トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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15章※

10

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「まったくお前は……悪い子だ。いや、小悪魔ってやつか」

 一滴残らず搾り取るように、濡れた陰茎をゆるく扱きながら、一洋が肩でため息をつく。
 その手つきは意地悪なものではなく、これ以上苛められることはないと知り、嗚咽を堪えながら志貴は穏やかな愛撫に身を任せた。
 反抗しても、手酷く捻じ伏せられるだけだと思い知った後だけに、抗おうという気持ちは露ほども湧かない。ただ、ぼんやりした意識の片隅で、何故一洋がこれほど執拗に問い詰めてきたのかが気になっていた。

「妙に色気のある顔でこっちを窺うような素振りを見せるから、一体何を隠しているのかと思ったら、俺に張り合って拗ねていたのか」
「そんな、言い方……」
「あんな顔をされたら勘繰りたくもなる。俺に言えないようなことを、していたんじゃないかってな」

 一洋に言えないことは、している――五ヵ月も前から。
 志貴は疲れた素振りで目を閉じた。
 鷹のような眼を持つ軍人を欺く自分は、微笑みで本心を隠し相手の腹を探る外交官として、有能なのではないか。スパイとの駆け引きを、飼い主の立場で口づけを餌に続けている自分は、実は魅力ある人間なのではないか。
 擦り減った自尊心を自嘲に浸していると、一洋が指の背でそっと頬を撫でてくる。

「せっかくの美男子が、隈もできて……肌も荒れて」
「だって……眠れなかったんだ。兄さんが、行ってしまったのかと思うと」
「こんなに目を離せないやつを置いて、どこに行けるというんだ……」

 掠れた声の囁きに、心の中の身勝手な弟分が歓喜する。この怖い人は――大切な幼馴染は、変わらず自分の側にいる。依存を断ち切ろうとしても、志貴の手を捩じり上げ抱き寄せる強さと確かさで。
 頷くと、いい子だとでも言うように頭を撫でられた。擦り寄ろうとしたのに、その大きな手はすっと離れてしまう。どうして、と思う間もなく、男の手に、辛うじてまだ芯の通った陰茎を真っ直ぐに持ち上げられていた。

「な、に……?」
「心配させたお仕置きだ」

 言うなり、一洋は自身の欲望をもう片方の手で勢いよく扱き始めた。志貴を玩弄する間に、先が濡れるほどに昂奮していたそれは、天を衝くようにそそり立っている。

 これまで『薬』を与える時、志貴の痴態に煽られるのか、一洋も高まることが多かったが、いつも自分で処理していた。浴室で淡々と済ませるようで、深い快楽に身を食われ茫然と横たわる志貴の隣に、さっぱりした顔で戻った一洋がもぐり込み、脱力した体を抱き締めてともに眠りに落ちるのが常だった。
 それが今、目の前で自慰を見せつけられている。その常人離れした大きさ、脈動する裏筋の生々しさに畏怖を感じながらも、何故一洋がこのようなことをするのか、志貴には見当もつかない。

 それでも――目が離せなかった。同じ男として劣等感を掻き立てられる、逞しく圧倒的な雄の象徴から。
 一洋は、肉体的な優位をも志貴に見せつけ、さらに認めさせたいのだろうか。絶対的な保護者という立場を。
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