laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

seaco

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「……俺さぁ…………お前に会いてぇわ」

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今日は、朝からずっと観光している。

完全に、旅行内容は後輩に丸投げしてるから、観光と言われれば素直にそれに従う。
先輩がそんな奴ばっかで大丈夫か、とも思うけど……誰も、文句言わないからOKだろう。

沖縄は全員初めてで、観光スポットも多いから、1日で色んな所を見て回ったりして旅感がすごくある。

詰め込んでるから、ちょっと弾丸的なとこはあるけど……それでもテレビや雑誌でよく紹介される観光スポットを実際に体感出来るっていうのは、すごく新鮮で価値がある。

こんな機会でも無いと沖縄なんて来れないし、ましてやこのメンバーで旅行なんてまず無理だ。

明日は、飛行機の時間までそれぞれ自由。
お土産や他の買い物などは荷物にもなるし明日にした、って言ってた。

よく考えてる。
俺だったらこんな風に配分出来ねぇわ。




「よ」

天馬が行き成り肩を組んで並んで来た。

「巴流と大和がさぁ……」

嫌な予感。

「侑利が誰かのモノになってしまうかも知れない、って嘆いてた」

……やっぱり…

「朝からうるせぇの」
「そうなの?何で?」

組んでた肩から手を外し、緩く被ったキャップを直しながら天馬が言う。

「…俺が…寝言で慶って言ってたって」
「え?」
「それ、聞いたみたいで……」
「あはは、そりゃ大変じゃん」
「慶って誰だ、って、起きて早々だよ」
「で、どうしたの?」
「…無視」

俺の答えにもう一度可笑しそうに笑う。

「無視で終わらせてんの?」
「そう」
「あはは、面白ぇ」

面白がってんじゃねぇよ。
ひとしきり笑って、最後は、はぁ~あ、と笑いを終わらせる。

「慶ちゃん、夢に出て来たの?」
「え……それは覚えてない」
「でも、名前呼んでたんでしょ?」
「………知らねぇし」

覚えてねぇよ。
夢ってそういうもんじゃん。

はっきり覚えてるのもあるけど……少なくとも俺は、大概忘れてる。

「侑利さぁ」
「あ?」
「……この旅行で、何か変わった?」
「変わる?」

天馬の言いたい事は何となく察しがついたけど…。

「離れてみて、どう」
「どうって、何が」

しらばっくれてみる。

「慶ちゃんだよ」


……分かってるよ。


「……分かんねぇ、まだ。…すげぇ気になってるのは事実だけど………アイツが、死のうと思うくらい行き詰ってるの知ったから……何とかしてやりたいって気持ちがすげぇあって……それが……どういう感情なのか………俺も…分かんなくて…」


最後は少し小声になってしまった。


「俺は……それは、好きだと思うわ」


うん、と頷きながら天馬が言う。
奏太も同じ事言ってたよ…。


「とにかくさぁ……どうなるか分かんねぇけど、侑利が慶ちゃんと向き合って行くんだったら、俺は全力で侑利を応援するよ」


沖縄の空の下で聞くと、男前に拍車かかってんな…。


「…恥ずぅ」


天馬の赤面するようなセリフに、思わず本心を呟いた。


「俺は、親友として侑利の恋を応援したいんだって」
「恋、って」
「違うの?」
「…分かんねぇっつってんじゃん」


ほんとは、分かってるけど………それを認めてしまうのが怖いのかも知れない。
慶は……俺にただ懐いてるだけで……そんな感情を俺が持ってるって知ったら……出て行ってしまうかも知れない、とか……ちょっと考えてるからさ、俺。







