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「慶が好きですか」
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*工藤side*
酷い頭痛と……気持ち悪さと…………これ以上無いくらいの、罪悪感。
昨日は………最低な事をした。
……自分でも……何であんな事をしたのかって……後悔しかない。
羽柴くんが、忘年会の間も端々で彼の事を考えてるのが分かって……完全なる嫉妬心からあんな事をしてしまった。
この後、彼の元に行ってしまう羽柴くんを……帰したくないって思ってしまったんだ。
確かに、結構飲んだからちょっとは酔ってたってのもあるけど……でも…思考は正常に回ってたし分別もついてた。
ちゃんと回ってる頭で……俺は、羽柴くんにあんな事をしてしまったんだ。
彼が居るのに本気になるなんて……俺、ほんとに何やってんだ…。
あの場に彼が現れた時……殴られると思った。
殴られても仕方ないって、瞬間的に諦めもついた。
でも、どっかに……羽柴くんを奪いたいって気持ちがあったんだと思う。
彼にはきっとそれが伝わってる。
彼の目が……完全にキレてたから。
羽柴くんは……あの後どうなっただろうか……
やっぱり……彼に何か言われただろうな………
攻められたかな……
彼のあの怒り様だったら、ケンカしたかもな………
俺のせいだ…。
「……痛、」
痛む頭に苛つきながらベッドから起き上がる。
三次会では……散々飲んだ。
と、言うよりも、飲まないとやってられなかった。
こんな事、誰にも言えないし……とにかく最低な事をした自分にも腹が立って……
その結果が、今のこの酷い二日酔い。
会社は年末年始の連休に入った。
次に羽柴くんに会うのは、年が明けてからだ。
こんな別れ方したまま、何日も過ごせるかな……
考えたらまた頭がズキズキ痛む。
「くそ、」
苛立ちも収まらない。
何に対して苛ついてんのかは、最早分からなくなって来てるけど……
………去り際に「ごめんなさい」と言った羽柴くんの辛そうな顔は、あれだけ飲んでも忘れられずに今も頭に残ってる。
電話……してみようか…。
…とは言え、番号は交換してないから……会社からかける事になる。
会社からの電話だったら……真面目な羽柴くんはきっと出るだろうな…。
電話の相手が俺だって分かったら……羽柴くんはどうするだろうか…。
声も聞きたくないって思われるかな…。
それに……俺が電話する事で……2人が揉めるかも知れないし……
そもそも、今だってもしかしたら穏やかじゃないかも知れないし………
「はぁ……何であんな事したんだ、俺……」
1人呟いてみても、やってしまった事は取り消せない…。
羽柴くんは俺を……どう思っただろうか……。
もう……顔も見たくないって思ってるだろうか………。
仕事………辞めるとか言い出すかな………………正直……キツイな、それは……。
でも、あんな事をした上司と毎日顔を合わさないといけないって……多分辛いよな……。
ちゃんと……謝りたい…。
*侑利side*
RRRRR…RRRRR…RRRRR…
「わっ、えっ、電話?」
ほぼ、俺からしか鳴る事のない慶の電話が鳴った。
本人も鳴った事にめっちゃ動揺してるし。
急いで画面を確認してる。
「あ、………」
慶が小さく言った。
なかなか出ないからチラッと見ると………明らかに出るのを躊躇ってる。
「誰」
「………会社」
え………
何か………嫌な感じ。
会社はもう休みに入ってる。
何人かは交代で事務的な事をするために出勤してんのかも知れないけど、慶の担当してるとこは工場だし、会社が電話して来るなんて事はまず無いだろう。
…って事は……
「…はい」
慶が電話に出る。
「………………」
無言。
……アイツだろ、それ。
「……あ、………はい……ちょっと、待って下さい…」
