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「今日、慶ちゃん、帰んないって」
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「やっぱ、慶ちゃん、お前と真由ちゃんが話してるとこ見てたって」
一応仕事してる風に装ってる俺の、あんまり回って無い頭にその天馬の声が鮮明に入って来た。
「え、」
下げてたグラスを落としそうになる。
さっき、少しの間天馬が裏に下がったなって思ってたけど、予想通り奏太から電話があったみたいで、慶と話した内容がざっくりだけど聞けたらしい。
「侑利が真由ちゃんを抱きしめてたって……大号泣してたって」
……マジか……
もう…思いっ切り勘違いしてる訳だな……
確かに……そんな事…お願いされたからとは言え、軽率にもやってしまった俺に落ち度があると思う。
そこは素直に謝るべきところだって思ってる。
だけど……そこに、真由に対する気持ちとかは無い訳で…
それをどこからか偶然見てしまって、俺の気持ちがまた真由に戻ったとか…そんな風に勘違いされてんだったら……
そこは言い訳させて欲しい…。
「今日、慶ちゃん、帰んないって」
「えっ…」
正直……ビビった…。
帰んない、って選択肢……あんの?
「奏太んちに泊まる事にしたみたいだわ」
「……………」
何も言えねぇ……
慶が他所に泊まるなんて……思ってもみなかった。
「……俺と…話したくねぇって言ってんの?」
自分で聞いときながら、この質問内容がだいぶショックなんですけど。
「や、それは何も言ってなかった」
じゃあ………電話しても良いんだな…
これで無視られたら、俺マジで凹むわ…
「…天馬」
「ん?」
「…電話してくる」
「お~、行って来い」
休憩まではまだ2時間近くあって……慶が俺を避けてる訳を知ったのに2時間我慢しろっていうのは、ちょっと無理。
桐ケ谷さんに、5分だけ裏へ下がる許可を貰う。
RRRRR…RRRRR…RRRRR…RRRRR…RRRRR…
慶の電話を鳴らすけど……直ぐに出る気配は無い。
分かってるよ、業と出ねぇんだろ…
それでも切らずに待つ。
RRRRR…RRRRR…RRRRR…RRR、
出たっ。
「慶っ」
慶が何か言うより先に俺が呼びかける。
『……………』
何も言わない。
「…慶?」
声……早く聞きてぇんだけど…。
『…………ん、』
小さく返事するのが聞こえた。
「あのさぁ…今日……」
『見たくなかった…あんなの…』
先に言われた…。
「…ごめん」
『……真由さんからそう言ったって…天馬さんが…』
天馬が軽くフォローしてくれたみたいだ。
『……それでも……見たくなかった』
…そうだよな…
俺だってそうだ………工藤がお前に迫ってんの見てキレた俺にはよく分かるよ、お前の気持ち。
「慶、あのさ、」
『侑利くん、』
「…ん、何」
俺を遮って慶が言う。
『今日は……侑利くんと話す気分にはなれないよ……』
………………やべぇ、倒れそうだわ、俺。
マジで早退してぇ…。
すっげぇ拒否されてて……ショックなんてもんじゃ無い。
『今日…奏太さんちに泊まるから』
「…あ……あぁ、」
『……明日には……ちゃんと帰る』
「……分かった」
何か……慶はもう、はっきりと、今日は帰らないって決めてて……今日は俺と顔合わせたくないんだろうなって事が伺える。
慶を何度も不安にさせて、あげくの果てにあんな所を見せてしまって……自分がすげぇ悪者みたいな気分になって来る。
