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「もぉ~~、俺のなのに」
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「今日、俺もBIRTHの後、髪切りに行って来るわ」
と慶に言って家を出た。
リニューアルオープンは明後日の月曜日。
今日明日の土日に合わせる事も出来たけど、結局バタバタするだろうし、働く俺らも新しい店に慣れてないってなると、やっぱりあんまり良くないだろうって事で、週初めの月曜からオープンして金曜日までに慣らして、次の土日にリニューアルオープンのイベントをやるって事になった。
その方が良い。
多分、オープンしたら平日でもそこそこ忙しいだろうと予想してる。
今日と明日は新しい店内で、実際に全て稼働させてみて営業時と同じ状態で色々と慣らす時間にあててるから、とりあえず全員出勤。
特に、厨房は、主に厨房担当のスタッフが何人か居るんだけど、料理が出来るスタッフはどうしても手が回らない時にはヘルプで入る事もある。
俺なんかは料理が出来るから割と重宝されてて、厨房でリーダーやってる一ノ瀬 健吾(いちのせ けんご)には、自分の休みの日に厨房が手薄だと俺を配置されてる事もある。
健吾、とか呼んでるけど実は俺より2個も年上だ………
健吾もオープニングスタッフで、最初は全員でがっつり研修したから、歳が違ってても結構打ち解けた感じになった。
そのまま来てるから、年上だけどずっと「健吾」って呼んでる。
健吾はほんとに料理のセンスが良くて、BIRTHで提供してる料理は全て健吾が考えたメニューだ。
俺は料理は苦じゃないし、何ならけっこう好きな方だから、健吾に教えて貰ってレパートリーに加えたメニューも多々ある。
健吾は天馬よりも上を行く長身で更にはジムで鍛えまくってるから、厨房に居てもすげぇ目立つ。
前の造りの時も、厨房は割と見えてたし……新しい厨房も半分くらいはガラス張りになってて普通に見えてる。
これも、桐ケ谷さんの思惑で、厨房が見えてたらパフォーマンスにもなってフロアスタッフだけでなく厨房スタッフも注目して貰える。
BIRTHで働くスタッフを大事にする桐ケ谷さんの性格が出てると思った。
それに、こんだけ見えてたら、やっぱりキレイにしておかないとって意識が出るし、衛生面でも徹底出来るって意味もあるらしい。
食材の発注は桐ケ谷さんがやるものの、在庫の管理などは全て健吾に任せてるみたいで、とにかく厨房の事は健吾に聞けば何でも分かる、っていう絶対の安心感がある。
本人も、そういうのも好きみたいで、将来は自分の店を持ちたいって夢があるらしい。
健吾が店出すなら、絶対通いたいって思うくらい料理の腕は良い。
だから、お客さんからの評判も良くて、料理の感想なんかもよくお客さんから言われる。
俺からすると、健吾みたいにサクサク料理作れる奴って、すげぇカッコいいんだよ…。
密かに憧れてるとこあるわ…俺。
「じゃあ、休憩」
桐ケ谷さんの一言で、午前の作業が終わる。
「試しに炒飯でも作ってみようかと思ってるけど、食う?」
健吾ら厨房スタッフが声をかけて来た。
「マジで?食う食う」
「炒飯美味いよな~」
巴流と大和がすぐに食い付いた。
とは言え、俺ももちろん食うんだけど…。
天馬と奏太も当たり前のように居るし。
「今日は材料が限られてるから、普通の炒飯な」
