laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

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「てめぇ、何やってる」

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*工藤side*

散々、羽柴くんネタで弄られた。
羽柴くんは、ハイペースで飲んだサワーとウーロン茶のせいか、少し前にトイレに行った。

そろそろ帰って来るか、と俺も入れ替わりでトイレに行こうと席を立ったけど、羽柴くんとは会わないままトイレに着いてしまった。

キレイなオシャレなトイレ。
居酒屋のトイレって、女子トイレの広さに比べて男子トイレは罰ゲームかってぐらい狭い所が多いけど、この店は男子トイレも充分な広さを取ってる。

中に入ると洗面台の所に羽柴くんが立ってた。
入った瞬間、携帯をポケットに仕舞ったのが分かった。

……迎えの連絡をしたのかも…と思ったら……やっぱり、少しだけ嫉妬心が湧き上がる。

「大丈夫?」
「あ、はい…ちょっと……いっぱい飲んだから…」

そう言って、ふぅ、と軽く息を吐いた。

「さっきの…参ったね」
「…あはは…そうですね」

フッと笑って振り返った顔が、やけにキレイで可愛くて……こんな可愛い顔で俺の事をいつも見て欲しい、等と漠然と思ったと同時……

その瞬間……俺は…気が付いたら思わず……


「……く…工藤さん…?」
「…え、…あっ、ご、ごめんっ」


手を伸ばして羽柴くんの腕を掴み、少し引き寄せて……抱きしめてしまった。
……抱きしめる……と言うよりは……ハグかな…軽いやつ……

一瞬だけど……確かに、意図的に引き寄せたのは羽柴くんも分かってる。


「ちょっと…さすがに、酔ったかな」

取り繕ってみたけど……羽柴くんはどう対応したら良いのか分からない感じで、ただ硬直してる。

引き寄せた時の……羽柴くんの香り。
香水なのか、シャンプーなのか分からないけど……少しだけ…甘いような………

いつも、抑えてるけど……言うのも我慢してるけど…………


ほんとはすごく………俺の物にしたいんだって今分かった…。


一歩前に出て……硬直したままの羽柴くんを、今度は冷静にもう一度抱きしめた。

「…あ……あの…、」
「ちょっとだけ……こうさせて」

腕が回りすぎるぐらいに細い体。
この体も、腕も、脚も、顔も、髪も、声も、全部が……彼のものなんだって思ったら……酷く…悔しい。

「…だ……ダメです…」

羽柴くんが小さく呟いて……俺は、ハッとして彼を締め付けてた腕を緩めた。


「ごめん、羽柴くん、俺、ほんと酔ってるわぁ~」


努めて明るく言ってみたものの、羽柴くんがどんな顔してるのかは、ヘタレな俺は見れなかった。
こんな大胆かつ強引な事しといて……今更ながら足とかちょっと震えてる。


「……先…戻ってますね」

羽柴くんはそれだけ言って、トイレを出て行った。

…傷付けたかな……嫌な思いさせたかな………俺の気持ちは…流石にバレたよな………

後先考えないで、こんな事してしまった。
でも……こんな事しといて図々しいけど……気まずくなるのだけは嫌だ…。
軽蔑されたり……無視されたり…………それはきっと耐えられない。

「はぁ」

自分のしてしまった事に、自然と溜息が漏れる。

そうだ……羽柴くんが帰るまでに……もう一度、ちゃんと謝ろう…。







*慶side*

どうしようどうしようどうしよう…………

…………工藤さんが………あんな事するなんて………………


あれって……やっぱり…………俺の事………


…好きだって…こと?