俺の所に来る。
すごく…困惑の表情。
「……工藤さん……」
やっぱり。
「話したいから…会えないかって……」
……え、
……会う必要あんの。
「侑利くんも、来て欲しいって…」
……まぁ……連休明けに会う訳だし……
あのままにしてんのも……アイツも慶も……俺も…落ち着かねぇのは確か。
「…分かった」
俺がそう言うと、慶の表情が少し強張る。
……俺がアイツを殴るんじゃないか、とか…思ってんだろう。
*慶side*
工藤さんと待ち合わせしてる公園まで車で向かってるけど……侑利くんも俺も……あんまり喋らなかった。
昨日の事が浮かんで来て……あまり喋る気になれない…。
きっと侑利くんも同じなんだろうな…。
ケンカしたけど、何とか仲直り出来て嬉しくなってたけど……工藤さんはずっと、昨日の事考えて今まで苦しかったんだろうな、とも…思う。
あの後、工藤さんはどうしたんだろう…。
これから……どんな顔して仕事行ったら良いのかな……
少し走って、公園に着いた。
すごく良い天気で、この時期にしては少し暖かく感じるぐらい。
こんな用事で来てるんじゃ無かったら、散歩したら気持ちいいんだろうな、とか、他人事の様に考えてる…。
この後……工藤さんに会うのに。
少しして、前に一度乗せて貰った事のある車が駐車場に入って来た。
途端に緊張して……顔が熱くなる。
「先、お前だけ行って来いよ」
侑利くんが言う。
「…うん」
そう言って、ドアを開けて外へ出る。
「アイツが話したいって言ったら呼んで」
「…分かった」
ドアを閉めると、こっちへ歩いて来た工藤さんが運転席の侑利くんに軽く頭を下げた。
侑利くんは視線だけ下げてそれに応える。
「ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「…いえ、大丈夫です」
それだけ答えるのも、ドキドキした。
工藤さんは、少し車から離れるように歩き出した。
俺も、その後ろを付いて行く。
広い公園。
天気も良いし、年末だからか人も多く居て……周りの声に何となく助けられてる。
……静まり返ってたら…気まずいし…。
少し歩いた所で工藤さんは足を止めて、俺を振り返った。
「…昨日は、あんな事して……ほんとに、ごめん」
振り返り様に行き成り頭を下げられて、焦ってしまった。
「あ、あの、工藤さん…頭上げて下さい」
その言葉に工藤さんはゆっくりを頭を上げる。
…今度は思いっきり目が合って……一気に緊張が増した。
「あんな事……するつもりじゃなかった。ほんとに……トイレでの事を謝ろうって思ったんだ……だから、残って貰ったのに……」
「……………」
何も言えない……。
「……いつの間にか……羽柴くんの事を、好きになってた」
…何か……苦しい…。
「彼が居るって話してくれた時……純粋に…羽柴くんみたいな子に好きになって貰える彼が羨ましいな、って思った。…ほんとに…彼の事が好きなんだな、って分かったし」
……ただ無言で工藤さんの言葉を聞く。
「だけど…いつの間にか、本気で好きになっちゃってて……会社で話す時間が凄く楽しくて……羽柴くんの楽しそうな顔が見たくてさ……昨日は…ちょっと…彼に嫉妬したかな…」
「…え、」
「羽柴くんにこんなに好きになって貰えてさ…」
……ほんとに何も言えない。
言葉が見つからないよ…。
「もうここで、じゃあ、って言って別れたら…幸せそうに彼の所に戻るんだな、って思ったら……ちょっと……いや、…だいぶ、かな……嫉妬しちゃって……思わず…あんな事……」
「……………」
「…嫌だったよね……ほんとに、ごめん」
「いえ……そんな……」
また頭を下げるから……困る…。
「……正直……今も好きだよ」
「…え…、」
……ドキドキして……もう……辛い。
「でも……好きで居たって……どうにもなんないって事は分かる。………これ以上……羽柴くんを困らせたくない」