1日観光してて、さすがに疲れて……もう今日は早めに飯食って寝ようって誰かれともなく言い出した。


17時半。

予定より少し早く、今夜の食事処にやって来た。
メインは鍋らしい。
暑いところで熱い鍋を堪能するみたいだ。

後輩が大部屋を予約してたらしく、ゆったり座れて良い感じ。
どこまでも、手際の良い奴らにマジで感心しかない。

注文した鍋の具材や一品料理などが次々と運ばれて来てる。



俺は、少し……気になってる事があった。


それは………勿論、慶の事。

今日は朝に「バイトに行く」と連絡があっただけで………昼も夕方も俺のメッセージは開けられる事なく、慶からも何も言って来てない。

バイトももう終わってる時間だろうけど……


何か、あったんだろうか…。
仕事が長引いてるって事もあるだろう……。



「…り、……侑利っ」
「え、あ、あぁ、何」

隣に座ってる天馬に何度か呼ばれてた。
俺は今完全にボーッとしてた…。

「何飲む?」
「あ、ビールで」

あんまり考えられなくて、適当にビールを頼んだ。

考え出したら……色んな方向へ巡って行く思考。
俺ってこんなに人に左右させられるタイプじゃなかったと思うんだけど…。




vvvvv…vvvvv…vvvvv…


乾杯が終わって、鍋がそろそろ出来上がるかな、って頃……

パンツのポケットの中で携帯が震え出した。
1コールじゃないから、電話だと分かる。

取り出して画面を見ると……予想通り、慶、とあった。

「はい」

逸る気持ちを押さえながら電話に出る。

『侑利くん』

慶の声。

「あ、ちょっと待って」

周りが煩く、電話の声がよく聞こえないのもあって、天馬にそっと告げて大部屋を出る。
少し急いで店の外に出て辺りを見渡し、とりあえず自販機横のスペースに移動。



「あ、悪い」
『あ、うん』

今度は、よく聞こえる。
慶の声はフワフワしてて、何か和む。

『急に電話してごめんね』
「いや、別に良いよ」

むしろ、ちょっと、待ってたし。

『どっか行ってるの?』
「飯食いに来てる」
『あ…ごめんね』
「良いって」

気ぃ遣いすぎだよ、お前は。

「バイト、忙しかったの?」
『え…何で?』
「携帯、見れてないみたいだったから」
『あ……うん…ごめんね』

ほら、また謝る。

「ははっ、お前、謝りすぎ」


茶化したつもりだった。
「もぉーーっ」とか言って来るかな、って思ってた。



なのに……



『……ごめんなさい…』



って……泣いてるみたいな声で言うもんだから………



「…どした?」


返事が無い。


「慶?」



………沈黙。



でも、その沈黙の間に、少しだけ震えた声が聞こえた。



「慶、泣いてんのか?」



何とか、言ってくれよ。



『……ぅ、………っ、』



苦しそうな声。

泣き声を堪えてる。




「慶、………我慢しなくて良いからさ……何があったか、話してくれねぇ?」




後は、待つ。


慶が、話す気になるまで…。



傍に居てやれないから……こうして待つしかない。





『……………涙が止まらなくて……何も食べれなくて…………ずっと………寝れなくて……………嘘言って……ごめんなさい………』





……何も言えなかった。



……やっぱり………そんな事になってたんだ……


涙が止まらない事も、何も食べてない事も、ずっと寝れてないって事も……全部が俺の頭ん中にガンガン響いてる……



全く……気付いてやれなかった自分が情けなくて…。


いや、気付いてやれなかったんじゃない………そうじゃないかって思ってたのに、突き詰める事をしなかった。


どこかで、大丈夫だって信じたかったし……そうであって欲しかったんだ。



だけど……




「……ずっとって、いつからだよ」


『…1人になってから……ずっと』




鼻の奥の方がツンとした。




『……やっぱり……夢見ちゃって………ちょっと、寝ただけでも……出て来ちゃって…………何回も……寝ようとしたけど……でも…絶対……見るから………もう、寝たくなくて……寝るのが怖くて…………ずっと……起きてる…』


慶の声はずっと震えてる。
俺の好きな、フワフワした声は……今は聞こえない。


ずっと起きてる、って………
1人になってから、寝てないって事?



『……でね……………あの、…………』



まだ、何かあんだな…。
良いよ、全部言って。


「ゆっくりで良いよ、隠さないで全部話して」


少し、大きく深呼吸するのが聞こえた。
吐く息はやっぱり震えてる。



『…さっき……また……バイト…クビになっちゃった……』



「え?」




………色んな事…ありすぎだろ…。





『……もう…耐えられなくて……眠くて………立ってられなくて…………少し休憩しようと思ったんだけど……………休憩したらもう…立てなくて………そのまま……寝てた……』



寝たんだ…。


体は眠りたいのに、精神が眠らせないんだもんな……
それで丸2日起きて3日目バイト行ったら、そりゃ誰だって眠いよ。


飯も、食ってないんだからさ……

逆に、寝れて良かったじゃん、って思ってしまった…



『近くの交番に、誰かが連絡したらしくて……上の人が呼び出されて……その場でクビになった…………仕事中に爆睡するような奴要らないって…………そりゃそうだよね………………そんな時に限って…あの夢見ないんだもん……………バカでしょ……ほんとに………もう、やだよ…』



バカじゃねぇよ。




『……このままじゃ……侑利くんに渡すお金も……用意出来なくなっちゃうから………そしたら………出て行かないといけないし…………早く…次のバイト見つけないと、って………すごく焦ってる……』



