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「よそは知らないけど、これが久我家の考えよ」
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ガチャ、と玄関のドアが開く音がして……俺はそこへ急ぐ。
慶が帰って来た。
ゆっくりと入って来たその顔は、もう既に泣きそうなくらい不安一杯な感じで……
久々に……こんなに…不安そうな顔を見た。
最初の頃は…こんな感じだったな…とか、意外と冷静に考える。
俺について歩いて来たけど、リビングのドアの手前で立ち止まった。
小さく、深呼吸してる。
そんなに気負わなくて良いよ。
ドアを開けて一緒にリビングへ入ると、同時にうちの親も立ち上がって慶を見る。
慶は……完全に足が止まってしまった。
父さんと母さんが慶の前に立つと……慶は、顔を上げられずじっと床を見つめて小さく震えてた。
「…初めまして、慶くん」
「…っ、」
母さんがそう言ったのと同時に……慶の目から涙が落ちたのが分かった。
いつもみたいに…表情を変えず、涙だけを零して泣く。
母さんは泣き出した慶を見て少し困ったように微笑むと、父さんに視線を投げかけた。
きっと助けを求めたんだろう…。
父さんが、少し慶に近付いて…俯いてるその顔を覗き込むようにして言う。
「慶くん……すごく…不安に思ってると思うから…結果から言うね」
慶は一瞬驚いたように目を開けたけど……すぐに硬く目を閉じた。
何を言われるか…すごく不安なんだろうな……緊張してんのが伝わって来る。
「…僕も妻も、君を否定なんかしないよ」
慶が閉じてた目をゆっくりと開ける。
まだ…あまり理解出来てないような…そんな表情。
「侑利から…全部聞いたよ。君との事も、君の今まで生きて来た人生の事も。……同じ親として…君の両親のした事は…理解に苦しむし……何より…許せないと思った。…君がどれだけ傷付いたか…多分…僕たちの想像を遥かに超えてるんだろうなって思う」
涙は止まらず、その目からずっと零れ落ちている。
「…侑利がね……君が居ない人生には意味が無いって言うんだ」
「…え…、」
慶が俺の方を見る。
そんな事思いっ切り言うなよな……。
……まぁ、でも……俺は自分の気持ちを素直に言ったまでで…。
「君は色々考えて悩んでるのかも知れない……でも、僕たちは侑利の親だから…親バカかも知れないけど、侑利が幸せで居てくれる事を願ってる。…だから、君と居る侑利の今の生活を、壊すような事は絶対にしないよ」
父さんの語り掛けるような言葉に…慶は何も言えずただ涙を流すだけだった。
「ね。」と言って母さんにバトンタッチする。
「慶くんはきっと……自分が男で、って気にしてるのかも知れないけど……実は、私たちの周りに結構居るの、同性で付き合ってるって人達。一緒に働いてるスタッフの中にも居るくらい。……向こうじゃそんなに珍しくないからね。…侑利だって…そんな事気にするんだったらあなたと付き合わないんじゃないかしら。……あなたの居ない人生に意味が無い、なんて……侑利がそんな事言うなんて信じられないくらい。…きっと、今までのどの彼女よりもあなたとは真剣に付き合ってると思うしか無いくらい」
慶はまだ、何も言えず……ただ突っ立って泣いてる。
ほんとは……抱きしめてやりてぇって思ってるけどさ…。
「あの……俺…………ご……ごめんなさいっ」
やっと喋り出した慶が、思いっ切り頭を下げた。
「…帰るとこ、だなんて……嘘吐いて……逃げて…………侑利くんは……ちゃんと話せば良いって言ってくれたのに……俺が……逃げたんです…」
母さんが慶に近付いた。
「何で…逃げたの?」
慶は困ったように一度俺を見たけど……震える声で少しずつ話し出す。
「……俺なんかと一緒に居るの……許してもらえる訳ない、って思って………俺は……男だし……子供が産める訳じゃ無いから……やっぱり……侑利くんには…普通に女の人と結婚して…孫の面倒見たりして……そういうのを…望んでるだろうな、って思って」
