laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

seaco

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「慶ちゃん、今日泊まる?」

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* 侑利side *

4時が過ぎて……出勤時間が来て……慶と連絡が取れないまま、俺はマンションを出た。


連絡が取れない、と言うよりも………


俺からの連絡に気付いてるのに、出ねぇ。


「何なんだよ」


1人、車内で呟く。


朝起きても、真由の事を引き摺ってる感じで、微妙な空気だったのはバカでない限り気付く。
だから、仕事探しに行くとか言って距離を置いたんだって事も分かってる。

だけど、その間、慶の考えがどういう方向に向かって行ったのか分かんねぇけど………距離を置いたら、今度はLINEを無視されて電話にも出やしねぇ。


優し過ぎると言われた俺だけど、さすがにイラッと来てる。


vvvvv…vvvvv…vvvvv…

着信を知らせる振動。
画面を見ると、天馬、の文字。

直ぐ先にあったコンビニに停車する。

「はい」
『おー、有利、今大丈夫?』
「あぁ、大丈夫、どした」

この後すぐ仕事で会うのに、BIRTHに着いてから言うんじゃダメなんだ…と、この時間にかかって来た電話を少しだけ不思議に思った。


でも、その内容は、店に着いてからじゃダメだなって内容で…。


「慶ちゃん、今奏太んちに居るよ」

「え……」


天馬から慶の事を言われて、思わずドキリと心臓が鳴った。


「出かけてたら、車ん中から奏太が慶ちゃん見つけてさ、」
「……そ、か…」

「泣いてたわ、思いっ切り」


…………え………

何か……何も言えねぇ…


「自転車ごと奏太んちに運んだからさ、無事だから」

「あの、さ……アイツ、何で…」


何か…俺も、軽くパニックだわ…。
まぁ、居場所が分かったのはかなり安心出来るけど……


「分かんねぇ、俺も仕事だから奏太んちで2人下ろしてすぐ出て来たからさぁ…何も聞けてねぇ。車ん中では、何も喋れねぇくらい泣いてたからさ」

そんなに?

……1人で居る間に、何をどういう風に考えたんだよ……


「今、奏太が話聞いてると思うけど……とにかく、侑利が心配してんだろうなって思って、俺が勝手に報告してる」
「…あぁ、…悪い」
「侑利に連絡して欲しく無さそうだったからさ」
「……………」

