トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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6章

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 血は繋がらないが、大切なもう一つの家族。――つまりアスター家の人々は、志貴の保護者を自認する第三の勢力であり、父の死を契機にその庇護はさらに手厚いものになっている。祖国同士が断交していても、両家の絆にひび一つ入らないことは、共有してきた時間からも明らかだった。
 そのような経緯があり、秋口に耳にしたイギリス大使館の人事の噂は、志貴を戦慄させた。

 ――イギリス政財界に少なからぬ影響力を持つブラックウェル侯爵の子息が、参事官として赴任するらしい。

 最前線でドイツと対峙するイギリスの、中立国スペインへの新たな外交官の派遣。しかも、大使代理も務める高官である参事官で、ブラックウェル侯爵の子息だ。
 梶や他国の外交官たちの間では、その人選について憶測が飛び交ったが、志貴にはどの息子が赴任してくるのかが大問題だった。上の息子二人の、どちらかであればいい。親切であることに変わりはないが、常識的に接してくれた彼らなら。
 しかし数日ののちに知らされたのは、その人生を常識とは冷たく距離を置いて歩んできた三男、ジェイムズの名だった。

 よりにもよって、第三勢力の最右翼だ。
 父の葬儀で会ったのが最後だから、会えば六年ぶりの再会となる。その時、志貴を珍奇な愛玩動物か何かと勘違いしている彼が、外交の場で衆目が集まる中、どんな振る舞いをするのか――。
 想像するのも恐ろしく、なるべく会わないように参加する行事を慎重に選別することで、志貴はこれまで我が身を守ってきた。しかしそれも、無駄な努力に終わってしまった。
 本人による、まさかの敵国公使館への、予告なしの電撃訪問で。

(――そうだ。ジェイムズが会いたいと望んだら、その時点でそれは確定事項だ。避けたところで、逃れることなど誰にもできないんだ……)

 驚きのあまり、つい名前を呼んでしまったが、本来であれば敬称タイトル付きで呼び掛けるべき相手だ。それは、異星人との間に適切な距離を置くために、必要な措置でもある。
 さきほどの初歩的な失態はなかったことにして、志貴は腹に力を込めた。

「……ジェイムズ卿、この度はご着任おめでとうございます」

 「ジェイムズ卿」という呼び掛けにジェイムズはぴくりと眉を動かしたが、ふん、と肩をそびやかしただけでお咎めはなかった。異星人も、公の場で相手の立場を慮るという機能は搭載しているようだ。

「何がめでたいものか。大使が使えないからと、目付けを押し付けられただけだ」
「ご自分の立場をお忘れでないようで何よりです。貴方はイギリス大使館の参事官、ここは日本公使館ですよ」
「そんなことはわかっている」
「では、大変――大変、誠に遺憾なことですが、我々が交戦中で断交していることもおわかりですか」
「交戦しているのは国で、志貴と私ではない」

 ぽんぽんと安心させるように頭を撫でられ、志貴の顔が強張る。ジェイムズが搭載する、相手の立場を慮る機能は、一度作動したら自動的に消滅する設計になっているらしい。
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