「おっけー」
普通だろうが全く構わない。
炒飯は上位に入る人気メニューだ。
待ってる間に、携帯をチェックする。
きっと慶から何か入ってるはず…そんな気がする。
携帯を見ると、想像通り慶からのメッセージがあった。
『侑利くんっ!!バイト受かっちゃった!!』
『月曜から来てって!!』
『ヤバいっ、きんちょうして来た!!』
連続受信…。
受かってるし…。
そんで、今から緊張してるし…。
『良かったじゃん、おめでとう』
送信すると、直ぐに既読になった。
『侑利くん、休憩?』
『そう』
返事するや否や、電話がかかって来た。
「出来たら呼んで」
天馬に声をかけて外へ出て、急いで電話に出る。
『侑利くんっ、受かっちゃった』
「知ってるよ、さっきLINEして来たじゃん」
電話の向こうで慌ててるのが分かって、何かもう……ダメだわ…。
走ってって抱きしめてやりたい衝動に駆られる。
『すごくない?』
「あー…すごいね」
『思ってないでしょ』
「…ちょっとだけ」
だってお前、何人か募集しようとしてたのに、2人も同じ部署を辞めたら、そりゃよっぽどヤバい奴じゃない限り採用するだろ、普通……って、思うけど……
『月曜から。一緒だね』
「あぁ、そだな」
他愛もない会話。
『侑利くん』
「ん?」
『俺…頑張るね』
急に…真面目に言う。
『……クビになってばっかじゃダメだ』
気にしてんだ、やっぱり。
そんなのどうだって良いのに…。
「頑張れよ」
『うん』
「でも、しんどくなったら無理する事ねんだぞ?」
『大丈夫。頑張れる』
「そっか…じゃ、応援する」
ややあって「ありがとう」と慶が言う。
慶には何回、ありがとうって言われたか分かんねぇなってくらい…。
そんなに、感謝されるような事してねぇけどな、俺…。
『あ~~っ、早く侑利くんに会いたいな~~…って思ったけど、今日髪切りに行くんだよね?』
「あのさぁ…会いたいなぁ~って、それ簡単に言わねぇでくれる?」
『何で?』
「それ、けっこう影響力あるからさぁ……まだ午後があんのに集中出来なくなるから」
お前に「会いたい」なんて言われたら、俺もまぁまぁ単純だから直ぐお前の事で頭が満タンになんだよ、マジで。
『え~…そうなの?………会いたいな』
「お前…わざと言ってんな」
『んふふふ』
変な笑い方しやがって…。
「とにかく、散髪して帰る。あ、今日スーパー行かねぇと多分何もねぇな」
『あっ、じゃあ、侑利くん、散髪終わったら連絡してよ。俺、スーパーまで歩いて行っとくから』
「え~、歩くのかよ、遠いけど」
『遠くないよ~。歩くの平気だよ?』
慶は徒歩に慣れている。
生活がずっとそうだったから。
まぁ、俺も歩く方だとは思うけど、だからって家からあのスーパーまでを歩こうとは思わない。
車だと早いけど歩いたらけっこうあるしさ…。
まぁ、慶は散歩くらいにしか思ってないんだろうな…。
細いクセに案外スタミナあんだよ、アイツ…。
「侑利~、炒飯食うぞ~」
天馬が呼びに来た。
電話してる俺を見て、代われ、とジェスチャーする。
どうせ、相手が慶だってバレてる。
慶には何も言わず、電話を天馬に渡す。
「………あっははは、侑利は多分運動不足かもね」
天馬が笑い出す。
だいたい想像つくわ。
俺だと思って喋りまくってたんだろう…。
「俺、天馬天馬、ごめんね、侑利が電話してたから慶ちゃんだろうって思って、久しぶりだし代わって貰ってた」
久しぶりか?