やっぱりそんな事心配してたんだな…。
「久しぶりに帰って来たら……男の俺が…一緒に住んでて……侑利くんとは……過ごして来た環境も…全く違うし……俺には………何も無くて…………何で、俺なんかとって思われるんじゃないかって……」
……慶はネガティブだから……そんな事ばっかが浮かんで来るんだ。
「侑利くんの為にも………友達のフリしなきゃって……………ごめんなさい…」
俺は……ちゃんと慶を見て来たつもり。
だからこそ…親にだってちゃんと紹介したいって思った。
ただ、唐突にその日が来ると思わなかったから……俺も焦ったけど………だけど、まさか慶が「帰るとこ」とか言うとは……俺も想定外。
「息子は、普通に女の人と結婚して子供が出来て、親は孫の面倒見て、それが一番幸せで何よりの親孝行…って……勿論それも正しいと思うし、多くはそうだと思う。……だけど、それって価値観の問題だと思うの。…色んな形があって、色んな人達が居て、感じ方もそれぞれでしょ?」
慶はゆっくり視線を上げて両親を見る。
「そうだよ、慶くん」
続きは父さんが喋り出す。
「君が侑利を好きで、侑利も君を必要としてるんなら、それは誰もとやかく言う権利は無いと僕は思う。…男の恋人が居るって事を、驚かなかった訳じゃないよ?…僕たちは侑利が女の子と付き合ってるのしか知らないからね。……だけど…女の子と付き合ってたって上手く行かない時もある。侑利なんか特にさ…今までの彼女は、誰とも上手く行って無いんだしな」
ちょっと……笑いを含めた感じで俺を見る。
「…何だよ…」
反論も出来ねぇけどさ。
まぁ、する気もねぇけど。
「そんな侑利が、どうやら、君が居ない生活は考えられないくらい君との事を真剣に考えてるみたいなんだ」
「それはっ、」
慶が突然言った。
勢いよく出た声に、自分でちょっと困ってる……慶らしいな、って思って愛おしくなった。
「…それは…俺も同じです……侑利くんが……俺の…最悪だった人生を…変えてくれました……この先……生きてて良い事なんて何も無いって思ってたから……だけど………侑利くんにとって……重い存在になりたくないな、って……どっかで思ってます…」
ん?…何だ?
「……侑利くんが俺の人生を変えてくれた……俺には侑利くんしか居ない、って……もしかしたらすごく……重いんじゃないかって……思う時があって……」
お前、何言ってんの?
「侑利くんは…すごく優しいから……自分が居なくなったら、俺がまた…死ぬ事考えたりするんじゃないかって思って……それで…もしも、他に気になる人が出来ても……俺を1人に出来なくて……結局……侑利くんの幸せを……俺が邪魔する事になるんじゃないか、とか……」
そんな事考えてんの?
「……だけど……考えても…考えても……いつも、最後は……侑利くんが居ないとダメだってなっちゃって……やっぱり……俺には、侑利くんしか居なくて……重いと思われても、邪魔だって思われても……………侑利くんの近くで居たい、って思ってしまうんです…」
そもそも…重いとか邪魔だとか、そんな事思わねぇし。
ほんとマジでそんな事考えてんだとしたら、ほんとにバカだよ、お前。
「慶くんは……そんなに侑利が好きなの?」
母さんが、侑利の前に立つ。
「……はい……すごく……」
慶が震えた声で答える。
「だったら、それで良いじゃない。もう泣かないで」
慶は、涙を止めようと…服の袖で何度も目を擦ってる。
「男って事を気にしてるのかも知れないけど、私たち夫婦はそういう考えだから、嫁とか孫とかそういうのは気にしないで。それに、私、まだ47歳よ。まだお祖母ちゃんにはなりたくないのっ。向こうでも40代前半で通ってるから」
「えっ、それは無理があんだろ」
思わず突っ込んで、すんげぇ悪い顔で睨まれた。
「侑利がお嫁さん貰った所で、私、上手く付き合える気がしないしねっ。昔付き合ってた彼女なんか、私の事『おばさん』呼ばわりだからねっ」
「…そう見えたんじゃねぇの?」
「うるさいわよ、侑利っ」
また睨まれる。