はぁ……心臓がバクバク言ってる……………この後……普通に出来るかな………
いや、普通にしないと……皆変に思うよね……


部屋に戻って席に着くと、周りは上層部への愚痴大会に変わってて少しホッとした。
あと15分くらいで二次会も終わりそうだし……それぐらいなら何とか普通に出来る…よね。

そんな事思ってたら、工藤さんがトイレから帰って来て、治まりかけてたバクバクがまた少し蘇る。

隣に座った工藤さんに……何か話しかけないと……普通に、……普通に…。

「羽柴くん、二次会終わって店出たら、ほんの少しだけ時間良い?…少しだけ話したい」

先に工藤さんに話しかけられた。

「2、3分で良いから」
「……はい」

……一気に顔が熱くなる。
工藤さんの顔が見れなくて……ひたすら、あんまり頭に入らない愚痴トークを聞いてるフリをしてた……。









「じゃあ、三次会はこんだけね~」

10人ほどで行くという三次会。
工藤さんもそのメンバーに入ってる。

「シフトの事でちょっと羽柴くんに話あるから、先行っといて。後ですぐ行くから」

工藤さんが声をかける。

「了解」と声がかかり、三次会メンバーは次の店に向かい、それ以外の人は帰って行った。

工藤さんと2人は……今は…ちょっと辛いよ……


店の横にある、自販機の隣。
植え込みの間で自販機の陰になるような所に立つ。


「さっきはごめん……俺、ほんとにだいぶ酔ってる」


工藤さんが申し訳無さそうな顔で言う。


「…いえ、大丈夫です…」


大丈夫じゃないけど……そう言った。
だってそうとしか言えないし…。


「……嫌いになった?俺の事」


急に聞かれて、戸惑ってしまった。
嫌いになるとか、そう言うんじゃなくて……とにかく……驚いたっていうだけで……


「そんな……嫌いになんか、」

なってない、って言おうとしたのに………

「…ちょ、…っと…工藤さん…」

まただ……
…俺を抱きしめる………

「ごめん………ほんと、」

今度は……さっきより強くて……離れようと動いてみるけど、余計に力を込めてて解けない……

「…俺、…やっぱダメかも」
「止めて下さい、」

体を捩って解こうとした時…………不意に工藤さんの顔が近付いて来て………キスされる…って思った……

咄嗟に顔を背けたけど、顔に手を当てて戻されてまた迫って来る。

「や、…止めて、…」

思い切り腕を突っ張って工藤さんの体を押し退けようとした時……



「てめぇ、何やってる」


直ぐ後ろから、聞き慣れた声がした。







*侑利side*

『後20分くらいで終わりそう』と慶からメッセージが入った時には、俺は既に天馬と別れて居酒屋の方へ向かってた。

俺が遅れたら、慶を飲み屋街に1人で立たせる事になる。
それは絶対ダメだし。

年末の車の多さも考えて少し早めに着くように出たから、慶からの連絡の5分後くらいには既に着いてた。

店からは少し離れててちょっと見えにくいだろうけど、車からは店の入口辺りがよく見えるから慶が出て来たら直ぐに分かる。

それにしても、人が多い。
BIRTHは年越しイベントがあるから、年末休みは無い。
代わりに、年始に1週間休みをくれるのが毎年恒例。今年もそうで、年始だけは慶と休みがズレるな、などと前に話をした。

一般の会社は今日仕事納めで、その後忘年会ってパターンは多いだろう。
BIRTHも多分、今日は大変な事になってんだろうな…。

などと、考えてたら……居酒屋の入り口が開き中から団体が出て来て、直ぐにその中に慶が居るのが分かった。

一番後ろから出て来たけど、ほんとアイツ遠目からでもマジで目につくわ…。
気に入らないのは、あのリーダーと一緒に出て来たってとこだけど…。

店の前で一旦集まって少し話してる。
ここで、帰る奴と三次会行く奴で分かれんだろう……その場に居ないけど、だいたい感じで分かる。

そろそろ慶もこっちへ来るだろう。
出といてやらねぇと多分離れてるから車なかなか分かんねぇだろうな……とか、つい過保護な考えが浮かんで来て、車のドアを開けて降りようとした時、アイツが他の社員に何か言って慶と2人になったのが分かった。