「慶…」
『…………』
何も言わねぇけど、切らずに待ってくれてる。
「真由とは…何もねぇから」
抱きしめてたクセによく言えるなって思ってるかも知れねぇけど………ほんとに何も無いんだからそう言うしかない。
『…………信じたい』
「…信じろよ」
『………今日はダメ』
……何だよ…
信じねぇとか……凹むわ。
『でも………侑利くん大好き』
拒否されてんなって思ってたのに、突然そう言われて焦った。
うっかり聞き逃しそうだったし…。
「俺だって好きだよ」
急いで反応する。
『だけど………今日は…悲しい』
え…………それは……俺も悲しいよ…。
「…ごめん」
『……うん…』
うん、って言われても………何か困る…。
「…明日…帰るんだな」
『…うん』
「ん……分かった」
『……うん』
何だよ、うん…しか言わねぇじゃん……
「慶…」
『……ん…?』
「……会いてぇ、早く」
『…俺だって……っ、…だけど……』
「分かってるよ…今日は無理なんだろ?」
『………分かんない……』
慶も……葛藤してんだ。
帰りたい自分と帰りたくない自分が居て……揺らいでる。
だけど……きっと……少しだけ…帰りたくない方が勝ってんだろうな……。
「……明日、待ってるわ」
『……うん』
「…じゃあ……仕事戻る」
『……うん』
「じゃあ…切るぞ」
『……………』
そこで「うん」って言わねぇとか、ダメだって。
『侑利くん…大好き』
「分かってる」
『……好きだからね』
「…分かってるよ」
『…帰らなくてゴメンね』
「良いよ……ちょっとは寝ろよ」
どうせ、眠れないんだろうって思って、先にそう言った。
『…うん…』
「…じゃあ明日な」
『……うん』
「切るぞ」
『……………ん、』
今度は、小さな声が聞こえて……通話を切った。
慶は今、この電話を切った瞬間……どうしてるだろう…って思ったら、何か泣きそうになった。
~~~~~~~~
とにかく、今日の俺は散々で……隙あらばボーッとしてしまって、仕事に影響出まくりで……桐ケ谷さんにも体調悪いのか、とか心配される始末。
「ほら、奢り」
俺の事が心配で仕方ない天馬が、想像以上にダメージ食らってる俺のフォローを仕事中かなりしてくれてた。
今だって、もう仕事は終わって帰るだけなのに「ちょっと話すか」って車に乗るよう言われ、ホットの缶コーヒーを手渡されたところだ。
「…サンキュ」
素直に受け取り、開ける。
一口飲んだ後、出るのは自然と溜息ばかりだ。
「大丈夫か?」
見かねた天馬が言う。
大丈夫じゃない事は、見れば分かるだろうけどさ…
「……ダメだと思う」
「俺もそう思うわ」
…やっぱり、そう見えてんだな。
そりゃそうだろう…隠すつもりも無いし、隠せてるとも思ってねぇ。
「侑利さぁ…」
「…ん、」
「慶ちゃんと出会って、ほんと良かったな」
「何だよ、それ」
急に何だよ。
「侑利が慶ちゃんに振り回されてんの、俺、好きだわ」
「はぁ?」
何楽しんでんだよ、お前。
こっちはかなりのダメージでもう倒れそうだっつーの。
「真由ちゃんと付き合ってた時だって、ここまでじゃ無かったじゃん」
「あぁ……まぁ、な」
「別れた時も…あんまり感情的じゃないって言うかさ…」
「諦めの方が強かったわ。もうそっちと付き合ってるって言われたからさ…」
「でも今さぁ、慶ちゃんがもし……誰か他の奴に取られたらどうすんの」
え……他の奴?
俺以外の誰かを好きになるって事?