「とにかく、慶くんが男だからとか、辛い人生を送って来たとかは一切気にならないし、知ったからって気にするつもりもないわ。だけど……私たちは侑利の親だから、やっぱり侑利の幸せは気になるの」
面と向かってそう言う事を言われるのは初めてで……少し、照れる。
「だから、侑利の為にも……あなたには、侑利の傍で居て貰わないと困る」
母さん………カッコいいじゃん。
「僕からもお願いするよ。侑利がフラフラしないように見てて欲しい」
父さんも付け加えて来た。
「俺はフラフラしねぇよ」
「そう?…昔はかなり蛇行してたけどな…」
親のクセに息子をバカにしてんな。
母さんに、泣かないで、と言われたけど……慶の涙はいつまでも止まる事は無くて……取ってやったティッシュで拭きまくってる姿を見て、やっぱ大事なんだなって再確認した…。
とにかく……俺の傍で居てくれたらそれで良い。
重いだの邪魔だのって…しょうもない事考えないでさ…。
~~~~~~~~
どこかで時間を潰すと言ってエレベーターに向かう慶と別れた後………部屋に戻ると、口を開いたのは親の方だった。
「あの子と一緒に住んでるの?」
と、母さんに聞かれ、
「そう」
と、答えたら…
「恋人なのか?」
と、父さんが言った。
……とっくにバレてんのか。
「この部屋見て、思わない方がおかしいでしょ」
と、母さんが最もな事を言う。
色んなもんが2個ずつあるし………1人で住んでるかそうでないかなんて、バカでなければ分かるだろう。
「真面目に付き合ってるの?」
母さんが言う。
親としては、気になるとこだろう。
「真面目だよ、相当」
普通ならここで、大反対されるのかも知れない。
恋人が男なんて、親世代にしてみたら複雑だろうから…。
だけど……そこは何となく……勝手な俺の想像だけど……俺の親は理解してくれるんじゃないだろうか、って漠然と思ってた。
理解されなくても…俺は、慶と一緒に居る事しか考えてねぇんだけど…。
慶の事を話しても……正直、慶という人物を全部分かって貰うのは難しい。
親は慶をさっきチラッと見ただけだし…。
だけど、俺が慶と一緒に居る理由を説明するのに、慶の今までの人生を話さない訳には行かなくて……
俺が慶と付き合ってんのを知った以上は、慶の事を誤解せずに居て欲しい、って……俺の彼氏目線な考えかも知れないけど……そう思ってしまう。
慶は、俺なんかよりずっと……真面目に生きて来た。
1人で、だ。
慶の事を話した後、親が言ったのは……
「侑利の人生なんだから、侑利が好きなように生きれば良い。だけど、後押しが必要な時はちゃんと相談しなさい」
だった。
「母さん達はね、侑利を高校生の頃から1人にして好きな事してるから、ここに来て口出し出来る立場じゃないと思ってるの。侑利だったから、私達は向こうで夢が叶えられてる。侑利が、親が居ないと自立出来ない性格だったら、今はこうなってないと思うしね」
母さんは、昔からこんな感じだ。
ちょっと男っぽい、って言うか……さっぱりしてる。
「ただ、侑利が男の人と付き合ってるからって、育て方を間違えたとか幻滅してるとか思ってんじゃないかって、そう言う勘違いだけはしないで欲しいって事は言いたいわね」
男前だな…母さん。
「よそは知らないけど、これが久我家の考えよ」
と、付け足した。
「あなたも何か言ってよ」
言い終えて、今度は父さんを見る。
「侑利の面食いなとこは、母さんに似たんだな」
「「はぁ?」」
母さんと同時に突っ込んだ。
呑気かっ。
「何言ってんのっ、父さん似でしょっ」
「…いや、どっちでも良いわ…」
そこ、拾うとこじゃねぇだろ。
とにかく……これが、俺の親。
俺は、この2人が好きだ。
「あのさ…認めてくれて、ありがとう」
しばらくシン…とした。
…まぁ、親に「ありがとう」なんて、恥ずかしいけどさ……
それより、今の沈黙の方がよっぽど恥ずかしいわっ。
「侑利っ」
母さんにまた抱きしめられる。
「可愛い事言うじゃないっ、そんな子だった?」
ヨシヨシすんな。
でも……
「慶と…出会ってからかも」
ありがとう、や、いただきます、ただいま、おかえり、……普通の事だけど…ちゃんと言うようになった。
「……じゃあ、慶くんに感謝しないとね」