その瞬間、俺の中のイライラが一気に頂点。
何で直ぐに慶を帰らせねぇんだ、って疑問が浮かんだけど、そんな事考えてるよりも勝手に足は2人の方へ向かってた。

路駐のままにして来た車の事なんかどうでもよくて、2人の姿をずっと視界から外さないまま急いで向かう。


そして………慶の背中が目の前に見えて…

アイツが慶を抱きしめて、キスしようとしてるのが分かった瞬間……



頭に血が上る感覚が分かった。




「てめぇ、何やってる」



絞り出した声に驚いた2人はハッとした様子で俺を見る。

「侑利くんっ」

慶が言うのと同時、俺は2人の間に体を割り込ませ、目の前にいる工藤の服の胸元を左手で鷲掴みにし、右手で慶を後ろに押し退けた。

行き成りの事に、工藤は体をグラつかせながらも俺の腕を掴んで来る。
慶に手を出しておきながら俺を見据えて来るような相手の目に、俺は完全にキレた。

俺よりはガタイが良いだろう工藤の胸ぐらを掴んだまま、自販機に思い切り押し付ける。
迷いは無かった。

殴らせろ。


「侑利くんっ、ダメッ」


押さえ付けたままで殴ろうとした右腕は、慶に掴んで止められた。

きっとこの時の俺は……殺気立ってただろうと思う。
周りの通行人が数人気付いて、ちょっとザワついてんのが視界の端に入ったけど、そんなの知ったこっちゃねぇ。

「離せ」

腕を掴んだ慶を睨み付ける。

「ダメだよ…」

泣きそうに揺れる慶の声。

止められた事にムカついたのは事実……だけど、慶の為にも……殴っちゃいけないんだろう、って事も……直ぐに分かった。

睨んだ俺に、慶の顔が歪んだけど……それでも、手を離したら俺がまた殴ろうとするだろうと、必死で止めて来る。



少し短く息を吐いた。
全く納まらねぇけど……慶が痛いくらいに掴んでる右手の力を抜き、もう一度慶を後ろに押し退けた。



「………次は殴る」



掴んでいた服を、工藤の体ごと地面に押し倒すようにして離す。



「…行くぞ」



慶にそう言って、俺は歩き出した……けど……



慶が来ない。


振り返ると、慶は、起き上がって来た工藤を見てる。


「慶」


呼ぶとこっちを振り返るけど、直ぐに視線を工藤に戻した。


何だよ……

ソイツが心配なの?


イライラすんだよ……


「…もういい」


俺はそう言って、先に車へ向かった。

慶が泣きそうになってるのは分かってる。いや、もう泣いてるかも知れない。
……でも、俺は今どうしようも無くムカついてんだ。


「…工藤さん……ごめんなさい…」


背後で慶の声が聞こえた。

ごめんなさい、って何だよ。
俺がした事を謝ってんの?

それとも…お前の気持ちには応えられないっていう、ごめんなさい?