そうでもないぞ。
「うん、…うん、…また、店にもおいで。じゃあ、侑利に代わる~」
俺の手に携帯が戻って来る。
『も~~~っ!!侑利くんだと思ってめっちゃ喋ってたじゃんっ!!黙って代わんないで言ってよねっ!!変な事喋ってたら困るでしょっ!!』
慶の声がデカすぎて漏れてて、俺がめっちゃ怒られてるのを天馬が隣で笑ってる。
「変な事って何だよ」
『え…………好きとか、カッコいい、とか』
めっちゃ声小っちゃくなったし。
可愛いな、くそ。
「あ~、じゃあ飯食いに戻るわ」
『あ、うん、分かった。じゃあ連絡してね』
「了解」
『じゃあ、また後で』
「はいよ」
電話を切って天馬を見ると、すんげぇにんまり顔で俺を見てる。
「何だよ」
「……ラブいわぁ」
…否定はしねぇよ。
だって、そうだから。
健吾の炒飯を食うべく店内に戻る。
「しかし、慶ちゃん……あんな勢いで喋るんだね」
「超怒られたんですけど」
「ははっ。めっちゃ喋ってたわ。侑利くんは運動不足なんだよって言ってたよ」
まぁ、確かにな…。
沖縄帰りに慶を探して走った時、すんげぇ膝笑ってたしな…。
炒飯がカウンターに並べられてる。
「美味そう~」
全員で食べる。
「マジ美味いわぁ~」
「健吾、何作ってもほんと美味いよね」
「健吾、天才だわ」
…………慶が言ってる事そのまんまじゃねぇか。
でも、俺も密かに「健吾天才」とか思ってたし。
今日もきっと、慶にそう言われるんだろうな、俺。
~~~~~~~~
「侑利く~~ん」
遠くからでも、慶の声は聞こえた。
ヒラヒラと手を振りながら、スーパーの入り口で待ってる。
「ごめんな、待った?」
「ううん、大丈夫、って言うか……」
散髪上がりの俺をマジマジと見る。
前から横から…そして後ろから。
「もぉ~~~っ」
……何だよ、そのリアクション…。
「男前すぎるでしょっ」
何か、小声で言って来た。
手で口元隠してる感じ…。
噂好きのおばさんか。
「堂々と言ってくれて良いんだけど」
「いや、ダメ。ほんとは叫びたいから」
「あー、それはダメだな」
叫ばれても困る。
「行くぞ」
先にカートを取りカゴをセットする。
「侑利くんカッコいいから、みんな見てるよぉ~」
や、そうでもねぇよ?
「ほら、やっぱ見てる」
…いやいや…みんな野菜見てるよ。
「もぉ~~、俺のなのに」
ん?
ちょっと今……
スルー出来ない感じのが聞こえたけど…。
「バカ、お前、買い物前にそう言う事言うと、レジまで持たねぇから止めて」
そりゃ、天馬にラブいって言われるわ。
バカップルだよ、ただの。
まぁ、誰に迷惑かけてるでもねぇし……良いか…。
いつもの様に、サクサクとカゴに必要な物を入れて行く。
「何作るの?」
「…ん~…肉が安いっ!て書いてるから、トンカツでもすっかな」
「わぁ~い」
店内にこれでもかと貼ってるチラシを見て言うと、わざとらしく喜んで見せる。
……でも……お前とトンカツがあんまりしっくり来ねぇわ。
トンカツ食ってるビジュアルじゃねぇもんな、お前…。
でも、もう決めた、今日はトンカツだ。
結局、レジに並ぶまでに、軽く20回は「カッコいい」と言われた。
…言い過ぎじゃねぇ?
そんな連発されると、有難み無いんですけど。
まぁ、慶の目には俺がカッコよく映るんだから仕方ねぇか…。
ってか、まぁ、そりゃ、そこそこ良い感じのとこ行ってると俺だって思ってるよ。
じゃなきゃ、BIRTHの看板張ってねぇし。
…でも…そんなに頻発される事無いし……
まぁ…言われて嫌な言葉じゃねぇけどさ…。
みんなが俺を見てる、とか言ってるけど、はっきり言ってお前の方が見られてるからな…。
お前だって髪切って、レベルアップしてんだからさ。
多分、過保護で束縛タイプの俺としては、お前が目立ってる方が心配だわ。
鈍感そうだから、変な奴寄って来てても気付いてなさそうだしな…。
2人で分けて袋を持ち、車まで歩く。
後部座席に袋を置いて助手席に乗り込んで来た慶に、辺りがだいぶ暗くなって車内が見えにくいのを良い事に、とりあえず短いキスをした。
びっくりしたように俺を見て「何で?」って言う慶に、
「褒めてくれたし?」
と返す。
「でも、ほんとみんな見てたよ?」
まだ言うか…。
そんな見てねぇって。
「お前にそう見えただけじゃねぇ?」
ふふっ、と笑って車を発進させた。