「……………」
「……………だから………もう…諦めるよ」
工藤さんの…泣きそうな顔…。
そんな顔…しないで欲しいのに……。
「工藤さんが……俺の事好きで居てくれたなんて……俺、ほんとに……想像もしてなくて……昨日は、びっくりしたけど……でも………伝わりました」
形はどうあれ、気持ちはすごく……伝わったのは本当。
「だけど…………ごめんなさい…」
今度は俺が深く頭を下げる。
「ちょ、ちょっと羽柴くん、頭上げてっ」
さっきの俺みたいに、工藤さんが少し焦ってる。
その言葉に、ゆっくりと頭を上げた。
「彼は……俺の人生を変えてくれた人なんです」
視線を上へずらし……工藤さんをちゃんと見る。
気まずいし……緊張するけど………これだけは、ちゃんと……
「………俺は………彼を、大事にしたいって思ってます」
泣いてしまった…。
泣かないで居ようと思ったけど……やっぱりダメだった。
侑利くん以外に……こんなに真剣に告白された事なんか無いし………
「…前みたいには……戻れませんか…?」
工藤さんが、驚いたような表情を浮かべて俺を見る。
「…俺、羽柴くんにあんな事したんだよ?」
「でも…酔ってたんですよね…?」
「……羽柴くんは……ほんとに可愛くて良い子だね」
「…………」
工藤さんは、何も言えないで居る俺に少し微笑んで見せる。
その少し歪んだ笑顔を見てると、なんだか苦しくなって来て……少し俯いた。
「忘れるのは……ちょっと時間かかりそうだけど……でも、もう絶対あんな事はしない」
複雑だけど……これで良いんだ、きっと。
「年が明けたら、また…何か奢るよ。野菜ジュースでも何でも」
「…え、」
顔を上げると、ちょっと笑いそうになってる工藤さんが居て………俺も…少し笑ってしまった。
「…彼と、話せるかな」
だけど、今度は一気に緊張して、笑顔が引きつるのが分かる、。
そうだ……侑利くんとも話したいって言ってた。
「…あ、はい。…言って来ます」
工藤さんに軽くお辞儀をして、車の方へ急ぐ。
運転席の方に行くと、侑利くんが窓を開けた。
「終わった?」
短く聞いて来る。
きっと……気になって仕方なかったんだろうな……心配性な侑利くんの事だから…。
「うん」
「話せたの?」
「うん…話した」
「そ、か」
「侑利くんと…話したいって」
侑利くんは、一度工藤さんへと視線を向けた後、車を降りた。
「…行って来る」
歩き出そうとした侑利くんを…無意識に引き止めてた。
「俺も…近くで居ようか?」
「…大丈夫だよ」
そう言って歩き出そうとするけど……
「侑利くん、」
「何だよ」
「…殴っちゃダメだからね」
昨日みたいに……ならないとも限らない。
…近くに居ないと止めれないよ…。
「殴んねぇよ。待ってろ」
そう言って、侑利くんは工藤さんの方へと歩いて行った。
待ってろ、と言われたけど……気になって…車の中に大人しく座ってられないよ……
もしも…ケンカになったら、とか……心配だし……
…中には入らず、車に凭れて…2人を眺めた。
*侑利side*
慶が、俺が工藤を殴るんじゃないかと心配してる。
……殴って良いよって言うんなら別だけど。
でも……今日は冷静に…話がしたいって言ってるし……とりあえず、聞いてやる。
工藤の所まで歩いた。
……何とも言えない空気だけど…。
「…急に呼び出してすみません」
工藤が俺に向き直る。
「……いえ、」
短く返事する。
「昨日は……羽柴くんにあんな事して、ほんとに…すみませんでした」
工藤が俺に頭を下げた。
「あなたが怒るのも、無理ないと思います。あんなの見せられたら誰だって…」
一瞬にして昨日の慶を抱きしめてキスを迫ってる場面が脳裏に浮かぶ。
人ってあんなに一瞬でキレるんだな、って改めて思った。
俺は…やっぱり結構単純らしい。
「慶が好きですか」
唐突に、俺から聞いた。
工藤は、少し驚いた顔をしたけど……ふぅ、と小さく息を吐いて口を開いた。
