laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

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「侑利愛炸裂」

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慶の手紙を入れた退職の書類を返送して二日が経った。
もう、届いてるだろうから……工藤も、あの手紙を読んだだろう。

慶への気持ちがどうなったかは知らないけど、慶はあの手紙で終わらせると言った。

俺は慶を信じているし、正直お互い相手しか見えてない状態の俺らだから、何も心配する事は無いって思ってるけど……あんなに思い切り慶の事を好きになった奴が初めてだったから、だいぶ……気にはなった。

付き合ってた彼女を彼女の会社の男に取られた経験が、ちょっと引っ掛かってんのかも。

だけど、慶がこれからどこで働こうが、そうやって男女問わず慶を好きになる奴はきっと居ると思う。

アイツは、見た目で好かれる事が多いかも知れない。
かなりハイレベルだからな…。

最初から、俺と付き合ってんのを丸出しで行ってくれたら話は違って来るかも知れねぇけど。

…とにかく、俺の心配は尽きる事は無さそうだな…。



慶は今、リベルテに行ってる。
また、伸びて来てた髪を気分転換も兼て切って来るらしい。

昨日、予約の電話をした時、店長から、またカットモデルで切ると言われたみたいだけど、真面目な性格の慶だけに、何度も無料で切って貰うのは気が引けると普通に予約して切りに行った。

慶らしいな、って思う。
無料でやって貰えば良いのに。

送ってやろうと思ってたけど、予約の時間が店の都合で3時半からしか空いてなくて、終わるのが俺の出勤時間に間に合わないからって事で、自転車で出て行った。

あの一件からずっと一緒に居たから、急に仕事以外で1人の時間が出来て少し持て余してるわ…。

アイツと居たら何だかんだずっと喋ってて、意味もなく出かけてみたりして、何となく楽しい気分で居られるけど、やっぱ1人になると何して過ごそう…ってなる。

とりあえず、まだ少し早いけど、本屋でも行って時間潰して仕事行くか…。

慶が居ない家に居ても、つまんねぇだけだしな。

慶と出会う前は…俺は1人でどうやって過ごしてたのか、思い出せない。
きっと、雑誌読んだり、レンタルした映画見たりとかしてたんだろうけど……あんまり覚えてない。

…慶が居ない人生に意味はない、って言ったけど………ほんとにそうだな…。


そんな事をぼんやり考えながら、エレベーターを降りてエントランスから外に出る。
今日は天気が良くて、空気は冷たいけど晴れてるから気持ちが良い。


車へ向かおうとして、何となく人の気配がしてそっちを見た、…ら……



「え…真由?」



そこに真由が居て……思わず立ち止まった。


「侑ちゃん…」

少し…困ったような顔で呟いた。

「何やってんの」

真由の前まで歩く。
ここで何をやっているか、って事への答えよりも………

どう見ても、泣いてました、って顔の方が気になった。


「どしたの」

俺が覗き込むと、真由はまた泣きそうな顔をして体ごと横へ向いた。


「……ちょっと侑ちゃんに……会いたくなっちゃった……」


最後の方は声が震えて……泣き出してしまった。
俺に会いに来るなんて、別れてから今まで1回も無かったのに……この前居酒屋で偶然会って…懐かしい感じになったのかも。

俺だって、そう思った。
付き合ってた頃の事を思い出したし、あの頃は真由の事好きだったなぁ、とか考えた。

「ここまでどうやって来たの?」
「駅から歩いて来た」

鞄からハンカチを取り出し必死で涙を止めながら、小さく答える。

「この後は?」
「……帰る」
「30分くらい大丈夫?」
「…うん」

ここで泣いてたって仕方ない。
かと言って、部屋に上げる訳には絶対に行かない。

とりあえず……どっか走るか…。
泣いてる理由はまだ分からないけど、俺の所に来る辺り…なんか普通じゃないしな…。

真由を車の方へ呼ぶと、素直に…だけど、少し重い足取りで付いて来た。


「この車……懐かしい」

涙は止まりかけてて……ふふ、と笑う声がした。
今は慶の場所になってる助手席に、真由が座るのは何か違和感しかねぇけど……

「じゃあ、30分だけドライブな」
「…うん、ありがと」

慶よりだいぶ低い頭の位置。
当たり前だけど……女の子だな、って思う。

「引っ越ししてるかなぁ、とか思ったけど…まだ住んでるんだね」
「あー、結構長いよな」
「高1からだもんね」
「もう、他に引っ越すとかめんどくせぇ」
「住み慣れちゃった?」
「そう」
「いいとこだもんね、コンビニや駅も近くて便利だし」