トンカツは…簡単だし、最初に肉の筋切りしとけば包丁使うとこねぇし、って事で、慶にも手伝って貰った。
パン粉付けたりするあの一連の作業。
そんなのやった事ない慶は、砂遊び感覚で粉や卵を付けて行く。
時々褒めてやると、俄然やる気を出す。
褒めて伸びるタイプらしい。
「こんなの自分でやった事ない」
「あはは、だろうな」
「売ってるのしか知らない」
「簡単だろ?」
トンカツなんか特に…誰が作ったって不味くなんねぇし。
ソースさえあれば、なんとかなる。
後は、味噌汁と浅漬けを作った。
「侑利くん、マジで天才っ!!美味しすぎるっ」
…ほら見ろ、やっぱ言われた。
ここまで言われると、もう「天才」って事で良いか、って気になって来るから不思議だな…。
でも、きっと天才とは、健吾みたいな奴の事を言うのであって、決して俺では無いんだろうな…。
今日も…やっぱり、2回やってしまった。
もう、どうなってんだ、俺の性欲は…。
官能的な行為の後の慶は、ぐったりしたまま、タオルで体を拭く俺に何の抵抗もなく体を委ねてる。
「動けない」とボソリと零して、申し訳無さそうに俺を見るから、もっと優しくしてやろうって思ってしまうどこまでも慶に甘い俺…。
そのまま眠りにつくかと思ったけど……今日は、久しぶりに………あの夢を見たようで、ビクッと肩先が揺れたと思ったら、さっきまでの色気ダダ洩れの顔とは真逆の……苦しそうな…泣きそうに目を見開いた顔……
最近、ぐっすり寝れてたみたいだったから……ちょっと忘れてた…。
けど、きっと慶は忘れてなんか居ない。
毎朝……今日はあの夢を見ずに寝れた…って安心してたのかも知れない。
慶の中ではきっと………終わらない……あの夢も……あの出来事も…。
直ぐに手を伸ばして引き寄せ、腕の中に慶を納めて目を閉じる。
慶が俺の腕にしがみ付く様にして、また、眠りについたのが分かった。
ほんとは、眠いんだ。
休みたくて、ぐっすり寝たくてたまらないのに………あの夢が邪魔をする。
俺が居るからさ……嫌いな夢に飛び起きても……隣には必ず俺が居るから…。
と慶に言って家を出た。
リニューアルオープンは明後日の月曜日。
今日明日の土日に合わせる事も出来たけど、結局バタバタするだろうし、働く俺らも新しい店に慣れてないってなると、やっぱりあんまり良くないだろうって事で、週初めの月曜からオープンして金曜日までに慣らして、次の土日にリニューアルオープンのイベントをやるって事になった。
その方が良い。
多分、オープンしたら平日でもそこそこ忙しいだろうと予想してる。
今日と明日は新しい店内で、実際に全て稼働させてみて営業時と同じ状態で色々と慣らす時間にあててるから、とりあえず全員出勤。
特に、厨房は、主に厨房担当のスタッフが何人か居るんだけど、料理が出来るスタッフはどうしても手が回らない時にはヘルプで入る事もある。
俺なんかは料理が出来るから割と重宝されてて、厨房でリーダーやってる一ノ瀬 健吾(いちのせ けんご)には、自分の休みの日に厨房が手薄だと俺を配置されてる事もある。
健吾、とか呼んでるけど実は俺より2個も年上だ………
健吾もオープニングスタッフで、最初は全員でがっつり研修したから、歳が違ってても結構打ち解けた感じになった。
そのまま来てるから、年上だけどずっと「健吾」って呼んでる。
健吾はほんとに料理のセンスが良くて、BIRTHで提供してる料理は全て健吾が考えたメニューだ。
俺は料理は苦じゃないし、何ならけっこう好きな方だから、健吾に教えて貰ってレパートリーに加えたメニューも多々ある。
健吾は天馬よりも上を行く長身で更にはジムで鍛えまくってるから、厨房に居てもすげぇ目立つ。
前の造りの時も、厨房は割と見えてたし……新しい厨房も半分くらいはガラス張りになってて普通に見えてる。
これも、桐ケ谷さんの思惑で、厨房が見えてたらパフォーマンスにもなってフロアスタッフだけでなく厨房スタッフも注目して貰える。
BIRTHで働くスタッフを大事にする桐ケ谷さんの性格が出てると思った。
それに、こんだけ見えてたら、やっぱりキレイにしておかないとって意識が出るし、衛生面でも徹底出来るって意味もあるらしい。
食材の発注は桐ケ谷さんがやるものの、在庫の管理などは全て健吾に任せてるみたいで、とにかく厨房の事は健吾に聞けば何でも分かる、っていう絶対の安心感がある。
