、でも、お前、」
「あんまり、すっごい高いとこは無理だけど……」
「無理すんな」
「無理じゃないよっ、お礼がしたいの」
ちゃんとした性格が出てる。
「…良いの?」
俺がそう言うと、嬉しそうに頷いて見せる。
「じゃあ…おごってもらおうかな」
「オッケー」
二ッと満足そうな顔で笑ってる。
~~~~~~~~
「マジで美味かった」
「ねっ、来て良かったね」
悩んで選んだのは、カレー屋。
本格的なカレーって、何か家では上手く作れないからさ。
慶もカレーは好きだったみたいで、選んだ店はほんとに正解だった。
ただ、ナンが初めての慶は、これ何、とか、どうやって食べるの、とか、何かやっぱりいつもの感じで軽く恥ずかしかったのは事実だが。
ま、結果、美味かったし、ちょっと面白かったから良いけどさ。
代金は、約束通り慶が支払ってくれた。
日払いのバイトだから、少しは持ってたんだろう。
一日俺に金を使わせたって恐縮してたから、晩ご飯くらいはって逆に気を遣わせてしまったかも知れなかったが、本人の自己満足の気持ちも汲んでやった。
帰り道、助手席の慶は寝てる。
一日、連れ回したし、試着も山ほどしたし……慶はそういうの全く慣れてないから、疲れたんだろう。
助手席の窓に時々頭をぶつけてるけど、それぐらいの揺れでは全く起きない。
そのまま起きるまでそっとしといてやろう。
明日は、またバイトだって言ってたし。
静かな車内。
家までは普通に走ると30分くらいだけど、時間的に混んでて…いつもの倍くらいはかかるかも…。
窓に凭れかかった慶の小さな頭。
車が揺れる度、少し伸びてる柔らかい色素の髪が顔の横でゆらゆらと動く。
気付くと、いつもより運転が慎重になってるし…。
信号が赤になり、緩やかにブレーキを踏む。
「…っ、ぃ……やだっ」
急に慶がバッと頭を起こした。
「おぉっ、」
突然の事でちょっとビビった。
慶は大きく目を見開いて、夢と現実を確認してる感じ。
少し肩で息をしてる。
車内だと理解出来たのか、俺の方を見て来たけど………その顔が、すごく怯えてるような表情をしてて……一気に心配になった。
初めて見る表情だった。
「大丈夫か?」
そう言って、青に変わった信号に従って車を発進させる。
「…うん……ごめん…」
それっきり、慶は話さず……俺も、何となく黙ったままで………
外を見ている、窓に写った慶の顔は……やっぱり、どこか悲しそうに見えた。
~~~~~~~~
居ない。
時間は夜中2時を過ぎたとこ。
「おやすみ~」といつものふわふわした声で俺に言って寝たのが、約2時間前。
1日歩き回って疲れてたから、慶も俺もすぐに寝たんだけど……慶は、何度かビクッと肩を揺らして目を覚ましてた。
寝ようとしてるのに、眠りにつけない感じ。
俺も、うとうとしてたけど、慶が起きる度につられて目が覚めた。
その内……2人とも寝てしまってたと思うんだけど……
今、ふと目を覚ましたら……隣に寝てるはずの慶の姿が無い。
トイレにでも行ってんのかと思ってみたけど……帰って来ないし音もしない。
気になって起き上がり、寝室のドアをそっと開ける。
リビングは暗い。
が…閉めてあったはずのカーテンが開いてて、そこから月明かりに照らされてベランダに出る窓が開いてる事に気付く。
レースカーテンが風でふわりと揺れる。
不意に……嫌な考えが過った。
ここから飛び降りたら、確実に死ねる。
俺は急いでそちらへ駆け寄り、カーテンを勢いよく開けた。
「っ、」
シャッ、と開いたカーテンに驚いたように、そこに立ってた慶が振り返る。
俺は今…どんな顔をしてるんだろう、ってちょっと思った。
…そこに慶はもう居ないかも知れない、って一瞬だけどそう思ったから。
小さく、息を1つ吐いて落ち着ける。
「…何やってんの」
夜は寒い。
慶は、家用に今日買ったばかりのフリースの上着を着てる。
慶用のベランダサンダルを突っかけて。
「…眠れなくて……夜景見てた」
また、視線を夜景へと戻す。
「風邪引くぞ、中入んな」
慶の背中に向かって言う。
「…ちょっと話す?」
俺がそう言うと、慶はまたこちらを振り返り、少し困ったように笑って……うん、とも、ううん、ともつかない返事をした。
飛び降りたと思った。
もう……死んでしまったかと思った。
同時に………まだ、離れたくない、と思ってしまった。
「ホットミルク飲める?」
俺の問いかけに慶はソファに座って頷く。
牛乳を温めて、砂糖を少し入れて甘くしてやった。
慶はその間、何も言わず……ソファの上で三角に足を折り曲げて、体育座り。