「あなたの前で言い難いけど……………好きです」
はっきり言った。
好きだ、って。
「…、」
「だけど、」
俺が何か言う前に、遮るように工藤が続ける。
「だけどさっき…………思いっきり…振られました」
……え……
そんな話したんだ……
「あなたの存在を羽柴くんから聞いて……少し、羽柴くんに対する見方が変わりました。すごく…相手の事を考える子なんだな、って。それまでは、そんな風に思ってなかったのに、急に気持ちが動いてしまって………気付いたら……あなたが居るのに、本気で好きになってました」
俺の事を話したって言って慶がご機嫌だった日…。
あの日から、慶の事を好きだったのか……
「あなたと羽柴くんの間に割って入れる訳ないって分かってるのに、無理だと思ったら余計に…気持ちが大きくなって……あんな事してしまって、ほんとに申し訳ないと思ってます」
工藤が一歩前へ出る。
「殴っても良いですよ」
…………マジで言われたぞ。
……チラッと慶を見る。
中にも入らず車の前で俺の方をじっと見てる。
正直、慶がこの場に居なかったら、遠慮なく殴らせて貰うところだ。
「……殴ったらダメだって、慶に言われてます」
「…そうですか」
「ほんとは……殴りたいですけど」
本心だ。
殴れないから、せめて言わせてくれ。
「さっき、羽柴くんに改めて気持ちを伝えました。……そしたら、はっきり、ごめんなさいって言われました」
「……………」
「…あなたの事を、大事にしたいって」
え………
…そんな事、言ったんだ、アイツ。
「少しずつ……諦めます」
工藤が、少しだけ清々しい表情で話す。
「あなたには絶対に敵わないし……あなたの事を嬉しそうに話す羽柴くんが好きですから」
これは……強がりだって分かる。
そんなに…気持ちって切り替わらねぇだろ。
確か翔真が…光の事をそんな風に言ってた。
だけど、そうする事で……前進する事は出来る。
「好きになった事は仕方ないし、それを攻めるつもりもありません。だけど……もしも、また、同じような事があったら………その時は、必ず殴ります」
俺が言いたいのはこれだけ。
「分かりました」
工藤が了承する。
「時間取らせてすみません」
「いえ…」
「あなたと…話せて良かった」
「…俺も…そう思います」
俺の言葉を待って「じゃあ、」と短く言うと、先に慶の方へ向かって歩き出した。
俺はその数歩後を歩いて行く。
すげぇ心配した顔で見てる慶の前で、工藤が立ち止まった。
「彼にも伝えた。……諦めるって」
困ったように慶が俺を見る。
「また、来年。…遅刻しないように」
工藤が笑顔を見せる。
きっと、工藤なりに慶に気を遣ってんだろう……あまりに慶が、戸惑ってるから…。
「…はい」
慶も、何とか笑顔で返す。
工藤は最後に俺にお辞儀をして、自分の車の方へ戻って行った。
工藤が帰った後……しばらく車で居た。
慶は…俺と工藤の話の内容が気になって仕方ない感じ。
「あー……殴って良いって言われたよ?」
「え?」
慶が驚いた声を上げる。
「でも、殴んなかっただろ?」
「………うん」
少し嬉しそうに俯く。
「褒めてくんねぇの?」
俺の言葉にハッとしたように顔を上げると、少し窓の外をキョロキョロ確認して、俺の服を掴んで引っ張って軽いキスをした。
更には「偉いね~」という取って付けたような誉め言葉とヨシヨシも付いてた。
「あとさぁ……俺を、大事にするって言ってくれた?」
今度は恥ずかしそうに顔を背けた……忙しい奴。
「嬉しかった。…ありがとな」
赤い顔で、チラッとだけ視線をよこす。
「…褒めてよ」
…とか、可愛く言ってさ…。
勢いよく慶に被さるように近付き、そのままシートを倒して押し倒す。
「わっ、ちょっと!侑利くんっ!…んっ、」
最後は俺が強引に唇を塞いだから、声にはならなかった。
今日話したからって……アイツの存在は、気にならない訳ではないけど……言いたかった事は言ったし、分かって貰えたと思ってる。