本人も、そういうのも好きみたいで、将来は自分の店を持ちたいって夢があるらしい。
健吾が店出すなら、絶対通いたいって思うくらい料理の腕は良い。
だから、お客さんからの評判も良くて、料理の感想なんかもよくお客さんから言われる。
俺からすると、健吾みたいにサクサク料理作れる奴って、すげぇカッコいいんだよ…。
密かに憧れてるとこあるわ…俺。
「じゃあ、休憩」
桐ケ谷さんの一言で、午前の作業が終わる。
「試しに炒飯でも作ってみようかと思ってるけど、食う?」
健吾ら厨房スタッフが声をかけて来た。
「マジで?食う食う」
「炒飯美味いよな~」
巴流と大和がすぐに食い付いた。
とは言え、俺ももちろん食うんだけど…。
天馬と奏太も当たり前のように居るし。
「今日は材料が限られてるから、普通の炒飯な」
「おっけー」
普通だろうが全く構わない。
炒飯は上位に入る人気メニューだ。
待ってる間に、携帯をチェックする。
きっと慶から何か入ってるはず…そんな気がする。
携帯を見ると、想像通り慶からのメッセージがあった。
『侑利くんっ!!バイト受かっちゃった!!』
『月曜から来てって!!』
『ヤバいっ、きんちょうして来た!!』
連続受信…。
受かってるし…。
そんで、今から緊張してるし…。
『良かったじゃん、おめでとう』
送信すると、直ぐに既読になった。
『侑利くん、休憩?』
『そう』
返事するや否や、電話がかかって来た。
「出来たら呼んで」
天馬に声をかけて外へ出て、急いで電話に出る。
『侑利くんっ、受かっちゃった』
「知ってるよ、さっきLINEして来たじゃん」
電話の向こうで慌ててるのが分かって、何かもう……ダメだわ…。
走ってって抱きしめてやりたい衝動に駆られる。
『すごくない?』
「あー…すごいね」
『思ってないでしょ』
「…ちょっとだけ」
だってお前、何人か募集しようとしてたのに、2人も同じ部署を辞めたら、そりゃよっぽどヤバい奴じゃない限り採用するだろ、普通……って、思うけど……
『月曜から。一緒だね』
「あぁ、そだな」
他愛もない会話。
『侑利くん』
「ん?」
『俺…頑張るね』
急に…真面目に言う。
『……クビになってばっかじゃダメだ』
気にしてんだ、やっぱり。
そんなのどうだって良いのに…。
「頑張れよ」
『うん』
「でも、しんどくなったら無理する事ねんだぞ?」
『大丈夫。頑張れる』
「そっか…じゃ、応援する」
ややあって「ありがとう」と慶が言う。
慶には何回、ありがとうって言われたか分かんねぇなってくらい…。
そんなに、感謝されるような事してねぇけどな、俺…。
『あ~~っ、早く侑利くんに会いたいな~~…って思ったけど、今日髪切りに行くんだよね?』
「あのさぁ…会いたいなぁ~って、それ簡単に言わねぇでくれる?」
『何で?』
「それ、けっこう影響力あるからさぁ……まだ午後があんのに集中出来なくなるから」
お前に「会いたい」なんて言われたら、俺もまぁまぁ単純だから直ぐお前の事で頭が満タンになんだよ、マジで。
『え~…そうなの?………会いたいな』
「お前…わざと言ってんな」
『んふふふ』
変な笑い方しやがって…。
「とにかく、散髪して帰る。あ、今日スーパー行かねぇと多分何もねぇな」
『あっ、じゃあ、侑利くん、散髪終わったら連絡してよ。俺、スーパーまで歩いて行っとくから』
「え~、歩くのかよ、遠いけど」
『遠くないよ~。歩くの平気だよ?』
慶は徒歩に慣れている。
生活がずっとそうだったから。
まぁ、俺も歩く方だとは思うけど、だからって家からあのスーパーまでを歩こうとは思わない。
車だと早いけど歩いたらけっこうあるしさ…。
まぁ、慶は散歩くらいにしか思ってないんだろうな…。
細いクセに案外スタミナあんだよ、アイツ…。
「侑利~、炒飯食うぞ~」
天馬が呼びに来た。
電話してる俺を見て、代われ、とジェスチャーする。
どうせ、相手が慶だってバレてる。
慶には何も言わず、電話を天馬に渡す。
「………あっははは、侑利は多分運動不足かもね」
天馬が笑い出す。
だいたい想像つくわ。
俺だと思って喋りまくってたんだろう…。
「俺、天馬天馬、ごめんね、侑利が電話してたから慶ちゃんだろうって思って、久しぶりだし代わって貰ってた」
久しぶりか?