よく、その格好してるよな、と思って、少し和む。
「どうぞ」
「あ、ありがと」
フフ、と小さく笑ってカップを俺から受け取る。
床に置いてるオレンジがかった照明だけのリビング。
慶の隣に座ると、緩く照らされた横顔が、いつもより少し大人っぽく見えた。
「…おいし」
カップを口元にあてたまま、静かに慶が言う。
言い終わって、もう一口…。
「いつから居たんだよ」
「……30分くらい前かなぁ」
30分も外に居たのかよ…
「眠れないの?」
ややあって、慶が頷いた。
「車ん中でさぁ…お前、急に起きたじゃん。…あの時……すげぇ、辛そうに見えた」
怯えてるような……そんな顔に見えたんだ。
ホットミルクのカップを、テーブルに静かに置いて…また、最初と同じ格好になる。
小さな深呼吸を1つして、慶が口を開いた。
「家族は居ない、って言ったけど……中3の時、死んだんだ。…父さんと母さんと、兄さん」
…死んだんだ…。
……兄弟も居たのか…。
「もうすぐ命日で……来週なんだけど……毎年…命日が近付いて来ると、何か……落ち着かなくて…」
慶以外の家族が、何でそんな事になったのか………事故かな……………
…さすがに……聞けない。
中二の時の事が、二十歳になった今でも消化し切れてないのに……何で死んだのかなんて、聞けるはずがない。
慶が言わない限り……
「いつもね………夢見るんだ。……毎年、毎回、同じ夢…」
静かなトーンで……少しだけ掠れたような声。
「…その夢…………もう、見たくないんだ……」
辛い出来事だったんだ、って聞かなくても分かる。
「でも……やっぱり、今年も同じ………だから……寝たくない…」
だから、起きてたのか…。
夜景見てた、とか言ってたけど……
ほんとは……夢を見たくないから……寝たくないんだ……
「慶…」
ゆっくりと俺の方を向く。
その目には、やっぱり涙が溜まってて……
ほんとに、コイツは……
ずっと泣いて来たんだ、って思わされる。
こんなに泣く奴、初めてだよ…俺の人生の中で…。
「嫌な事、話させてごめんな」
ううん、と首を振る。
涙はもう、零れ落ちている。
「…夢は……見るかも知れない。…そこは……俺にはどうにも出来ないけど…………でも、俺は、お前の隣に居てやるよ…」
慶は、体ごとこっちへ向けて、俺に向き直す。
「侑利くん……」
照明に背を向けてて……表情ははっきりとは分からない。
…ただ……涙で潤んだ目と少し開いた口元が……すごく、キレイだって思えた。
「もっと……近くに来て…」
言われるままに、慶の方へ体を寄せると………慶は、俺の腕を取って引き寄せ、背中に腕を回し思いきり抱き着いて来た。
俺から抱きしめる事はあったけど……
慶から、こんなのは初めてで……
助けが必要なんだって思った。
俺が…傍に居てやらないといけない、って……自然に思えた。
「泣いてばっかで…ごめんね」
俺にぎゅうぎゅうと体を押し付けて来る慶を、今度は俺が抱き締める。
「良いよ、謝んなくて」
俺が想像してるような……人生じゃ無いのかも知れない。
俺の想像もつかないような、辛い人生を送って来たのかも知れない。
でも、それはまた……この先分かれば良い事で……
今はただ……慶の気持ちが少しでも軽くなるように……
慶が少しでも…寝られるように……
俺が、受け止めてやるだけだ。
今日、何回この言葉を聞いたか。
今日は慶もバイト休みって言ってたから、買い物に連れ出した。
……と、言うのも……全く服を持って無いからだ。
いつも履いてるジーパン1本と、2種類の七分袖のTシャツ。
それだけだ。
そして、多分だけど、下着とか靴下とかもきっと、持ってて2つ止まりだろうと予想。
靴だって1つ、だいぶ傷んでるスニーカー。
とにかく、何も持ってない。
ただ……思った通り、今日の買い物の分も後で払うと言って来たけど、慶からそんな金貰おうとは俺も思ってない。
で、誕生日を聞いたら12月だって言うから、誕生日プレゼントって事で無理矢理納得させた。
まぁ、俺に押し切られた感じ。
「寒くなって来たし、そんな薄いTシャツでどうすんだよ」
「…そん時は買おうと思ってたし…」
ぼそぼそ言ってる。
絶対、買わねぇだろ、それ。
~~~~~~~~
「「はぁ、疲れた」」
車の後部座席をショップの買い物袋が占領してる。
運転席と助手席にそれぞれ乗り込み、同時に同じ事を言った。
「あはは、一緒」
慶が可笑しそうに笑う。
それを見て、俺もフッと笑った。
全部買った。