「取り返す」
「はははっ」
天馬に思いっきり笑われる。
「やっぱ好きだわ、お前の事」
俺の頭をガシガシと揺らして撫でる。
「お前のツボが分かんねぇ」
「ん?そうか?」
天馬は高校時代からずっとこんな感じで、俺がピンチの時には必ず助け舟を出してくれる。
俺はそれにいつも迷わず飛び乗るんだけどさ……
その後も暫く、他愛のない話をした。
俺の落ち方が酷いから、少しでも浮上するようにしてくれてんのが分かる。
俺だって今日は寝られそうにないから、こうやって少しでも1人じゃない時間が増えるのは正直助かった。
~~~~~~~~
誰も居ない部屋なのに、何故か静かに鍵を開けてしまう自分が居て、1人苦笑しながら中へ入る。
慶のおかげで癖になった帰宅後の手洗いとうがいも自然とやってしまう。
やっぱりここに慶は居なくて……改めて1人なんだなって思う。
俺んちだし……半年くらい前まではずっと……それこそ、高1で1人暮らしを始めてからずっと、俺は1人でここに住んで来たのに……
こんなに……寂しいもんなんだって、部屋に入ってものの数秒で感じた。
夜中でも起きて待っててくれて……寝てても起こしてね、とか言われて遠慮なく起こしたら、起き抜けにも関わらず嬉しそうな顔してくれたり、侑利くん、侑利くん、って今日あった出来事を俺の後ろを付いて来ながら一方的に喋ったり……
そんな、日常的だった事が……たった1日、無いってだけで……
この世の終わりみたいに、俺の感情は深く沈む。
さっき帰宅したばっかだけど、もう何回目かの溜息を吐いた。
風呂から上がって時計を見たら、2時半だった。
慶は、俺と真由を見てから……きっとすげぇ泣いただろうから、さすがに疲れてもう寝てんだろうな、とか考える。
俺はと言うと………
全く寝れる気がしなくて……だからって起きてテレビでもって気分では到底無くて……酒でも飲んで寝よう、とも思えず……
ただただ、いつもは慶が隣に居るベッドに横になり……1人だとやっぱゆったりしてんだな、このベッド……などとどうでも良い事を考える。
vvvvv…
短く携帯が震えた。
慶かも、と思って思わず飛び起きて画面を確認する。
メッセージの送り主は、真由だった…。
『遅くにごめんね。彼と話し合いして、ちゃんと分かって貰えたよ。言いたい事全部言えた。子供の事も、ちゃんと真剣に考えようって言ってくれた。浮気は…ちょっとグレーなとこもあるけど、そこはもう気にしないつもり。侑ちゃんのおかげだよ、元気出たし。ありがとう』
上手く行ったんだ……
…何か…ホッとした。
『良かったじゃん、もう悩むなよ』
短く返す。
俺は、全然良くない状況だけどさ…。
『ごめんね、起こしちゃった?』
『いや、起きてた』
『こんな時間まで起きてるの?』
『仕事、夜だから』
まぁ、今日に関しては、違う理由で全く寝れないんだけどな……
少し時間があって…またメッセージ。
『侑ちゃんの大事な子って……この前、一緒に居た男の子?』
心臓が大きくなって、携帯を落としかけた。
バレてるとか、俺どんだけ分かりやすいんだ…。
『そう』
一言、返す。
『やっぱり!そうかなって思ってたんだ。だってあの子、部屋の前で会った時、すごく不安そうな顔して私の事見てたから』
……不安に押し潰されそうになってたもんな、あの時。
今だってそうか…。
『今の侑ちゃんがあるのは、あの子のおかげ?』
『今の俺?』
『昔より…優しい気がするから』
慶に言わせると優し過ぎるみたいだけどさ…。
『そうかも。あいつと出会ってから、気付かされる事がすげぇある』
『へぇ~…なんか良いね、そういうの』
『サンキュ』
『侑ちゃん、幸せになってね』
『真由もな』
何となく……これで良いんだって思えた。
真由は……俺に縋りたかったのかも知れないけど……俺がそれに応える事は無いし、そこで落ち込んでる真由に走るのも、男として…人としてどうなのかって思うし、
とにかく、真由は旦那さんの所で落ち着いてくれて、心底良かったと思ってる。
まぁ、こっちは今思いっきりややこしい事になってる訳だけど…。
4時が来ても、5時が来ても、俺の意識が落ちる事は無くて……とうとう全く寝られないまま、朝が来てしまった。
こんな事、俺には初めての事で、カーテンの向こうで白み始めた空にちょっとだけ苦笑する。
慶は眠れただろうか…
只でさえ、奏太の家に泊まるなんて、それだけで緊張して寝付け無さそうなのにさ…。
慶の事を考えすぎて一睡も出来なかった、とか言ったら…慶は何て言うだろう。
……もう、この後寝られる気もしなくて、少しだけ怠い体を早々に起こした。
一応仕事してる風に装ってる俺の、あんまり回って無い頭にその天馬の声が鮮明に入って来た。
「え、」
下げてたグラスを落としそうになる。
さっき、少しの間天馬が裏に下がったなって思ってたけど、予想通り奏太から電話があったみたいで、慶と話した内容がざっくりだけど聞けたらしい。
「侑利が真由ちゃんを抱きしめてたって……大号泣してたって」
……マジか……
もう…思いっ切り勘違いしてる訳だな……
確かに……そんな事…お願いされたからとは言え、軽率にもやってしまった俺に落ち度があると思う。
そこは素直に謝るべきところだって思ってる。
だけど……そこに、真由に対する気持ちとかは無い訳で…
それをどこからか偶然見てしまって、俺の気持ちがまた真由に戻ったとか…そんな風に勘違いされてんだったら……
そこは言い訳させて欲しい…。
「今日、慶ちゃん、帰んないって」
「えっ…」
正直……ビビった…。
帰んない、って選択肢……あんの?