アイツも……同じだろう。
酷い頭痛と……気持ち悪さと…………これ以上無いくらいの、罪悪感。
昨日は………最低な事をした。
……自分でも……何であんな事をしたのかって……後悔しかない。
羽柴くんが、忘年会の間も端々で彼の事を考えてるのが分かって……完全なる嫉妬心からあんな事をしてしまった。
この後、彼の元に行ってしまう羽柴くんを……帰したくないって思ってしまったんだ。
確かに、結構飲んだからちょっとは酔ってたってのもあるけど……でも…思考は正常に回ってたし分別もついてた。
ちゃんと回ってる頭で……俺は、羽柴くんにあんな事をしてしまったんだ。
彼が居るのに本気になるなんて……俺、ほんとに何やってんだ…。
あの場に彼が現れた時……殴られると思った。
殴られても仕方ないって、瞬間的に諦めもついた。
でも、どっかに……羽柴くんを奪いたいって気持ちがあったんだと思う。
彼にはきっとそれが伝わってる。
彼の目が……完全にキレてたから。
羽柴くんは……あの後どうなっただろうか……
やっぱり……彼に何か言われただろうな………
攻められたかな……
彼のあの怒り様だったら、ケンカしたかもな………
俺のせいだ…。
「……痛、」
痛む頭に苛つきながらベッドから起き上がる。
三次会では……散々飲んだ。
と、言うよりも、飲まないとやってられなかった。
こんな事、誰にも言えないし……とにかく最低な事をした自分にも腹が立って……
その結果が、今のこの酷い二日酔い。
会社は年末年始の連休に入った。
次に羽柴くんに会うのは、年が明けてからだ。
こんな別れ方したまま、何日も過ごせるかな……
考えたらまた頭がズキズキ痛む。
「くそ、」
苛立ちも収まらない。
何に対して苛ついてんのかは、最早分からなくなって来てるけど……
………去り際に「ごめんなさい」と言った羽柴くんの辛そうな顔は、あれだけ飲んでも忘れられずに今も頭に残ってる。
電話……してみようか…。
…とは言え、番号は交換してないから……会社からかける事になる。
会社からの電話だったら……真面目な羽柴くんはきっと出るだろうな…。
電話の相手が俺だって分かったら……羽柴くんはどうするだろうか…。
声も聞きたくないって思われるかな…。
それに……俺が電話する事で……2人が揉めるかも知れないし……
そもそも、今だってもしかしたら穏やかじゃないかも知れないし………
「はぁ……何であんな事したんだ、俺……」
1人呟いてみても、やってしまった事は取り消せない…。
羽柴くんは俺を……どう思っただろうか……。
もう……顔も見たくないって思ってるだろうか………。
仕事………辞めるとか言い出すかな………………正直……キツイな、それは……。
でも、あんな事をした上司と毎日顔を合わさないといけないって……多分辛いよな……。
ちゃんと……謝りたい…。
*侑利side*
RRRRR…RRRRR…RRRRR…
「わっ、えっ、電話?」
ほぼ、俺からしか鳴る事のない慶の電話が鳴った。
本人も鳴った事にめっちゃ動揺してるし。
急いで画面を確認してる。
「あ、………」
慶が小さく言った。
なかなか出ないからチラッと見ると………明らかに出るのを躊躇ってる。
「誰」
「………会社」
え………
何か………嫌な感じ。
会社はもう休みに入ってる。
何人かは交代で事務的な事をするために出勤してんのかも知れないけど、慶の担当してるとこは工場だし、会社が電話して来るなんて事はまず無いだろう。
…って事は……
「…はい」
慶が電話に出る。
「………………」
無言。
……アイツだろ、それ。
「……あ、………はい……ちょっと、待って下さい…」
俺の所に来る。
すごく…困惑の表情。
「……工藤さん……」
やっぱり。
「話したいから…会えないかって……」
……え、
……会う必要あんの。
「侑利くんも、来て欲しいって…」