慶は、幾ら使ったかやたら聞いて来たけど、俺だって一応店の看板背負ってるスタッフの1人だからそこそこ手取りあるし、こんなだけど案外貯金だって普通にしてる。
そりゃ、慶にしてみたら金額は気になるとは思うけど、それは俺が好きでやった事だし。
「………ほんとに、ごめんね…」
急にしおらしくなった。
「何が?」
「……俺、いっぱいお金使わせちゃってさ……携帯だって買って貰ったのに…」
絵に描いたようにしょんぼりしてる。
「あのさぁ、俺が勝手にやってんの。お前はそれに付き合ってるだけだよ」
「でも……」
「あーもう、でも、とかそういうネガティブ発言禁止な」
「えー、」
困惑顔でしばらく俯いてた慶が、
「あっ、じゃあさっ!」
急に大声で言うから、だいぶビビる。
「何だよ、急にデカい声だすなよ」
「あ、ごめん」
へへッと笑いながら言う。
「で、何だよ」
続きを聞いてやる。
何か思いついたっぽかったし。
「あの、今日は晩ご飯どっか食べに行こう?俺がおごるっ」
すごい得意気じゃん。
「え、でも、お前、」
「あんまり、すっごい高いとこは無理だけど……」
「無理すんな」
「無理じゃないよっ、お礼がしたいの」
ちゃんとした性格が出てる。
「…良いの?」
俺がそう言うと、嬉しそうに頷いて見せる。
「じゃあ…おごってもらおうかな」
「オッケー」
二ッと満足そうな顔で笑ってる。
~~~~~~~~
「マジで美味かった」
「ねっ、来て良かったね」
悩んで選んだのは、カレー屋。
本格的なカレーって、何か家では上手く作れないからさ。
慶もカレーは好きだったみたいで、選んだ店はほんとに正解だった。
ただ、ナンが初めての慶は、これ何、とか、どうやって食べるの、とか、何かやっぱりいつもの感じで軽く恥ずかしかったのは事実だが。
ま、結果、美味かったし、ちょっと面白かったから良いけどさ。
代金は、約束通り慶が支払ってくれた。
日払いのバイトだから、少しは持ってたんだろう。
一日俺に金を使わせたって恐縮してたから、晩ご飯くらいはって逆に気を遣わせてしまったかも知れなかったが、本人の自己満足の気持ちも汲んでやった。
帰り道、助手席の慶は寝てる。
一日、連れ回したし、試着も山ほどしたし……慶はそういうの全く慣れてないから、疲れたんだろう。
助手席の窓に時々頭をぶつけてるけど、それぐらいの揺れでは全く起きない。
そのまま起きるまでそっとしといてやろう。
明日は、またバイトだって言ってたし。
静かな車内。
家までは普通に走ると30分くらいだけど、時間的に混んでて…いつもの倍くらいはかかるかも…。
窓に凭れかかった慶の小さな頭。
車が揺れる度、少し伸びてる柔らかい色素の髪が顔の横でゆらゆらと動く。
気付くと、いつもより運転が慎重になってるし…。
信号が赤になり、緩やかにブレーキを踏む。
「…っ、ぃ……やだっ」
急に慶がバッと頭を起こした。
「おぉっ、」
突然の事でちょっとビビった。
慶は大きく目を見開いて、夢と現実を確認してる感じ。
少し肩で息をしてる。
車内だと理解出来たのか、俺の方を見て来たけど………その顔が、すごく怯えてるような表情をしてて……一気に心配になった。
初めて見る表情だった。
「大丈夫か?」
そう言って、青に変わった信号に従って車を発進させる。
「…うん……ごめん…」
それっきり、慶は話さず……俺も、何となく黙ったままで………
外を見ている、窓に写った慶の顔は……やっぱり、どこか悲しそうに見えた。
~~~~~~~~
居ない。
時間は夜中2時を過ぎたとこ。
「おやすみ~」といつものふわふわした声で俺に言って寝たのが、約2時間前。
1日歩き回って疲れてたから、慶も俺もすぐに寝たんだけど……慶は、何度かビクッと肩を揺らして目を覚ましてた。
寝ようとしてるのに、眠りにつけない感じ。
俺も、うとうとしてたけど、慶が起きる度につられて目が覚めた。
その内……2人とも寝てしまってたと思うんだけど……
今、ふと目を覚ましたら……隣に寝てるはずの慶の姿が無い。
トイレにでも行ってんのかと思ってみたけど……帰って来ないし音もしない。
気になって起き上がり、寝室のドアをそっと開ける。
リビングは暗い。
が…閉めてあったはずのカーテンが開いてて、そこから月明かりに照らされてベランダに出る窓が開いてる事に気付く。
レースカーテンが風でふわりと揺れる。
不意に……嫌な考えが過った。
ここから飛び降りたら、確実に死ねる。
俺は急いでそちらへ駆け寄り、カーテンを勢いよく開けた。
「っ、」
シャッ、と開いたカーテンに驚いたように、そこに立ってた慶が振り返る。