そんな事、本気で思ってんの?
出て行かないといけない、とか……マジで思ってんだったら、それに対してはバカだわ、多分。



『………落ち込んじゃって……さすがに………………呆れられると思ったけど………電話しちゃった………』




………これは………慶が1人で受け止めるには………きっと、重すぎる展開だ…。





『侑利くん……………俺…………こんなんで、ごめんね………』




慶が泣いている。


今までずっと、泣いてたのに………追い打ちかけるような事が起きて………また泣いてる。






「お前が俺に謝る必要なんかねぇよ」



大した事は言えないかも知れない。



「慶はバカじゃねぇよ。………それから…俺は呆れたりなんかしねぇよ」



……こんな、ありきたりな事しか言えない。
お前を、引っ張り上げるような威力は無いかも知れない…。



でも……ほんとにそう思うから…。







「……俺さぁ…………お前に会いてぇわ」






慶は電話の向こうで黙ってる。
けど、泣き続けてんのはバレバレで……





『……ゆ、…りくん…』




聞き取れないぐらいの、涙声。




『……も、う………限界……』




……また………良からぬ事が頭を過った。

慶は、頭の中に………「生きる事を止める」って選択肢がある奴だ。




「慶、もうちょっと待ってろっ、俺、帰るから」



何も考えて無かった。

ただ、慶に一刻も早く会いたいって思っただけで………気付いたらそう言ってた。



『…え、』


「待ってろよっ」



俺は、そう言い放って立ち上がった。

待ってろ、と言って切った携帯をグッと握りしめて、店内に戻る。





みんなが居る大部屋から、既に盛り上がってる感じの声が聞こえて来てる。
この後、俺が……沖縄最後の飲みの席に水をさす事になるけど………もう、俺はそうする事しか出来ない。


慶に会いたくて仕方ねぇんだ。



力が入ってて、大部屋の戸を思ったよりも強く開けてしまったせいで、全員の動きが一瞬止まって……皆が俺に注目してる…。

天馬も驚いたように俺を振り返る。

「ど、…どした、侑利」

相当、俺が切羽詰まった顔をしてたんだろう…。


「…みんな、悪い……俺、先、東京帰るわ」
「え、…」


全員、同じ反応だ。
そりゃ、そうだろうな………

財布から適当に金を出して、唖然としたままの巴流に無理矢理押し付けた。

「お、おい、侑利、」
「ごめんな、今度、何か奢る」

全員を見渡してもう一度謝り、大部屋を出た。



「おい、ちょっと、侑利っ」

店を出た所で、追いかけて来た天馬に呼び止められた。

「どした?」

振り返った先に居る天馬は、心配そうな顔してる。


「…天馬…ごめんな」
「いや、良いけどさ……何あった?」


おおよそ見当は付いてんだろうけど…。



「………アイツさぁ、…………ずっと泣いてたんだ…」
「慶ちゃん?」
「……俺が出て来てから、ずっと……」


少しした後、天馬は口の端を上げて男前に微笑んだ。


「落ち着いたら、連絡よこせよ」
「ありがと………天馬には…後でちゃんと話すから」


見た目チャラいけど、直ぐに理解して俺を認めてくれる。
昔から変わらず、俺を親友だと言ってくれるお前には、ほんと感謝してる。


「…天馬の言ってた通りかも」
「え?」
「俺…慶の事、きっと好きなんだと思う」


俺の言葉に、ハハッと笑うと、俺の髪を掴んでグシャグシャに混ぜた。


「行って来い」
「ん。じゃな」

軽く手を上げて、天馬と別れた。







ホテルに戻るタクシーの中で、飛行機の時刻表調べて、荷物纏める時間も入れて間に合いそうな便を手配した。

荷物なんかもう、キャリーバッグの中はグチャグチャだ。
適当に放り込んだから何か忘れてるかも知れないけど、それはまた明日、巴流か大和が持って帰って来てくれるだろう。