……まぁ……連休明けに会う訳だし……
あのままにしてんのも……アイツも慶も……俺も…落ち着かねぇのは確か。
「…分かった」
俺がそう言うと、慶の表情が少し強張る。
……俺がアイツを殴るんじゃないか、とか…思ってんだろう。
*慶side*
工藤さんと待ち合わせしてる公園まで車で向かってるけど……侑利くんも俺も……あんまり喋らなかった。
昨日の事が浮かんで来て……あまり喋る気になれない…。
きっと侑利くんも同じなんだろうな…。
ケンカしたけど、何とか仲直り出来て嬉しくなってたけど……工藤さんはずっと、昨日の事考えて今まで苦しかったんだろうな、とも…思う。
あの後、工藤さんはどうしたんだろう…。
これから……どんな顔して仕事行ったら良いのかな……
少し走って、公園に着いた。
すごく良い天気で、この時期にしては少し暖かく感じるぐらい。
こんな用事で来てるんじゃ無かったら、散歩したら気持ちいいんだろうな、とか、他人事の様に考えてる…。
この後……工藤さんに会うのに。
少しして、前に一度乗せて貰った事のある車が駐車場に入って来た。
途端に緊張して……顔が熱くなる。
「先、お前だけ行って来いよ」
侑利くんが言う。
「…うん」
そう言って、ドアを開けて外へ出る。
「アイツが話したいって言ったら呼んで」
「…分かった」
ドアを閉めると、こっちへ歩いて来た工藤さんが運転席の侑利くんに軽く頭を下げた。
侑利くんは視線だけ下げてそれに応える。
「ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「…いえ、大丈夫です」
それだけ答えるのも、ドキドキした。
工藤さんは、少し車から離れるように歩き出した。
俺も、その後ろを付いて行く。
広い公園。
天気も良いし、年末だからか人も多く居て……周りの声に何となく助けられてる。
……静まり返ってたら…気まずいし…。
少し歩いた所で工藤さんは足を止めて、俺を振り返った。
「…昨日は、あんな事して……ほんとに、ごめん」
振り返り様に行き成り頭を下げられて、焦ってしまった。
「あ、あの、工藤さん…頭上げて下さい」
その言葉に工藤さんはゆっくりを頭を上げる。
…今度は思いっきり目が合って……一気に緊張が増した。
「あんな事……するつもりじゃなかった。ほんとに……トイレでの事を謝ろうって思ったんだ……だから、残って貰ったのに……」
「……………」
何も言えない……。
「……いつの間にか……羽柴くんの事を、好きになってた」
…何か……苦しい…。
「彼が居るって話してくれた時……純粋に…羽柴くんみたいな子に好きになって貰える彼が羨ましいな、って思った。…ほんとに…彼の事が好きなんだな、って分かったし」
……ただ無言で工藤さんの言葉を聞く。
「だけど…いつの間にか、本気で好きになっちゃってて……会社で話す時間が凄く楽しくて……羽柴くんの楽しそうな顔が見たくてさ……昨日は…ちょっと…彼に嫉妬したかな…」
「…え、」
「羽柴くんにこんなに好きになって貰えてさ…」
……ほんとに何も言えない。
言葉が見つからないよ…。
「もうここで、じゃあ、って言って別れたら…幸せそうに彼の所に戻るんだな、って思ったら……ちょっと……いや、…だいぶ、かな……嫉妬しちゃって……思わず…あんな事……」
「……………」
「…嫌だったよね……ほんとに、ごめん」
「いえ……そんな……」
また頭を下げるから……困る…。
「……正直……今も好きだよ」
「…え…、」
……ドキドキして……もう……辛い。
「でも……好きで居たって……どうにもなんないって事は分かる。………これ以上……羽柴くんを困らせたくない」
「……………」
「……………だから………もう…諦めるよ」
工藤さんの…泣きそうな顔…。
そんな顔…しないで欲しいのに……。