……何かショックなんですけど…。
やっぱ、シカトされてたんじゃん…LINEも電話も。

「とにかく、無事だから安心しろよ。後はBIRTHで話す」
「…あ、あぁ、」
「じゃあ、後でな」
「…ん、」
「侑利?」
「…え?」
「大丈夫か?」

さすがに、動揺してんのバレてんな、これ。

「…大丈夫じゃねぇよ」

はは、と天馬が笑う。

「事故んねぇで来いよ」
「…分かった」
「じゃ、後で」
「ん、」

天馬との電話を切る。

……喋れねぇくらい泣いてたって………アイツの思考はどうなってんだ……
また、何か、要らねぇこと考えて落ちてんのか……

とにかく……どこで何してるか分からなかった数分前までよりは、各段に気持ちが楽になった。

泣かせてんのは俺だろうけど………




~~~~~~~~

「はぁ、…」

溜息しか出ねぇ。


開店準備も終わって、オープンまでの時間を天馬と裏口に出て来た。


「でもさぁ……部屋の前で泣きながら居たらさぁ……理由聞かねぇ?」
「聞く」
「…だろ?…でも、家に上げる訳には行かねぇじゃん」
「あぁ、」
「天馬だったらどうした?」
「う~ん……」

唸って考え込む。

「俺も…送るかな」

…だろ?

「でも、それは今付き合ってる恋人にしてみたら、何で送って行くのってなるわ」

…そう言われると……俺も、辛いとこだけど……

「別れてんだからどうでも良いじゃんってなると思う。それを送って行かれたら、やっぱり元カノの事、大事に思ってんだって思うんじゃねぇ?」
「……嫌いになって別れた訳じゃねぇしさ」
「分かるよ、それは。でも、慶ちゃんはそれも引っ掛かってんのかもな」
「………」
「侑利がすげぇ好きで真由ちゃんと付き合ってた事知ってんだろ?別れ方もさ、侑利は真由ちゃんの事好きなままで終わったじゃん」
「……まぁ、そうだけど…でも、俺は今、」
「分かってるよ、それは。お前は今、慶ちゃん意外なんて全く考えらんねぇしな」
「あいつ、分かってねぇのかな、そこ…」

俺を見てりゃ分かんだろ、って言いたいけど……何をそんなに不安になってんのか……

「実際、久々に会ってさ、今の生活が辛くて泣いて侑利んとこに来てさ………侑利の中で……真由ちゃんに対する気持ちって、何かあんの?」
「ねぇよ」
「もう、終わってる?」
「終わってるよ」

俺は、慶しか考えられないって…結構な頻度で言って来たと思うけど…。

「真由ちゃんはどうなの」
「え…」
「真由ちゃんが……侑利に戻りたいって思ってる、とかは?」

……これは正直………きっぱりNOとは言えない感じで……

「何か言われた?」

天馬は鋭い。






実の所……今日、昼間……また、真由が家に来た。
ちょうど……慶が居ない時間…。

ここに来るのは3回目…。
やっぱりどうしても中には上げられないから、駐車場まで下りて話した。

「今日ね……夜に、彼と話し合いする事にした」
「そっか」
「残業しないで帰って来るって」
「ん、良かったな」

ふ、と真由の表情が曇る。

「ちゃんと……話せるかな」
「大丈夫だよ、旦那さんだって話し合いする気になってんだから」
「…そうだよね」

真由の不安はまだ無くなる事は無くて……明日から自分がどうなってるのかって事に押し潰されそうになってんのが分かる。

「侑ちゃんに色々聞いて貰って…ほんと助かった」
「…そ?」
「うん。……いつも急に来るのに……優しくしてくれて……何か救われた」

優し過ぎるって、慶には怒られたけど…。

「…侑ちゃんと付き合ってた時の事、すごく思い出した。私は、最後に侑ちゃんの事…すごく傷付けたのに…侑ちゃんはすごく優しくて………何か……勘違いしそうになっちゃうよ」
「…え…?」

真由が一歩、俺との距離を詰めた。
目にはやっぱり……涙が溜まってて……感情がコントロール出来なくなってんだって分かる。


「侑ちゃん…………キスして…」


………聞き間違いかと思った。

でも、真由の顔は至って真剣で……冗談で言ってる感じじゃない。


さすがに……俺も固まった。


少しの沈黙が……何分も経ってるように思える。



「真由、ごめん…それは出来ねぇ」


俺がそう言った瞬間、キュッと唇を硬く結んだ真由の目からボロボロと涙が零れ落ちた。


「今日、旦那さんと話すんだろ?…そんな日に、俺と何かあっても……きっと後で、真由が後悔するだけだよ」

派手に泣き出しそうになるのを堪える様に、真由は口元を抑えて声を殺しながら俯いた。



「それに……俺、今、すげぇ大事な奴が居てさ………そいつの事、泣かせたくねぇんだ」



真由が少し驚いた様に顔を上げた。


「そいつの存在が無かったらさぁ……多分、真由に旦那と別れろって言ったと思う。でもダメなんだ…どうしたってそいつが思いっきり居てさぁ、他を見る余裕がねぇ」

「そんなに…好きな子が居るんだね……何か、羨ましいな、その子」


分かった、と小さく息を吐いて、ハンカチで涙を拭う。
拭いた傍からまた溢れて来てるけど…。


「じゃあ…ここに来るのももうこれで最後にするね、侑ちゃんにももう、キスしてなんて言わない、でも……」

…少し声が震えてる。


「最後に一度だけ……抱きしめて欲しい……今日、私が頑張れるように」