……俺はほんとに、母さん達の息子で良かったって、思ってるよ。
それはさすがに言わねぇけど。
慶が帰って来た。
ゆっくりと入って来たその顔は、もう既に泣きそうなくらい不安一杯な感じで……
久々に……こんなに…不安そうな顔を見た。
最初の頃は…こんな感じだったな…とか、意外と冷静に考える。
俺について歩いて来たけど、リビングのドアの手前で立ち止まった。
小さく、深呼吸してる。
そんなに気負わなくて良いよ。
ドアを開けて一緒にリビングへ入ると、同時にうちの親も立ち上がって慶を見る。
慶は……完全に足が止まってしまった。
父さんと母さんが慶の前に立つと……慶は、顔を上げられずじっと床を見つめて小さく震えてた。
「…初めまして、慶くん」
「…っ、」
母さんがそう言ったのと同時に……慶の目から涙が落ちたのが分かった。
いつもみたいに…表情を変えず、涙だけを零して泣く。
母さんは泣き出した慶を見て少し困ったように微笑むと、父さんに視線を投げかけた。
きっと助けを求めたんだろう…。
父さんが、少し慶に近付いて…俯いてるその顔を覗き込むようにして言う。
「慶くん……すごく…不安に思ってると思うから…結果から言うね」
慶は一瞬驚いたように目を開けたけど……すぐに硬く目を閉じた。
何を言われるか…すごく不安なんだろうな……緊張してんのが伝わって来る。
「…僕も妻も、君を否定なんかしないよ」
慶が閉じてた目をゆっくりと開ける。
まだ…あまり理解出来てないような…そんな表情。
「侑利から…全部聞いたよ。君との事も、君の今まで生きて来た人生の事も。……同じ親として…君の両親のした事は…理解に苦しむし……何より…許せないと思った。…君がどれだけ傷付いたか…多分…僕たちの想像を遥かに超えてるんだろうなって思う」
涙は止まらず、その目からずっと零れ落ちている。
「…侑利がね……君が居ない人生には意味が無いって言うんだ」
「…え…、」
慶が俺の方を見る。
そんな事思いっ切り言うなよな……。
……まぁ、でも……俺は自分の気持ちを素直に言ったまでで…。
「君は色々考えて悩んでるのかも知れない……でも、僕たちは侑利の親だから…親バカかも知れないけど、侑利が幸せで居てくれる事を願ってる。…だから、君と居る侑利の今の生活を、壊すような事は絶対にしないよ」
父さんの語り掛けるような言葉に…慶は何も言えずただ涙を流すだけだった。
「ね。」と言って母さんにバトンタッチする。
「慶くんはきっと……自分が男で、って気にしてるのかも知れないけど……実は、私たちの周りに結構居るの、同性で付き合ってるって人達。一緒に働いてるスタッフの中にも居るくらい。……向こうじゃそんなに珍しくないからね。…侑利だって…そんな事気にするんだったらあなたと付き合わないんじゃないかしら。……あなたの居ない人生に意味が無い、なんて……侑利がそんな事言うなんて信じられないくらい。…きっと、今までのどの彼女よりもあなたとは真剣に付き合ってると思うしか無いくらい」
慶はまだ、何も言えず……ただ突っ立って泣いてる。
ほんとは……抱きしめてやりてぇって思ってるけどさ…。
「あの……俺…………ご……ごめんなさいっ」
やっと喋り出した慶が、思いっ切り頭を下げた。
「…帰るとこ、だなんて……嘘吐いて……逃げて…………侑利くんは……ちゃんと話せば良いって言ってくれたのに……俺が……逃げたんです…」
母さんが慶に近付いた。
「何で…逃げたの?」
慶は困ったように一度俺を見たけど……震える声で少しずつ話し出す。
「……俺なんかと一緒に居るの……許してもらえる訳ない、って思って………俺は……男だし……子供が産める訳じゃ無いから……やっぱり……侑利くんには…普通に女の人と結婚して…孫の面倒見たりして……そういうのを…望んでるだろうな、って思って」
やっぱりそんな事心配してたんだな…。
「久しぶりに帰って来たら……男の俺が…一緒に住んでて……侑利くんとは……過ごして来た環境も…全く違うし……俺には………何も無くて…………何で、俺なんかとって思われるんじゃないかって……」