そうでもないぞ。
「うん、…うん、…また、店にもおいで。じゃあ、侑利に代わる~」
俺の手に携帯が戻って来る。
『も~~~っ!!侑利くんだと思ってめっちゃ喋ってたじゃんっ!!黙って代わんないで言ってよねっ!!変な事喋ってたら困るでしょっ!!』
慶の声がデカすぎて漏れてて、俺がめっちゃ怒られてるのを天馬が隣で笑ってる。
「変な事って何だよ」
『え…………好きとか、カッコいい、とか』
めっちゃ声小っちゃくなったし。
可愛いな、くそ。
「あ~、じゃあ飯食いに戻るわ」
『あ、うん、分かった。じゃあ連絡してね』
「了解」
『じゃあ、また後で』
「はいよ」
電話を切って天馬を見ると、すんげぇにんまり顔で俺を見てる。
「何だよ」
「……ラブいわぁ」
…否定はしねぇよ。
だって、そうだから。
健吾の炒飯を食うべく店内に戻る。
「しかし、慶ちゃん……あんな勢いで喋るんだね」
「超怒られたんですけど」
「ははっ。めっちゃ喋ってたわ。侑利くんは運動不足なんだよって言ってたよ」
まぁ、確かにな…。
沖縄帰りに慶を探して走った時、すんげぇ膝笑ってたしな…。
炒飯がカウンターに並べられてる。
「美味そう~」
全員で食べる。
「マジ美味いわぁ~」
「健吾、何作ってもほんと美味いよね」
「健吾、天才だわ」
…………慶が言ってる事そのまんまじゃねぇか。
でも、俺も密かに「健吾天才」とか思ってたし。
今日もきっと、慶にそう言われるんだろうな、俺。
~~~~~~~~
「侑利く~~ん」
遠くからでも、慶の声は聞こえた。
ヒラヒラと手を振りながら、スーパーの入り口で待ってる。
「ごめんな、待った?」
「ううん、大丈夫、って言うか……」
散髪上がりの俺をマジマジと見る。
前から横から…そして後ろから。
「もぉ~~~っ」
……何だよ、そのリアクション…。
「男前すぎるでしょっ」
何か、小声で言って来た。
手で口元隠してる感じ…。
噂好きのおばさんか。
「堂々と言ってくれて良いんだけど」
「いや、ダメ。ほんとは叫びたいから」
「あー、それはダメだな」
叫ばれても困る。
「行くぞ」
先にカートを取りカゴをセットする。
「侑利くんカッコいいから、みんな見てるよぉ~」
や、そうでもねぇよ?
「ほら、やっぱ見てる」
…いやいや…みんな野菜見てるよ。
「もぉ~~、俺のなのに」
ん?
ちょっと今……
スルー出来ない感じのが聞こえたけど…。
「バカ、お前、買い物前にそう言う事言うと、レジまで持たねぇから止めて」
そりゃ、天馬にラブいって言われるわ。
バカップルだよ、ただの。
まぁ、誰に迷惑かけてるでもねぇし……良いか…。
いつもの様に、サクサクとカゴに必要な物を入れて行く。
「何作るの?」
「…ん~…肉が安いっ!て書いてるから、トンカツでもすっかな」
「わぁ~い」
店内にこれでもかと貼ってるチラシを見て言うと、わざとらしく喜んで見せる。
……でも……お前とトンカツがあんまりしっくり来ねぇわ。
トンカツ食ってるビジュアルじゃねぇもんな、お前…。
でも、もう決めた、今日はトンカツだ。
結局、レジに並ぶまでに、軽く20回は「カッコいい」と言われた。
…言い過ぎじゃねぇ?