「奏太んちに泊まる事にしたみたいだわ」
「……………」
何も言えねぇ……
慶が他所に泊まるなんて……思ってもみなかった。
「……俺と…話したくねぇって言ってんの?」
自分で聞いときながら、この質問内容がだいぶショックなんですけど。
「や、それは何も言ってなかった」
じゃあ………電話しても良いんだな…
これで無視られたら、俺マジで凹むわ…
「…天馬」
「ん?」
「…電話してくる」
「お~、行って来い」
休憩まではまだ2時間近くあって……慶が俺を避けてる訳を知ったのに2時間我慢しろっていうのは、ちょっと無理。
桐ケ谷さんに、5分だけ裏へ下がる許可を貰う。
RRRRR…RRRRR…RRRRR…RRRRR…RRRRR…
慶の電話を鳴らすけど……直ぐに出る気配は無い。
分かってるよ、業と出ねぇんだろ…
それでも切らずに待つ。
RRRRR…RRRRR…RRRRR…RRR、
出たっ。
「慶っ」
慶が何か言うより先に俺が呼びかける。
『……………』
何も言わない。
「…慶?」
声……早く聞きてぇんだけど…。
『…………ん、』
小さく返事するのが聞こえた。
「あのさぁ…今日……」
『見たくなかった…あんなの…』
先に言われた…。
「…ごめん」
『……真由さんからそう言ったって…天馬さんが…』
天馬が軽くフォローしてくれたみたいだ。
『……それでも……見たくなかった』
…そうだよな…
俺だってそうだ………工藤がお前に迫ってんの見てキレた俺にはよく分かるよ、お前の気持ち。
「慶、あのさ、」
『侑利くん、』
「…ん、何」
俺を遮って慶が言う。
『今日は……侑利くんと話す気分にはなれないよ……』
………………やべぇ、倒れそうだわ、俺。
マジで早退してぇ…。
すっげぇ拒否されてて……ショックなんてもんじゃ無い。
『今日…奏太さんちに泊まるから』
「…あ……あぁ、」
『……明日には……ちゃんと帰る』
「……分かった」
何か……慶はもう、はっきりと、今日は帰らないって決めてて……今日は俺と顔合わせたくないんだろうなって事が伺える。
慶を何度も不安にさせて、あげくの果てにあんな所を見せてしまって……自分がすげぇ悪者みたいな気分になって来る。
「慶…」
『…………』
何も言わねぇけど、切らずに待ってくれてる。
「真由とは…何もねぇから」
抱きしめてたクセによく言えるなって思ってるかも知れねぇけど………ほんとに何も無いんだからそう言うしかない。
『…………信じたい』
「…信じろよ」
『………今日はダメ』
……何だよ…
信じねぇとか……凹むわ。
『でも………侑利くん大好き』
拒否されてんなって思ってたのに、突然そう言われて焦った。
うっかり聞き逃しそうだったし…。
「俺だって好きだよ」
急いで反応する。
『だけど………今日は…悲しい』