……慶はネガティブだから……そんな事ばっかが浮かんで来るんだ。
「侑利くんの為にも………友達のフリしなきゃって……………ごめんなさい…」
俺は……ちゃんと慶を見て来たつもり。
だからこそ…親にだってちゃんと紹介したいって思った。
ただ、唐突にその日が来ると思わなかったから……俺も焦ったけど………だけど、まさか慶が「帰るとこ」とか言うとは……俺も想定外。
「息子は、普通に女の人と結婚して子供が出来て、親は孫の面倒見て、それが一番幸せで何よりの親孝行…って……勿論それも正しいと思うし、多くはそうだと思う。……だけど、それって価値観の問題だと思うの。…色んな形があって、色んな人達が居て、感じ方もそれぞれでしょ?」
慶はゆっくり視線を上げて両親を見る。
「そうだよ、慶くん」
続きは父さんが喋り出す。
「君が侑利を好きで、侑利も君を必要としてるんなら、それは誰もとやかく言う権利は無いと僕は思う。…男の恋人が居るって事を、驚かなかった訳じゃないよ?…僕たちは侑利が女の子と付き合ってるのしか知らないからね。……だけど…女の子と付き合ってたって上手く行かない時もある。侑利なんか特にさ…今までの彼女は、誰とも上手く行って無いんだしな」
ちょっと……笑いを含めた感じで俺を見る。
「…何だよ…」
反論も出来ねぇけどさ。
まぁ、する気もねぇけど。
「そんな侑利が、どうやら、君が居ない生活は考えられないくらい君との事を真剣に考えてるみたいなんだ」
「それはっ、」
慶が突然言った。
勢いよく出た声に、自分でちょっと困ってる……慶らしいな、って思って愛おしくなった。
「…それは…俺も同じです……侑利くんが……俺の…最悪だった人生を…変えてくれました……この先……生きてて良い事なんて何も無いって思ってたから……だけど………侑利くんにとって……重い存在になりたくないな、って……どっかで思ってます…」
ん?…何だ?
「……侑利くんが俺の人生を変えてくれた……俺には侑利くんしか居ない、って……もしかしたらすごく……重いんじゃないかって……思う時があって……」
お前、何言ってんの?
「侑利くんは…すごく優しいから……自分が居なくなったら、俺がまた…死ぬ事考えたりするんじゃないかって思って……それで…もしも、他に気になる人が出来ても……俺を1人に出来なくて……結局……侑利くんの幸せを……俺が邪魔する事になるんじゃないか、とか……」
そんな事考えてんの?
「……だけど……考えても…考えても……いつも、最後は……侑利くんが居ないとダメだってなっちゃって……やっぱり……俺には、侑利くんしか居なくて……重いと思われても、邪魔だって思われても……………侑利くんの近くで居たい、って思ってしまうんです…」
そもそも…重いとか邪魔だとか、そんな事思わねぇし。
ほんとマジでそんな事考えてんだとしたら、ほんとにバカだよ、お前。
「慶くんは……そんなに侑利が好きなの?」
母さんが、侑利の前に立つ。
「……はい……すごく……」
慶が震えた声で答える。
「だったら、それで良いじゃない。もう泣かないで」
慶は、涙を止めようと…服の袖で何度も目を擦ってる。
「男って事を気にしてるのかも知れないけど、私たち夫婦はそういう考えだから、嫁とか孫とかそういうのは気にしないで。それに、私、まだ47歳よ。まだお祖母ちゃんにはなりたくないのっ。向こうでも40代前半で通ってるから」
「えっ、それは無理があんだろ」
思わず突っ込んで、すんげぇ悪い顔で睨まれた。
「侑利がお嫁さん貰った所で、私、上手く付き合える気がしないしねっ。昔付き合ってた彼女なんか、私の事『おばさん』呼ばわりだからねっ」
「…そう見えたんじゃねぇの?」
「うるさいわよ、侑利っ」
また睨まれる。
「とにかく、慶くんが男だからとか、辛い人生を送って来たとかは一切気にならないし、知ったからって気にするつもりもないわ。だけど……私たちは侑利の親だから、やっぱり侑利の幸せは気になるの」
面と向かってそう言う事を言われるのは初めてで……少し、照れる。
「だから、侑利の為にも……あなたには、侑利の傍で居て貰わないと困る」