……少し迷った。

…そう言えば……光にも同じような事を言われたな…とか、意外と冷静に考えたり……


「…それも、ダメ?」


固まってる俺を、見上げた真由がまた泣いて……ほんとに純粋に…だけど色んな意味を込めて……真由の腕を掴み引き寄せて……抱きしめた。


直ぐに泣き出した真由の腕も俺の背中に回ったのが分かる。

…ほんとは、俺じゃなくて……掴まりたいのは旦那なんだろう…。

「頑張れよ」
「…うん」
「上手く行くよ」
「…うん」

俺に言えるのはこんな事ぐらいだよ…。







「……慶ちゃんがそれを見たって事はねぇの?」

話を聞いた天馬が言った言葉に……突如として、心拍数が上がるのを感じた。

……真由と話してるのを、慶が見た?

「それ何時?」
「え……2時ぐらいだったと思う」

答えながらも、異常に顔が熱いんだけど……

「俺ら、慶ちゃん見つけたの4時だけど……だいぶ長い事そこに座ってる感じだったし」

……買い出し行く予定にしてたから…それに間に合う時間に帰って来ようとしてた可能性は大。

俺の連絡を全て無視するぐらい落ち込んでんのとか考えたら……理由になるのは、1つ…。


真由を抱きしめた事だ…。


それも……俺から…。


「天馬、俺、」
「おーい、侑利、天馬、オープンだぞ~」

このタイミングで、桐ケ谷さんから俺らに声がかかる。

「了解で~す」

天馬が返事を返す。
俺は……とても…仕事するような気分じゃねぇけど……

「とにかく、慶ちゃんが何話したか奏太がまた連絡くれると思うからさ、仕事、手につかねぇと思うけど……」

と言って、俺の肩をポンッと叩いた。
押さえ付けられた肩が簡単に沈んでグラッと体が揺れる。

「ヨレヨレじゃねぇかっ」
「天馬…マジで俺今日無理だわ…」
「ボ~ッとすんなよ」
「……………え?」
「してんじゃんっ」

また肩を叩かれて体が揺れる。

……今日ほど……慶に今すぐ会いたいと思った事は無い。

もう……それしか考えられなくて、頭おかしくなりそうだわ…。




* 奏太side *

慶ちゃんが泣いてた理由がよく分かった。

正直…………久我さんのバカッ!って思ってる…。

元カノなんてどうでも良いじゃんっ、だってもう何年も前に別れてるんだしっ、辛い事あったのは分かるけど、それでいちいち久我さんのとこ来ないでって思ってしまう…。
久我さんも久我さんで、慶ちゃんみたいに可愛い恋人が居るのに、元カノに優しくしすぎだよぉ…

もう……慶ちゃんと久我さんの事なのに、自分の事の様に感情移入しちゃって、僕まで盛大に泣いちゃって微妙に恥ずかしい。

だって、もしも天馬の元カノが泣きながら天馬に会いに来たら……多分天馬も久我さんと同じ様にすると思う…。

そんなの……考えただけで泣けるし……

久我さんから元カノを抱きしめた…ってとこだけが…何か引っかかる。
久我さん……そんな事するかなぁ………

でも、すごく好きな彼女だったって言ってたし……

とにかく……そんな現場見たらショックで帰りたく無くなるのすごく分かるっ!


「…慶ちゃん、ちょっと落ち着いた?」

いきさつを全部話して……何となく、落ち着いた感じ。
無言だけど、コクリと頷く。

「紅茶飲む?友達のお土産でね~、桃の紅茶だよ、めっちゃ良い香り」

返事を聞くより先に立ち上がって紅茶の準備を始める。
一応振り返ると、うん、と返事してる慶ちゃんが居る。


「………ごめんなさい…」


背後から聞こえた声に、思わず振り返る。

「……迷惑かけて……」

慶ちゃんらしいよ。
きっと、すっごく気にしてるんだろうね……

「全然っ、見付けて声かけたのも、連れて帰って来たのも僕だしね」
「でも……」
「もう謝るの禁止っ」
「………」

何か言いたそうにしてるけど、このまま放置してたらいつまでも謝りそうだから、分かりやすく禁止令を出した。

良い香りを漂わせる紅茶のカップを渡すと、嬉しそうに美人丸出しの顔で「ありがとう」と受け取る。

「ほんとだ~……良い香り」
「でしょ?気に入ってんだ、これ」

少しでも、元気になって貰いたい。
まぁ…直ぐには無理だろうけど。

「慶ちゃん、今日泊まる?」
「えっ?」

すごく驚いてる。
けど……帰ったって、久我さんが帰るのは夜中過ぎてるし、そんな時間まで待って話し合いが始まって……って……今日のこの精神状態で無理でしょ…。

「たまには良いんじゃない?1日くらい離れても。慶ちゃんが帰るって言うなら、無理にとは言わないけど…」
「でも……天馬さんは…?」
「天馬は、今日は自分ちに帰る予定にしてたから大丈夫」
「……………じゃあ………泊まる……」

すごく遠慮がちにそう言った慶ちゃんが可愛くて、笑ってしまう。

「じゃあさ、慶ちゃんが泊まる事になったの、天馬に連絡しとくね。ついでに……久我さんにもそう伝えて貰うね」

久我さん、というワードに過剰に反応する。

「きっと、すっっっごく心配してると思うから」

少し考えた後、静かに頷いた慶ちゃんを見届けるとベランダに出て、天馬に電話をかけた。

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