「工藤さんが……俺の事好きで居てくれたなんて……俺、ほんとに……想像もしてなくて……昨日は、びっくりしたけど……でも………伝わりました」
形はどうあれ、気持ちはすごく……伝わったのは本当。
「だけど…………ごめんなさい…」
今度は俺が深く頭を下げる。
「ちょ、ちょっと羽柴くん、頭上げてっ」
さっきの俺みたいに、工藤さんが少し焦ってる。
その言葉に、ゆっくりと頭を上げた。
「彼は……俺の人生を変えてくれた人なんです」
視線を上へずらし……工藤さんをちゃんと見る。
気まずいし……緊張するけど………これだけは、ちゃんと……
「………俺は………彼を、大事にしたいって思ってます」
泣いてしまった…。
泣かないで居ようと思ったけど……やっぱりダメだった。
侑利くん以外に……こんなに真剣に告白された事なんか無いし………
「…前みたいには……戻れませんか…?」
工藤さんが、驚いたような表情を浮かべて俺を見る。
「…俺、羽柴くんにあんな事したんだよ?」
「でも…酔ってたんですよね…?」
「……羽柴くんは……ほんとに可愛くて良い子だね」
「…………」
工藤さんは、何も言えないで居る俺に少し微笑んで見せる。
その少し歪んだ笑顔を見てると、なんだか苦しくなって来て……少し俯いた。
「忘れるのは……ちょっと時間かかりそうだけど……でも、もう絶対あんな事はしない」
複雑だけど……これで良いんだ、きっと。
「年が明けたら、また…何か奢るよ。野菜ジュースでも何でも」
「…え、」
顔を上げると、ちょっと笑いそうになってる工藤さんが居て………俺も…少し笑ってしまった。
「…彼と、話せるかな」
だけど、今度は一気に緊張して、笑顔が引きつるのが分かる、。
そうだ……侑利くんとも話したいって言ってた。
「…あ、はい。…言って来ます」
工藤さんに軽くお辞儀をして、車の方へ急ぐ。
運転席の方に行くと、侑利くんが窓を開けた。
「終わった?」
短く聞いて来る。
きっと……気になって仕方なかったんだろうな……心配性な侑利くんの事だから…。
「うん」
「話せたの?」
「うん…話した」
「そ、か」
「侑利くんと…話したいって」
侑利くんは、一度工藤さんへと視線を向けた後、車を降りた。
「…行って来る」
歩き出そうとした侑利くんを…無意識に引き止めてた。
「俺も…近くで居ようか?」
「…大丈夫だよ」
そう言って歩き出そうとするけど……
「侑利くん、」
「何だよ」
「…殴っちゃダメだからね」
昨日みたいに……ならないとも限らない。
…近くに居ないと止めれないよ…。
「殴んねぇよ。待ってろ」
そう言って、侑利くんは工藤さんの方へと歩いて行った。
待ってろ、と言われたけど……気になって…車の中に大人しく座ってられないよ……
もしも…ケンカになったら、とか……心配だし……
…中には入らず、車に凭れて…2人を眺めた。
*侑利side*
慶が、俺が工藤を殴るんじゃないかと心配してる。
……殴って良いよって言うんなら別だけど。
でも……今日は冷静に…話がしたいって言ってるし……とりあえず、聞いてやる。
工藤の所まで歩いた。
……何とも言えない空気だけど…。
「…急に呼び出してすみません」
工藤が俺に向き直る。
「……いえ、」
短く返事する。
「昨日は……羽柴くんにあんな事して、ほんとに…すみませんでした」
工藤が俺に頭を下げた。
「あなたが怒るのも、無理ないと思います。あんなの見せられたら誰だって…」
一瞬にして昨日の慶を抱きしめてキスを迫ってる場面が脳裏に浮かぶ。
人ってあんなに一瞬でキレるんだな、って改めて思った。
俺は…やっぱり結構単純らしい。
「慶が好きですか」
唐突に、俺から聞いた。
工藤は、少し驚いた顔をしたけど……ふぅ、と小さく息を吐いて口を開いた。
「あなたの前で言い難いけど……………好きです」
はっきり言った。
好きだ、って。
「…、」
「だけど、」
俺が何か言う前に、遮るように工藤が続ける。