え…………それは……俺も悲しいよ…。
「…ごめん」
『……うん…』
うん、って言われても………何か困る…。
「…明日…帰るんだな」
『…うん』
「ん……分かった」
『……うん』
何だよ、うん…しか言わねぇじゃん……
「慶…」
『……ん…?』
「……会いてぇ、早く」
『…俺だって……っ、…だけど……』
「分かってるよ…今日は無理なんだろ?」
『………分かんない……』
慶も……葛藤してんだ。
帰りたい自分と帰りたくない自分が居て……揺らいでる。
だけど……きっと……少しだけ…帰りたくない方が勝ってんだろうな……。
「……明日、待ってるわ」
『……うん』
「…じゃあ……仕事戻る」
『……うん』
「じゃあ…切るぞ」
『……………』
そこで「うん」って言わねぇとか、ダメだって。
『侑利くん…大好き』
「分かってる」
『……好きだからね』
「…分かってるよ」
『…帰らなくてゴメンね』
「良いよ……ちょっとは寝ろよ」
どうせ、眠れないんだろうって思って、先にそう言った。
『…うん…』
「…じゃあ明日な」
『……うん』
「切るぞ」
『……………ん、』
今度は、小さな声が聞こえて……通話を切った。
慶は今、この電話を切った瞬間……どうしてるだろう…って思ったら、何か泣きそうになった。
~~~~~~~~
とにかく、今日の俺は散々で……隙あらばボーッとしてしまって、仕事に影響出まくりで……桐ケ谷さんにも体調悪いのか、とか心配される始末。
「ほら、奢り」
俺の事が心配で仕方ない天馬が、想像以上にダメージ食らってる俺のフォローを仕事中かなりしてくれてた。
今だって、もう仕事は終わって帰るだけなのに「ちょっと話すか」って車に乗るよう言われ、ホットの缶コーヒーを手渡されたところだ。
「…サンキュ」
素直に受け取り、開ける。
一口飲んだ後、出るのは自然と溜息ばかりだ。
「大丈夫か?」
見かねた天馬が言う。
大丈夫じゃない事は、見れば分かるだろうけどさ…
「……ダメだと思う」
「俺もそう思うわ」
…やっぱり、そう見えてんだな。
そりゃそうだろう…隠すつもりも無いし、隠せてるとも思ってねぇ。
「侑利さぁ…」
「…ん、」
「慶ちゃんと出会って、ほんと良かったな」
「何だよ、それ」
急に何だよ。
「侑利が慶ちゃんに振り回されてんの、俺、好きだわ」
「はぁ?」
何楽しんでんだよ、お前。
こっちはかなりのダメージでもう倒れそうだっつーの。
「真由ちゃんと付き合ってた時だって、ここまでじゃ無かったじゃん」
「あぁ……まぁ、な」
「別れた時も…あんまり感情的じゃないって言うかさ…」
「諦めの方が強かったわ。もうそっちと付き合ってるって言われたからさ…」
「でも今さぁ、慶ちゃんがもし……誰か他の奴に取られたらどうすんの」
え……他の奴?
俺以外の誰かを好きになるって事?
