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12章
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「――中佐は働き詰めの私を心配して、よく眠れるように……性欲処理を手伝ってくれているだけだ。休むように言われていたのに強情を張ったから、見張られているんだ。情を交わす相手じゃない」
「潔癖なお姫様の手を煩わせないように、傅いて抜いて差し上げるのが騎士の役目なのか。いい御身分だな」
フン、と小馬鹿にしたようにテオバルドは鼻を鳴らした。
「毎週休みの日に出向いてまで、何とも思ってない男のアレに触るほど、衛藤は自己犠牲と博愛精神に溢れた変態なのか? だとしても、睡眠薬に溺れるよりは健全なやり方だがな。――それで、何とも思ってないあんたを、奴はよく眠れるほど悦くしてくれるのか」
「そう、だ」
下世話な憶測を、――敢えて志貴は認めた。鋭い言葉の礫を立て続けに投げつけられ、何かに罅が入った気がした。
それはおそらく、目覚めさせてはならないものだった。自身の内にあるのに、制御できないもの――現にこうして、動揺し混乱していた感情は煙のように消え去り、その何かに塗り潰される。強張っていた頬に少しずつ血の気が戻り、ほのかな笑みが浮かぶ。
その穏やかながらも明らかな変貌に、眉をひそめてこちらを窺うテオバルドの顔を、なぞるように志貴は視線でゆっくりと撫でてやった。目の前の男の喉仏が、動揺を呑み込むように大きく上下する。
「――そんな濡れた目で、色っぽい顔をして……煽ってるんだな、俺を」
「そんなことしてない」
口ではそう言いつつ、餌を与えたつもりだった。この男を捕らえるための餌――身の内で産声を上げた生き物に、欲しがる時にいつでも獲物を与えてやれるように。
艶を帯びた志貴の目をひたと見つめながら、テオバルドは指先で志貴の顎を掬った。
「間違えるな。あんたの色気を手懐けて、ここまで磨いたのは俺だ。衛藤じゃない」
指先は顎の線を通って耳に移る。一洋が触れない場所を、別の男の指が通り過ぎる。
テオバルドの熱が耳の後ろから首筋を滑り、その微かな摩擦から沸き起こる疼きに、志貴はぴくりと体を震わせた。目ざとく気づいた男の指が、何度もその弱いところを辿る。――反復による単調さを嫌うように、時に人差し指だけで直線的に、時にすべての指を使って鍵盤を押すように。
緩やかながらも多彩な指先の動きに翻弄され、小動物じみた慄きを堪えようとする志貴を、テオバルドが満足気に見つめる。
「……ふ、ここが弱いな、志貴。感じるんだろ?」
「――楽しそうに言うな」
「楽しいさ、愉快で堪らない。誰でもない、俺の指で、あんたがこうして震えてるのかと思うと」
揶揄とも取れる言葉に、馬鹿にされているのかと思ったが、違った。耐えがたくて思わず目を逸らしてしまうほど、男の顔は匂い立つような色気をたたえ、愉悦に緩んでいた。
目の毒でしかない妖艶さを滴らせておきながら、しかしテオバルドはこんなことを言う。
「艶っぽい蕩けた顔をしてる……。こんな顔を見せられたら、どんなお堅い騎士様だって震いつくぞ。衛藤に見せてやりたいくらいだ」
「……悪趣味だ」
「悪趣味なのは衛藤だろ。見せつけるような真似をしやがって……」
「潔癖なお姫様の手を煩わせないように、傅いて抜いて差し上げるのが騎士の役目なのか。いい御身分だな」
フン、と小馬鹿にしたようにテオバルドは鼻を鳴らした。
「毎週休みの日に出向いてまで、何とも思ってない男のアレに触るほど、衛藤は自己犠牲と博愛精神に溢れた変態なのか? だとしても、睡眠薬に溺れるよりは健全なやり方だがな。――それで、何とも思ってないあんたを、奴はよく眠れるほど悦くしてくれるのか」
「そう、だ」
下世話な憶測を、――敢えて志貴は認めた。鋭い言葉の礫を立て続けに投げつけられ、何かに罅が入った気がした。
それはおそらく、目覚めさせてはならないものだった。自身の内にあるのに、制御できないもの――現にこうして、動揺し混乱していた感情は煙のように消え去り、その何かに塗り潰される。強張っていた頬に少しずつ血の気が戻り、ほのかな笑みが浮かぶ。
その穏やかながらも明らかな変貌に、眉をひそめてこちらを窺うテオバルドの顔を、なぞるように志貴は視線でゆっくりと撫でてやった。目の前の男の喉仏が、動揺を呑み込むように大きく上下する。
「――そんな濡れた目で、色っぽい顔をして……煽ってるんだな、俺を」
「そんなことしてない」
口ではそう言いつつ、餌を与えたつもりだった。この男を捕らえるための餌――身の内で産声を上げた生き物に、欲しがる時にいつでも獲物を与えてやれるように。
艶を帯びた志貴の目をひたと見つめながら、テオバルドは指先で志貴の顎を掬った。
「間違えるな。あんたの色気を手懐けて、ここまで磨いたのは俺だ。衛藤じゃない」
指先は顎の線を通って耳に移る。一洋が触れない場所を、別の男の指が通り過ぎる。
テオバルドの熱が耳の後ろから首筋を滑り、その微かな摩擦から沸き起こる疼きに、志貴はぴくりと体を震わせた。目ざとく気づいた男の指が、何度もその弱いところを辿る。――反復による単調さを嫌うように、時に人差し指だけで直線的に、時にすべての指を使って鍵盤を押すように。
緩やかながらも多彩な指先の動きに翻弄され、小動物じみた慄きを堪えようとする志貴を、テオバルドが満足気に見つめる。
「……ふ、ここが弱いな、志貴。感じるんだろ?」
「――楽しそうに言うな」
「楽しいさ、愉快で堪らない。誰でもない、俺の指で、あんたがこうして震えてるのかと思うと」
揶揄とも取れる言葉に、馬鹿にされているのかと思ったが、違った。耐えがたくて思わず目を逸らしてしまうほど、男の顔は匂い立つような色気をたたえ、愉悦に緩んでいた。
目の毒でしかない妖艶さを滴らせておきながら、しかしテオバルドはこんなことを言う。
「艶っぽい蕩けた顔をしてる……。こんな顔を見せられたら、どんなお堅い騎士様だって震いつくぞ。衛藤に見せてやりたいくらいだ」
「……悪趣味だ」
「悪趣味なのは衛藤だろ。見せつけるような真似をしやがって……」
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