母さん………カッコいいじゃん。
「僕からもお願いするよ。侑利がフラフラしないように見てて欲しい」
父さんも付け加えて来た。
「俺はフラフラしねぇよ」
「そう?…昔はかなり蛇行してたけどな…」
親のクセに息子をバカにしてんな。
母さんに、泣かないで、と言われたけど……慶の涙はいつまでも止まる事は無くて……取ってやったティッシュで拭きまくってる姿を見て、やっぱ大事なんだなって再確認した…。
とにかく……俺の傍で居てくれたらそれで良い。
重いだの邪魔だのって…しょうもない事考えないでさ…。
~~~~~~~~
どこかで時間を潰すと言ってエレベーターに向かう慶と別れた後………部屋に戻ると、口を開いたのは親の方だった。
「あの子と一緒に住んでるの?」
と、母さんに聞かれ、
「そう」
と、答えたら…
「恋人なのか?」
と、父さんが言った。
……とっくにバレてんのか。
「この部屋見て、思わない方がおかしいでしょ」
と、母さんが最もな事を言う。
色んなもんが2個ずつあるし………1人で住んでるかそうでないかなんて、バカでなければ分かるだろう。
「真面目に付き合ってるの?」
母さんが言う。
親としては、気になるとこだろう。
「真面目だよ、相当」
普通ならここで、大反対されるのかも知れない。
恋人が男なんて、親世代にしてみたら複雑だろうから…。
だけど……そこは何となく……勝手な俺の想像だけど……俺の親は理解してくれるんじゃないだろうか、って漠然と思ってた。
理解されなくても…俺は、慶と一緒に居る事しか考えてねぇんだけど…。
慶の事を話しても……正直、慶という人物を全部分かって貰うのは難しい。
親は慶をさっきチラッと見ただけだし…。
だけど、俺が慶と一緒に居る理由を説明するのに、慶の今までの人生を話さない訳には行かなくて……
俺が慶と付き合ってんのを知った以上は、慶の事を誤解せずに居て欲しい、って……俺の彼氏目線な考えかも知れないけど……そう思ってしまう。
慶は、俺なんかよりずっと……真面目に生きて来た。
1人で、だ。
慶の事を話した後、親が言ったのは……
「侑利の人生なんだから、侑利が好きなように生きれば良い。だけど、後押しが必要な時はちゃんと相談しなさい」
だった。
「母さん達はね、侑利を高校生の頃から1人にして好きな事してるから、ここに来て口出し出来る立場じゃないと思ってるの。侑利だったから、私達は向こうで夢が叶えられてる。侑利が、親が居ないと自立出来ない性格だったら、今はこうなってないと思うしね」
母さんは、昔からこんな感じだ。
ちょっと男っぽい、って言うか……さっぱりしてる。
「ただ、侑利が男の人と付き合ってるからって、育て方を間違えたとか幻滅してるとか思ってんじゃないかって、そう言う勘違いだけはしないで欲しいって事は言いたいわね」
男前だな…母さん。
「よそは知らないけど、これが久我家の考えよ」
と、付け足した。
「あなたも何か言ってよ」
言い終えて、今度は父さんを見る。
「侑利の面食いなとこは、母さんに似たんだな」
「「はぁ?」」
母さんと同時に突っ込んだ。
呑気かっ。
「何言ってんのっ、父さん似でしょっ」
「…いや、どっちでも良いわ…」
そこ、拾うとこじゃねぇだろ。
とにかく……これが、俺の親。
俺は、この2人が好きだ。
「あのさ…認めてくれて、ありがとう」
しばらくシン…とした。
…まぁ、親に「ありがとう」なんて、恥ずかしいけどさ……
それより、今の沈黙の方がよっぽど恥ずかしいわっ。
「侑利っ」
母さんにまた抱きしめられる。
「可愛い事言うじゃないっ、そんな子だった?」
ヨシヨシすんな。
でも……
「慶と…出会ってからかも」
ありがとう、や、いただきます、ただいま、おかえり、……普通の事だけど…ちゃんと言うようになった。
「……じゃあ、慶くんに感謝しないとね」
……俺はほんとに、母さん達の息子で良かったって、思ってるよ。
それはさすがに言わねぇけど。
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