「取り返す」
「はははっ」
天馬に思いっきり笑われる。
「やっぱ好きだわ、お前の事」
俺の頭をガシガシと揺らして撫でる。
「お前のツボが分かんねぇ」
「ん?そうか?」
天馬は高校時代からずっとこんな感じで、俺がピンチの時には必ず助け舟を出してくれる。
俺はそれにいつも迷わず飛び乗るんだけどさ……
その後も暫く、他愛のない話をした。
俺の落ち方が酷いから、少しでも浮上するようにしてくれてんのが分かる。
俺だって今日は寝られそうにないから、こうやって少しでも1人じゃない時間が増えるのは正直助かった。
~~~~~~~~
誰も居ない部屋なのに、何故か静かに鍵を開けてしまう自分が居て、1人苦笑しながら中へ入る。
慶のおかげで癖になった帰宅後の手洗いとうがいも自然とやってしまう。
やっぱりここに慶は居なくて……改めて1人なんだなって思う。
俺んちだし……半年くらい前まではずっと……それこそ、高1で1人暮らしを始めてからずっと、俺は1人でここに住んで来たのに……
こんなに……寂しいもんなんだって、部屋に入ってものの数秒で感じた。
夜中でも起きて待っててくれて……寝てても起こしてね、とか言われて遠慮なく起こしたら、起き抜けにも関わらず嬉しそうな顔してくれたり、侑利くん、侑利くん、って今日あった出来事を俺の後ろを付いて来ながら一方的に喋ったり……
そんな、日常的だった事が……たった1日、無いってだけで……
この世の終わりみたいに、俺の感情は深く沈む。
さっき帰宅したばっかだけど、もう何回目かの溜息を吐いた。
風呂から上がって時計を見たら、2時半だった。
慶は、俺と真由を見てから……きっとすげぇ泣いただろうから、さすがに疲れてもう寝てんだろうな、とか考える。
俺はと言うと………
全く寝れる気がしなくて……だからって起きてテレビでもって気分では到底無くて……酒でも飲んで寝よう、とも思えず……
ただただ、いつもは慶が隣に居るベッドに横になり……1人だとやっぱゆったりしてんだな、このベッド……などとどうでも良い事を考える。
vvvvv…
短く携帯が震えた。
慶かも、と思って思わず飛び起きて画面を確認する。
メッセージの送り主は、真由だった…。
『遅くにごめんね。彼と話し合いして、ちゃんと分かって貰えたよ。言いたい事全部言えた。子供の事も、ちゃんと真剣に考えようって言ってくれた。浮気は…ちょっとグレーなとこもあるけど、そこはもう気にしないつもり。侑ちゃんのおかげだよ、元気出たし。ありがとう』
上手く行ったんだ……
…何か…ホッとした。
『良かったじゃん、もう悩むなよ』
短く返す。
俺は、全然良くない状況だけどさ…。
『ごめんね、起こしちゃった?』
『いや、起きてた』
『こんな時間まで起きてるの?』
『仕事、夜だから』
まぁ、今日に関しては、違う理由で全く寝れないんだけどな……
少し時間があって…またメッセージ。
『侑ちゃんの大事な子って……この前、一緒に居た男の子?』
心臓が大きくなって、携帯を落としかけた。
バレてるとか、俺どんだけ分かりやすいんだ…。
『そう』
一言、返す。
『やっぱり!そうかなって思ってたんだ。だってあの子、部屋の前で会った時、すごく不安そうな顔して私の事見てたから』
……不安に押し潰されそうになってたもんな、あの時。
今だってそうか…。
『今の侑ちゃんがあるのは、あの子のおかげ?』
『今の俺?』
『昔より…優しい気がするから』
慶に言わせると優し過ぎるみたいだけどさ…。
『そうかも。あいつと出会ってから、気付かされる事がすげぇある』
『へぇ~…なんか良いね、そういうの』
『サンキュ』
『侑ちゃん、幸せになってね』
『真由もな』
何となく……これで良いんだって思えた。
真由は……俺に縋りたかったのかも知れないけど……俺がそれに応える事は無いし、そこで落ち込んでる真由に走るのも、男として…人としてどうなのかって思うし、
とにかく、真由は旦那さんの所で落ち着いてくれて、心底良かったと思ってる。
まぁ、こっちは今思いっきりややこしい事になってる訳だけど…。
4時が来ても、5時が来ても、俺の意識が落ちる事は無くて……とうとう全く寝られないまま、朝が来てしまった。
こんな事、俺には初めての事で、カーテンの向こうで白み始めた空にちょっとだけ苦笑する。
慶は眠れただろうか…
只でさえ、奏太の家に泊まるなんて、それだけで緊張して寝付け無さそうなのにさ…。
慶の事を考えすぎて一睡も出来なかった、とか言ったら…慶は何て言うだろう。
……もう、この後寝られる気もしなくて、少しだけ怠い体を早々に起こした。
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