そんな連発されると、有難み無いんですけど。
まぁ、慶の目には俺がカッコよく映るんだから仕方ねぇか…。
ってか、まぁ、そりゃ、そこそこ良い感じのとこ行ってると俺だって思ってるよ。
じゃなきゃ、BIRTHの看板張ってねぇし。
…でも…そんなに頻発される事無いし……
まぁ…言われて嫌な言葉じゃねぇけどさ…。
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多分、過保護で束縛タイプの俺としては、お前が目立ってる方が心配だわ。
鈍感そうだから、変な奴寄って来てても気付いてなさそうだしな…。
2人で分けて袋を持ち、車まで歩く。
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びっくりしたように俺を見て「何で?」って言う慶に、
「褒めてくれたし?」
と返す。
「でも、ほんとみんな見てたよ?」
まだ言うか…。
そんな見てねぇって。
「お前にそう見えただけじゃねぇ?」
ふふっ、と笑って車を発進させた。
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パン粉付けたりするあの一連の作業。
そんなのやった事ない慶は、砂遊び感覚で粉や卵を付けて行く。
時々褒めてやると、俄然やる気を出す。
褒めて伸びるタイプらしい。
「こんなの自分でやった事ない」
「あはは、だろうな」
「売ってるのしか知らない」
「簡単だろ?」
トンカツなんか特に…誰が作ったって不味くなんねぇし。
ソースさえあれば、なんとかなる。
後は、味噌汁と浅漬けを作った。
「侑利くん、マジで天才っ!!美味しすぎるっ」
…ほら見ろ、やっぱ言われた。
ここまで言われると、もう「天才」って事で良いか、って気になって来るから不思議だな…。
でも、きっと天才とは、健吾みたいな奴の事を言うのであって、決して俺では無いんだろうな…。
今日も…やっぱり、2回やってしまった。
もう、どうなってんだ、俺の性欲は…。
官能的な行為の後の慶は、ぐったりしたまま、タオルで体を拭く俺に何の抵抗もなく体を委ねてる。
「動けない」とボソリと零して、申し訳無さそうに俺を見るから、もっと優しくしてやろうって思ってしまうどこまでも慶に甘い俺…。
そのまま眠りにつくかと思ったけど……今日は、久しぶりに………あの夢を見たようで、ビクッと肩先が揺れたと思ったら、さっきまでの色気ダダ洩れの顔とは真逆の……苦しそうな…泣きそうに目を見開いた顔……
最近、ぐっすり寝れてたみたいだったから……ちょっと忘れてた…。
けど、きっと慶は忘れてなんか居ない。
毎朝……今日はあの夢を見ずに寝れた…って安心してたのかも知れない。
慶の中ではきっと………終わらない……あの夢も……あの出来事も…。
直ぐに手を伸ばして引き寄せ、腕の中に慶を納めて目を閉じる。
慶が俺の腕にしがみ付く様にして、また、眠りについたのが分かった。
ほんとは、眠いんだ。
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明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
不器用に惹かれる
タッター
BL
月影暖季は人見知りだ。そのせいで高校に入って二年続けて友達作りに失敗した。
といってもまだ二年生になって一ヶ月しか経っていないが、悲観が止まらない。
それは一年まともに誰とも喋らなかったせいで人見知りが悪化したから。また、一年の時に起こったある出来事がダメ押しとなって見事にこじらせたから。
怖い。それでも友達が欲しい……。
どうするどうすると焦っていれば、なぜか苦手な男が声をかけてくるようになった。
文武両道にいつも微笑みを浮かべていて、物腰も声色も優しい見た目も爽やかイケメンな王子様みたいな男、夜宮。クラスは別だ。
一年生の頃、同じクラスだった時にはほとんど喋らず、あの日以降は一言も喋ったことがなかったのにどうして急に二年になってお昼を誘ってくるようになったのか。
それだけじゃない。月影君月影君と月影攻撃が止まない。
にこにことした笑顔になんとか愛想笑いを返し続けるも、どこか夜宮の様子がおかしいことに気づいていく。
そうして夜宮を知れば知るほどーー
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