俺は今…どんな顔をしてるんだろう、ってちょっと思った。
…そこに慶はもう居ないかも知れない、って一瞬だけどそう思ったから。
小さく、息を1つ吐いて落ち着ける。
「…何やってんの」
夜は寒い。
慶は、家用に今日買ったばかりのフリースの上着を着てる。
慶用のベランダサンダルを突っかけて。
「…眠れなくて……夜景見てた」
また、視線を夜景へと戻す。
「風邪引くぞ、中入んな」
慶の背中に向かって言う。
「…ちょっと話す?」
俺がそう言うと、慶はまたこちらを振り返り、少し困ったように笑って……うん、とも、ううん、ともつかない返事をした。
飛び降りたと思った。
もう……死んでしまったかと思った。
同時に………まだ、離れたくない、と思ってしまった。
「ホットミルク飲める?」
俺の問いかけに慶はソファに座って頷く。
牛乳を温めて、砂糖を少し入れて甘くしてやった。
慶はその間、何も言わず……ソファの上で三角に足を折り曲げて、体育座り。
よく、その格好してるよな、と思って、少し和む。
「どうぞ」
「あ、ありがと」
フフ、と小さく笑ってカップを俺から受け取る。
床に置いてるオレンジがかった照明だけのリビング。
慶の隣に座ると、緩く照らされた横顔が、いつもより少し大人っぽく見えた。
「…おいし」
カップを口元にあてたまま、静かに慶が言う。
言い終わって、もう一口…。
「いつから居たんだよ」
「……30分くらい前かなぁ」
30分も外に居たのかよ…
「眠れないの?」
ややあって、慶が頷いた。
「車ん中でさぁ…お前、急に起きたじゃん。…あの時……すげぇ、辛そうに見えた」
怯えてるような……そんな顔に見えたんだ。
ホットミルクのカップを、テーブルに静かに置いて…また、最初と同じ格好になる。
小さな深呼吸を1つして、慶が口を開いた。
「家族は居ない、って言ったけど……中3の時、死んだんだ。…父さんと母さんと、兄さん」
…死んだんだ…。
……兄弟も居たのか…。
「もうすぐ命日で……来週なんだけど……毎年…命日が近付いて来ると、何か……落ち着かなくて…」
慶以外の家族が、何でそんな事になったのか………事故かな……………
…さすがに……聞けない。
中二の時の事が、二十歳になった今でも消化し切れてないのに……何で死んだのかなんて、聞けるはずがない。
慶が言わない限り……
「いつもね………夢見るんだ。……毎年、毎回、同じ夢…」
静かなトーンで……少しだけ掠れたような声。
「…その夢…………もう、見たくないんだ……」
辛い出来事だったんだ、って聞かなくても分かる。
「でも……やっぱり、今年も同じ………だから……寝たくない…」
だから、起きてたのか…。
夜景見てた、とか言ってたけど……
ほんとは……夢を見たくないから……寝たくないんだ……
「慶…」
ゆっくりと俺の方を向く。
その目には、やっぱり涙が溜まってて……
ほんとに、コイツは……
ずっと泣いて来たんだ、って思わされる。
こんなに泣く奴、初めてだよ…俺の人生の中で…。
「嫌な事、話させてごめんな」
ううん、と首を振る。
涙はもう、零れ落ちている。
「…夢は……見るかも知れない。…そこは……俺にはどうにも出来ないけど…………でも、俺は、お前の隣に居てやるよ…」
慶は、体ごとこっちへ向けて、俺に向き直す。
「侑利くん……」
照明に背を向けてて……表情ははっきりとは分からない。
…ただ……涙で潤んだ目と少し開いた口元が……すごく、キレイだって思えた。
「もっと……近くに来て…」
言われるままに、慶の方へ体を寄せると………慶は、俺の腕を取って引き寄せ、背中に腕を回し思いきり抱き着いて来た。
俺から抱きしめる事はあったけど……
慶から、こんなのは初めてで……
助けが必要なんだって思った。
俺が…傍に居てやらないといけない、って……自然に思えた。
「泣いてばっかで…ごめんね」
俺にぎゅうぎゅうと体を押し付けて来る慶を、今度は俺が抱き締める。
「良いよ、謝んなくて」
俺が想像してるような……人生じゃ無いのかも知れない。
俺の想像もつかないような、辛い人生を送って来たのかも知れない。
でも、それはまた……この先分かれば良い事で……
今はただ……慶の気持ちが少しでも軽くなるように……
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俺が、受け止めてやるだけだ。
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