どっちでもいいわ、もう。


とにかく、全部が俺の神経を逆撫でして来る。


慶は、それだけ言うと俺の後を追って走って来てる。
見てはねぇけど、感じで分かる。



先に車に乗り込むと、直ぐ後から慶が助手席に乗って来た。


……酷い事を言ってしまいそうな気がして、慶の顔は見なかった。


とにかく、イライラしすぎてどうしようもない。
















無言だった。


慶が何度か……何か言おうとしてるのは分かったけど……俺は話す気にもなれなくて、ずっと前だけ見てたから……慶は言おうとしてた言葉を、その都度飲み込んでた。


慶に怒っても仕方ないって事は分かってる。

……でも……気をつけろって散々言った。
2人になるな、とも。

結局、気を許して2人になったら……この様だ。



……車内に音楽は無く……ただ、ウィンカー音やエアコンの作動音がやたら大きく聞こえる。


苛立ちは…治まらない。



「…2人になるなって言ったよな」


何個目かの赤信号で、初めて口を開いたら……思ったより低い声が出た。


「……うん、」


うん、じゃねぇよ。


「……俺が行かなかったら、どうなってたと思ってんだよ」


チラっと見ると、慶はもう少しで泣き出しそうなのを我慢してる。
結んだ唇が震えてて、堪えてんだって分かる。


「アイツ、お前の事狙ってんじゃん。分かっただろ?」
「……………」
「何で2人になんの」
「…それは…」

慶が何か言おうとしたけど、また黙ってしまった。
続きそうにない様子にまたイライラしながら、切り替わった信号機に従って車を発進させる。


きっと……慶を泣かせるだろうし、傷付けるかも知れないけど………


「何か理由があんの」
「え、…」
「2人になる理由」


だって、なんか、隠してんじゃん。




全く運転に集中出来なくて、少し広くなってる路肩に停車する。

慶が震える息を小さく吐いて、口を開いた。

「…居酒屋のトイレで……抱きしめられた……」
「…は?」

あれより前に、そんな事されてたって事かよ。

「酔ってるって、…言ってた。…ダメだって言ったら…ごめんって…」

俺の居ない所で2人で何やってんだ。

「終わったら、謝りたいって……それで…」
「謝りたかった奴があんな事するかよ。結局お前の事どうにかしようとしただけじゃねぇか」

それに良いようにされて、お前もお前だよ。

「でも、ごめんって、」
「ごめんって言ったからって何だよ、じゃあもう良いかってなんの?」
「…っ、」
「謝るくらいなら最初からしなきゃいい」
「…でも、ほんとに…酔ってて…いつもと全然違って…」

何か……アイツをフォローしてる慶に、無性に腹が立った。
何でアイツの肩持つんだよ。


「お前はアイツをどんな風に思ってるか知らねぇけど、俺には、恋人が居るって知ってるのにあんな事して来るハイエナ野郎にしか見えねぇわ」


俺とも会った事あるのにさ。


「トイレで抱きしめて来て、謝りたいっつってまた迫って来るって、どうしようもねぇじゃん」
「…でも、」
「何なんだよ、お前。俺にアイツの何を分かって欲しい訳?」
「…ちが、」
「だいたい、お前に隙が有りすぎんだよっ。気をつけるとか言ったクセに、直ぐ言い寄られてさ、マジで警戒心無さ過ぎて呆れるわ」
「だから謝ってるんじゃん…」
「謝るくらいなら最初からもっと警戒しろよっ、それに、守らねぇんなら気を付けるなんて言うんじゃねぇよっ」

苛立ち任せに慶にあたってる。
……俺って、こんなに……女々しい奴なんだ……

大丈夫だったか、って、一言言ってやれねぇんだから…。


「俺だってっ、…気を付けてるつもりだったけど、でも……行き成りだったんだから仕方ないじゃんかっ、ちゃんと止めてって言ったよっ」


どうやら……俺がしつこい所為で……慶を怒らせたみたいだ。


「2回も触らせといて気を付けてるは無ぇだろ」


でも、俺だってムカついてんだ。
……俺は独占欲の塊だからさ……こんなの見せられたら黙ってらんねぇよ。


「好きで触らせたみたいに言わないでよっ」
「お前の警戒心が無さ過ぎだからこんな事になんだよ。だいたいアイツが自分の事好きかどうかぐらい、ガキじゃねぇんだから話してりゃ分かんだろ」
「…ゆ…侑利くんの方がガキみたいじゃんっ、ほんとに悪いと思って謝ってるのにいつまでも怒ってさっ、」
「はぁ?逆ギレかよ」
「そうだよっ!いつまでもグチグチ言わないでよっ、わざとやったんじゃ無いんだからっ」
「約束したのに守んねぇとか、わざととそんな変わんねぇよっ」
「わざとそんな事する訳ないじゃんっ!」
「そう言われても信じらんねぇ」

……大人げない言い合いだって事は分かってるけど……止めるなんて不可能だ。
慶も俺も……今は完全に怒ってる。


「……じゃあもう、信じてくれなくて良いっ!!」
「分かったよっ、お前の言う事なんか信じねぇよっ」
「もう、侑利くんなんか大っ嫌いだっ」
「俺だってお前なんか嫌いだよ」


……どっちもガキだけど……


……慶の目から涙がボロボロ落ちてて………流石に、それ見たら……怯んだ…



「侑利くんのバカッ!!!」



思いっ切り大音量でそう言い放った慶は、そのまま窓の方を向いて完全に喋らなくなった。



俺はと言うと……

何でこんな事になってんだって、さっきの出来事が頭ん中をグルグル回ってて……自分と慶とあの男の全部に苛ついてる。


慶は俺の方を一切見ずに黙ってる。


「…チッ、」

軽く舌打ちをして、俺はまた車を走らせた。



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