とにかく、すごい勢いで荷物を纏めて空港に向かった。





慶は今……どうしてるのか……

待ってろ、と言い放って電話を切ってから……とにかく衝動的な行動だったから、連絡も出来ないまま既に空の上だ。


あと数時間。


………こんなに………会いたいって思うなんて……
どこかがおかしくなってしまったんじゃないだろうか、ってぐらい……慶の事しか考えて無い自分が居る。


会ったら先ず何を言おうか……


今は全く浮かんで来ないけど……




とにかく……涙を止めてやりたい。

そして……ぐっすり眠らせてやりたい…。




俺に出来るかは分からないけど……



隣に居てやる事で……何か変われば……




慶の笑ってる顔が…早く見たいんだ。







~~~~~~~~



少し寝てた。
着陸間近の機内の揺れで目を覚ました。


東京だ。

着いた…。


全速力で駆け出したい気分を、ぐっと堪えて完全に停まるのを待つ。



来る時は天馬に乗せて来てもらったから足は無く、迷いなくタクシーに飛び乗る。
運転手に行先を告げて、携帯を取り出し慶に電話をかける。


ppppp…ppppp…ppppp…ppppp…ppppp…


出ない。

………嫌な考えしかなくて……心臓がちょっとバクバクしてる。


メッセージを送ってみるも、こっちも既読にならない。



何やってんだ、アイツ……電話、出ろよな…







慶から、何の連絡も無いままマンション下にタクシーが着いた。

もう、おつりを貰う時間さえもまどろっこしくて、トランクから荷物を取り出しながら「釣りは要りません」と言って、エントランスに向かって走る。

引っ張ってるキャリーバッグが煩くて、両手で持ち上げてエレベーター前まで来た。
中へ乗り込んで5階を押し、とりあえず深く長い深呼吸を1回。


心臓は、走ったせいもあって煩いぐらいに速い。

5階で開いた扉をこじ開ける様にしてフロアに出て、通路を急ぐ。



ドアの前で立ち止まる。
自分の家なのに、何故か少し緊張した。

焦って鍵も上手くささらないけど……何とか開けて中に入る。



「…暗、」


中に入ると、部屋は全部電気が消えてる。
人が居る雰囲気じゃない。

スイッチを押して玄関の電気を点ける。
明るくなったそこを見ると、この前買った慶の靴が無い。

どこかに行ってるんだな、とは思ったけど……一応、中も見回す。

重いキャリーバッグは玄関に放置して、自分だけ中へ進む。
リビングの電気を点けてみるも……やはり、慶の姿はない。

一応、寝室、もう1つの部屋、トイレ、洗面、風呂…それから念のためクローゼットとベランダを全て確認したけど……慶はどこにも居なかった。


もう一度、電話をかけてみる………


…と、どこからか携帯のバイブ音が聞こえる。
音のする方へ行くと、ソファの隅に慶の携帯が置きっ放しになっていた。


「……何だよ……」


忘れてんのかよ……
……連絡つかねぇとか、マジで勘弁…。

携帯が置き去りにされてる事実に、一瞬放心になったけど………すぐに…探しに行かないと、っていう気になった。


数時間前まで居た沖縄とは違う気候に、自分の薄着に改めて気付いて少し身震いした。
目に付いたパーカーを引っ掴んで、今来た通路を引き返す。


慶の居場所に心当たりがある訳では無かったが………1つだけ……確認したい場所があった。



あの公園に………居るような気がすんだ…………









公園までは徒歩で10分くらい。
今日は全速力で行く予定だから、5分あれば着くだろう。


足がもつれそうになったけど、休まず走った。




大人になってこんなに全速力で走る事ってそうそうねぇな…。
端から見たら、コイツは何を必死に走ってんだ、って思われるだろう。


でも、そんな事は別にどうでも良くて、ただ、早く、慶を見付けたかった。





遊具の少ない公園。
道沿いだけど、人の利用は少ない。

夜は特に。
街灯が明るい訳でも無く、ベンチが沢山ある訳でも無い………むしろ、夜はひっそりしてる方だろう…。

久しぶりにこんなに必死で走ってるせいで、膝が笑ってる感覚があるけど……もう、勢いで走り切った。

公園をぐるりと囲む植え込みが見えて来た。
何か所か、公園に入れるようにその植え込みが途切れてる所がある。

そこから、公園内が少し見える。
向かいのコンビニの位置から、道路を横断出来るタイミングを伺いつつ、公園内を見る。



よく見えない。
人が居るかどうかも、ここからでは分からない。


車が途切れた間を見計らって、全力疾走で渡り切る。
そのままの勢いで、植え込みの間から公園内に走り込んだ。

行き成り、地面がコンクリートから運動場みたいな土に変わった事で、ズリッと滑って転びそうになる体制を何とか踏み止まって立て直す。





一番手前のベンチ。
俺が、突如、飛び込んだところのすぐ近く。



行き成りすぎる登場に、驚きの余り思わず立ち上がった人影が……………慶だった。





マジで、居た。


瞬きもしないで俺を見てる。