何気ない会話。
少し高めの女の子らしい声が、ほんとに懐かしい。



「旦那とね……あんまりうまく行ってない」


少し沈黙があって、真由が言った。
旦那、とか……聞き慣れねぇ。


「……なかなか…子供が出来ないんだ~」


……それか。
デリケートな問題だな…それ…。

「結婚して3年目だけど……彼は早く子供欲しがってたし、私も産むなら早い方が良いな~とか思ってて………直ぐ出来るって思ってたのに……現実は違うね」

返答に困るわ…この話題…。

「ごめんね…こんな話…」
「いや、良いよ、別に」

ただ、俺に言える事は何もないかも知れねぇけど…。

「1年前くらいからかなぁ……何か……そういう…行為自体が子供を作る為のものみたいになっちゃって……色々情報集めたり、なかなか妊娠しなかったって言う友達に聞いてみたりしたんだけど……なかなかうまく行かなくて……3ヶ月くらい前からは……忙しいからって、行為自体断られるようになって………」

その後が、続かなくなった。

泣いてる。

「…飲み会があるとか、残業が長引きそうとか言って……帰って来ない日もあるんだ…………浮気してるのかも…………」

女の人にとっては……きっと本当に辛い事なんだろう。
子供を望んでるなら尚更。

だけど、女側だけの問題じゃないし、2人の気持ちが同じ方向を向いてないとうまく行かないって事もあるだろう…。

もしも、それで浮気してんだったら……何か、勝手なんじゃねぇの?って思ってしまう。

俺から真由を奪ったんだ………それなら、ちゃんと幸せにしてやって欲しい。

「浮気は……真由が思ってるだけだろ?」
「……うん…だけど……会社に新しく入った可愛い子とよく喋ってるって、同じ部署にいる友達から聞いた事があって………ちょっとでも疑い出しちゃうとダメだね……気になっちゃって…苦しくなって………このまま捨てられるのなぁ、とか考えちゃう………」

そんな事を聞かされても……俺は何もしてやれる事が無い。
俺と真由はもう終わってて、どっちにも新しい今の生活がある。

「真由が辛いのは心配だけど……夫婦の問題だし……俺は何も出来ねぇよ」
「ううん、良いの、ごめんね、侑ちゃんにどうにかして欲しいんじゃないんだ……ただ……聞いて貰いたかっただけ」