「だけどさっき…………思いっきり…振られました」
……え……
そんな話したんだ……
「あなたの存在を羽柴くんから聞いて……少し、羽柴くんに対する見方が変わりました。すごく…相手の事を考える子なんだな、って。それまでは、そんな風に思ってなかったのに、急に気持ちが動いてしまって………気付いたら……あなたが居るのに、本気で好きになってました」
俺の事を話したって言って慶がご機嫌だった日…。
あの日から、慶の事を好きだったのか……
「あなたと羽柴くんの間に割って入れる訳ないって分かってるのに、無理だと思ったら余計に…気持ちが大きくなって……あんな事してしまって、ほんとに申し訳ないと思ってます」
工藤が一歩前へ出る。
「殴っても良いですよ」
…………マジで言われたぞ。
……チラッと慶を見る。
中にも入らず車の前で俺の方をじっと見てる。
正直、慶がこの場に居なかったら、遠慮なく殴らせて貰うところだ。
「……殴ったらダメだって、慶に言われてます」
「…そうですか」
「ほんとは……殴りたいですけど」
本心だ。
殴れないから、せめて言わせてくれ。
「さっき、羽柴くんに改めて気持ちを伝えました。……そしたら、はっきり、ごめんなさいって言われました」
「……………」
「…あなたの事を、大事にしたいって」
え………
…そんな事、言ったんだ、アイツ。
「少しずつ……諦めます」
工藤が、少しだけ清々しい表情で話す。
「あなたには絶対に敵わないし……あなたの事を嬉しそうに話す羽柴くんが好きですから」
これは……強がりだって分かる。
そんなに…気持ちって切り替わらねぇだろ。
確か翔真が…光の事をそんな風に言ってた。
だけど、そうする事で……前進する事は出来る。
「好きになった事は仕方ないし、それを攻めるつもりもありません。だけど……もしも、また、同じような事があったら………その時は、必ず殴ります」
俺が言いたいのはこれだけ。
「分かりました」
工藤が了承する。
「時間取らせてすみません」
「いえ…」
「あなたと…話せて良かった」
「…俺も…そう思います」
俺の言葉を待って「じゃあ、」と短く言うと、先に慶の方へ向かって歩き出した。
俺はその数歩後を歩いて行く。
すげぇ心配した顔で見てる慶の前で、工藤が立ち止まった。
「彼にも伝えた。……諦めるって」
困ったように慶が俺を見る。
「また、来年。…遅刻しないように」
工藤が笑顔を見せる。
きっと、工藤なりに慶に気を遣ってんだろう……あまりに慶が、戸惑ってるから…。
「…はい」
慶も、何とか笑顔で返す。
工藤は最後に俺にお辞儀をして、自分の車の方へ戻って行った。
工藤が帰った後……しばらく車で居た。
慶は…俺と工藤の話の内容が気になって仕方ない感じ。
「あー……殴って良いって言われたよ?」
「え?」
慶が驚いた声を上げる。
「でも、殴んなかっただろ?」
「………うん」
少し嬉しそうに俯く。
「褒めてくんねぇの?」
俺の言葉にハッとしたように顔を上げると、少し窓の外をキョロキョロ確認して、俺の服を掴んで引っ張って軽いキスをした。
更には「偉いね~」という取って付けたような誉め言葉とヨシヨシも付いてた。
「あとさぁ……俺を、大事にするって言ってくれた?」
今度は恥ずかしそうに顔を背けた……忙しい奴。
「嬉しかった。…ありがとな」
赤い顔で、チラッとだけ視線をよこす。
「…褒めてよ」
…とか、可愛く言ってさ…。
勢いよく慶に被さるように近付き、そのままシートを倒して押し倒す。
「わっ、ちょっと!侑利くんっ!…んっ、」
最後は俺が強引に唇を塞いだから、声にはならなかった。
今日話したからって……アイツの存在は、気にならない訳ではないけど……言いたかった事は言ったし、分かって貰えたと思ってる。
アイツも……同じだろう。
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