びっくりしたまま固まってる慶の方へ、ガクガクなってる膝を何とか動かして一気に近寄る。


目の前に立った俺に……慶は……まだ、何も言えずに居る。



何か話したいけど、とにかく息が整わない。
少しの間、俺は肩で息をして…………何回かの深呼吸で、無理矢理落ち着かせた。



「……ほんとに………帰って来た……」



先に、声を発したのは慶だった。
少し掠れてる。


「……帰るっつったじゃん」

「……うん」


驚いた顔から、柔らかな表情に変わった。


時間は多分……23時を過ぎている。


「何してんの」
「……散歩かな…」

………そう、来るか。

「…侑利くんは…?」
「……………ジョギング」

ふふ、と慶が俯いて笑った。
一気に……気持ちが和む。

「……ジョギングの速さじゃなかったよ」
「……全速力だったからな」

どうでも良い会話だけど………今の俺と慶には、必要だと思えた。

小さくクスクスと笑っていたのに、顔を上げた慶はもう、瞬きをしたら零れ落ちてしまうくらい涙が溜まってて………何か言おうとして震えてる唇とか……夜風に吹かれて緩くなびいてる髪とか……


目の前に居て……手が届くとこに立ってんだって思ったら……



思わず、その腕を掴んで引っ張り寄せて……



身動き出来ないぐらいの力で抱きしめていた。




誰が見てたって良い、って思えた。




「……侑利くん……」

慶は、苦しそうに少し身を捩って隙間を作る。

「…旅行……邪魔しちゃって…ごめんね」

溜まってた涙は、もう、すっかり溢れ出してるんだろう。

「…そんな事、気にしなくていい。……………あ、でも………土産買えなかったわ」

肩口で、小さく笑う声が聞こえた。

「…そんなの、気にしなくていいよ…」

そう言った後、慶は俺から少し体を離して、今度は真直ぐ俺を見つめた。


「…帰って来てくれて……ありがとう………」


また、その目に涙が溜まる。
もう、泣いてんの見たくねぇんだけどな……


「俺が……我慢出来なかったから」
「え?」
「…お前に……会いたくて仕方なかった」


……こんな言葉……今まで彼女にだって言った事ねぇよ…。


俺を見つめていた慶の目が、ゆらりと揺れて少し目を伏せる。
その傾きに、新たに溜まってた涙の滴が幾つも落ちた。


慶は……いつもそんな風に……キレイに泣く。







「…俺………お前が好きだ…」







言った。




慶が急いで顔を上げる。

その顔はもう、涙でぐちゃぐちゃだけど………それでも……好きだと思ってしまう。



「……お前が居んだわ……俺ん中に。………最初はさぁ、頭の片隅に引っかかってる感じだったのに…………今は……真ん中に思いっきり居んの」



慶の唇が震えてる。
涙と、寒さと、色んな感情と………

さっきから何か言おうとしてるけど、言葉になって出て来ない。



「バイト、クビになったって…出て行かなくていい。新しいアパートも探さなくていい。………一緒に、居て欲しい」


クサい台詞も、いくらでも出て来る。
俺……完全に、どうにかなってしまった感あるわ…。

慶はポロポロと落ちて来る涙を止めようともせず、ずっと黙って聞いている。




「………返事……してくんねぇ?」




後は、慶の返事を待つ。

これで、ごめんなさい、とか言われたら……正直、俺、明日からどうすんだって思うけど………
それはそれで仕方ない……慶が、それを選ぶなら……



だけど……


自惚れかも知れないけど………


自意識過剰かも知れないけど……………



慶は………多分……




「…俺の中も……侑利くんしか見当たらない……」




……ほら、




「……侑利くんしか居ない…」




………やっぱり…




「…俺も……侑利くんが好きだよ」




………来たっ。




もう一度、引っ張って抱きしめた。

寒い中、男2人で突っ立って何やってんだ、って思われるかも知れないけど……


そんなの知った事じゃない。
ほっといてくれ。


俺は……目の前のコイツが、好きでたまんねぇんだから。











「…慶、」

しばらく抱きしめてたけど……少し、力を緩める。

「ん、」
「…帰るぞ」

少しして、慶が「うん」と小さく頷いた。

体を離して俯く顔を覗き込んだ。
恥ずかしそうに、ぐちゃぐちゃになってる顔を服の袖でゴシゴシ拭いてる。

「…不細工になってんぞ」

啜ってる鼻先を軽く指で弾いてやった。

「うるさいっ」

ガツッと脛を蹴られる。

「ぃてっ!…お前っ、すね……」

蹴られた脛を急いで摩る。
思ったより痛かったし…。

「お前、蹴るの止めろよなっ」
「不細工って言うからだ」

涙は少し、止まったみたいだから……この隙に帰ろう。

帰ったらまた……泣かせてしまう事になる。
慶が、どんな過去を過ごして来たのか……きっと、俺は聞いてしまうだろうから…。


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