取り繕って明るく言うけど、痛々しいだけだ。
無理してんのはどう見ても分かるし。

「親なんか、私の気も知らないで『早く孫の顔見せて~』とか言って来るしさぁ~…………ちょっと、辛くなっちゃった」

……今俺に、慶という存在がなかったら……ここで、真由をどうにかしたかも知れない。
これだけ傷付いてる真由を放っておくなんて多分出来ないだろう。

だけど……今の俺には慶の存在がデカすぎて、他は何も見えてない。
それは、真由であっても同じ事で……。

「ごめんね、侑ちゃん…」
「良いよ、謝んなよ」
「うん…ごめん」
「謝んな」
「…うん」



……何も言えずただ話を聞いただけで、30分は過ぎた。

「侑ちゃん、ありがとね」
「いや、俺は別に何も…」

駅まで送り、車を降りて運転席側へやって来た真由にそう言うと、真由は「ううん」と言って笑った。
…真由の、口元に手をあてて笑う仕草が好きだったな、とか少し考える。

「ちゃんと帰んだぞ」
「うん」
「…色々、上手く行くと良いな」
「うん、ありがと」

じゃあな、と言って走り出そうとした時……真由が何か言ったから、思わずブレーキを踏む。

「何?」

「侑ちゃんを裏切って今の彼を選んだのに……上手く行かなくなって、また侑ちゃんに会いに来るなんて……サイテーだよね、私…」

そりゃまぁ、そうなのかも知れないけど……もう、昔の事だし…

「あん時はあん時だよ。…もう良いじゃん、気にしてねぇよ」

俺がそう言うと、真由はまた薄っすら目に涙を溜める。


「私何で……侑ちゃんじゃダメだったのかな……」


真由の目から涙が落ちた。


「ダメだと思ったんだから、仕方ねぇよ。それより、そこで選んだ人とさぁ、結婚するなんてすげぇじゃん。……もうちょっと…話し合ってみ?」


救いになるような言葉じゃねぇけど…。


「……うん…ありがとね、侑ちゃん」


きっと強がってるんだろうけど……あとは真由と旦那で話す事であって、俺がどうこうする事じゃない。

お互い「じゃあ」と言って別れる。
直ぐに駅の方には歩かないで、俺の車を見送ってるのがミラーで小さく見えた。

付き合ってる時も、こんなだった。
帰り際は、先に家には入らず送ってった俺を見送ってた。

3年経ってもそういう所は何も変わってねぇんだな…。



~~~~~~~~

休憩室で制服に着替えてたら、携帯が震えた。

取り出すと、慶からのメッセージ。

『見て見て~』という短い文と共に、カットしたての自撮り画像を付けて来やがった。

こういうの、送って来んなって。
カットしたてなんて、どう見たって可愛いしさ。

幸い、休憩室には今俺しか居なくて、返事を送るよりも電話してやった。

『もしも~し』

フワフワしてんなぁ、お前はいつも…。

「俺」
『分かってるよぉ~。見た?』

嬉しそうに聞いて来る。

「見たよ」
『どう?』
「今すぐ帰りてぇ」
『んふふ…それって仕上がりに満足してるって事?』
「帰れねぇ事が不満」
『会いたくなった?』
「なったよ。瞬殺」
『えへへ……会いに行ってあげようか?』

え………
何だよ、その提案。

「マジで、来てくれんの?」
『ど~しよっかな~~~』
「何だよ、お前が言ったんだろ」
『ふふふ~』
「ふふふ、じゃねぇよ」
『もうすぐ家だから、侑利くんのご飯食べてから行くね』
「おっけ。待ってるわ」
『じゃあ後で~』
「気ぃつけろよ」
『はぁい』

今日は帰るまで会えねぇと思ってたから、こんな展開になってテンション上がってるしな、俺。

画像だとはっきりは分かんねぇけど、多分、前回切った時よりも短くなってる。
前髪は前みたいに斜めに流れるようになってるけど、それも前より短く切られてて……キレイと言うよりも『可愛い』と表現したくなる感じだな。

まぁ、元が元だからどんな髪型にしたってオッケーだけどさ…。
それにしても、リベルテの店長は腕が良いんだな……。


「ちょー侑利、何ニヤけてんだよ」

いつの間にか天馬が居た。

「居た?」
「居たよ」
「どの辺から?」
「マジで来てくれんの?…ぐらい」

けっこう前から居たんだな……

「慶ちゃん来るの?」
「あー、後で来るって」
「何で今日は別行動なの」
「髪切りに行った」
「えっ、じゃあまたハイクオリティー丸出しで来んの?」

……まぁ、そうなるかな。

「健吾辺りがテンション上がりそうだな…」

天馬がボソッと言う。
健吾は慶を気に入ってるからな。


「慶ちゃん、だいぶ元気になって来たんだな」
「あぁ、そうだな」
「良かったじゃん」
「ん、」
「お前は?」
「え?」

急に俺の事を聞かれる。

「立ち直った?」
「…あー…まぁ、」
「慶ちゃんを元気付けたくなるのも分かるけど…お前も色々考えてるかなぁと思ってさ」
「色々って?」
「警戒してた相手だったしさ…」

そう言うの、やっぱ気付くんだな、こいつ。

確かに色々考えた。
年が明けてからも工藤は慶をまだ忘れられないって言ってたのに、そのまま仕事に行かせるんじゃ無かったとか、何かあってもいつも後で知るだけで、その場に居て助けてやる事は出来なかったな、とか、諦めるって言ったアイツを簡単に信用するんじゃなかった、とか………

割と色々考えてた。
誰にも……慶にも言ってない。

だけど天馬は、そういうのに気付く。

「……何で分かんだよ」
「顔に出てる」
「え……出してないつもり」
「俺には分かる」
「……マジすげぇ」
「侑利愛炸裂」
「重いわ」
「あはは、仕方ねぇじゃん」
「そういうもん?」
「そ。諦めろ」

こんな風に、心配してくれてんのも伝わる。
だから、感謝してる。

「天馬」
「ん?」
「愛してるよ」

サラッと言ってやった。
感謝の気持ちを目一杯込めて。

「…ん?……へっ?」

天馬が……明らかに動揺してる。

「え、侑利、ちょっと、もっかい、」
「ヤダよ」
「ちょー、マジ、もう1回、」
「嫌だ、聞こえただろ?」
「侑利ーーーっ!」
「ぉ、わっ!」

俺よりデカい体が行き成り飛び付いて来て、思いっ切りよろけた拍子に後ろのソファに天馬ごと倒れ込んだ。

完全に、俺が倒されてる感じ。
誤解を招く状態。


「ちょ、ちょ、ちょ、天……何やってるーーーーーっ!!」

やべぇ、このタイミングで……一番誤解されたくない、巴流が入って来た。

「俺も愛してるよ、侑利」
「はぁっ?俺の方が愛は強いっ」
「俺は侑利に言われたんだよ、今」
「何てっ」
「愛してる、って」
「え…………」

あ、巴流が怯んだ。

「えっ、嘘だろ、侑利、俺、侑利の事ずっと好きだって言い続けてんじゃんっ、俺の事はフリまくるくせに、何で天馬には愛してるって言うんだよぉ!」
「だからそれは、俺の事愛してるからじゃねぇ?」

天馬がダメ押しを食らわせた。

「………侑利……俺、泣きそう」

巴流が目に見えてしょんぼりしてる。

「何、バカ騒ぎしてんだよ」

呆れた顔で健吾が入って来た。

「俺の取り合いだよ」
「…またか。もう、どっちか選べよ、侑利」
「や……どっち選んでも俺は殺される」
「あはは、そうだな」

天馬を押し退けて立ち上がる。

「巴流も愛してるよ」

通り過ぎる瞬間に、巴流の耳元で言ってやった。
途端に、ドヤ顔で天馬を挑発してるし。

バカだな、お前ら。

よくある一幕で、騒がしくてバカ丸出しだけど……単純に笑えて気分が上がる。

だから一緒に居るのが、何か自然で心地良いんだ。
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